ようこそ原作主人公抜きで頑張る教室へ   作:灰色の

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5月1日

 

 

5月1日、運命の朝がやってきた。

 

教室内は、支給された5万ポイントが本当に他クラスより多いかどうかの不安と期待で、異様な熱気に包まれていた。そこへ入ってきた茶柱先生の表情は、いつも通りの冷徹さのなかに、ほんの少しだけ驚きと満足感が混ざった「そこそこの機嫌」の顔だった。

 

 

教壇に立つと、彼女は腕を組み、銀髪の俺へと視線を向けた。

 

 

「お前たち、凍影がいて助かったな。……まあ、それでもこのザマだが、歴代のDクラスに比べれば、奇跡と言うほかない高いポイントが残ったぞ」

 

 

そう言って、茶柱先生は黒板に各クラスの現在ポイントを張り出した。

 

 

Aクラス:940 cp

 

Bクラス:720 cp

 

Cクラス:550 cp

 

Dクラス:500 cp

 

 

(原作の『0ポイント』は完璧に回避したな)

 

 

教室内が一気に歓喜の渦に包まれる。「確かに5万ポイントに減ってるぞ!」「凍影の言った通りだったんだ!」と、クラスメイトたちが俺を振り返り、尊敬と感謝の眼差しを向けてくる。

 

だが、俺は一人、黒板の数字を睨みつけて冷や汗を流していた。

 

 

(やはり水泳の授業のボイコットや見学、そして恐らく小テストの点数でごっそり500ポイントも引かれてる。……それに、原作よりBクラスとCクラスのポイントが高すぎるな。何故だ?)

 

 

すぐに思い当たった。原因は俺だ。

俺が4日目にDクラスの全員に向けてSシステムの全貌を早期に説明した結果、危機感を持ったDクラスの誰かが、他クラスの友人や知り合いにうっかりその情報を漏らしてしまったのだ。

情報流出は一瞬で広がり、結果としてBクラスやCクラスも初月から無駄な減点を最小限に抑える対策を取ることに繋がってしまった。この学校の生存競争は、俺の小さな行動一つで一気に難易度が跳ね上がる。

 

それでも、俺たちの端末には、一律で50,000プライベートポイントが確かに振り込まれた。これでクラスの士気は爆発し、俺のクラス内での発言力は不動のものとなった。

 

続いて、茶柱先生から先日の小テストの結果が返却され、廊下に掲示された。

俺は上位陣の点数を確認していく。

 

 

凍影雪波:100点(満点)

 

幸村輝彦:90点

 

堀北鈴音:90点

 

高円寺六助:90点

 

櫛田桔梗:85点

 

王美雨:85点

 

 

クラス全体の平均点は70.4点。

この学校のルールでは、「平均点の半分」が赤点ラインとなる。計算すると、今回の赤点は35点未満だ。

 

掲示板の前で、池と山内の二人が頭を抱えて絶望の悲鳴を上げていた。

 

 

「う、嘘だろ……20点台って……」

 

「嫌だ、俺、退学になりたくねえよぉ!」

 

 

二人の点数は赤点ラインに全く届かない20点台。俺がホームルームでいくら警告しても、地頭が悪く直前の泥縄式の勉強すら怠った結果だった。本番の中間試験なら、この二人はここで完全に退学処分となって電子の藻屑へと消えていたはずだ。

 

だが、おそるおそる自分の点数を確認していた須藤が、驚愕の表情の後に咆哮を上げた。

 

 

「……しゃあ!! 35点ぴったり!! 耐えたぁぁぁ!!」

 

 

須藤は自身の拳を突き上げ、男泣きせんばかりに吠えた。三宅も「よかったな、須藤。凍影のルーズリーフのおかげだぞ」と嬉しそうに彼の肩を叩いている。あの須藤が、俺の徹底した『凍影塾』の指導によって、崖っぷちのセーフで赤点ラインを回避したのだ。

 

池と山内が赤点という大問題を抱えつつも、須藤の学力矯正をはじめ、全体的にクラスの得点が上がっているのを見て、俺は少しだけ安心した。

 

主人公である綾小路清隆がいないDクラス。情報の流出によって他クラスも強化されてしまった過酷な世界線だが、俺のチートな能力と行動があれば、確実に運命を書き換えていけるかも知れない。銀髪の美貌にわずかな確信の笑みを浮かべ、俺は次なる特別試験、そして赤点組の救済対策へと脳内で思考を巡らせるのだった。

 

 

 

 

茶柱先生が冷淡な足取りで教室を去ると、教室内は再び喧騒に包まれた。

5万ポイントの支給に歓喜する声と、赤点ラインに沈んで絶望する池と山内の悲鳴が混ざり合うカオスな空間。

 

その中心へ進み出たのは、やはり平田洋介だった。彼は教壇の前に立ち、クラス全体に向けて真剣な眼差しを向けた。

 

 

「みんな、ちょっと聞いてほしい。今回の小テストで、僕たちのクラスの課題がはっきりしたと思う。僕たちがAクラスに上がるためには、絶対に退学者を出してはいけないんだ。この40人全員で、これからの試験を乗り切るんだ」

 

 

平田の言葉に、教室内がしんと静まり返る。

 

 

「そこで、次の定期試験に向けて、放課後僕が主催で勉強会を開きたいと思ってるんだ。赤点の危機がある人はもちろん、点数を伸ばしたい人も、みんな参加してくれるかな?」

 

「私も賛成! 洋介くんが教えてくれるなら、みんなで行こうよ!」

 

「そうだね、赤点の人たちを放っておくわけにはいかないし!」

 

 

いつも平田の周りにいるギャル系の女子たちが、即座に黄色い声を上げて賛成する。

しかし、一方で教室の後方にたむろする男子たちの表情は冷ややかだった。山内や池、そしてその取り巻きたちは、女子人気を独占する平田を苦々しく思っている。

 

 

「けっ、結局また平田がヒーロー気取りかよ……」

 

「女子に良い格好したいだけだろ。あんなお高くとまった勉強会、行けるかっての……」

 

 

反発する男子たちの声。このままではクラスが分断され、赤点組の救済が遅れてしまう。

そう判断した俺は、席に座ったまま、静かにすっと手を挙げた。銀髪のイケメンが動いたことで、クラスの視線が平田から俺へと移る。

 

 

「平田の勉強会に賛成だ。ただ、どうしても予定が合わない奴や、大勢での勉強会が苦手っていう人間もいると思う」

 

 

俺はクラス全体を見渡しながら、通る声で告げた。

 

 

「だから、勉強が苦手だったり、特定の苦手科目がある人間は、俺に一声かけてくれ。小テストの時みたいに、授業の要点を分かりやすく噛み砕いて記入した『特製ルーズリーフ』を個別に配るから。それを見ながらなら、家での自習も楽になるはずだ」

 

「えっ、凍影くん、本当!? またあのノート作ってくれるの?」

 

 

すかさず櫛田が嬉しそうに声を弾ませる。一回だけだが櫛田にルーズリーフを渡した事があった。

 

 

「ああ、今回は全科目分、網羅するつもりだ」

 

 

俺のその一言で、平田の勉強会にへそを曲げていた男子たちの目の色が変わった。

 

 

「凍影のあのルーズリーフ、須藤がマジで分かりやすいって言ってたな……」

 

「平田のところに行くのはシャクだけど、凍影が個人的にくれるなら、そっちの方が気楽でいいわ」

 

 

平田を嫌っていた男子メンバーも、これならプライドを傷つけられずに参加できる。あるいは、勉強会に出ない選択をしても、俺からルーズリーフを受け取ることで最低限の学力担保ができる。平田は俺に向かって、救われたような、心からの感謝を込めた笑顔を浮かべて深く頷いた。

 

 

「ありがとう、凍影くん。君がそう言ってくれると、本当に心強いよ」

 

 

──そして、その日の放課後。

俺はチートな脳細胞をフル稼働させ、各教科の要点を完璧にまとめたルーズリーフを大量に複製していた。

 

まずは教室の後方で、恐る恐るこちらを伺っていた池と山内の元へ歩み寄る。

 

 

「ほら、池、山内。これ、次の中間テスト用の対策リーフだ。20点台からでも、これさえ暗記すれば赤点は確実に回避できるレベルにしてある。次こそは頼むぞ」

 

「う、嘘だろ凍影……! 俺たちのためにわざわざ……っ!」

 

「まっ、俺はクラスのリーサル・ウェポンだからな、貰って当然さ、 今度こそマジでやるわ!」

 

 

二人はルーズリーフをひったくっていった。

 

俺の配布は男子だけに留まらなかった。

前方に座る、おとなしくて成績が芳しくない井の頭心などの女子の席へも向かう。

 

 

「井の頭さん、これ。数学と英語、特に分かりやすくまとめておいたから、よかったら使って」

 

「えっ……あ、ありがとうございます、凍影くん……」

 

 

完璧すぎる容姿の俺から突然話しかけられ、井の頭は顔を真っ赤にしながらも、嬉しそうにルーズリーフを受け取ってくれた。

 

さらに俺は、三宅明人の席へと歩み寄った。

 

 

「三宅、ちょっといいか?」

 

「ん? なんだ、凍影」

 

「長谷部さん、文系科目がはっきり苦手なんだろ? 俺から直接渡すと品定めされそうで気まずいからさ、三宅、お前から長谷部さんにこれを渡してくれないか?」

 

 

そう言って、文系科目をこれ以上ないほど丁寧に解説したリーフを三宅に託す。

三宅は一瞬驚いたように目を丸くしたが、すぐにフッと笑ってノートを受け取った。

 

 

「なるほど、あいつの苦手を把握してるのか。流石だな。分かった、俺から責任を持って長谷部に渡しておくよ。あいつ、口では文句言うだろうけど、絶対に喜ぶからさ」

 

 

クラスの人間関係の網の目を縫うように、俺の「特製ルーズリーフ」がDクラス全体へと行き渡っていく。平田の勉強会という『表の盾』と、俺の個別配布という『裏の剣』。この両輪が噛み合ったことで、Dクラスの学力基盤は急速に補強されつつあった。

 

これなら、次の中間テストでの退学者は確実にゼロに抑え込める。

銀髪の美貌を崩さぬまま、俺はクラスの歯車が自分の意図通りに回り始めたことに、確かな手応えを感じていた。

 

 

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