ようこそ原作主人公抜きで頑張る教室へ   作:灰色の

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呼び出しと勉強会

 

 

放課後、俺は茶柱先生に呼び出され、人気のない生徒指導室へと足を運んでいた。

 

夕暮れ時の赤い光が室内に長い影を落とす中、茶柱先生はデスクに腰掛け、冷徹な双眸で俺をじっと見つめてきた。その圧倒的な美貌と大人の色気にハグされたい衝動が頭をもたげるが、彼女の口から出た言葉が、俺の思考を瞬時に戦闘モードへと切り替えさせた。

 

 

「凍影。お前、何らかの方法でプライベートポイントを稼いでいるな? ……そのポイント、一体どうするつもりだ?」

 

 

鋭い探るような問い詰め。だが、学校のシステムをハックして桐山から120万ポイントを強奪した証拠は完璧に消してある。俺は表情を一切崩さず、静かに、しかし冷酷なまでの合理性を持って答えた。

 

 

「今後のクラス間の交渉用に使えたら、と思ってます。これからの試験を考えると、今のクラスポイント(500cp)だけじゃ、Aクラスを目指すには心許ないですから」

 

 

俺の回答を聞いた茶柱先生は、ふっと満足げに唇の端を吊り上げた。

 

 

「そうか。……4月のお前のSシステムの説明は見事だった。あれがなければ、このクラスのポイントは今頃ゼロだったろう。これからもクラスを裏から引っ張っていくことだな。例年のDクラスよりも、お前たちは遥かに優秀だと私は信じているぞ」

 

「……善処します」

 

 

俺は同意して深く頷いた。茶柱先生の言っている「優秀」という言葉が、決してお世辞や嘘ではないことは俺にも分かっている。

だが、現実はそこまで甘くない。クラスを見渡せば、幸村や堀北のように、俺に対抗心ばかりを燃やして勉強会に出ず、自分の殻にこもって自習に没頭する奴らや、高円寺のように相変わらず唯我独尊を貫く人間など、現時点では「使えない駒」が大勢いるのも事実だった。

 

──数日後。中間テストに向けたDクラスの本格的な勉強会が始まった。

俺は当然のように、最も危険な赤点組である須藤、池、山内の3人の教育を担当した。残りのクラスメイトに対しては、チートな脳細胞で作成した「特製ルーズリーフ」を事前に配ることで網羅的に対応している。

 

勉強会の教室内では、櫛田が俺の配ったルーズリーフを教科書代わりにしながら、他の生徒たちに熱心に勉強を教えていた。

現在、この勉強会で講師役を買って出ているのは、俺、櫛田、平田、そして王美雨(みーちゃん)の4人だけだ。しかし、この4人の役割分担が絶妙に機能し、勉強会は極めてスムーズに進行していた。

 

そんな中、俺の隣で死にそうな顔をしていた池と山内が、教室内でキラキラした笑顔を振りまく櫛田を見つめながら、下心を隠そうともせずにソワソワし始めた。

 

 

「なぁ凍影ぇ……俺たちも櫛田ちゃんに教えてもらいたいな〜。その方が絶対やる気出るって!」

 

「そうだよそうだよ! むさ苦しい男同士より、可愛い女子に教わった方が脳に染み渡るっていうかさ!」

 

 

二人が櫛田の方へ話しかけに行こうと腰を浮かせた瞬間、俺は冷徹な眼差しで奴らの肩をガシッと掴み、低い声で釘を刺した。

 

 

「──やらせねえよ」

 

「ひぇっ……!?」

 

「お前ら、自分の点数分かってんのか? せめてこの学期の中間試験と期末試験で連続で『50点以上』を実力で取れるようになってから言え。それまでは、俺が責任を持ってお前らの脳みそを徹底的に『改造』してやる。大人しく座れ」

 

 

完璧すぎる銀髪のイケメンから放たれた絶対的な威圧感に、池と山内は「ひ、ひえぇぇ! 分かりましたぁ!」とガタガタ震えながら席に戻った。櫛田の裏の顔(ストレス)をこれ以上増やさせないためにも、この二人の隔離は必須だ。

 

そんな俺たちのやり取りを横目で見ていた須藤は、茶化すこともなく、真剣な目でノートに向き合っていた。

俺の講義を、一言も聞き漏らさないように真面目に聞いている。バスケのために退学を回避するという強い執念と、小テストで自分を救ってくれた俺への信頼が、彼の態度を確実に変えていた。

 

 

(よし、クラスの歯車は完全に俺の手の中で回っている──)

 

 

まだ未熟な駒ばかりだが、この調子なら中間テストの防衛線は完璧に突破できる。俺は確かな手応えを感じながら、赤点組への熱い指導を続けていった。

 

 

 

 

 

 

勉強会が佳境に入ったある日、学内に奇妙な噂が流れ始めた。

Bクラスの生徒たちが、Cクラスの連中に執拗に絡まれて嫌がらせを受けているという。

 

 

(……龍園の奴、もう動き出したか)

 

 

今回の定期試験(中間テスト)の仕組みを考えれば、過去の先輩たちから「過去問」さえ手に入れられれば、赤点回避どころか高得点を狙うのは容易い。Cクラスの王である龍園翔も当然その事実に気づき、ライバルであるBクラスに過去問を渡さないため、あるいは精神的に揺さぶるためにクラスメイトに命令して嫌がらせをさせているのだろう。

 

俺は他クラスに先んじて3年生から「過去問」をスマートに買い取って手に入れつつ、その不穏な噂を冷静に分析していた。

 

数日後。俺は放課後の図書室で、テスト直前の最終追い込みをかけるべく勉強会を開いていた。

目の前では、池と山内、そして須藤の3人が、俺の威圧に怯えながら必死に問題集と格闘している。

 

 

「おい山内、そこ公式の使い方が逆だ。脳みそ入れ替えるぞ」 

 

「ひ、ひええ! すいません凍影先生!」

 

 

そんな風に赤点組を容赦なくスパルタで改造していると、ふと、どこからか視線を感じた。

視線の元を辿ると、少し離れた席で同じように自分のクラスメイトたちに勉強を教えている、Bクラスのリーダー──一之瀬帆波が、こちらをじっと見つめていた。

俺は特にリアクションを返すこともなく、一之瀬の視線をあえてスルーして、そのまま3人の指導を継続した。

 

やがて閉館時間が近づき、今日の勉強会を終了させて3人を解散させた。

荷物をまとめて一人になった俺の元へ、パタパタと軽い足音が近づいてくる。

 

 

「君が凍影くんだよね? 遠くから見てたんだけど、すごく教え方が上手だなって思って」

 

 

人懐っこい笑みを浮かべて話しかけてきたのは、やはり一之瀬帆波だった。

抜群のプロポーションと誰もが惹きつけられる美貌。だが、間近で見るとその顔には隠しきれない色濃い疲労が滲んでいた。おそらく、連日続く龍園クラスからの陰湿な嫌がらせの対応で、心身ともに消耗しているのだろう。

 

 

(一之瀬帆波か……。この先、Bクラスをどう扱うか……)

 

 

俺は数秒の間、チートな脳細胞を回転させて損得勘定を弾いた。

現時点ではまだ使える駒になるかは未知数だが、ここで彼女たちBクラスに大きな「恩」を売っておくことは、今後の他クラスとの抗争において絶対にプラスに働く。

 

 

「…これ、よかったら使ってくれ」

 

 

俺はカバンから、3年生から買い取って複製しておいた「中間テストの過去問のコピー」を一部、彼女の前に差し出した。

 

 

「えっ……? これって、過去問……!?」

 

 

一之瀬は目を見開き、驚きと戸惑いの表情を浮かべた。他クラスの、しかも最底辺と言われるDクラスの人間から、この状況で最も価値のある情報資源を無償で手渡されたのだから当然だ。

 

 

「ああ。これがあれば、君のクラスの仲間も少しは楽になるだろ。いつも他人のために動いてるみたいだし、たまには頼ることも覚えた方がいい」

 

「凍影くん……。ありがとう! 本当に、本当に助かるよ……!」

 

 

一之瀬は過去問を胸に抱きしめ、心からの感謝を込めて、パッと花が咲くような笑顔を見せてくれた。これでBクラスへの巨大な貸し(カード)が一つ完成だ。

 

少し場の空気が和んだところで、俺は今後のシナリオを思い出し、確認のために彼女に問いかけた。

 

 

「そういえば一之瀬。お前、生徒会への加入は考えてるのか?」

 

「あはは……実はね、前に生徒会長の堀北学先輩に面接してもらったんだけど、断られちゃったんだよね」

 

 

一之瀬は少し困ったように頭を掻きながら苦笑した。原作通り、彼女の持つ「過去の傷(弱み)」を堀北学に見抜かれ、拒絶されたのだろう。

 

俺は一歩一歩、彼女の距離に近づき、その耳元にだけ届くような低い声で冷酷な警告を囁いた。

 

 

「もし、今後どうしても生徒会に入りたくなったら──副会長の『南雲雅』には絶対に気をつけろ」

 

「え……南雲先輩?」

 

「あの先輩は、一見すると爽やかで頼れる人間に見えるが、本質は違う。人の心の隙に付け込んで、弱みを握って自分の配下に置こうとするタイプだ。お前みたいな真っ直ぐな奴は、一番ターゲットにされやすい。忠告はしたぞ」

 

 

俺が2年生の試験を裏から叩き潰した際、南雲の冷酷な支配欲はデータから嫌というほど読み取っていた。

 

一之瀬はその言葉の重みに「うん……分かった、心に留めておくね」と真剣な表情で頷いた。

 

Bクラスに強烈な恩を売り、さらに生徒会の闇について釘を刺すことに成功した。

Dクラス浮上のためのシナリオを作成するために。夕闇の図書室を後にしながら、俺は誰にも見せない冷徹な笑みを浮かべるのかった。

 

 

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