うたう竜と桜の世界【StarNotes】   作:逢生 藍

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五話.ピレアの里

昨夜(ゆうべ)は、素敵な宴でしたわね。オウカさん、トアさん、クレハさん。――改めて、皆様を客人としてお迎えいたしますわ。……これを」

「オウカおねえちゃんたち、ゆっくりしてってね!」

 

 再びミモザの家に招かれた桜花と永愛は、座布団に座っていた。紅葉は桜花の肩に乗っている。

 

 木の中に設けられた部屋の窓からは、日差しが差していた。

 桜花の背中に抱きつくリナリアの元気な声に、肩に座った紅葉の耳がピンと立った。

 

 ミモザの隣に立つエルフが、桜花たちの前へ三つの木製のリングを置く。

 リングは、桜花の頭がすっぽりと入るほどの大きさで、どこにも継ぎ目がない。

 

 しげしげと木製のリングを眺めていた桜花が、ミモザを見た。

 

「昨日は歓迎の宴、ありがとう!…えっと、これはなに?」

 

「それは、シールリングと言いますわ。この腕輪を嵌めると、個人の保有するシールが記録されますの。パンや衣服など、里の様々なものと交換出来る、生活魔具なのです。さっそく、手首を通してくださいませ」

「うん!」

「…ありがとう、感謝する」

 

 躊躇なく腕輪に手を通す桜花。紅葉が狐耳を傾げた。

 

「…くれはもいいの?」

「もちろんだよ!」

 

 リナリアの返事を聞いて、紅葉の耳がぴょこんと立つ。

 床に置いてあるもう一つのシールリングを持ち上げた桜花が、「はい、くーちゃん」と紅葉の前脚に通した。

 角度を何度か変えて、シールリングをじっと観察していた永愛が、最後に腕を通す。

 

 腕輪は縮んで、それぞれの手首や前脚にちょうど良い大きさになった。

 

「わあ! 腕輪になった!」

「ほんとだ、くれはも!」

 

「…使用者に合わせて、自動調整してる。キャッシュレス…? 思ったよりも、文明が進んでる?」

 

 シールリングを見せ合ってはしゃぐ桜花と紅葉の隣で、永愛が腕輪を観察しながら呟く。

 ミモザは微笑み、そして指を五本立てた。

 

「エルフの里では、毎月初めに四千シールが支給されるのですわ。ライの実パン一つが五シール、衣服が百〜三百シールくらいです」

 

「ふむふむ。そうなんだ」

「…たくさんシールを貯めると、何かあるの?」

 

 シールリングを見ながら桜花がしきりに頷いていると、永愛がくりくりとした瞳をわずかに(きら)めかせ問う。

 

「ふふ。シールを貯めると、貯まったシールを返還(へんかん)することで、そのシール数に応じてアルヴ様から土地や秘宝を始めとした様々なものを賜れるのですわ」

「秘宝?…お宝?」

 

「はい。手ごろなものですとアルヴ様しか造れない黄道の羅針盤や、巫女お手製の樹液酒(じゅえきしゅ)やクッキーなどもありますよ。ピレアの里のクッキーは評判が良いんです」

「おー! なんかワクワクするね!」

「すごいお宝、いっぱいなの!」

 

 嬉しそうな桜花を見て、背中に張り着いていたリナリアがぎゅっと抱きしめた。

 

「すっかり、リナも懐いていますわね。ありがとうございます」

「友だちだもんね」

「おともだち!」

 

 笑い合う桜花とリナリアに、ミモザは暖かな視線を向けながら話を続ける。

 

「それからリングの外し方ですが、外そうと念じることで取り外しができますわ」

「はえー、すごい。……わ、外れた!」

「すごいね、おねえちゃん!」

 

 ミモザの言葉を聞いて早速、目の前に手首を挙げると、桜花のリングの輪は広がり肘まで落ちた。

 リングを手首に戻して再び念じると、ちょうど良い大きさに縮まる。

 

 隣で桜花を見ていた永愛は、リングを広げ、また縮め、呟いた。

 

「…なるほど。……やっぱり、進んでる」

 

 

 桜花と紅葉にリナリアが楽しげにじゃれつき、永愛がリングを観察するのが落ち着くと、ミモザは口を開いた。

 

「客人としてお迎えした皆様のシールリングですが、エルフと同様に四千シール入っていますわ。ご自由に」

「わあ! ありがとう!」

 

 桜花たち三人がそれぞれお礼の言葉を言うと、ミモザはゆるりと首を振った。

 

「エルフの里では当然のことですわ。それに、オウカさん、昨夜の宴でお肉も供出していただけましたので、その分のシールを付与します」

「んに? いらないよ?」

 

 きょとんとした顔で断った桜花に、紅葉が鼻先を寄せる。

 

「おねえちゃん、いいの?」

「うん。だって、私たちの歓迎の宴でしょ? 私たちも何か出したかったから!」

 

「ふふ。やはり、旅人様は面白いですわね」

 

 桜花と紅葉のやり取りを聞いていたミモザが、ころころと笑った。

 ふと、何か思い出した表情になった桜花。

 

「そうだ! 宴のあと、リナリアも家に泊めてくれてありがとう!」

「うん! オウカおねえちゃんたちが来て、ぽかぽかだった」

 

「わたしも、ありがとう。……リナリアちゃん、自分の家を持ってるのすごい」

「えへん。エルフのシキタリなの!」

 

 桜花に続いてお礼を言う永愛が感心したようにコクコクと頷くと、リナリアは誇らしげに胸を張った。

 ミモザが変わらず柔らかな口調で説明をする。

 

「エルフはみな、共に育った一本の樹木(じゅもく)の内部に自分の家を持ち、三歳からは自分の家で寝るのですわ。ここは(わたくし)ミモザの家で、リナはリナの家を持つのです」

 

「それで、どこも木が家になってるんだ! リナリアも一人で寝れてえらいね!」

「そうなの! だから一緒で嬉しかった!……ピレアにいる時は、リナリアのお(うち)に泊まって?」

 

 上目遣いになったリナリアが、桜花の服の(すそ)をぎゅっと掴んだ。

 

「わ、いいの?」

「うん、まだ少し狭いけど…でもちゃんときれいにしてるよ! クレハちゃんも、トアおねえちゃんも、泊まれるよ!」

 

 身振り手振りで部屋の様子を表すリナリアの頭を撫でた桜花は、紅葉も一撫でしてから、紅葉と永愛に問いかけた。

 

「くーちゃん、永愛、いいかな?」

「うん、おねえちゃんと一緒!」

「むしろありがたい」

 

 リナリアの瞳がキラキラと輝いて、桜花たち三人を順番に見る。

 

「それじゃ、泊まらせてもらうね!」

「やったあ!」

 

 リナリアはその場で跳びはねて、それから三人の周りをぴょんぴょんと跳ねまわった。

 

 

 リナリアの様子をぼんやりと見ていた永愛が、ミモザに向き直る。

 

「…ここには、珍しい魔導書があると聞いた。図書館、見てもいい?」

 

 控えめに手を挙げる永愛。

 隣の桜花がピンと手を挙げて、肩に乗った紅葉が揺れ、慌てて体勢を整えた。

 

「私も行きたい!……それと、服屋さんにも行きたいなあ。…制服、ボロボロになっちゃうと嫌だし」

 

 ワンピース型の白い制服の裾を摘まんで、指先で(いじ)る桜花。

 

「はい、大丈夫ですわ。あなたたちなら里の者たちも歓迎でしょう。司書長のエーコンと、服飾のガーベラの住む木へ訪れてください」

「リナリアも行く! 案内してあげる!」

 

 ぴょんぴょんと跳ねるリナリアを、ミモザが撫でる。

 

「リナは、お勉強が……いえ、仕方ありませんね。案内が終わったら、しっかりやるのですよ」

「はーい!」

「オウカさん、トアさん、クレハさん。リナのこと、お願いできますか?」

 

 桜花はにっこりと笑い、紅葉と永愛を見てから大きく頷いた。

 

「まっかせて! リナリア、よろしくね!」

「うん!」

 

 

△▼△▼△▼△▼△

 

 ミモザの家から出て、土が踏み固められたような里の道を歩く四人。

 

「ご本と服、どっちから行く?」

「うん? まずは本で――」

「先に服でいい」

 

 両手で桜花と永愛の手を引くリナリアが尋ねると、桜花を(さえぎ)って永愛が答えた。

 

「ううん、先に図書館でいいよ?」

「そっちは時間がかかるから、生活用品が先」

 

 永愛の顔を覗き込む桜花に、永愛はふるふると首を振る。

 

「そっかあ。…ありがとうね、永愛! くーちゃんもリナリアも、いいかな?」

 

 紅葉とリナリアの返事を聞いて、桜花たち四人は、軽い足取りで里の中を進んだ。

 

 

 衣服のシルエットの描かれた看板が下がる樹木。

 その幹に取り付けられた木製の扉を開けると、涼やかなベルの音が、部屋の中に響いた。

 

「こんにちは!」

「…おや。これは可愛らしいお客さんが来たね。昨日の宴の旅人たちと、リナリアちゃんじゃないか」

 

「ガーベラさん! 服を買いに来たの!」

 

 店の中にはいくつかの衣服がかけられ、棚には、質感や色の異なる何巻もの糸と、小物が置かれている。

 その奥にはクリーム色の髪をしたエルフがいた。

 

「桜花だよ! よろしくね。こっちは、くーちゃんと永愛」

「くれは、です。あの、よろしくおねがいします」

 

 桜花の肩から飛び降りた紅葉と、小さく頭を下げる永愛。

 

「そうかい。あたいはガーベラ。どんな服でも(つくろ)えるよ」

「作るの!? すごい!」

 

「えへん。服の魔法、すごいんだよ!」

 

 目を輝かせながら、きょろきょろと店内のあちこちに視線を向ける桜花を見て、リナリアが誇らしげに胸を張った。

 

「ここにある糸でなら、色も材質も選べるさ。どんな服が欲しいんだい?」

 

 桜花は少しの間、指を下唇に当てて悩む様子だったが、リナリアを見て閃いた表情になる。

 

「エルフのひとたちが着てるみたいな服がいいな! それと、丈夫なの!――あっと、くーちゃんと永愛は?」

「この服、コラッサって言うんだよ。オウカおねえちゃんと、おそろい!」

 

 リナリアは、花柄の刺繍(ししゅう)の入った、ワンピースのような服の裾を引っ張った。

 腰回りを境目として、上下で色合いが変わるような衣装だ。

 

「くれははアクセサリーを見てみるね」

「わたしは、魔女の服だから大丈夫」

 

 紅葉がトコトコと店内の棚を見て回り、永愛は入口近くの糸を眺める。

 桜花の傍に歩み寄ってきたガーベラが、棚から糸を持ち上げる。

 

「それじゃあ、オウカちゃんのコラッサに使う意図は、綿木(わたぎ)の根と……それから、ヒナアラシの糸にしようかね。とりあえず縫ってみるけど、模様(もよう)は希望があるかい?」

 

 柔らかそうな糸と、滑らかで硬そうな糸を持って(かが)み、桜花に目を合わせた。

 

「模様…桜の花ってできるかな?」

「サクラね、聞いたことはあるけど、この大陸では咲かないね。どんな花なんだい?」

「えっとね、これだよ!」

 

 桜花は手のひらを胸の前に広げて、小さく息を吸う。

 ふっと吐息を吐くと、桜色の光と共に桜の花が三つ、手のひらの上に現れた。

 

「わあー!すごい! オウカおねえちゃん、お花の魔法!?」

 

 リナリアの声に永愛が振り向いて、桜花の手のひらの上の桜の花を見ると、目を広げて近寄ってきた。

 

「なにを、したの? そんな魔法、知らない」

「えへへ、綺麗でしょ。私の考えた魔法なんだよ!」

 

 はにかむ桜花と桜の花を交互に見る永愛。桜花はもう一つ、桜の花を咲かせた。

 やがて肩の力が抜けて、ぱちくりと目を瞬かせる。

 

「…そう。凄いんだね」

「ありがとう!」

 

 しげしげと桜を観察していたガーベラが、「うん」と頷いた。

 

「サクラ、綺麗だね。それじゃ、試着室へおいで。腕がなるよ」

 

 

 布のカーテンで仕切られた一角へ連れられた桜花。

 一緒に入ってきたガーベラと二人になった。

 

 両手に持っていた二種類の糸を、ガーベラは木製の小ぶりな机の上に置く。

 

「オウカちゃん、体のサイズに合わせて繕うから、悪いけど今着ている服を脱いでもらえるかい?…ああ、あたいは女だから大丈夫だよ」

「うん! よいしょ」

 

 桜花がジャケット型の上着を脱いで、ワンピース制服に手をかけると、「あれ」と声を上げたガーベラ。

 

「どうしたの?」

「その服は、花妖精の縫製(ほうせい)?……保護の魔法もかかってるね。良いものを持ってるじゃないか」

「えへへ。お手製縫製、みたいだよ」

「そうかい。妖精に気に入られるなんて、オウカちゃんは良い子だね」

 

 話しながらも、脱ぎ終わった桜花の制服を受け取ったガーベラは、制服をまじまじと見ると微笑んだ。

 それから、木のテーブルに畳んだ制服を置くと、着ていたコラッサの袖から木の棒を取り出した。

 

 空中に、クリーム色の魔法陣を描いていく。

 

「待たせたね。終わるまでじっとしてて。『縫製魔法』」

 

 魔法陣が発光して二種類の糸が持ち上がり、糸の先が桜花の肩へ向かう。

 糸は、肩から順に編みこまれていった。

 

「すごい、魔法みたい!…魔法だった!」

 

 桜花が編まれる糸を見ているうちに、あっという間にコラッサが編みあがる。

 淡い色合いのコラッサには、桜をモチーフにした刺繍。

 

「すごい、可愛い!」

 

 その場でくるくると回ると、スカートがふわりと広がる。

 

「オウカちゃん、似合ってて可愛いじゃないか。一着二百シールだけど、五着まとめ買いだと百五十シールにまけとくよ」

「五着ください!」

 

 右手を広げて、五本とも指を立てる桜花は、ご機嫌だった。

 

 

 ガーベラの店を出た桜花たち四人。

 店の前で桜花はまた、くるくると回った。

 

「服買えたー! ふわふわひらひら!」

「おねえちゃん、とってもかわいい!」

「オウカおねえちゃん、おそろい!」

 

 紅葉とリナリアも、桜花と一緒になって回り踊っていると、桜花の腹が鳴った。

 

「…あはは。お腹ぺこぺこ、みたい」

「お昼ご飯にする?」

 

 永愛が首を傾げて尋ねると、桜花はこくん頷いた。

 

「リナリア、おすすめがあるよ! ビックリするかも!」

 

 リナリアに導かれて、四人はピレアの里の中を進んだ。

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