うたう竜と桜の世界【StarNotes】   作:逢生 藍

25 / 25
十話.雨音のピレア

 夕陽に照らされて赤く染まったピレアの里の門。その前には、一人のエルフが立っている。

 

 桜花たちが、走りオオカミから飛び降りた。

 

「シラキノ、ただいま!」

「おかえり。オーカにクレハ、トア。今日は遅かったね。大事ないようで良かった」

 

「えへへー。ごめんね、温泉に入ってたら遅くなっちゃった!――クゥもルゥも、乗せてくれてありがとう」

 

 頬に鼻先を擦り付けてくるクゥの、もふもふの頭を抱きしめる桜花。

 その横では、手を伸ばした永愛がルゥの腹を撫でる。

 

「それじゃあ、クゥとルゥは預かるよ。貸し走獣(そうじゅう)屋のナラに返却の報告はしておくといい」

「うん、ありがとう。クゥ、ルゥ、またね!」

 

 クゥとルゥをシラキノへ預けた桜花たち三人は、門をくぐってピレアの里の中へ戻った。

 

「おねえちゃん、ライの実パン買って帰る?」

「いいね! ブッシュ・ココナッツも買おう」

「エーコンさんの書庫も行きたい」

 

 里の中を巡っていると、いつの間にか日は暮れて、辺りはすっかり暗くなっていた。

 

 

 リナリアの家の樹に着いた三人が扉を開けると、リナリアが駆け寄ってきた。

 勢いよく飛び込んで、桜花に抱きつくリナリア。

 

「みんな遅いー! 待ってたの!」

「あはは、ごめんね。これ、お土産だよ!」

 

 ポーチから取り出したブッシュ・ココナッツを渡す桜花。

 ココナッツを受け取ったリナリアのエルフ耳が、ピクピクと動く。

 

「わああ…ごくり。――っもう!…寂しかったんだから。……おかえりなさい」

「うん。ただいまだよ」

 

 差し出した桜花の手が頭を撫でると、リナリアの表情はほころんだ。

 

「そうだ。姉さま言ってた。明日からは雨だって。だからリナリアのお家にいてね?」

 

 

△▼△▼△▼△▼△

 

 部屋にはめ込まれた窓の向こうから、ざあざあと雨音が落ちる。

 窓から外を覗くと、大粒の雨がピレアの木々を濡らしていた。

 

 ベッドに身体を倒した桜花。結んでいない髪が、ベッドに広がる。

 

「すごく降ってるね」

「尻尾がしっとりするよう」

 

 桜花の腹の横で、紅葉が尻尾ごと身体を丸めた。

 ベッドの上でパタパタと足を振っていた桜花の隣に、リナリアが飛び込んでくる。

 

「んふふ。恵みの雨だよ! 姉さまも今日はお家で休んでいいって!」

「今日は、お休み。…占い当たった」

 

「姉さまの天気占い、外れたことないの」

 

 ベッドに身体を投げ出したまま、誇らしげに胸を張るリナリア。

 紅葉のもこふかな毛並みに手を伸ばす。

 

「ふふ、くすぐったいよお。リナリアちゃん」

「クレハちゃん、柔らかい」

 

 身じろぎする紅葉の身体を、両手で触り続けるリナリア。

 二人分の笑い声が部屋に響く。

 

「へへへ。――あれ?…クレハちゃん」

「なあに?」

 

 リナリアの手が止まって、紅葉の胸元をじっと見る。

 そこにあるのは、キラリと光る紅炎のルビー。

 

「このルビー、どうしたの?…これたぶん、すごいチカラを持ってる」

「そうなの? ネムさんにもらったんだよ」

 

「そのルビー、すごいの?」

 

 しげしげと、紅葉の首に下がるルビーを見るリナリア。指先でルビーの表面を撫でる。

 椅子に座って本を読んでいた永愛が顔を上げて、リナリアの様子を見ていた。

 

「すごいよこれ。こんな宝石、初めて見た」

「そんなものをくれるなんて…ネムさんって何者?」

 

「んー。エルフの霊?…そういえば聞いてなかったなあ。でも、私たちの友だちだよ!」

 

 ルビーから手を離したリナリアが、ベッドに身体を沈めた。

 

「分かんない!…炎のマナを貯めておけるのは、合ってる?」

「うん。毎日少しずつ貯めておいて、強い魔法にしたいときに使うんだ」

 

 紅葉の話を聞いて、ふむふむと頷くリナリア。

 

「分かんないけど、祈りのこもったすごいルビーだね。……これ、絶対に口に入れちゃダメだよ? チカラが溢れて、暴走しちゃうかも」

「ありがとう、リナリア。くーちゃん、気をつけてね」

「そうなんだ。…わかった、ありがとう」

 

 紅葉とリナリアの頭を一撫でして、ベッドで寝返りをうった桜花。

 再び本に視線を落としていた永愛に目を向けた。

 

「永愛、今日は何の本を読んでるのー?」

 

 桜花に呼ばれて顔を上げる永愛。

 

「これは、六銀神神話(ろくぎんしんしんわ)。この世界の成り立ちが書いてあるみたい」

「ふむふむ。…成り立ち?」

 

 一度、小さく頷いた永愛が本のページをめくった。

 一つのページを開いたまま、指先を文字に沿って動かす永愛。

 

「冒頭にはこう書いてある。――『昔むかし、世界には闇が居た。いずこより、六柱の銀神様が現れ、そして銀神様は人々を導く。導かれた人々は銀神様と共に闇と闘った。その闘いは天地を割り、大海を穿ち、世界を変えた。二柱もの銀神様も欠けながら、多くの闇を封じた。そして争いは鎮まり、やがて人々は別々に暮らすようになり、銀神様も眠る。闇は今も、待っている』」

 

 読み終えた永愛が、口を閉じる。桜花が首を傾げた。

 

「闇…銀の神?……ヴェムティアが言ってた、虹銀(にじぎん)を祈る神ってのは関係あるのかな?」

「リナリア、お勉強したよ! 銀神さまは、虹銀を纏うんだって。世界を救った偉大な神さまなんだよ」

 

 上体を起こして座ったリナリアが、エルフ耳をピンと張って答える。

 本を閉じた永愛が、リナリアを見る。

 

「闇というのは…黒い竜も関係あるの?」

「んー。闇の一つ、って聞いたよ。封印できなくて、今でも潜む脅威なんだって。それ以外の闇は知ることが危険なんだって」

 

 リナリアがエルフ耳を振るわせてしぼませる。永愛は、本の表紙に目を落とした。

 

「そう…。怖いね。――この世界って何なんだろ」

「永愛。――こっちに来る? あったかいよ?」

 

 コクリと頷いた永愛は椅子に本を置いて、桜花の寝転がるベッドの端に寝そべる。

 四人が寝るベッドは、少し窮屈になった。

 

「えへへ」

「わ」

「きゃ」

 

 ベッドに転がる永愛を、桜花は紅葉とリナリアごと抱きしめる。

 

「ぽかぽかする!」

 

「んに。あったかいね」

「…そう、だね」

 

 永愛が、小さく三人を抱きしめ返した。

 

 

「この世界って、なんなんだろうね。私はまだ分かんないけど、危険もあるよね。でも…竜がいて、エルフがいて、魔法がある。私は、すっごくワクワクして楽しくて、好きだな」

「そう…。わたしも」

 

 窓の外からは、変わらず雨音が森を叩いている。

 桜花は身体を起こして、外の森を見る。

 

「ねえ、永愛。くーちゃんに、リナリアも。明日は遠出しよっか。…明日じゃなくても、晴れたら! 大瀑布って見てみたくない!?」

「ついてく!」

 

「気になる。でも、二日はかかるくらい遠いって」

「リナリアは…一日で帰らないとダメかも。走りオオカミでも二日、遠いよ?」

 

 リナリアの耳が、しょんぼりとしぼんでいく。桜花が明るく笑った。

 

「えへへ。そうだね。だから、飛んで行けばいいんだよ!」

「…飛ぶ? でも、そんなに速く飛べないよ?」

 

 リナリアがコテンと首を傾けた。エルフ耳が肩に掠める。

 

「うん。私に任せて! 冒険しよう!」

 

 ふわりと、桜色の髪が踊った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。