うたう竜と桜の世界【StarNotes】   作:逢生 藍

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十一話.日帰りの冒険

「ズーイッチョ!」

 

 ズーイッチョ(ちょう)の鳴き声が、里に鳴る。

 

 日差しに照らされて、ピレアの木々に滴る朝露が煌めく。

 ピレアの里の門で、手をかざす桜花。

 

「晴れたね。ぽかぽかだよ!」

「オウカおねえちゃんたちと、冒険できる! 姉さまも行って良いって!」

 

 ぴょんと跳びはねたリナリアが、桜花たちの周りを走り回る。

 永愛が、楽しげな桜花を見る。

 

「今日は、日帰りって言ってたけど。どうやって行くの?」

「くれはも気になってた。…どうするの?」

 

 キツネ尻尾をフリフリと振る紅葉が、桜花の肩の上で首を傾げた。

 にんまりと笑う桜花。

 

「ふっふっふー。飛んで行くんだよ! 永愛、みんなにあの浮かぶ魔法使える? くーちゃんは先にみんなに保持魔法をお願い」

「う、うん」

「任せて。『マキナル・ウーラ・アル・ヘイスオル・ティムオル』」

 

 永愛が詠唱を唱えると、藤色の魔法陣が展開された。

 紅葉が地面に展開した魔法陣が紅く輝き、四人の身体を光が包む。

 

『浮遊』

 

 永愛が魔法名を唱えると、四人の身体が宙に浮いた。

 

「浮遊の魔法、リナリア好き!」

「すごいよね!――それじゃ、こうしてっと。こうかな」

 

 空中に魔法陣を描き始める桜花。何度か描き直して、描き終わった魔法陣が桜色に光った。

 

『投げない投げ網』

 

 魔法陣から桜色のロープが三本伸びて、その端が桜花の腰周りに結びつく。

 

「へ?」

「…まさか」

「改変魔法だ! すご-い!」

 

 桜花に結びついた三本のロープの反対側が伸びて、宙を浮く紅葉、永愛、リナリアに結びついた。

 

「じゃあ、行こう!」

 

 桜花の背中から、白い翼がふわりと生える。背中の翼を大きく羽ばたかせ、桜花は大きく加速した。

 

「きゃー!」

「…やっぱり。…ぶっ飛んでる」

「すごーい!」

 

 桜色のロープに引かれ、風を切る永愛たちの身体。

 空に昇り、四人はピレアの里を飛び立った。

 

 

△▼△▼△▼△▼△

 

「これって、みんなの声が聞こえないかも」

 

 一面に広がる森の上を飛ぶ桜花。後ろを振り返ると、ロープに引かれて飛ぶ三人の姿が見える。

 きょろきょろと周りを見ていたリナリアと目が合うと、笑顔で返された。

 

≪オウカおねえちゃん、速いね≫

「んに! 声が聞こえた?」

 

 桜花の耳元で、リナリアの声が響く。リナリアは口を開いていない。

 

≪これ、テレパスの魔法だよー。みんなを繋いだから、伝えようとしてみて≫

≪そんなことできるんだ! こう?≫

≪んあっ。大きすぎ…。も、もう少し小さめで大丈夫だよ!≫

 

 リナリアの耳がピクピクと震える。紅葉が耳を倒し、永愛は両耳に手を当てていた。

 

≪ご、ごめんね。今はちょうどいい?≫

≪良い。それにしても、この魔法、便利。…意志を飛ばしてる?≫

≪そうだよ! 巫女はみんな使えるんだって!≫

 

 桜花の耳元で、リナリアと永愛の声が響いた。

 遅れて、紅葉の声が届く。

 

≪こ、これで…。できてる?≫

≪できてるよ、くーちゃん!…わわっ≫

 

 身体ごと振り返り、両手で大きく丸を作った桜花の身体が傾く。

 三人の悲鳴を聞きながらも、何とか体勢を整える桜花。

 

≪ビックリした!≫

≪おうちゃん、危ないことは禁止≫

≪え、えへへ。はーい≫

 

 一度後ろを振り返ると、桜花は前へ向き直る。

 木々が点に見えるほどに、遥か先まで広がる森。遠く森の中に、湖が見えた。

 

≪向こうに湖があるね。まだ遠そうな感じ≫

≪もしかして、タウェンの大瀑布(だいばくふ)? 初めて見る!≫

≪速度と方角からすると、あそこで良さそう。でも…遠近感がおかしい≫

 

 前方に見える、森の中の湖からは水が落ち、滝になっている。

 

≪遠近感?≫

≪そう。この距離から見えるのは、相当な大きさ。星樹アルヴのような≫

≪タウェンの大瀑布、おっきいんだって!≫

 

 湖に向かって飛び続けるも、その全景の大きさはほとんど変わらない。

 紅葉の声が、耳元で響いた。

 

≪おねえちゃん。ずっと飛んでるけど、休憩する?≫

≪そうだね、休もう≫

≪リナリア、お腹空いた!≫

 

 減速して、降下していく桜花と、それに引かれて続く三人。

 木々の隙間を流れる大河のほとりに着地した。

 

 

△▼△▼△▼△▼△

 

 穏やかな流れの大河のほとり。その高台に、焚き火を囲んで座る四人。

 串に刺さった何本もの空魚が焼けている。

 

「冒険ごはん…おいしそう。まだかなまだかな」

「とっても美味しいよ。もう少しだからね」

 

 エルフ耳を小刻みに振るわせて、口の端からよだれを垂らすリナリアの口元を、桜花が拭う。

 本を読んでいた永愛が顔を上げた。

 

「おうちゃん、サバイバルもできるんだ」

「えへへ。昔、山でおじいちゃんに教えてもらったんだよ」

「おねえちゃん、すごいよね。いいな」

 

 桜花の膝に座る紅葉が、桜花の腹に額を擦り付ける。もこふかの毛並みを柔らかに撫でる桜花。

 

「冒険、楽しいね」

 

 再び本に視線を落とした永愛と、焼けていく空魚から視線の動かないままのリナリア。

 川の流れる音に、時折本のページをめくる音が混ざっていた。

 

 

「焼けたよ!」

「わあああ!――あつい!」

 

 桜花の声を聞いて、前のめりに空魚に手を伸ばしたリナリアが、慌てて手を引っ込める。

 

「あははは! 魚を持っちゃ、熱いよ。大丈夫だった?」

「うん…。ふっーふっー」

「手が赤くなっちゃってるね。――『キュア』」

 

 手に息を吹きかけるリナリアを、桜花の放った魔法の光が包む。

 焼けた魚の串を取ってリナリアと永愛に手渡し、紅葉の前に置いた葉で作った皿にも載せる。

 

「おいしそう!」

「ありがとう」

 

「それじゃ、手を合わせて…いただきまーす!」

 

 香ばしく焼けた魚に、勢いよくかぶりつく。

 口の中で、脂の乗った淡白な身から強い旨みが広がった。

 

「おいしい!」

「この空魚、今まで食べた中で一番かも!」

 

 焼け終えた空魚を食べつくすまで、そう時間はかからなかった。

 

 

「くれは、お腹いっぱい」

「美味だった」

 

 勢いの弱くなった焚き火の傍で、身体を伸ばす四人。

 

「冒険ごはん、また食べたいな」

「そうだね。また行こうよ!」

「…うん!」

 

 お腹を擦るリナリアに桜花が笑いかけると、満面の笑顔を返すリナリア。

 

 大河から、水しぶきの落ちる音がした。桜花の後ろの大河を見た、リナリアのエルフ耳が硬直する。

 

「んに?」

 

 振り返ると、桜花を一飲みに出来そうなほどのワニが大河から出てきていた。

 ヌメヌメとした水色の皮が光を反射する。皮の至るところからトゲが生えていた。

 

「ひっ」

「針の巨大ワニ?……足が六本ある」

「…図鑑、見てみる」

 

 ポーチから魔性図鑑を取り出した桜花が、巨大ワニに向かって図鑑を開く。

 開いたページに目を落とした桜花。

 

「…分類不能、だって」

「グギャォオオオオオオオ!!」

 

 巨大ワニの体中のトゲが逆立つ。トゲの間からは、バチバチと電気が走っていた。

 

「…分類不能は、どうするの?」

「あはは…。こういうのはね、逃げるんだよ!――くーちゃん!」

 

「うん!」

 

 桜花の肩に飛び乗る紅葉。

 桜花はマナを身体に纏い、勢いよく立ち上がると、永愛とリナリアの手を引き走り出す。

 

『保持魔法』

 

 紅い魔法が、四人の身体を包む。

 

『火のクリーン』

 

 桜色の炎の壁が桜花たちの背後に立ち上がると、爆発音が鳴った。

 

「きゃあ!」

 

 何本ものトゲが回転して、地面に転がった。

 足を止めずに走り続ける桜花たちを、巨大ワニが追う。巨躯が動く度に、地面が揺れる。

 

「永愛、浮遊魔法をお願い!――『投げない投げ網』」

「分かった――『マキナル・ウーラ・アル・ヘイスオル・ティムオル』。『浮遊』」

 

 桜色のロープが四人を繋ぎ、藤色のマナに包まれると宙を浮く。

 即座に、背中に翼を生やす桜花。

 

「一気に、行くよ!」

「ひゃあああ!」

 

 そして、リナリアの叫び声と共に空へ向かって加速した。

 グングンと、その場から離れる桜花たち。

 

≪怖かったあ…。テレパス、繋いだよ!≫

≪なんとか、逃げ切れたね≫

 

 ほうっと吐息を吐いた桜花が振り返ると、巨大ワニがただ桜花たちを見上げていた。

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