タウェンの大瀑布の端。露出した岩肌に、仄かに青い光を漏らす洞窟の入口が開いていた。
三人を抱きかかえた桜花は、広げた翼を羽ばたかせて滑空し洞窟に降り立った。
「ラピスがいっぱい。綺麗だね!」
「わああ…! 宝石の道だよ。すごい。綺麗! くれはちゃん、こっち!」
「リナリアちゃん、待ってー!」
差し込む陽光を反射して青く輝く洞窟の中を、リナリアが駆け回る。
地面から突き出したラピスの前でしゃがんだ永愛が、何度も角度を変えて光るラピスを観察し始めた。
ラピスの滑らかな多面体の表面を指先でそっとなぞってみる。
「洞窟内の、ラピスの示す青き道…。青き道は、光?…でも」
「反射した光、バラバラに行ってるね」
何本もの薄い光が進む先を目で追ってみると、壁や床、天井や洞窟の奥などあちこちに向かっていた。
首を傾げている桜花に、尻尾をフサフサと揺らしながら近寄る紅葉が尋ねる。
「お姉ちゃん、永愛さん、なにか分かった?」
「んに、分からないね…。永愛は?」
ふるふると首を振る永愛。
「分からない。それに、これだけだと始まりを告げる鳥の青い瞳を見つめる、とはならない、はず」
「そっかあ。――奥のほうに行ってみる?」
真っすぐな道が奥へと続く洞窟の中は、至る所からラピスが生えている。
四人で揃って奥へ進むと、広い空間に出た。
空間の中央には、床から天井まで伸びて貫く一柱のクリスタル。
「…すごい」
「わあぁ…。――綺麗」
桜花の口から、吐息をこぼすような声が漏れる。
円柱状に伸びたクリスタルの結晶が、青く光っていた。
「青い…水晶?……ううん。これは、ラピスの青い光が集まって、水晶が青く光ってる」
「すごく…きれい。――ここがタウェンさまのネムルチ、なのかな。ほんとうだったんだ」
ほうっとクリスタルを見上げていたリナリアがぽつりと呟くと、永愛がリナリアに振り向いた。
「…タウェン様の、眠る地?」
「あっ。言っちゃダメだった。ぇとえと!」
慌てた様子で目まぐるしく手足を動かすリナリアの、エルフ耳がぴょこぴょこと踊る。
せわしなく動くエルフ耳を桜花が掴み、揉みしだいた。
「にゅうー」
「えへへ。言っちゃダメなら言わなくて大丈夫だよ。ね、永愛、くーちゃん?」
「もちろんだよ!」
「そう。言えないこともある」
桜花の笑顔を向けられて頷く紅葉と永愛。
ひとしきりエルフ耳を揉まれて解放されたリナリアは、桜花と永愛、紅葉を見る。
「たぶん、大丈夫。おねえちゃんたちとクレハちゃんなら。それに、リナリアもあんまり知らないから!」
へにゃっていたエルフ耳をピンと張って、胸を張るリナリア。
足元にいた紅葉は抱き上げられると、リナリアの目をじっと見る。
「いいの?」
「いいよ。でも、秘密だよ!」
桜花たちが三者三様に首肯するのを見て、リナリアが口を開いた。
「ここはね。七千年くらい前に、初代アルヴだったタウェンさまが、大きな戦いの末に命を終えて、お眠りになった場所なんだって。その時に出来た大瀑布なんだって。――だから、ずっと来てみたかったんだ」
「…そっかあ。だから、ここは透明なマナがいっぱいなんだね」
「見えるの、すごい。…うん。巫女と巫女の候補だけが教えられるの」
桜花が青いクリスタルに向かって手を合わせて、目を閉じて
三人は口を開くことなく桜花に
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タウェンの大瀑布の前で、轟々と落ちる滝を眺める四人。
「オリーブの出題、分からなかったね」
「くれはにはさっぱり」
「リナリアも!」
「向こうにあった鳥の石像と関係がある?…この洞窟ではない?……でも、鳥の石像は怪しい」
滝に視線を向けたまま考え込んでいた永愛が、石像の方角を見て、洞窟を見て、再び石像の方角を見る。最後に、桜花と目が合った。
「…見えるの?」
「うに。今は永愛が見えてるよ?」
「違う。わたしもおうちゃんは見えてる。――マナ、見えるの?」
桜花の視界では、永愛がじっと覗き込んできていた。滝に目を向けると、湖面から、滝壺から、湧き上がる大量の透明なマナ。
「うん、見えるよ。でもここのマナは、森と水に溶けて透明な感じ。色がなくて、気をつけてないと気づかないかも」
「オウカおねえちゃん、やっぱりすごい。マナが見えるようになる人って少ないよ!」
「…そう。おうちゃん、その」
桜花の服の裾を指先で掴んだ永愛が上目づかいで、桜花に向かって口を小さく開け閉めする。
永愛の指先を、桜花の手が包んだ。
「えへへ。教える?」
「……ありがとう。教えて」
軽く握り返してきた永愛の手を、両手で包み込んで微笑む桜花。
「ズルい! リナリアもー!」
「く、くれはもー!」
桜花たちは揉みくちゃになってじゃれ合い、笑いあった。
しばらく駆けまわった後、崖の上で寝転がった四人。
「ねえ、見つからなかったね」
「うん」
仰向けのまま、桜花が永愛を見た。
「四つ目の洞窟にも行って、それから、また四人でここに来ようよ。勿論、リナリアも。――いいよね、みんな」
「うん! 行く。絶対! 楽しみ!」
「ついてく!」
勢いよく起き上がったリナリアがぴょんぴょんと飛び跳ねて、桜花たちの周りを回る。
「あはは。それじゃあ、今日は暗くなる前に帰ろう」
スニーカーのつま先で二度、地面を叩いた桜花は、背中から白い翼を生やす。
青い空の向こうで暖かな日差しを降らせる陽は、傾き始めていた。