うたう竜と桜の世界【StarNotes】   作:逢生 藍

28 / 28
十三話.タウェンの眠る地

 タウェンの大瀑布の端。露出した岩肌に、仄かに青い光を漏らす洞窟の入口が開いていた。

 三人を抱きかかえた桜花は、広げた翼を羽ばたかせて滑空し洞窟に降り立った。

 

「ラピスがいっぱい。綺麗だね!」

「わああ…! 宝石の道だよ。すごい。綺麗! くれはちゃん、こっち!」

「リナリアちゃん、待ってー!」

 

 差し込む陽光を反射して青く輝く洞窟の中を、リナリアが駆け回る。

 地面から突き出したラピスの前でしゃがんだ永愛が、何度も角度を変えて光るラピスを観察し始めた。

 ラピスの滑らかな多面体の表面を指先でそっとなぞってみる。

 

「洞窟内の、ラピスの示す青き道…。青き道は、光?…でも」

「反射した光、バラバラに行ってるね」

 

 何本もの薄い光が進む先を目で追ってみると、壁や床、天井や洞窟の奥などあちこちに向かっていた。

 首を傾げている桜花に、尻尾をフサフサと揺らしながら近寄る紅葉が尋ねる。

 

「お姉ちゃん、永愛さん、なにか分かった?」

「んに、分からないね…。永愛は?」

 

 ふるふると首を振る永愛。

 

「分からない。それに、これだけだと始まりを告げる鳥の青い瞳を見つめる、とはならない、はず」

「そっかあ。――奥のほうに行ってみる?」

 

 真っすぐな道が奥へと続く洞窟の中は、至る所からラピスが生えている。

 

 四人で揃って奥へ進むと、広い空間に出た。

 空間の中央には、床から天井まで伸びて貫く一柱のクリスタル。

 

「…すごい」

「わあぁ…。――綺麗」

 

 桜花の口から、吐息をこぼすような声が漏れる。

 円柱状に伸びたクリスタルの結晶が、青く光っていた。

 

「青い…水晶?……ううん。これは、ラピスの青い光が集まって、水晶が青く光ってる」

「すごく…きれい。――ここがタウェンさまのネムルチ、なのかな。ほんとうだったんだ」

 

 ほうっとクリスタルを見上げていたリナリアがぽつりと呟くと、永愛がリナリアに振り向いた。

 

「…タウェン様の、眠る地?」

「あっ。言っちゃダメだった。ぇとえと!」

 

 慌てた様子で目まぐるしく手足を動かすリナリアの、エルフ耳がぴょこぴょこと踊る。

 せわしなく動くエルフ耳を桜花が掴み、揉みしだいた。

 

「にゅうー」

「えへへ。言っちゃダメなら言わなくて大丈夫だよ。ね、永愛、くーちゃん?」

 

「もちろんだよ!」

「そう。言えないこともある」

 

 桜花の笑顔を向けられて頷く紅葉と永愛。

 ひとしきりエルフ耳を揉まれて解放されたリナリアは、桜花と永愛、紅葉を見る。

 

「たぶん、大丈夫。おねえちゃんたちとクレハちゃんなら。それに、リナリアもあんまり知らないから!」

 

 へにゃっていたエルフ耳をピンと張って、胸を張るリナリア。

 足元にいた紅葉は抱き上げられると、リナリアの目をじっと見る。

 

「いいの?」

「いいよ。でも、秘密だよ!」

 

 桜花たちが三者三様に首肯するのを見て、リナリアが口を開いた。

 

「ここはね。七千年くらい前に、初代アルヴだったタウェンさまが、大きな戦いの末に命を終えて、お眠りになった場所なんだって。その時に出来た大瀑布なんだって。――だから、ずっと来てみたかったんだ」

「…そっかあ。だから、ここは透明なマナがいっぱいなんだね」

「見えるの、すごい。…うん。巫女と巫女の候補だけが教えられるの」

 

 桜花が青いクリスタルに向かって手を合わせて、目を閉じて拝(おが)む。

 三人は口を開くことなく桜花に倣(なら)いそれぞれ拝み始めた。

 

 

△▼△▼△▼△▼△

 

 タウェンの大瀑布の前で、轟々と落ちる滝を眺める四人。

 

「オリーブの出題、分からなかったね」

「くれはにはさっぱり」

「リナリアも!」

 

「向こうにあった鳥の石像と関係がある?…この洞窟ではない?……でも、鳥の石像は怪しい」

 

 滝に視線を向けたまま考え込んでいた永愛が、石像の方角を見て、洞窟を見て、再び石像の方角を見る。最後に、桜花と目が合った。

 

「…見えるの?」

「うに。今は永愛が見えてるよ?」

「違う。わたしもおうちゃんは見えてる。――マナ、見えるの?」

 

 桜花の視界では、永愛がじっと覗き込んできていた。滝に目を向けると、湖面から、滝壺から、湧き上がる大量の透明なマナ。

 

「うん、見えるよ。でもここのマナは、森と水に溶けて透明な感じ。色がなくて、気をつけてないと気づかないかも」

「オウカおねえちゃん、やっぱりすごい。マナが見えるようになる人って少ないよ!」

「…そう。おうちゃん、その」

 

 桜花の服の裾を指先で掴んだ永愛が上目づかいで、桜花に向かって口を小さく開け閉めする。

 永愛の指先を、桜花の手が包んだ。

 

「えへへ。教える?」

「……ありがとう。教えて」

 

 軽く握り返してきた永愛の手を、両手で包み込んで微笑む桜花。

 

「ズルい! リナリアもー!」

「く、くれはもー!」

 

 桜花たちは揉みくちゃになってじゃれ合い、笑いあった。

 しばらく駆けまわった後、崖の上で寝転がった四人。

 

「ねえ、見つからなかったね」

「うん」

 

 仰向けのまま、桜花が永愛を見た。

 

「四つ目の洞窟にも行って、それから、また四人でここに来ようよ。勿論、リナリアも。――いいよね、みんな」

「うん! 行く。絶対! 楽しみ!」

「ついてく!」

 

 勢いよく起き上がったリナリアがぴょんぴょんと飛び跳ねて、桜花たちの周りを回る。

 

「あはは。それじゃあ、今日は暗くなる前に帰ろう」

 

 スニーカーのつま先で二度、地面を叩いた桜花は、背中から白い翼を生やす。

 青い空の向こうで暖かな日差しを降らせる陽は、傾き始めていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。