超ド級巨大生物 VS 女装メイド   作:細川 晃

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第3話 ハミングバード

 

 

「ようこそ、小春」

 

 生活感のない空間だった。天井の照明が室内を青白く照らし、分厚いファイルがぎっちりと詰め込まれたガラス戸付きの金属製キャビネットが、壁の一面を覆い尽している。

 

 ここは執務室か、もしくは応接室だろうか? 部屋の奥にはモニターと卓上マイクが置かれた大きな仕事机、アリス様基準では座高の高い黒革の椅子があり、カーペットの敷かれた部屋の中央では一組のソファが脚の短いテーブルをはさんで向かい合わせになっていた。

 

「あのー、アリス様。ここは、いったい……」

 

「人類統合軍・賽原基地。軍人や、研究者などの軍属職員を合わせ、およそ三万人が所属する極東地域最大の軍事拠点。二〇〇八年から建設が開始され、二〇一二年に完成した。ここはその地下に設けられた私の執務室」

 

「……はぁ、人類統合軍?」

 

 困惑する僕をよそに、アリス様は淡々と説明を始めた。

 

「人類統合軍は、一九七四年に米ソ核戦争の気運が最大限に高まったことを受け、最終戦争を回避するべく世界各国の軍事的組織を統合して結成された」

 

「……核戦争?」

 

「その成り立ちから〝力のある国連〟や〝真の多国籍軍〟と言われ、一九八〇年には日本も含めた百以上の国と地域が加盟し、当時のアメリカとソ連に対して冷戦の即時終結と、全核兵器の破棄を絶対条件に、場合によっては統合軍全軍による武力行使も辞さないという断固とした態度で和平交渉を迫り、一九八五年にこれを実現させている」

 

「…………」

 

「冷戦終結から六年が経過した一九九一年には、全世界において、核兵器の完全廃絶が達成され、人類統合軍は全人類の悲願であった核なき世界を実現した。ただし勘違いしてはならないのは、核の廃絶を達成した後も、人類は様々な理由から世界各地で絶えず争い続けることになる。恒久的な世界平和の実現は、全人類の大多数が協賛した統合軍という強大な組織の力を持ってしても不可能。――そう結論付けられた」

 

「…………」

 

「ここまでで、なにか質問は?」

 

 アリス様はとても真剣な面持ちだった。

 

 どうやら壮大なジョークというわけではないらしい。

 

「えーと、今のお話は一般常識なのでしょうか?」

 

「一般常識。小春が望むなら、軍令規則・第三百十七条の成立過程を交えつつ、もう一度最初から解説してもいい。きっと将来、必要となる知識だろうから」

 

「は? いえ、あの。今は、遠慮しておきます」

 

「わかった」

 

 年号、固有名詞、なに一つとして聞きなじみがない。

 

 大学の歴史講義を受ける未就学児の気分だった。だとするなら僕の記憶は、想像していたよりもずっと欠落が多いのだろう。正直、かなりショックだった。

 

「現在の生活に支障がないから気づいていないかもしれないが、あなたは自分自身に関連する記憶だけでなく、本当に多くの物事を忘れてしまっている。現代社会についてなにも知らないのは当然のこと」

 

「…………」

「大丈夫?」

「……平気です」

 

 気落ちする僕を見かねたのか、アリス様は壁際の戸棚に向かうと、そこで小さなガラス容器を手に取った。それは遮光性の高い青色の小瓶だった。

 

「小春、コーヒー飲む?」

 

「すみません、いただきます」

 

「インスタントしかないけど」

 

「かまいません」

 

「そう、よかった。そこのソファに座って待っていて」

 

「……はい。失礼します」

 

 普段ならばなんと言われようと、来栖野家のメイドとして意地でも立ち続けて、自ら進んでコーヒーを淹れるところだけど、朝から緊張や驚愕の連続だった影響もあってか、だいぶ精神的な疲労が強かった。僕は大人しく手近のソファに腰を下ろすと、カチャカチャと音を立てながらコーヒーを淹れているアリス様の背中をぼんやりと眺めた。

 

 次第に芳ばしい香りが漂ってくる。

 

「どうぞ。ブラックでよかった?」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 手渡された鳥柄のマグカップには、褐色の液体が注がれていた。

 

 あれ? 香りはインスタントにしては上等だけど、コーヒー自体の色合いが、薄い?

 

 そんなことをぽつぽつと考えながら、僕はアリス様が淹れてくださったコーヒーをほんの少し口にふくんだ。

 

「――んッ!?」

 その瞬間、強烈な苦みが舌の上にべったりと広がり、その奥底から湧き出す妙な土臭さが鼻を抜けていく。

 

 マズイ。それも恐ろしくマズイ。コーヒーそっくりの、しかし味は似ても似つかない液体に対する感想はそれだけで十分だった。アリス様の見ている前で、口の中のものを吐き出すわけにもいかず。僕は気合いで口にふくんだそれを飲み下した。

 

「味はどう?」

「ごほ、ごほっ、ううぅ、おいしくないです。これはいったいなんですか……?」

 

「コーヒー」

「絶対ウソですよね!?」

 

「正確には、代用コーヒー」

「代用?」

 

 代用……代用食品? それってカニカマとか、マーガリンとか、そういう物の類かな? 

 

 だけど、コーヒーの代用品なんて聞いたこともない。

 

 そもそも一部のブランドを除き、それほど高価でもないコーヒーの、しかも恐ろしくマズイ代用品をどうして作ろうと思ったのか、僕には理解できなかった。

 

「コーヒーがお飲みになりたいのでしたら、今すぐお淹れいたしますけど」

 

「いい。ここにはもう、代用コーヒーしかないから」

 

 そう呟きながら、アリス様はためらいなく自分のカップに口をつけ、それをごくりと飲んでしまった。

 

「そんなもの飲んではダメですよ! 体に悪いですって!」

 

「体に悪い成分は入っていないから大丈夫。むしろ、カフェインが入っていないから、通常のコーヒーよりも安全な飲み物」

 

 よほど飲み慣れているのか、彼女の端整な顔は無表情のまま変化しなかった。一応、安全な飲み物らしいので勇気を出してもう一口飲んでみたけれど、これから先もこの味に慣れるなんてことは絶対にありえないだろう。

 

「無理に飲まなくてもいい」

 

「すみません。そうさせてもらいます。……あの、ところでアリス様」

 

「ん?」

 

 僕はテーブルの上にマグカップを置くと、さきほどの会話の中で気になっていた事柄について尋ねた。

 

「さっき、ここにはもう、代用コーヒーしかないって言っていましたけど、それってどういう意味ですか? 普通のコーヒー程度なら、自販機でも買えますし、それこそどこにでもあると思いますけど」

 

「言葉通り、そのままの意味」

「……?」

 

「小春の言う普通のコーヒーは、今現在、入手がとても困難な状況にある。日本国内には、もう常用できるほど残されてはいない。だから、代用コーヒーという飲料が存在している」

 

「言っている意味が、その、……よくわからないのですけど」

 

「これを見てほしい」

 

 室内を足早に横断したアリス様は、マグカップを仕事机の上に置くと、流れるような動作で椅子に飛び乗って卓上のキーボードを操作した。

 

 すると天井の一部が動き、レンズを備えた大型の装置がせり出してくる。

 

 どうやら、天井から出てきたのはプロジェクターであるらしい。室内が明るいままであるにも関わらず、部屋の白い壁をスクリーンにして、装置は鮮明な画像を投影していた。

 

「世界地図ですか?」

 

「そう。これは西暦二〇〇〇年に制作された世界地図」

 

 それは本初子午線を地図の中央に置く、欧米においては一般的な世界地図だった。

 

 ぱっと見た限りでは、おかしなところは見受けられない。それでもあえて気になる点を挙げるとするならば、その地図はとてもシンプルにデザインされていて、国境線や国名が地図上に記されていないことだろうか。

 

「次は、これ」

 マウスをクリックするカチっという音が響いた直後、プロジェクターの投影する画像が切り替わった。

 

「……?」

 画像は十分に鮮明なものだったけれど、それがなにを表した画像なのか理解するまでには、しばらくの時間が必要だった。

 

「……んんっ?」

 結論から言うと、それは世界地図だった。

 

 なぜその程度のことを理解するために、これほど長い時間が必要だったのか。それは僕が知っている世界地図と、壁に投影されている世界地図とがあまりにもかけ離れていたからだ。

 

「アリス様……」

「なに?」

 

「これって世界地図、ですか?」

「その通り。これは西暦二〇二三年、つまり今年作成された最新の世界地図」

 

「冗談ですよね?」

「冗談を言っているつもりはない。これはまぎれもなく、今現在の世界を表した地図」

 

 アリス様は淡々とした様子で、手元の機器を操作する。

 

 すると、二〇〇〇年の世界地図と、二〇二三年の世界地図が同時に表示された。

 

「こうして比較するとよくわかるが、二〇〇〇年から二〇二三年までに、地球の陸地のおよそ八割が消滅している」

「そんなまさか……」

 

 やっとしぼり出せた言葉はそれだけだった。

 

 疑問符に塗りつぶされ、思考のショートしてしまった頭で、僕は一方的に与えられた情報を懸命にかみ砕いていく。

 

 けれども、アリス様は待ってはくれなかった。次から次へと理解しがたい情報が、それこそ濁流のように押し寄せてくる。それはもはや、暴力の一種だった。

 

「二〇二三年現在。アメリカ大陸は、アメリカ西部の一部と南アメリカの一部を除いて消滅。オセアニアは、ニュージーランドを除いて消滅。アフリカ大陸は、北アフリカの一部を除いて消滅。ユーラシア大陸は、シベリア、中央アジア、東南アジア以外はほとんど消滅した」

 

「……っ」

 

「日本は、すでに関東地方と中部地方の一部しか残されていない。北海道、東北、近畿、中国、四国、九州、沖縄が失われた」

 

 アリス様は、どこまでも無感情に、歴史書を読み上げるロボットのように、言葉を重ねていく。そんな彼女に対して僕は初めて恐怖という感情を抱いた。

 

 それがなによりも情けなかった。

 

「世界の主要な穀倉地帯が根こそぎ失われてしまったため、二〇〇〇年代後半からは世界中の人々が深刻な食糧難に直面している。当然、飼育に大量の穀物を消費する畜産業は壊滅した。他の農業や漁業も同じ状況にある。大陸の消滅による地殻変動、重金属汚染、土砂流入による海洋汚染などによって第一次産業は致命的な被害を受けた」

 

「…………」

 

「医薬品や日用品の不足も極めて深刻な状況であり、それらの影響もあって、二〇二三年現在の世界人口は推定三億人。日本の総人口は、すでに百万人を下回っている」

 

 しばらく言葉すら出てこなかった。

 

 これが現実ではなく夢であったなら、どれほど幸福であっただろうか。

 

「どうしてそんなことに……。まさか大規模な核戦争が起きてしまったとかですか?」

 

「違う。そもそも一九九一年の時点で、核兵器は地球上から完全に廃絶されている」

 

「だったら、なぜ……」

「外敵が現れた」

「外敵?」

 

「二〇〇〇年一月一日、世界各地の上空に突如として発生した空間の亀裂から、非常に巨大な生命体が出現した。その数は全六体。以後、二十三年間。統合軍はその巨大生物と交戦状態にある」

 

 プロジェクターの投影する画像が世界地図から切り替わる。

 

 高高度から撮影された航空写真だろうか、超高層ビルが密集して立ち並ぶ市街地のど真ん中に、とてつもなく巨大な立方体の何かが居座っている。

 

 画像内に小さく写り込む超高層ビル群とは対照的に、生命体であるらしい正体不明の立方体は山ほども大きかった。

 

 なんだ、あれは? あんなものが生命体? 

 

 次々と画像は切り替わっていく。そのどれもが、縮尺を間違えた下手な合成写真ではないかと疑ってしまうほど現実味のないものばかりであった。

 

「同年一月二日。人類統合軍総司令部は緊急声明を発し、世界各地に出現した巨大生物を人類史上最大の敵対的存在と認定。巨大生物を〝アルバトロス〟と命名した。アルバトロスは一辺の長さが五キロメートルに達する立方体型の生命体――とされているが、それは暫定的なもので、アレが生物であるとの確証は、今もまだ得られてはいない」

 

「…………」

 

「アルバトロスは時速二十キロメートルで移動し、およそ一年間で、百万平方キロメートルの陸地を消滅させ、海に変えてしまう」

 

「……え?」

 

「そしてアルバトロスは全六体、つまり毎年、六百万平方キロメートルの陸地が失われていくことになった。それはたったの四年で、北アメリカ大陸がまるごと地球上から消滅するスピード。……わかりにくい? それなら毎年、日本列島十六個分の陸地が消滅していったと表現すれば、想像できる?」

 

 想像なんて、できるわけがなかった。

 

「以上が、現在までに地球上の陸地の約八割が失われてしまった理由」

 

「なぜそんなことを……」

 

「不明。現在主流となっている仮説ではアルバトロスが出現した空間の亀裂――統合軍ではそれを〝特異点〟と呼ぶが、奴らは特異点の向こう側にある別世界から送り込まれた侵略者ではないかと考えられている」

 

「……侵略者」

 

「話を戻す。二〇〇〇年一月一日、アルバトロス全六体のうちの一体が、オーストラリア南部のメルボルンに出現した。およそ九年かけてオーストラリア全土を削り切ると、二〇〇九年の二月にパプアニューギニアへと侵攻」

 

「…………」

 

「二〇一二年には沖縄へと上陸。人類統合軍・極東艦隊が奮戦するものの、沖縄の島々を削りながら北進を続けた」

 

 アリス様は、卓上のキーボードとマウスを操作すると席を離れ、テーブルを挟んだ僕の対面のソファへと静かに腰かけた。

 

 その間も、スクリーン上の画像はゆっくりと切り替わっていく。スライドショー形式に切り替えて、ファイル内のデータが自動表示されるように設定したのだろう。

 

 次々と映し出される画像は、いずれも高高度から撮影されたもので、アルバトロスの巨体が国土を地表ごと掘り返し、人類社会が一方的に蹂躙されていく様子を克明に写し出していた。

 

「二〇一二年八月。アルバトロスが九州地方に上陸した。二〇一二年末までに九州、中国、四国、近畿、中部、関東、東北、北海道の順に侵攻。その時点で、犠牲者は七千万人に達した」

 

「七千万……」

 

「ちなみに犠牲者七千万人のうちの約六千万人は、統合軍が〝キメラ〟と呼称する存在によってもたらされた被害。アルバトロスが巨大な軍事拠点だとするなら、キメラはその基地に配備された戦車や装甲車といった関係にある。キメラはアルバトロスから遠隔的なエネルギー供給を受けながら、人間を無条件で攻撃し――優先的に捕食する」

 

「……捕食」

 

「アルバトロスの体内には、キメラを生産する工場のような器官が存在すると主張する学者もいるが、未だにそれらしいものは発見できておらず仮説の域を出ない。なぜ物理的な栄養補給を必要としないキメラが我々人類を優先的に捕食するのか、詳しい生態は今もそのほとんどが謎に包まれている。……また話が逸れた。これ以上のキメラに関する説明は、本筋から離れてしまうので省略する」

 

「…………」

 

「同年。居住地を失った五千万もの難民が全国から関東地方へと押し寄せ、日本は極めて深刻な物資不足に陥る。ほんのわずかな食糧や医薬品を巡って、殺人、略奪、暴行が連日相次ぎ、関東の各都市は壊滅。二〇一四年までに日本の総人口は一千万人を下回った」

 

「…………」

 

「北海道を侵略後、アルバトロスは大陸へと渡った。そして、中華人民共和国の一部とロシア連邦の極東区域をまばらに削り取りながらアラスカへと侵攻。カナダ西部を進み、二〇一八年にはアメリカ西海岸、ワシントン州へ到達した」

 

 これまで無表情のまま延々としゃべり続けていたアリス様だったが、自分が話すべき事柄はすべて話し終えたと判断したのか、ゼンマイがほどけ切った人形のように、はたと口を閉ざした。

 

 そしてこちらの反応をうかがって、僕の顔をひたすら無言で凝視する。

 

「…………」

 

 正直なところ、自分はいろいろと納得できていなかった。

 

 これまでスクリーンに表示されてきた数多くの写真や資料が、すべてねつ造されたものではないかと疑ってしまうほどに、アリス様がこれまでお話ししてくださった内容は、あまりにも非現実的すぎたのである。

 

 もしもこれで目の前に座っているのが敬愛するアリス様ではなくて、見知らぬ他人であったなら、僕は珍しく激怒していたかもしれない。

 

 空間の亀裂である特異点を通って、別世界からやってきた侵略者。

 

 大陸が消え、数多くの国家が滅亡し、生き残った人類はわずか三億人。

 

 突然そんなことを言われても、はいそうですか、なんて二つ返事で受け入れられるわけがなかった。

 なにせ僕は、まだなにも、自分の目で直接確かめてはいないのだ。

 

 記憶を失ってからは、鶺鴒館の敷地から一歩も外に出ていないし、今日だって、お屋敷から賽原基地までの移動には、車内に窓の存在しない特殊な装甲車を使用していた。

 

 外界から徹底的に隔離されてきたせいで、なに一つとして、確信にたる判断材料を持ち合わせていない。

 

 外敵に蹂躙されて荒廃した世界というものを、プロジェクターが投影する静止画でしか視認していないのである。

 

 そこで僕は、これまでの話が全部、世界的資産家でもあるアリス様が、想像を絶するほどの資金と労力を費やしてご演出なされた壮大なジョークである可能性も視野に入れて、いくつかの考えを巡らせた。

 

「アリス様にお願いがあります」

「……?」

 

 いつの間にか、壁面のスクリーンには鮮明な動画が映し出されていた。

 

 市街地を悠々と進むアルバトロスの映像を視界の端でとらえながら、それでも正面を見据えた。

 

「世界の現状とか、アルバトロスなどという意味不明な存在を素直に信じるのは、とても難しいです。ですが、現実を自分の目で確かめられたなら、きっと、いろいろ納得できると思います。今から地上に、賽原市に足を運んでみても構いませんか?」

 

「許可できない」

「どうしてですか?」

 

「賽原市の旧市街地には現在、私の部下であるジョージ・ライアン中尉を襲った犯罪者集団が住み着いている。彼らは対戦車用の光学兵器や電磁パルス兵器に類するものを所持している可能性が高いため、賽原基地に駐屯する〝重機械化歩兵部隊〟を数百人規模で動員した、大規模な掃討作戦がまもなく実施される。以上の理由から、十分な安全が確保されるまで旧市街地の散策は許可できない」

 

 予想通りというべきか、やはり僕の願いは却下されてしまった。

 

 荒廃した賽原市という名の舞台セットがまだ完成していないから、地上を見せられないのではないか。脳裏に浮かんだ疑念がより一層色を濃くする。

 

「他に質問は?」

「……ありません」

 

「では、今日の本題に移る」

「ほん、だい?」

 

 強い悪寒が背筋を走った。

 

「三年前まで、賽原基地には、戦略機動部隊〝ハミングバード〟という特殊部隊が存在していた。彼らの活躍により、人類はアルバトロスの完全撃破に幾度も成功している。しかしながら二〇二〇年に実施された第六次討伐作戦は失敗に終わり、資材の困窮など様々な要因から欠員補充も叶わず、度重なる作戦実施により戦死者が続出していた戦略機動部隊は消滅。部隊発足当初、隊長を含め八名存在した隊員は、すべて作戦中に戦死した」

 

「あの、アリス様?」

 

 動悸が激しい。瞳孔が開くのを感じる。

 

 もう引き返せないところまで来てしまったのだ。

 

「熾烈を極めた第六次討伐作戦の終盤。最前線からの生還は絶望的だと判断したハミングバードの隊長は、その英雄的献身によって、目標に大きなダメージを与えた。だが、結果的に作戦は失敗。二〇一二年に日本列島を蹂躙した宿敵でもある個体は活動を停止し、地球上に生存する最後のアルバトロスとして、旧北米――アメリカの北西部、オレゴン州ポートランドに留まっていた」

 

 平和だった日常は、はるか遠くに消え去っていた。

 

「今日未明、その最後のアルバトロスがおよそ三年ぶりに活動を再開した。――だから小春、あなたは戦略機動部隊〝ハミングバード〟の隊長として、生き残った人類と、この地球を救うために、もう一度戦ってほしい」

 

 




ここまで読んでくれてありがとうです。この作品はナウでヤングな流行り物じゃないし、展開が結構スローだから皆さん呆れちゃうかな。まあ、のんびりしていってくだしあ。
全作者は読者様の評価を燃料に動いていますんで、感想や評価やお気に入りをくださると、とっても励みになります。
あ、ストーリー展開やキャラクターについての質問も大歓迎です。
どうかよろしくお願いします。
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