記憶の澱   作:ゆゆみみ

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第16話 想いのカタチ

 ──遂に。遂に願いが叶った。

 

 あの時(・・・)から、ずっと夢見ていたこと。残念ながら、本当に遺憾ながら、ハジメテはあの女狐に取られてしまったようだが、代わりに私達は愛し合った。想定よりも三段階ほど先に進んでしまったが、それでも私たちの気持ちは通じ合っていたのだ。あの女とは違う。一方的に貪った奴なんかとは。

 照れていたのか、透は最後まで私の顔を見ずに震えてばかりだったけれど。

 

 透、と口の中で名を呼ぶ。それだけで甘美な刺激に脳内が震えてしまう。はしたなくも体が反応してしまう。愛するものと交わることは、なんと気持ちいいことか。

 

 透は、私の横で無垢な表情で寝ている。この甘美な経験は、まだ透の中には残らない。まだそれでいい。ゆっくりと覚え込ませていけばいい。

 透の真っ白な胸板を撫でる。少し悪戯もしてみた。ぴくりと反応を示す様子が可愛くて襲いそうになってしまったが、その欲求は何とか押さえ込んだ。

 ベッドから立ち上がりカーテンの外を見ると、朝焼けに照らされる街並みが見えた。

 

「ふふっ……、ふふふっ……」

 

 気付けば、嗤い声を漏らしていた。

 愛しい透のことは誰にも渡さない。あの女にもあの少女にも。だって、最初に目をつけていたのは私なのだから。想いを積み重ね続けてきたのは私なのだから。何よりも、透が愛しているのは私なのだから。

 愛し合う二人が結ばれるのが、ハッピーエンド。それ以外なんていらない。他の誰にも邪魔させない。奪わせなんてしない。

 

 ──透は、私のモノだ。

 

 

「……ふぅ」

 

 窓を開け、朝日を受けながらセブンスターを燻らせる。床には、無惨にも衣服をぼろぼろに引き裂かれたソレの姿がある。元々光の無いはずのその目は、それ以上に絶望の黒に染まっているように見えた。

 興奮冷めやらぬままに致してしまったが、やはり少年相手と違って大した興奮は得られなかった。生理現象なのか反応を返してしまう肉体こそ愛おしく思えたが、それ以上でも以下でもない。

 

「……やっぱりさ、少年。君じゃないとね」

 

 呟きは朝焼けの中に溶けてゆく。

 次の診察の日が待ち遠しい。或いはこちらからお姫様を拐いに行ってやろうか。いずれにせよ、他の誰にも渡すつもりなどない。

 

 ──少年は、私のものだ。

 

 

「ねぇねぇ、最近三嶋くんに絡んでるみたいだけど、どしたん?」

 

 昼休み、私は一番仲がいいグループで食事を取っていた。仲がいい、というよりは最も付き合いが長いだけではあるのだが。

 

「えっ、別にそんなことないよー」

 

「いやいや、この前とか一緒にお昼食べてたじゃん」

 

 確かに、最近はあまり周囲を気にせずにアタックしてしまっていたかもしれない。周囲を見ると、どうやら彼女達の興味の中心は私の動向にあるようだった。

 これだから人気者はつらい。

 これだから有象無象共は鬱陶しい。

 

「んー、なんか夏に偶然会ったんだよね。それでちょっと仲良くなった感じ」

 

 事実そのままを告げて、それ以上は深く語ることもなくお弁当に箸を付ける。正直、あまり触れてほしくない話題ではあった。

 

「もしかして気になってんの? 確かに戸賀崎くんって結構可愛い系のイケメンだもんね。あんま周りと絡まないけどさ」

 

「そんなわけないじゃん」

 

 思ったよりも、冷たい声が出てしまった。普段元気溌剌、天真爛漫なイメージだからだろう、急に出てきた怜悧な声に周囲の雰囲気が一瞬固まるのを感じる。

 

「そっか! ごめんごめん、ウチの勘違いだったわー」

 

 これ以上は踏み込まない方がいいという判断を下したのだろう。やや強引ではあるがこの話は打ち切られ、他のどうでもいい話題に移行していく。

 そう、それでいい。戸賀崎くんを気にかけるのは私だけでいいのだから。こんな有象無象が近づいていい存在ではないのだ。

 

 ちらり、と視線を向ける。今日は一人でご飯を食べているようだった。姉の作ったお弁当だろうか。そう思うと、やや嫉妬めいた想いがこみ上げるのを感じた。

 でも、この嫉妬は一時的なものに過ぎない。その内、全てはクリアになる。その時が待ち遠しい。誰にも、邪魔はさせない。

 

 ──三嶋くんは、私の物だ。





モノ。もの。物。
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