ことはすべてエレガントに……? できらぁ!! 作:星乃 望夢
でないともう手遅れだけども、SEEDの方がWに侵食されてしまうというか、今書き進めてるオルフェがなんか変な化学反応起こしそうで、というか既に起こしてるけども、結構ヤバいのだ!!
冷たい金属の匂いと、オイルの焦げるような微かな香りが混じり合う、重低音の駆動音が絶え間なく響き渡る広大な地下開発ハンガー。
厳重なセキュリティと分厚い隔壁に守られたこの極秘施設は、外界の光を一切遮断した薄暗闇に包まれている。
だが、無数に設置された水銀灯の冷たい光が、眼下で静かに産声を上げようとしている巨大な鋼鉄の戦士たちを、神々しいまでの威容と共に照らし出していた。
鈍い光を放つチタニュウム合金に包まれた新たな巨兵たち。
それは、私が己のすべてを注ぎ込んで生み出した、歴史を塗り替えるための「牙」であった。
「見事な機体です、ヴァン特務理事。……いえ、ここはOZ副総帥閣下とお呼びすべきでしょうか」
背後から響いたのは、軍靴の規則正しい足音と、規律正しくもどこか研ぎ澄まされた棘を潜ませた冷たい声。
振り返らずとも、誰がそこに立っているのかはわかる。丸眼鏡の奥に一切の感情を排した冷徹な光を宿し、一糸乱れぬ完璧な軍服姿で歩み寄ってくる女――レディ・アン一級特尉だ。
年明けには特佐への特進が既に確約されている、連合内部でも一目置かれる苛烈なる女傑である。
「どちらでも構いませんよ、レディ・アン特尉。私は兄様……トレーズ閣下の影であり、彼が描く美しい絵画を現実のものとするための筆に、そして手足に過ぎない。しかし、これから世界を蹂躙するこの愛しき機体達を前にしては、副総帥という血生臭い肩書きの方が、いくらか収まりが良いかもしれませんね」
「影、ですか。……トレーズ様の気高き理念を現実の軍事力として具現化するその圧倒的な手腕、並み居る財団の強欲な老人たちを赤子のように手玉に取る辣腕ぶり。影と呼ぶには、いささか存在感が強すぎるのでは?」
彼女の言葉には、明らかな牽制と、隠しきれない複雑な感情が混じっていた。
本来の『歴史』の通りであれば、彼女こそがトレーズの絶対的な右腕であり、狂信的なまでの愛と忠誠を捧げ、OZの「ナンバー2」として世界を裏から操る辣腕を振るうはずだった女。
だが、この世界においては、ヴァン・クシュリナーダという異物にして身内の存在が、彼女を否応なく「ナンバー3」の地位に留め置いている。
彼女の私に対する感情は極めて複雑だ。
OZを圧倒的な軍事組織へと押し上げた私の底知れぬ才覚への畏怖と同格の同志としての敬意。
そして何より、最愛の人の隣という特等席を血縁という余人が覆すことが敵わないアドバンテージによって独占している私への、消し去ることのできないどす黒い嫉妬。
それらが複雑に絡み合い、彼女の言葉の端々に鋭い刃となって現れるのだ。
「フッ……買い被りすぎです。私など、兄様の放つ圧倒的な光の前では、取るに足らぬ小さな埃──所詮は影法師のようなもの。……それよりも、機体の最終的な仕上がりはどうですか?」
私が軽く肩をすくめ、眼下のハンガー中央へと視線を促すと、そこでは二機の新型MSが、技術者たちに囲まれながら最終の調整工程に入っていた。
一機は、肩部バーニアと太腿にトールギスを模した巨大な高出力スラスターを増設した、高機動型『リーオーⅤ レーヴェ』。
そしてもう一機は、極限まで分厚く増強された重装甲フォルムと、機体の全高並みの聳える長大なドーバーガンを携えた、暴力的なまでの重武装機『リーオーⅣ グライフ』だ。
「……素晴らしいの一言に尽きます」
機体を見つめるレディ・アンの瞳に、先ほどの棘が消え、純粋な戦士としての偽りない感嘆の色が浮かんだ。
「実戦を想定したテストパイロットたちの報告によれば、リーオーⅤレーヴェが叩き出す機動力と三次元機動は、従来の空戦機エアリーズを凌駕し、熟練兵でさえGによるブラックアウト寸前に陥るほど。そしてリーオーⅣグライフに至っては、まるで巨大な動く要塞を操縦しているかのような絶対的な防御力と、敵陣を容易く粉砕する恐るべき突破力を兼ね備えていると。……特にグライフの、死と直結するような極端にピーキーな操縦性は、己の腕に誇りを持つ我らスペシャルズの精鋭たちの闘争心を、ひどく刺激しているようです」
「それは重畳。このリーオーⅣグライフは、原型機の特徴を色濃く残した、いわば『完全量産型トールギス』。生半可な兵士ではまともに飛ばすこともままならない、扱う者を選ぶ荒馬です。しかし、だからこそ……機械の力に頼らず、己の肉体と精神の限界を超えて命を懸けて戦うことを知る、誇り高きOZの騎士たちにこそ相応しい機体と言えるでしょう」
私は手すりに置いた手を強く握り込み、満足げに頷いた。
これらが正式に実戦配備されれば、地球圏統一連合の各基地に配備されている通常のリーオーやトラゴスなど、もはやただの的、案山子も同然となる。
圧倒的なスペック差。OZと連合の間に横たわる、決して埋めることのできない決定的な「力の差」を、世界中の人々に、そして財団の老人たちに見せつけることができるのだ。
「しかし、副総帥。懸念事項はあります。これほどの強力な機体を連合の正規軍には一切引き渡さず、OZにのみ配備すれば、既得権益にしがみつく財団の長老たちや、我々をコントロール下に置きたがる連合の軍上層部からの激しい反発と疑念は必至です。……間違いなく、我々が彼らから『最大の危険因子』として目をつけられることになります」
「ええ、その通りです。そして……それこそが、私の真の狙いでもあるのですよ」
私は薄暗いハンガーの天井――この分厚い岩盤の遥か上、大気圏の向こうに広がる虚無の宇宙を透かし見るように見上げた。
「強すぎる力、独占された圧倒的な武力は、周囲の者に根源的な恐怖と、そこから派生するどす黒い憎悪を生み出します。財団の老人たちはコントロールを失う我々の武力を恐れ、そして宇宙の過酷な環境で生きるスペースコロニーの居住者たちは、地球の重力下に居座りこの『最強の部隊』を誇示する我々を、独立を阻む最も憎むべき最大の敵として認識するでしょう」
「……我々が、世界中から憎まれる。あえて、すべての標的になるというのですか?」
「ええ。来るべき……旧態依然とした連合という腐敗した巨象を、我々が内部から食い破るその日。それを完璧なものとするためには、我々が世界のすべての憎悪を引き受ける巨大な『悪』として君臨する必要があります。そして、その強烈な憎悪の矛先を我々に向けてくる者たちこそが、淀んだこの世界の歴史を無理矢理に動かす、唯一の鍵となるのです」
(そう、ドクターJをはじめとする5人の科学者たち、そして彼らが間もなく地球へ向けて送り込んでくる、5機の『ガンダム』にとって。私とこの新型リーオー部隊の存在は、真っ先に叩き潰すべき『最悪の障壁』として映るはずだ。彼らの目をこちらへ向けさせ、そして盤上の駒として最大限に利用し尽くす)
「レディ・アン。兄様は、血を流す痛みを知らず、安全な高みから駒を動かすだけの者たちによる戦争をひどく嫌悪しておられる。自らの手を汚す覚悟のない者たちの戦いなど、美学の欠片もない。ツバロフ技師長が推し進めようとしている『無人機構想』など、人間の存在意義を根本から否定する、その最たる悪しき一例です」
「……はい。トレーズ様の崇高なる美学と、命への敬意に反する、痛みも悲しみも知らぬ無機質な鉄人形など、私も断じて認めるわけにはいきません。そのようなもので得られた勝利に、一体何の価値があるというのでしょうか」
「ならば、我々は人間の力で、人間の意志と赤い血をもって、絶対的な最強の軍隊を創り上げなければならない。このリーオーⅤ、リーオーⅣ……そして、現在私が開発を急がせている次期主力機『サーペント』をもってすれば、財団の血の通わぬ鉄人形の群れなど、正面から美しく粉砕できます」
私が、計画の最深部に位置する『サーペント』の名を口にした瞬間、レディの冷徹な瞳がわずかに、しかし確かな驚愕に見開かれた。
ガンダニュウム合金の精製技術を応用した新装甲『ネオ・チタニュウム合金』製の高性能汎用量産機。
それは決して、本来の歴史においてマリーメイア軍を率いたデギム・バートンなどという、時代に取り残された小物の反乱の道具ではない。
真の歴史の体現者であり、唯一の覇者たるトレーズ・クシュリナーダのために用意した、この世界を掌握するための私からの最高の捧げ物である。
「……ヴァン副総帥。あなたは本当に、恐ろしいお方だ」
レディ・アンの声は、微かに震えていた。
「その遥か数手先までを見通す底知れぬ知略と、盤上のすべてを冷酷に計算し尽くす手腕……そして何より、トレーズ様に対する狂気的なまでの執着。……時に、あなたこそが平和を食い破る真の『悪魔』なのではないかと思えるほどに」
「最高の賛辞であり、お褒めの言葉として受け取っておきましょう、レディ。私たちは二人とも、トレーズ・クシュリナーダという抗いがたい絶対的な光に魅入られ、己の魂を捧げた狂信的な共犯者なのだから」
私は余裕に満ちた微笑みを浮かべ、黒い革手袋に包まれた右手を、彼女に向かって静かに差し出した。
レディ・アンは一瞬、私の目の中に渦巻く暗い情熱を覗き込むように沈黙し、躊躇いを見せた後――決意を込めた眼差しで、その白魚のような手で、私の手を力強く、痛いほどに握り返した。
「すべては、トレーズ閣下の理想のために」
「ええ。すべては、最愛の兄様が描く真の平和のために」
――現在、AC-193年末。
私とレディ・アンが、オイルの匂い立ち込める地下の極秘工場で血塗られた決意を交わしているこの瞬間にも、冷たく果てしない宇宙の深淵では、5つの流星が、偽りの平和を焼き尽くす圧倒的な輝きを帯びながら、地球への降下軌道を描こうと静かに待機しているはずだ。
ヒイロ、デュオ、トロワ、カトル、五飛。
お前たちの持つ、常識を覆す「ガンダム」という理不尽で圧倒的な暴力は、必ずや停滞した歴史を強制的に動かす猛毒の劇薬となる。
だが、油断するな、少年たちよ。
お前たちが地上に降り立ち、その前に立ち塞がるのは、旧態依然とした脆弱で鈍重な連合軍ではない。
この私、前世の記憶と狂気を持つヴァン・クシュリナーダが、莫大な資金と智謀のすべてを注ぎ込んで徹底的に鍛え上げ、強大な牙を纏わせた、史上最強の戦闘集団『OZ』のスペシャルズだ。
「さあ、降りてくるがいい、純粋で美しく、愛しき敗者たちよ」
私は、分厚いコンクリートの天井の向こう、まだ見ぬ少年たちへ向けて、歓喜と獰猛さに満ちた笑みを浮かべた。
この権力と己の欲望に腐敗しきったロームフェラ財団と、形骸化した地球圏統一連合を断じる審判者は、お前たちではない。この私だ。
お前たちには、最愛の兄様がその命を賭して創り上げる『真の平和という新しい時代』を彩る、最強で最高の手強い引き立て役として、その魂の輝きと命を、最後の最後まで燃やし尽くして踊り狂ってもらう。
主の決意に呼応するかのように、産声を上げたリーオーⅤとリーオーⅣのメインカメラが、薄暗闇の中で捕食者のごとく、黄色く、そして力強く輝いた。
◇◇◇
OZ──。
歴史の暗部に根を張る秘密結社であり、今の表向きは地球圏統一連合軍における特殊機動部隊『スペシャルズ』の名を冠して活動する、冷徹にして優雅なるエリート戦闘集団。
彼らは連合の極秘任務を完遂する鋭利な剣であると同時に、連合内部の腐敗や旧態依然とした体制を冷やかに見下ろす監視の目でもあった。
彼らの活動領域は、単なるモビルスーツによる軍事作戦の枠に留まらない。
次世代の兵器開発やテスト運用、士官学校における最精鋭の兵士教育の教官職、さらには世界各地の紛争地帯への軍事介入など、その任務は多岐に渡る。
そして何より特筆すべきは、正規部隊とは完全に一線を画す「スペシャルズ専用仕様」のモビルスーツ部隊を独立して運用・維持できるという、異常とも言える特権を保持している点にあった。
その部隊練度は、軍事の常識を覆すほどに突出している。
彼らの戦力を形作るのは、従来機を凌ぐ高機動戦を可能とする新型量産機『リーオーⅤ レーヴェ』を主軸とし、さらに原型機トールギスに迫る装甲厚と推力を持たせた『リーオーⅣ グライフ』をエースパイロットや指揮官向けに配備した、一切の隙を許さない編成である。
加えて、その武装も旧式の連合軍には到底回されないオーバーテクノロジーの産物であった。
次世代機用に極秘開発された高出力ビームキャノンや、一撃で基地の防壁を粉砕する長大なドーバーガン。
これら絶大な破壊力を誇る武装が、スペシャルズにおいては標準装備として惜しみなく配備されているのだ。
正規部隊の1個大隊――すなわち36機からなるリーオーやトラゴスの群れを、スペシャルズの1個中隊、12機の新型機が包囲・殲滅してしまう。
合同軍事演習で幾度となく繰り返されたこの光景は、もはや戦術や練度の違いという言葉では到底説明のつかない、絶対的な「力の差」を如実に物語っていた。
だが、そこまでの決定的な実力差と特権を有していながら、スペシャルズの兵士たちが正規軍を見下し、傲慢な振る舞いに及ぶことは決してない。
それは、総帥トレーズ・クシュリナーダの放つ孤高の美学と、副総帥ヴァン・クシュリナーダの底知れぬ智謀とカリスマが見事に融合し、組織の末端の兵士一人ひとりの魂にまで深く浸透しているからに他ならない。
騎士道精神を至上のものとし、ノブレス・オブリージュ――高貴なる者の果たすべき義務と自己犠牲を常日頃から実践する彼らに倣い、スペシャルズの隊員たちは己の研ぎ澄まされた技量に絶対の誇りを抱きながらも、それを不必要に誇示し、他者を貶めるような下劣な行いを心底嫌悪する。
戦場においては血を流す覚悟を持った鬼神のごとき強さを見せ、平時においては洗練された紳士淑女として振る舞う。
その異様なまでの謙虚さと軍規の高さが、かえって彼らの内に秘められた強大な武力を、美しくも不気味に際立たせていた。
現在、彼らはその圧倒的な実績と規律の証明を盾に、いかなる戦地においても連合本部の許可を待たずに即時介入できる『独自行動権』を付与されている。
当然ながら、この状況に連合内部が穏やかであるはずがない。
長年軍に尽くしてきた先人たる老将兵たちにとって、突如として現れ、圧倒的な力で軍の中枢と手柄を総ざらいしていくスペシャルズの台頭は、己の地位と既得権益を脅かす恐怖そのものであった。
勝手に戦端を開き、すべてを美しく片付けていく若きエリートたちに対する不信と反感、そして醜い嫉妬は、連合内部の至る所でどす黒く渦巻いている。
しかし、その不満が表立って彼らを糾弾する声に変わることはない。
否、地球圏のいかなる権力者であろうとも「言えない」のである。
その連合の沈黙を強いている最大の理由にして絶対的な抑止力こそが、副総帥ヴァン・クシュリナーダという一人の少年の存在であった。
弱冠10代にして特務理事の座を射止め、今や歴史あるロームフェラ財団の副代表にまで登り詰めたこの若き麒麟児は、実質的に財団の経済力を完全に掌握し、連合における兵器供給ラインのすべてを束ねる「元締め」として君臨している。
連合軍の主力兵器であるリーオー、空戦用のエアリーズの大量生産から、燃料弾薬食料に至るまで、軍事の血液とも言える物資の生殺与奪の権を、彼がたった一人で握っているのだ。
その彼が、実の兄であるトレーズが率いるスペシャルズを贔屓し、最高峰の専用機を優先配備することなど、権力の力学からすればあまりにも当然の帰結であった。
「公私混同だ」「一部隊への武力集中は反逆の火種となる」――安全な会議室でどれほど老将たちが毒づこうとも、もしヴァンの機嫌を損ね、連合への兵器供給や部品の流通がストップされれば、地球圏統一連合という巨大な軍事機構は文字通り鉄屑の集まりと化し、機能不全に陥る。
その絶望的な現実を突きつけられている以上、彼の強引な采配を真っ向から糾弾できる軍人など、この宇宙のどこにも存在しなかった。
それは、財団内部においても同様である。
ヴァンがシステム化した生産ラインによってもたらされる天文学的な利益の前に、長老たちは自らの懐が潤うことに酔いしれ、甘い蜜を吸うだけの寄生虫へと成り下がっていた。
辛うじて保守派の筆頭であるデルマイユ侯爵が財団代表代行の椅子に座り、伝統の体面を保ってはいるものの、それはヴァンがあえて「自分を目立たせないための飾りの玉座」として残しているに過ぎない。
彼がその気になれば、代表の座などいつでも経済的に干し上げ、引きずり下ろせる「秒読み段階」にあることは、財団の重鎮たちの誰もが暗黙の恐怖として共有している。
武力、財力、そして圧倒的な技術力。
表向きの権力者たちが円卓で無意味な議論を交わし、虚勢を張っている間にも、世界を操る見えない糸はすでに一本残らず彼の指先に絡みついている。
言ってしまえば、この旧態依然とした地球圏統一連合、並びに数百年の歴史を誇るロームフェラ財団の実質的最高指導者は、ヴァン・クシュリナーダという底知れぬ知略を孕んだ若者が務めていると言っても過言ではないのである。
すべては彼の兄――トレーズ・クシュリナーダの覇道を切り拓き、歴史の頂点に立たせるための、計算された盤面であった。
◇◇◇
『トールギス』――。
本来の歴史の通りであれば、その機体は高すぎる性能とパイロットへの殺人的な負荷ゆえに開発者たちから見放され、完成後は実に20年もの長きにわたり、地中海のコルシカ基地で分厚い埃を被り、死蔵され続ける運命にあった戦闘用モビルスーツの始祖である。
背部に搭載されたスーパーバーニアが生み出す爆発的な推力は、完全に常軌を逸している。
スロットルを最大に押し込んだ瞬間、一瞬にして15Gという常識外れの重力加速度がパイロットの肉体を襲い、内臓を押し潰し、血流を狂わせ、文字通り「死」へと追いやる。
人が乗ることを拒絶する、悪魔の機体。
しかし、私ヴァンが介在したこの世界線において、トールギスが闇の中で腐敗することはなかった。
彼が莫大な私財と権力を投じて整備を施したこの最強の始祖は現在、スペシャルズのエースパイロットにして『ライトニング・バロン』の異名で畏れられる仮面の男――ゼクス・マーキスの乗機として、その猛威を戦場で振るっている。
さらに、本来ならばもっと後年に組み上げられるはずであった2番機『トールギスⅡ』もまた、頭部の形状をより騎士の兜に近い高貴なものへと変更し、青と白、金の鮮やかなパーソナルカラーに染め上げられ、スペシャルズ総帥トレーズ・クシュリナーダ閣下の専用機として既に実戦配備されている。
そして、そのトールギスから得られた膨大な稼働データと戦闘記録を徹底的に解析し、それを完全量産型仕様のリーオーのフレームへと落とし込んだ怪物が、『リーオーⅣ グライフ』である。
量産機としての限界まで装甲厚を増し、トールギスと同等のスーパーバーニアと長大なドーバーガンを背負わせたこの機体は、全速旋回時には最大で12Gという、トールギスよりは僅かにマシではあるものの、依然として常人の肉体を容易く破壊する多大な負荷をパイロットへと強いる。
到底、一般兵に扱える代物ではない。死と隣り合わせの加速の恐怖をねじ伏せる精神力と、極限状態での反射神経を持ち合わせたエースパイロット、あるいは指揮官のみに許された暴れ馬である。
しかしそんな特科戦力を並べるだけでは戦争には勝てない。
我がスペシャルズの最大戦力であり、部隊の中核を担うべく開発された最新鋭主力機が『リーオーⅤ レーヴェ』である。
こちらもまた、トールギスのデータを色濃く反映させた太腿部の高出力スラスターや、肩部に増設された姿勢制御用の大型バーニアユニットを備えた怪物だ。
現在、一般の地球圏統一連合軍において主力を務め始めている『リーオーⅢ キマイラ』を、機動性・運動性の両面において完全に凌駕し、過去のものとしている。
このレーヴェの真骨頂は、そのリーオーの変幻自在の運用能力をそのまま残しながら昇華させている点である。
背部に空力特化のフライトパックを装備させれば、大気圏内において連合の空戦特化型MSエアリーズを相手にしても容易く圧倒できる。燃費の観点から航続距離こそ航空機ベースのエアリーズに劣るものの、ドッグファイトにおける瞬間的な機動性は同等以上、三次元的な姿勢制御を伴う格闘戦や運動性においては完全に勝っているのだ。
そして、真の恐怖は標準装備時にもたらされる。
レーヴェは本来、宇宙空間での運用を想定した「宇宙用リーオーのバックパック」を、重力下の地上戦においても標準装備として背負っている。
これに、追加された太腿部のスラスターを併用することで、脚部を交互に出して歩行する旧式リーオーの鈍重な挙動とは全く異なる、「ホバー移動での高速戦闘」を可能としたのである。
結果として、彼我の戦力比の概念は崩壊した。
正規軍の1個大隊36機の戦力に対し、我がスペシャルズは1個中隊12機のみで、前後左右からの高速機動による完全なる包囲・殲滅を可能とするという、悪夢のような戦闘能力を獲得しているのだ。
武装に関しても、基本兵装の多くは正規軍のリーオーと共通規格のものを使用しているが、最大の違いであり特徴は、スペシャルズの機体が高出力ビームキャノンを携行している点にある。
チタニュウム合金の装甲をバターのように融解させ、一撃で並大抵のMSを完全撃破するこのビームキャノンが、スペシャルズの戦闘能力を正規軍とは比べ物にならない次元へと引き上げていると言われている。
だが、それはあくまで表面的な要因に過ぎない。
実際には、旧式の105mmライフルやビームライフル、シールド裏のビームサーベルといった基本兵装だけを用いたとしても、スペシャルズは正規軍を赤子のように蹂躙する。
その圧倒的な強さの源泉は、機体性能差や火力の差ではなく、兵士たちの「単純にして絶対的な練度の差」にあった。
ノブレス・オブリージュの精神を叩き込まれ、互いを信頼し合い、流れるような連携で死角をカバーし合う彼らの練度は、連合正規軍とは文字通り別格なのである。
故に、我がスペシャルズはリーオー系以外の機体を持たない。
唯一、水圧耐性と特殊な水流推進器が求められる海戦用途として、水中部隊にのみ『パイシーズ』の運用を例外として認めているが、それ以外の陸・空・宇宙の全領域においては、一切の妥協なくリーオーのみで統一されている。
それは、特殊部隊だからといって用途別に多種多様な高額MSを闇雲に抱え込むような愚を避け、兵站管理の徹底的な合理化と補給線の軽量化を図った、ヴァンの計算し尽くされた結果である。
そもそも、局地的な戦術に対応する戦闘は連合の正規軍に押し付けてしまえば良いのだ。
彼らの基地には、リーオーの他にも長距離砲撃に特化したトラゴス、空域哨戒用のエアリーズ、水棲用のパイシーズが潤沢に配備されている。
スペシャルズが担うべきは、点と点を結ぶ迅速な制圧と、絶対的な武力の行使である。
空中への展開能力はフライトパックの換装のみで行え、トラゴスが担うような拠点制圧や長距離砲撃戦は破壊力に優れるドーバーガンや高出力ビームキャノンで代用できる。
規格の異なる予備パーツの備蓄や、機体ごとに異なる整備兵の再教育といった無駄なコストを支払ってまで、わざわざ装甲の薄いエアリーズや、鈍重で足並みを乱すトラゴスを我が精鋭部隊に混在させる必要性など、初めから欠片も存在しなかったのである。
すべては、最高純度に研ぎ澄まされた一つの矛先を創り上げるため。
トレーズ・クシュリナーダという高貴なる魂を頂点に戴き、ヴァン・クシュリナーダが強靭な兵站と冷徹な軍事論でその足元を盤石に固めたこの『スペシャルズ』こそが、地球圏の歴史を根底から覆す、最強の剣となるのだ。
◇◇◇
マリーメイア・クシュリナーダ──。
いや、彼女の本質を紐解くならば、マリーメイア・バートンと呼ぶのが正しいのだろう。
この『アフターコロニー』という世界。
一見すれば地球圏統一連合の軍事力と、宇宙空間に浮かぶスペースコロニー群という無機質な対立構造に目が向きがちだが、その深層には恐るべき生命科学の業が横たわっている。
実のところ、この世界における遺伝子操作やクローニング技術は、私が前世の記憶として知る『コズミック・イラ』におけるコーディネイターの技術と同等か、あるいはある特定の分野においてはそれを上回ってさえいるのではないかと、ヴァン・クシュリナーダとして生まれ、この血塗られた歴史を実際に生き抜く中で、私は真の意味で理解するに至った。
人類が宇宙という過酷極まりない環境へ進出し、スペースコロニーという巨大な人工の揺り籠を建造・維持するためには、ただ機械の力に頼るだけでは不十分だった。
人々は、無重力や宇宙線という本来ならば生命を拒絶する環境に自らの肉体を適応させるため、禁忌とされる遺伝子の領域へと手を加えることを選択したのだ。
そうして誕生したのが、宇宙環境に高度に適応したスペースハビタットの人々である。
彼らの肉体は地球の重力に縛られた旧人類とは異なる進化の過程を強制的に歩まされた。
そして、それに付随するように、クローニング技術もまた深い闇の中で極秘裏に培われてきた。
社会全体で公然と行われているわけではない。
しかし、一部の特権階級や狂気的な野心を持つ科学者たちの間では、生命を複製するという神の領域すら、すでに「実用段階の高レベルな技術」として確立されていたのである。
その犠牲者の一人であり、作られた象徴がマリーメイアだ。
彼女は、デギム・バートンの娘であるレイア・バートンと、我が兄トレーズとの間に生まれた血の通った子供……ではなく、まさかのレイア・バートン自身のクローンであるという歪んだ出自を持つ。
しかし、劇中において彼女自身が「私の遺伝子上のDNAは彼と完全に一致する」と語ったその言葉。
それがデギムによって吹き込まれた洗脳による妄言なのか、あるいは何らかの歪んだ遺伝子操作による真実なのか。
純粋な生物学的な意味での「親子関係」はそこには存在しない。
だが、そんな真実は、デギム・バートンにとってはどうでもよいことだった。
重要なのは、トレーズ・クシュリナーダという男が「地球の絶対的な代表たるクシュリナーダ家」と「宇宙の精神的支柱たる指導者一族・ユイ家」という、二つの巨大な血脈をその身に宿しているという事実である。
だからこそ、デギムはマリーメイアを「トレーズの娘」として祭り上げ、彼女にその高貴な血が流れていると世界に向けて大々的に喧伝した。
そうすることで、バートン財団の私兵部隊による武力蜂起に、「地球と宇宙を統べる正当なる後継者」という大義名分と、宇宙の代表者という絶対的な側面を持たせようと目論んだのだ。
しかし、私の『虚憶』――前世の知識も、決して完璧で全知全能というわけではない。
私は前世において、テレビ本編である『新機動戦記ガンダムW』、OVAおよび劇場版の『Endless Waltz』、そして過去の歴史と真実を描いた『敗者たちの栄光』までは履修し、その展開を思い起こすことは出来ている。
だが、そのさらに未来、あるいは過去の因縁を深く掘り下げた小説版の続編『Frozen Teardrop』に関しては、物語のすべてを読み終える前に、この世界へと転生してしまったのだ。私の知識には、致命的な空白が存在する。
それでも、私は知っていた。
本来の歴史において、「ヴァン」という私自身の存在が、母アンジェリーナから一切の愛情を向けられなかったという事実を。
そして、その残酷なまでの親からの愛情の欠落と、家庭内における精神的な断絶が、若き日のトレーズの心にどれほど深い孤独と重圧を強いてきたかということを。
だからこそ、私はこの世界に生を受けた瞬間から、徹底して兄トレーズを立て、彼を歴史の頂点へと押し上げることを己の至上の使命とした。
前世から画面越しに敬服し、誰よりも感服してやまない「トレーズ閣下」のためならば、私自身の名誉など泥に塗れても構わない。
この身と魂のすべてを捧げ尽くす覚悟が、私にはあった。
そして同時に、私はもう一つの過酷な戦いに身を投じた。
母アンジェリーナ・クシュリナーダとの関係修復である。
私は、決して打算や政治的な計算だけで彼女に取り入ったわけではない。
実の母でありながら、政治と歴史の荒波に翻弄され、精神を病んでしまったお労しい身の上である彼女を、一人の息子として、人間として心から気遣ってのことだった。
アンジェリーナ・クシュリナーダ。
ロームフェラ財団の最高権力者である代表サンカント・クシュリナーダ公爵の一人娘として生まれ、すべてを約束されたはずの女性。
彼女は若き日、アイン・ユイとの熱烈な恋愛を経て、特権階級の地位を捨てて半ば駆け落ち状態でコロニーへと移住し、愛する男と結ばれた。
しかし、彼女がトレーズを妊娠したことを知った父サンカントによって、強引に地球へと連れ戻される形で愛するアインとの別離を余儀なくされる。
その後、彼女の意志とは無関係に、二十歳以上も歳の離れたフンデルト・カタロニアと政略結婚させられ、彼との間に私――ヴァンを儲けることとなった。
彼女の精神が完全に崩壊したのは、最愛の夫であったアイン・ユイが、宇宙の指導者ヒイロ・ユイの暗殺事件に巻き込まれて非業の死を遂げたという報せを受けた時だった。
心身のバランスを完全に崩し、深い絶望と狂気の淵に沈んだ彼女は、地球の代表たるクシュリナーダとコロニーの代表たるユイ、その二つの血の「懸け橋」として生まれた長男トレーズに対し、異常なまでの執着を見せ始める。
彼こそが亡きアインの遺志を継ぎ、この愚かな世界を支配する絶対的な覇者になるべきだと、呪いのように求めた。
その一方で、愛情の欠片もないフンデルトとの間に生まれた不義の子である私、ヴァンに対しては見えないものとして扱い、一切の関心も愛情も向けようとしなかったのである。
その残酷なまでの愛情の偏りが、どれほどトレーズの心に重圧と孤独を強いてきたか。
だからこそ、私はその氷解の道を選んだ。
気が遠くなるような根気強さで、何気ない日常の会話を重ね続けた。
彼女がヒステリーを起こせば静かにその細い肩を抱き、過去の幻影に怯えれば夜通し手を握り、乱れた心を労わり続けた。
それは打算ではなく、狂気の中に閉じ込められた母を救い出したいという、純粋で無償の愛の連鎖であった。
その気の遠くなるような時間と献身の果てに、ヴァンはついに、本来の歴史では決して得られなかった母アンジェリーナからの「一人の人間としての、そして子への愛情」を引き出すことに成功したのである。
その道程は、数多のモビルスーツの量産ラインを構築し、狡猾な老人たちが支配するロームフェラ財団を掌握することよりも遥かに困難で、精神を削り取るような血の滲む戦いであった。
(地球圏を一つに纏め上げられるのは、やはりトレーズ閣下しかいない)
私は確信している。
後に「完全平和主義」を掲げ、一切の武器を持たず、その圧倒的なまでのカリスマと無抵抗の言葉だけで、結果的にロームフェラ財団を一時的に掌握してしまうサンクキングダムの王女、リリーナ・ピースクラフト。
彼女の存在と、その気高き魂の輝きもまた凄まじいものだ。
しかし、今のこの血生臭い時代――コロニーと地球が互いに憎悪を募らせ、軍事力がすべての価値観を支配するこの時代において、彼女の出る幕はあまりにも早すぎる。
彼女の掲げる理想はどこまでも美しく尊いが、力なき正義は、圧倒的な軍靴の前に容易く踏み躙られ、新たな悲劇を生むだけの結果に終わる。
今、地球と宇宙の間に横たわる深く暗い溝を埋めるための最終決戦においては、綺麗事の完全平和主義では足りない。
自ら率先して泥と血に塗れながらも、反発するすべての勢力を実力でねじ伏せ、圧倒的な武力をもって平和への強行軍を主導できる「強き絶対的な指導者」が必要なのだ。
歴史の痛みをすべてその背に引き受け、誰よりも命の重さを知る男。
だからこそ、ヴァンはトレーズに「地球と宇宙の覇者になって貰う」と宣言したのだ。
それは、かつて母アンジェリーナが病んだ心から抱いた、自分を不幸にした世界に対する復讐や歪んだ野心からの言葉ではない。
もっと高潔に、もっと純粋に、トレーズには過去の血脈の呪縛や後顧の憂いなく、彼が信じる「美しい戦いと平和」への覇業を進んで欲しいという、弟からの心からの願いであった。
トレーズは、そのすべてを理解していた。
ヴァンの内に秘められた狂気にも似た執念、母を救い出した不器用な優しさ、そして何より「絶対に兄を死なせない」という、兄トレーズへの反逆の意志。
すべてをわかっている上で、トレーズはヴァンが命懸けで用意した血塗られた盤面で、誰よりも美しく、この円舞曲を踊ることを了承したのだった。
故に、ヴァンは立ち止まらない。
兄に覇業の道を歩ませるために。
本来の歴史で彼が迎えるはずだった、張五飛の刃に貫かれ「勝ち逃げの死」を強引に取り上げるために。
そして何より、トレーズ自身がその身を犠牲にしてでも見たかった――「武器を手にせず、それでも平和への強い意志を抱いて立ち上がった名もなき敗者たち」の美しい姿を、彼に生きて見届けて欲しいという、弟としての個人的で強烈なエゴを押し通すために。
そのエゴのために、ヴァンはすべての泥を被る。
世界中からの憎悪を一身に集める悪逆非道な『死の商人』『財団の独裁者』という役目を、自ら進んで演じ切り、破滅的な結末へと突き進んでいるのだった。
そして、トレーズにはそれが痛いほどにわかっていた。
世界を敵に回してでも自分を頂点に立たせようとする、痛々しくも愛してやまない弟の、不器用で、しかし誰よりも純粋な心を想うからこそ。
「ならば、私は君が願った通り、この世界で最も気高く、そして恐ろしい『悪』の頂点を演じ切ろう」
その悲壮なる覚悟を胸に秘め、トレーズ・クシュリナーダは、史上最強の軍事結社OZを率いて、世界という巨大な戦場へと打って出るのだった。
二人の兄弟が織りなす、歴史の因果を捻じ曲げる覇道が、静かに幕を開けようとしていた。
真面目な話、サーペント出てきたらヒイロたちガンダムやロームフェラ財団のビルゴに対してどの程度まで暴れても大丈夫なのだろうか?
ファイティングアビリティーが設定されて無いから難しくてなぁ。
ビルゴⅡモビルドール314機とサーペント470機でいい勝負らしいからなぁ。
ZEROシステムにトーラス、ビルゴ、ビルゴⅡの武装とファイティングアビリティレベルを入力し、サーペントカスタムの武装と設定解説をぶち込んで計算させた結果。