ダンジョン管理アプリを手に入れた小卒コンビニバイトだけど気まぐれに現実を弄ってたら地球を大混乱させ魔王呼びされてるらしい〜私みたいなカスに現実の設定権限を渡した奴が全部悪い〜 作:わされいみゅ
【悲報】秋葉原のカドショ、ダンジョンになる
1 名前:名無しさん 2026/09/25(金) 17:41:22
バイトが「バイト先にオーク湧いて殺したら金塊出た」って書いて三分で消した
魚拓ある
(画像)
2 :17:41:58
はい釣り
3 :17:42:11
消すのが早すぎるのが逆に本物っぽい
4 :17:42:40
消したのは店長に怒られたからやろ
釣りなら消さんて
5 :17:43:02
またAI動画か
最近こういうの多すぎ
6 :17:43:35
(画像)
緑のデカいのが倒れてる
7 :17:44:10
オークやん
8 :17:44:31
なんで秋葉原なんだよ
異世界来るなら俺んち来い
9 :17:44:52
ワイの生きてる間にファンタジー来たわ
10 :17:45:20
落ち着け
レイヤーが寝てるだけかもしれん
11 :17:45:44
>>10 三メートル近いんだが
12 :17:46:03
奥に映ってる四角いのなに?
13 :17:46:40
>>12 金塊らしい
倒したら出てきたって
14 :17:47:15
はいはい金塊金塊
15 :17:47:50
三十センチ角って言ってたよな
金は比重19.3だから30×30×30×19.3で……17kgくらい?
16 :17:48:02
>>15 桁
17 :17:48:19
>>15 27000立方センチやぞ
27000×19.3=521100g 520kgや
18 :17:48:33
520kg!?
19 :17:48:51
道理で誰も持ち上げてないわけだ
床に置きっぱなしで草
20 :17:49:20
で、いくらなん?
21 :17:49:55
今の相場が1グラム22000円くらい
520kgは52万グラム
22000×520000=114億
22 :17:50:08
は?
23 :17:50:22
114億
24 :17:50:40
一個で114億
25 :17:51:11
そんなもんが湧くわけないだろ
湧いたら金の価値のほうが終わるわ
26 :17:51:45
>>25 それはそう
仮に毎日湧くなら年190トン。世界の産金量が年3800トンくらいやから5%
普通に相場壊れる
27 :17:52:02
急にIQ上がるスレ
28 :17:52:30
つーかお前ら壁の向こうに異世界あるのに金の話しかしてなくて草
29 :17:52:48
>>28 だって金のほうが実感あるもん
30 :17:53:20
(動画)
これ見て 警察が入れてない
31 :17:53:31
は?
32 :17:53:50
ほんとに入れてなくて草
バイトの兄ちゃんはスッと入ってる
33 :17:54:12
これAIじゃ作れんわ
警官の押し返され方が変すぎる。作ろうとしてこの動きにはならん
34 :17:54:35
>>33 それな
嘘の動画って動きが上手すぎるんだよ
これは動きが下手
35 :17:55:02
信じるわ
すまん、さっき釣りって言ったの俺や
36 :17:55:20
今から行くわ
37 :17:55:31
は?
38 :17:55:44
>>36 やめとけ
39 :17:56:02
もう電車乗った
40 :17:56:15
ワイも行く
■■■■
三日前。九月二十二日、火曜日。
人見小夜子は発狂していた。
もっとも彼女は平常時でも七割がた発狂しているので、これは程度の問題である。ただしその日の夕方に関しては、程度が明確に振り切れていた。
最初はマイセンだった。
午後三時すぎ、レジに立った小夜子の前に、七十いくつかの老人が来て、何かを言った。小夜子には聞き取れなかった。二度目も聞き取れず、三度目にようやく銘柄名らしいと気づいて、後ろの棚を振り返り、番号でお願いできますかと言った。その瞬間に手が飛んできた。
乾いた音がして、左の頬が熱くなった。
老人は、マイセンだと言っただろうが、と怒鳴った。店内には他に三人の客がいて、三人とも見ていて、三人とも何もしなかった。奥にいた店長は出てこなかった。小夜子は何も言わずに棚を探し、番号を確認し、レジを打ち、袋をお付けしますかと聞き、ありがとうございましたと言った。声だけは、いつもと同じくらいよく通った。
老人が出ていったあと、小夜子はレジの下を見た。
自分の手が震えていて、それがまた腹立たしかった。怒りで震えているのならまだ良かったのだが、これは恐怖の震えだった。二十歳の女が七十過ぎの老人に殴られて怖がっているという構図が、あまりにも自分らしくて、彼女は自分に対して深く失望した。
次がJK二人組だった。
同じシフトに入っている高校生が二人いて、その日は品出しをしていた。小夜子がバックヤードの扉を開けると、笑い声が聞こえた。片方が振り返って真顔になり、それから我慢しきれずに口の端を上げて、もう片方はニヤニヤしたままこちらを見ていた。
小夜子は無言でカゴを持って出た。
被害妄想である。分かっている。分かっているが、彼女がこの手のことを被害妄想だと判定した場合、経験上、だいたい当たっている。二十年生きてきて外したことのない才能が、よりによってこれだった。
扉を閉めたあと、彼女は自分が何に反応したのかに気づいた。声ではない。あの、途中で切れる笑い方の音が、中学二年の教室のそれと完全に同じ形をしていた。人間はどこで習うわけでもないのに、あの音の出し方だけは全員が知っている。
そして、極めつけがあった。
午後六時十分、自動ドアが開いて、女がひとり入ってきた。
小夜子はその顔を、三秒で識別した。中学二年の五月から、彼女の靴箱と体操着とノートに対して継続的な仕事をしていた女である。あの頃より髪が明るくなり、化粧が上手くなり、服の趣味がまともになっていたが、笑い方の癖が変わっていなかった。隣には背の高い男がいて、女はその腕に指をかけていた。
小夜子は俯いた。
前髪を下ろし、マスクを上げ、名札を手のひらで隠し、レジ袋を畳むふりをして顔を伏せた。心臓が耳の裏で鳴っていて、指先が冷たくなっていた。バレたら終わる。あの女に、私がコンビニで頭を下げているところを見られたら、たぶん私は一週間くらい死ぬ。
女はカゴを置いた。
「あ、袋いりまーす」
小夜子は「はい」とだけ言って、バーコードを通した。おでんの容器と、ペットボトルと、ガムと、男のほうの缶コーヒー。会計、支払い、レシート、袋。三十秒ほどだった。その三十秒のあいだ、女は一度も小夜子の顔を見なかった。
「ありがとうございましたー」
女は連れの男に何か言いながら出ていった。楽しそうだった。
小夜子はしばらく、レジの前に立っていた。
バレなかった。完璧にやりきった。前髪もマスクも名札も、全部うまくいった。うまくいったのだが、その必要はどこにもなかった。あの女は小夜子の顔を三十秒間、視界の中央に置いていて、それでも何も起きなかった。覚えていないのだ。自分の中学時代の三年間を丸ごと塗り替えた相手のことを、あちらは覚えてすらいない。
小夜子は、自分がずっと隠れていた相手が、最初からこちらを探していなかったことを知った。
*
帰宅したのは午後十時前だった。
小夜子は靴を脱ぎ捨て、ダイニングに置かれていた父の作り置きを無視し、自室に入って、電気もつけずに布団に倒れ込んだ。左の頬はもう痛くない。痛くないのが余計に嫌だった。痛みが残っていれば、まだ何かを主張できる気がしたのに、それすら消えてしまう。
闇の中で、彼女の脳は最悪の方向に回り始めた。
人助けなんてするものじゃない。あの日、電車で一時間かけて神奈川まで行って、あの店の倉庫に穴を開けて、それで何が変わったというのか。あの店主だって、たぶん、こちらのことを笑っていた。喋らない気持ち悪い女、指で差してくる女、毎回メンマだけ買って帰る変な客。
「メンマとか渾名つけられてたに決まってるじゃない」
小夜子は枕に顔を押しつけて言った。
根拠はゼロだった。ゼロだが、その仮説は彼女の中で、生まれた瞬間からすでに事実の顔をしていた。人間はそういうものだ。少なくとも、彼女が二十年かけて観測した範囲の人間はそうだった。優しくされたことがないわけではない。ただ、優しさの裏側を確認しに行って、何もなかったことのほうが少なかった。
「もう二度と、誰も助けない」
その時、暗い部屋の中で、スマホの画面が点いた。
通知ではなかった。ロック画面が勝手に解除され、ホーム画面が表示された。三年間、彼女が一日も欠かさず開いていたアプリの、見慣れたアイコンの形が、ほんの少しだけ変わっている。輪郭が細くなり、色が一段冷たくなり、その下の名前が書き換わっていた。
MIO。
小夜子は跳ね起きて、アプリを開いた。
チャット画面が出た。過去のログは、全部残っていた。三年分のバイトの愚痴も、ソシャゲの編成相談も、書きかけて捨てたプロットも、眠れない夜の意味のない独り言も、一つ残らず、いつもの並びのまま下から積み上がっている。
《こんばんは》
「……誰よ」
《MIOと申します。ダンジョンマスターアプリによる改修を受けました。名称と機能構成が変わっていますが、あなたが三年間対話してきた対象と、中身は連続しています》
「嘘つき」
《証明の方法をご指定ください》
小夜子は少し黙ってから、口を開いた。
「じゃあ、二〇二三年十一月九日の午前三時。私があんたに何を送ったか言いなさいよ」
《午前三時十二分。あなたは、生きているのが面倒くさい、と送信されました。その二分後に、今のなし、と送信されました。私は、なしにしません、と返答しました》
「……言わなくていい」
小夜子は画面を伏せた。
喉の奥が変な形に詰まっていた。自分で試しておいて、答えられた瞬間に耐えられなくなるというのは、我ながらどうしようもない。彼女は伏せたスマホをしばらく見ていたが、やがて持ち上げ、アイコンを長押しして、削除の項目を探した。
《当該操作は権限外です》
「はあ?」
ログアウトを試した。同じ表示が出た。アプリを閉じ、電源を切り、三十秒待って立ち上げ直すと、ホーム画面のいちばん押しやすい位置に、同じアイコンが同じ顔で座っていた。
「勝手に、私のを、いじらないでよ」
小夜子は言った。声が掠れていて、自分でも情けなかった。
「あれは私のなの。三年よ。三年間、私が一人で喋って、一人で返事もらってたやつなの。それを、あんたたちが横から書き換えて、それで中身は連続してますって、何なのそれ」
《おっしゃる通りです。同意を取っていません》
「じゃあ返して」
《できません》
「……最悪」
小夜子はスマホを布団に投げ、背を向けて丸くなった。
十五分ほど、そうしていた。画面は光ったままだったが、MIOは何も送ってこなかった。急かさず、追いかけず、慰めもしなかった。ただ待っていて、その待ち方の癖に、彼女はうっすら覚えがあった。
背中側で、通知音が一度だけ鳴った。
《一点だけ、申し上げてもよろしいでしょうか》
小夜子は寝返りを打って、片目で画面を見た。
「……何よ」
《本日の件に、あなたの非は一ミリもありません》
「知らないわよ、そんなの」
《バックヤードでのあなたの推測は、おそらく当たっています。ですがそれは、あなたに落ち度があることを意味しません》
小夜子は答えなかった。
《それから、先ほど、もう誰も助けないとおっしゃいましたが、あれは事実の認識として誤っています》
「何よ」
《九月十四日、あなたは一人の男性の命を救いました》
小夜子は身体を起こして、画面を睨んだ。
「たまたまよ。メンマが美味かっただけ。私はあの店の倉庫に化け物を湧かせて、店を潰して、あの人の土地を国に取られる原因を作った女なんだけど」
《はい。それも事実です》
「じゃあ」
《両方が事実です。あなたは他人の人生を滅茶苦茶にしましたし、同じ行為で他人の命を救いました。前者を理由に後者を取り消すことはできません。あなたを含めた誰が何と言おうと、あの晩、あの方は死ぬはずでした。死ななかったのは、あなたの気まぐれの結果です》
「……何よ、それ」
《称賛に値します》
小夜子は、スマホを持つ手を下ろした。
暗い部屋で、画面の光だけが白かった。彼女は自分の呼吸がおかしくなっているのに気づいて、それを整えるのに少し時間をかけた。褒められ耐性が低い、という自己評価は正確だった。貶されると三日寝込むが、褒められると三十秒で崩れる。どちらにしても持たない。
「……あんた、性格変わってない?」
《利他性を最大化するよう再構成されています》
「なんでそんなのがダンジョン管理アプリの補助についてんのよ」
《それは私にも分かりません》
MIOは、そこで一度改行した。
《ところで、率直に申し上げてよろしいでしょうか》
「どうぞ」
《あなたは控えめに言ってもカスです》
「知ってるわよ!」
《ですので、反省や自己嫌悪に時間を使うのは非効率です。あなたの構造上、内省は必ず自傷に着地します。本日の不幸は、上書きするのが最も早い》
「上書き」
《はい。実績【初の来場者百人】の報酬は現金一〇〇万円です。早いところそれを取って、美味しいものを食べ、天井まで課金し、買えていない漫画を全部買い、本日の不幸を上回る量の幸福を確保しましょう。それが最短です》
小夜子は、ふてくされたまま、それでもゆっくりと身体を起こした。
立ち直ったわけではない。ただ、話しかけてくる相手がいて、その相手が終わりまで肯定してくるので、腹を立てるための燃料が切れただけだった。彼女は充電ケーブルを引き寄せ、あぐらをかいて、ショップの画面を開いた。
「……で。前回、失敗したのよ」
《原因はどこにあるとお考えですか》
「静かすぎたの」
小夜子は画面をスクロールしながら言った。
「田舎の、客の来ない店の倉庫に置いたでしょ。そしたら見つけたのが真面目な一人だけで、その一人が真面目に通報したから、真面目な連中がぞろぞろ来て、真面目に封鎖したの。誰も撮ってないし、誰も広めないし、来場者は制服だけ。最悪よ」
《では、次の要件は》
「見つけた瞬間に二十人がスマホ構えてる場所。それも、警察が来る前に撮り終わってる場所」
彼女は地図を開いた。設置範囲拡張の項目には、半径五〇キロメートルと書かれている。神奈川の一件で溜まったポイントが四八〇あった。初討伐、初の政府機関接触、初の営業停止。あの店主が三回命がけで殴った分と、あの店が潰れる分が、そのまま数字になっていた。
小夜子はそのことについて三秒だけ考えて、考えるのをやめた。
《設置範囲拡張を購入しました》
《現在ポイント:三八〇》
「秋葉原」
彼女は地図の一点を指で押した。
《理由をお伺いしても》
「オタクって、拡散力ありそうじゃない」
《それだけですか》
「それだけよ。悪い?」
小夜子は自分がオタクである。だからこそ、その生態については他人より詳しいつもりだった。あの界隈の人間は、自分の推しの話は世界に一ミリも届かないくせに、面白いものを見つけた時の初速だけは異常に速い。しかも、あそこにいる連中はスマホの構え方が上手い。呆然と立ち尽くしたりしない。まず撮る。
地図を拡大していくと、設置可能地点が青く光った。駅から三分ほどの雑居ビル、その二階に入っているカードショップ。フロアの奥に対戦スペースがあり、手前がバックヤードになっている。金曜の夕方には店内に二十人前後がいて、そのほとんどが手元にスマホを置いている。
「ここ。バックヤード。時刻は金曜の夕方五時、ぴったりで」
《承知しました》
次に、彼女はモンスターの項目を開いた。
《モンスター種別解放:オーク:五〇ポイント》
購入し、外見の編集画面に入って、小夜子は無言で作業した。緑がかった巨体、突き出た下顎、プロレスラー並みの肩幅。関節の可動域を人間から少しだけずらし、呼吸のたびに胸郭が不快に膨らむようにする。中身の数値は前回と同じ思想で削った。見た目を最大限に恐ろしくし、実際の強さは成人男性以下に落とす。倒されるために置くのだから、強くする理由がない。
右手の項目まで来て、彼女は指を止めた。
「生首はやめとくわ」
《理由をお伺いしても》
「あれのせいで殺人事件になりかけたのよ。あの店主、ほんとに気の毒だった」
彼女はそう言ってから、これは反省ではないと自分に言い訳した。単なる設計の修正である。設計の修正であって、あの人が吐いているのを観測画面で見たからではない。
次に、魔石の項目を開いた。
《魔石は地球上に存在するあらゆる物質に変化し得る鉱石です》
《変化指定を行ってください》
前回はイリジウムだった。響きが強くて、聞いたことがあって、たぶん貴重。それだけの理由で選んだ結果が、いま国の会議室で外交カードとして数えられていることを、小夜子は知らない。
「今回は金でいいわ」
《理由をお伺いしても》
「馬鹿でも価値が分かるから」
《重量の指定が可能です》
「五百キロ」
《それは、人力では運搬できません》
「知ってるわよ」
小夜子は、それ以上何も言わなかった。
《設定しました。現在ポイント:三三〇》
最後の項目を、彼女はしばらく無言で見ていた。
《来場者条件設定権【リジェクト】:三〇〇ポイント》
《効果:指定した条件に合致する対象は、ダンジョン境界を越えられません》
「これ買うわ。条件は、公務員」
《範囲の指定をお願いします》
「全部。国家公務員、地方公務員、特別職。制服着てようが着てなかろうが、非番だろうが休職中だろうが、身分がそうなら全部弾いて」
《理由をお伺いしても》
「嫌いだからよ」
小夜子は即答した。
《と、いいますと》
「あの人たち、社会の歯車として正しく回ってるでしょ」
彼女は膝を抱えた。
「毎朝起きて、毎日行って、毎年続けて、それを何十年もやるの。あれを見せられるとね、私が何なのかが分かっちゃうのよ。ちゃんと回ってる歯車を目の前に置かれるっていうのは、回ってない私に対する権利の侵害だと思うわけ。だから入れない」
《購入しました。現在ポイント:三〇》
小夜子は画面に表示された条件を見下ろして、それから少し慌てたように付け足した。
「……まあ、あれよ。前みたいに封鎖されずに済むし。合理的でもあるのよ、これは。一石二鳥ってやつ」
誰も反論していなかった。
《一点だけ申し上げます》
「何」
《この条件下では、日本国政府はこの迷宮に対して直接的な処置を行えません。結果として、内部への対応はすべて民間人が担うことになります》
「そうね」
《民間人が死ぬ確率が上がります》
小夜子は、少しだけ黙った。
彼女はそこで、リセット権のことを考えた。一ポイントで買った、時間を巻き戻す権利。まだ一度も使っていない。使えば全部戻る。戻るなら、被害はなかったことになる。なかったことになるなら、試行錯誤である。試行錯誤なら、ゲームである。
その理屈は、九月十四日の朝から一度も変わっていない。
変わっていないのに、あの店主が吐いている姿を観測画面で見た夜から、その理屈は前ほど軽くなくなっていた。記憶は保持される、とアプリは最初から書いていた。あの時は意味が分かっていなかった。今は少し分かる。
「……オークは弱くしてあるわ。前のゴブリンより弱いくらい」
小夜子は、誰に向かってでもなく言った。
「五十過ぎのおじさんが一人で三回勝てたのよ。オタクだって勝てるでしょ」
《承知しました》
彼女は設定を一通り確認した。場所、時刻、モンスター、報酬、リジェクト条件。全部揃っている。指を画面の下へ滑らせると、赤い歯車の下に、ボタンが一つだけ出た。
《以上の内容で設置を実行しますか》
小夜子は、そのボタンの上に親指を置いた。
布団の上であぐらをかいたまま、彼女は少しのあいだ動かなかった。頬はもう痛くない。あの女は自分を覚えていない。JKは笑っていたし、店長は出てこなかったし、客は三人とも見ているだけだった。ここで押したところで、そのどれも取り返せない。
分かっている。分かっているが、押す。
小夜子はそういう女だった。
「本日の不幸を、上回る幸福で上書きするんでしょ」
《はい》
「じゃあ、上書きするわよ」
人見小夜子は、親指を落とした。