コズミックホラーが蔓延る世界でそれらよりホラーな人   作:聖成 家康

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1話 35歳、白亜紀と過ごしたあの日々は……

 

 

 前回のあらすじ!!

 

 千年に一度人類に降り注ぐとされるアラレッチー災害によって、世界は滅亡の危機に瀕していた!

 

 アラレッチー災害による人類の滅亡を防ぐためには、アンチアラレッチー災害を引き起こさなければならなかったのだ!

 

 そのために冒険に出たピンピン子とハネハネ男は、その道中でなんやかんやに巻き込まれながらも、アンチアラレッチー災害のトリガーを見つける!

 

「ピンピン子! 俺の羽をもいで先にいけぇっ!」

「イヤよハネハネ男くん! あたしがピンピン跳ねてあなたの羽根になるのよ!」

「違うっ! 俺のは背中から生えてるから"羽"だ! 間違えるなと何度言えば分かる!」

「なんでよっ! どっかどう見ても付け焼き羽根にしか見えないのよ! どうせあたしの知らないとこで羽根と背中であつーいハンダゴテ交わしたんでしょ信じらんないっ!」

「ハンダゴテだぁ!? アロンアルファなめんなよ」

「ほらやっぱり付け焼き羽根じゃないよのっ!」

 

 

 アンチアラレッチー災害を引き起こすためには、さらにアンチアンチアラレッチー災害を引き起こし、その連鎖反応でアンチアンチアラレッチー災害スレイヤーを目覚めさせてアンチアンチアラレッチー災害バーストを勃発させる必要があったということが発覚するのだ!

 

 

 

「…………」

 

 空色髪の女の子 アベルは、脳への情報をシャットダウンしていた。無意識である。熱いものに触れたとき手が引っ込むような反応と同じだ。

 

「——どうしたアベル。俺の話はまだ終わっていない」

「そもそもはじまりがあったんですね」

 

 彼女のツッコミに、目の前に立つ男は震えた。

 

「中々なキレだ、この俺が言うのだ、褒めてつかわす」

「どうしよう手が出そう」

 

 その男は見た目こそ普通だった。紺色のスーツスタイル、オールバックにまとめた黒髪。面がいいとまでは言わないが若干整った顔立ちなのが彼女の神経を逆撫でしていた。

 

 彼の名はハルカイア。曰く芸名らしい。由来は元々の相方が重度の花粉症であり、その人が四月頃に呟いた「春かぁ、いやだなぁ」。ちなみにそれが最後の会話だったそう。

 

「……話が全部飛びました。もう一度お願いします」

 

 

 前回のあらすじ!!

 

 千年に一度人類に降り注ぐとされるアラレッチー災害によって、世界は滅亡の危機に瀕していた!

 

 

「その前」

 

 

 前作までのあらすじ!!

 

 大魔王パクリームが目覚めてしまった! それをどうにかするためにパチリっ子はワームホールにダイブし白亜紀にタイムスリップ!

 

 

「ハイハイ私が悪かったです。あなたが私に何をしてほしいのかもう一回言ってもらえますか!!」

 

 彼女が声を張り上げた。大声は出し慣れていないのか、若干掠れており、尻すぼみなものになっていた。

 

「あぁそれか。見ての通り、俺は"色彩者"だ! どこにも居場所がない。芸能事務所も無論首になった! そこで偶然知り合ったキミの出番というわけだ」

「お願いですから口外しないでくださいね、あたしたちが知り合いだって」

「俺もキミの所属する《ネクロム》という傭兵チームに入れてほしい!」

 

 アベルは今一度改めて聞き直してため息を漏らした。

 まず()()()()()"色彩者"ということが驚きである。太陽系より遥か彼方の宇宙から来訪せし神々を偽る化物の卵、"色"に身体を侵された人間。普通は身体の中に入られた瞬間死に至るが、そこそこの確率で生き延び、支配者たちの力をその身に一部宿すことがある。

 だが、いずれにせよ死ぬと外からの来訪者——"アウトワルド"となる。ゆえに、生き延びようと迫害される運命にある。

 

 普通はこのテンションを保っていられるはずがないのだが。

 

「あたしだって新人ですから。紹介は……一応しますけど、確実じゃないことだけは覚えておいてください」

「助かる。そんなキミにはこれをあげようパカリ」

 

 口を開き、平らな舌が伸びてくる。それに乗っていたのはピンピン子。

 

「おめでとう! おめでとう! ハンダゴテを進呈するねっポイッ」

 

 コテン、ころころころ。ハンダゴテがコテンコロコロ。花吹雪。キレイ。ハクション!! 鬱陶しい。

 

 

 アベルは一連の光景を目の当たりにして思う。

 

 ——さっさとリーダーに押し付けよう。

 

 

 ◇

 

 

 

「リーダー、連れてきました」

 

 "色彩者"はその身に背負う罪を贖罪するかのように、"アウトワルド"駆除に身を持って駆り出されることがほとんどである。幸い、それに素直に従う"色彩者"は手厚く歓迎される。

 

 傭兵部隊《ネクロム》の基地は、町外れのスラム街同然の場所にこつんと点在している。

 

「ご苦労さんだな、アベル」

 

 基地に入るや否や、小綺麗なエントランスで出迎えてくれたのは長身で筋肉質な茶髪の男。アベルと同じ紫色のダウンパーカーを袖を通さずに羽織り、マントのように靡かせている。

 

「労いが足りません」

「珍しい。感情的じゃないか」

 

 アベルは唇を歪めながら目を細めた。

 彼——ミカエルからすれば、アベルがここまで自我を出して会話するなど初めてのことなのだ。

 

「それで新入りってのは?」

「一緒に入ってきたはずですけど」

 

 アベルも踵を返し、二人とも入り口に視線を移す。

 

 

 テケテケテケテケテケテケ。四足歩行。

 

「原始返りです」

 

 頭の蓋パカ。猿二匹。ファミレスぽつんとテーブル向かい合い。

 

「ウチラってさぁ何からできてるわけ?」

「サァ、ウチラ可愛いから砂糖じゃね」

「ウケる」

 

 拳炸裂猿分裂。

 

「勉強しろ!! 俺らは原子からできてんだぁっ!!」

「こちら、原子返りです」

 

 粉パラパラ。

 

 

 

「……アベル、パトロールはどうだった」

「えぇ、順調です」

 

 二人はいつもどおりの会話を再開した。

 

「おいおいおいおいおい。無視とは心外だな。《ネクロム》とはそういう組織なのか?」

「うわ」

 

 アベルはずかずかと歩み寄ってきたハルカイアに一瞥もせずに顔をしかめた。

 

「失礼したな、哀れな"色彩者"。《ネクロム》に入団希望とのことで間違いないな?」

「あぁそうだぞ二度も言わせるなよ」

「一度目言ったっけ」

 

 ミカエルは彼のペースに呑み込まれないよう、いつもの態度を貫き通した。

 

「アベル、こいつの試験を始めるから手伝——」

 

 早速入団試験に取り掛かるべく、アベル(こんなのを持ってきた大元の原因)に協力を促そうとしたときだった。彼女がどこにもいなかった。

 

「逃げやがった……」

「入団試験か。リーダー、俺の身体をくまなく探れ! カンニングされたらたまったものじゃないだろう!?」

 

 絶望するミカエルを横目に、スーツの彼はバンザイのポーズで静止する。

 死ぬほど気が引けたが、大切なことだと割り切って彼のボディチェックをはじめた。

 

 足、脇腹、脇下、ポケットの中。怪しいものどころか手荷物一つなかった。

 

「よ、よし問題ないぞ」

「待てリーダー、まだ終わっていない」

「は?」

 

 ビリビリ。

 そう、ハルカイアという男のその姿は仮初だったのだ!

 

 サナギを破って出てくる!

 

「オハヨー」

 

 ALTのアレクサンドラ先生です!

 

「ワターシ、ニューヨークブルックリンシュッシンネ。エェ? ジャパン? ワタシチリクワシクナイネ」

 

 金髪ふさぁ。

 ふさぁ、ふさぁ。ペリペリ。

 

 そうさ、その姿すらも仮初だったのだ!

 

 またも偽りを破って出てくる!

 

「はぁいおはよう」

 

 あんころ餅学担当のきなこ先生です!

 

「はぁい授業しますよ。はぁいね。はぁい。あ、出席、出席ね」

 

 きなこ先生はおっちょこちょい!

 ついつい大切なことを忘れちゃうの☆(これって星? 違うよっ、キラっだよ! テスト出るよ!)

 

「はぁいあんころ餅ね。ようやくね。この学問来るとこまで来ましたねはぁい。えぇー、みなさんもね、就職しますから、それなりにタフネスがいりますからね、はぁい」

 

 きなこポロポロ。

 まさか、その姿もまた仮初だったのだ!

 

 

 

 ミカエルは考えるのをやめた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 入団試験と言っても単純だ。《ネクロム》は"色彩者"傭兵の中でも特に優秀な者を集めた精鋭部隊。入るにはそれだけの実力が必要となる。

 "色彩者"傭兵は街に蔓延る"アウトワルド"を、命を懸けて駆除することで人権を保つ。もしも駆除できずに奴らにやられれば、その身に宿る怪物を世に放ち、"色彩者"の肩身を更に狭めることになる。

 

 《ネクロム》基地から少し離れた地点にある放棄された地下下水道。

 嫌な匂いが立ち込めるが、それらすべての出処が不明瞭。得体の知れないものを鼻腔に通す感覚は、なんとも度し難いものである。

 

「この地下には頻繁にB級相当の"アウトワルド"が現れる。それを殺れたら、ひとまずは入団させてやる」

「見ていろよ俺の勇姿を!」

「俺は手を出さない。お前がどうなろうとな」

 

 もうミカエルは彼が逆立ち歩きをしているくらいでは突っ込まないようになっていた。

 

「……お前に言う必要はないと思うが、"色彩者"にはその身に宿した"アウトワルド"の能力を一部使うことができるヤツもいる。傭兵になるからにはそれを上手く使え」

「ポゥっ!!」

 

 逆立ちから飛び跳ねながら直立に戻る。

 彼の能力は未知数だが、おおよそ検討がつくのが腹立つ。

 

(死んでもらっても面倒だし生きてもらっても面倒ってどういうことだ……)

 

 ミカエルが頭を抱えていると、心臓を鷲掴みにされるような恐怖心を、本能的に覚える。

 足を止めた二人の前に、暗闇の中から恐怖の支配者がその姿を顕現する。

 

 蜘蛛。脚が八本、触腕らしきものを交互にすり合わせるその姿は間違いなく蜘蛛そのもの。しかし人型ほどの大きさで、白と赤の体毛を併せ持ち、極めつけはヒトのような頭部を兼ね備えるといった異様な姿。

 

 ソレは甲高い声でこちらに何かを伝えている。人類のそれとは似つかない言語体系を持ち知性がある、厄介なタイプだった。

 

 ミカエルは慣れているが、このような存在と相対するのが初めてのものは、この時点で正気を削り取られるだろう。

 

「運が良いな、ちょうどB級だ。じゃあ、頑張ってみろ」

 

 ミカエルは二歩後ろに下がる。

 彼の試験はいつもこうだ。彼は何も手を下さない。試験者に、《ネクロム》として戦う者に力と覚悟があるかどうかを確かめる。

 

 

「グッモーニング、スパイダー。いいかぁ? 蜘蛛は昆虫じゃない節足動物だ! ヒュゥッ、シャキン!!」

 

 怖気づくことなく彼がどこからともなく取り出したのは、木製のバッド。

 一体どこから出したのか知らないが、B級アウトワルドは、そんなもので倒せるほどヤワではない。

 

 

 

「さぁ一番ハルカイア選手! 気合はバッチリだー! 実況はワタシ、穴ウンサーがお送りいたします!」

「同じくウンサー穴です」

 

 穴から生まれた穴ウンサーと、ウンサーから生まれたウンサー穴。しかし、穴ウンサーはちゃぶ台をひっくり返した。

 

「こぅらっ!! お前は俺の隣に立つなって言ったろ!!」

「なぜだ!? 俺達は二人で一人のはずだ!」

「お前も続けて言ってみろ!」

「はぁ!? 穴ウンサー、ウンサー穴、穴ウンサー、ウンサー穴……」

 

 ばしぃん! 強烈なビンタ。

 

「ちがぁう!! 読点なんかいらんのだ!! ポイッ、 ポイッ、 ポイッ、」

「穴ウンサーウンサー穴ウンサー穴ウンサーウンサー穴穴ウンサー穴ウンサー……はっ! 書けてない! だんだん! お前の名前も俺の名前もごっちゃになる!」

「そうだろう!!」

 

 ゴメンね。

 

「そうかっ、俺は、俺はお前の隣にはいられないのかっ」

「そうだぁっ! 俺達は、俺達は一緒にはいられないのだ!」

 

 ぐわし、熱い握手。←読点いらねぇっての! ポイッ、

 ぐわし熱い握手。

 

「でも大丈夫……! 俺達は、離れていても一緒だ!」

「穴ウンサー……」

「ウンサー穴……!」

 

 

 

 甲高い悲鳴のようなものをあげながら狼狽えていた蜘蛛型アウトワルド。

 その脳天を彼のバッドがバッチリと捉え、玉砕する。

 骸骨のような頭部が真っ二つに割れて、中からは気色の悪い体液と糸のようなものが噴水のように吹き出た。

 

 やがて下水に流れていくそれらと共に、肉体の方も真っ逆さまに落下。下劣な飛沫を散らしながら凍てつく埋葬によって、その蜘蛛型の邪神は息絶える。

 

 

 戦いを見ていたミカエルは、ゾッとしていた。

 

(あいつは何をした……?)

 

 おおよそ検討はついていた彼の力。

 だが、第三者目線で見ているとそれに気がついて思わず背筋が凍りついてしまう。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 おそらくハルカイアという"色彩者"の中に宿ったアウトワルドは、《他者に幻覚を膨大な情報量を与えて脳から殺す》力を持つといったところか。

 

 あの訳のわからぬ、脳が情報の遮断を無意識のうちに行っていたような現象は、彼の能力が引き起こしていたのだ。

 

 彼次第で、アベルやミカエルたちは簡単に殺されていたのである。

 

 

(バケモノめ)

 

 冷や汗が滴る彼の口元から、不意に笑みがこぼれた。

 

(——ワクワクさせやがる……!)

 

 

 

 

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