成り代わりセイアは未来が分からない 作:ロリコンではない。好きな子がロリなんだ。
「ミカ、話がある」
アズサちゃんが真剣な顔をしてそう言った。
いったい何の話なのかな、もしかして仲直りについて何か進展があったのかな、なんてそんな私の無知で愚かな考えは続く言葉に掻き消されていった。
「アリウスは……マダムは、トリニティとの和解なんて一切考えていない」
「……え?」
分からなかった。言っている意味が、何も。言葉を言葉として認識できない。頭が真っ白になるってこういうことなんだ。でも、そんな私をアズサちゃんは無理矢理現実へと連れ戻す。
「百合園セイアのヘイローを破壊しろという命令が下された」
「――っ」
いや、現実なんて生温い所じゃない。まるで大きな穴に落ちていくような、底無し沼に沈んでいくような、そんなどうしようもない世界に私はいた。
「なん、で……」
きっと、その声が出せたのは偶然なんだと思う。いつの間にか私はアズサちゃんの肩を掴んでいて、アズサちゃんはそんな私を前に表情を歪めている。肩への痛みによるものか、それとも何か思う所があるのか、そんなもの今の私にはどうでもよかった。
アズサちゃんは視線を斜め下に逸らし、淡々と言葉を続けていく。
「……
血の気の引く感覚と共に、背中に一筋の汗が伝う。恐ろしい計画を聞いて私は頭の何処かで理解していた。でも、それを認めたくなかった。それを認めたら、私のやってきたことは……。
私は現実から目を逸らすように、そうではなくあってほしいと望むように、震える声で問いかけた。
「違う、なんで、なんでそんなことを……」
「……アリウスはトリニティから受けた扱いを今も覚えているからだ。憎しみが消えることは無い」
聞かなければよかったと、聞いて間もなく思った。聞かずにいればまだ私は現実から目を背けることができたのに。これ以上現実と向き合わなくてよかったのに。
ふと脳裏によぎるのはあの日のこと。ナギちゃんとセイアちゃんが私を止めた、あの日。アリウスとトリニティの過去を、止めた理由を、全て話してくれたあの日。
あの日の二人の言葉を軽視した結果がこれ。私の軽率な行動でトリニティが危険に晒される。セイアちゃんが狙われている。
私のせいで。
「あ……はは、は……」
ぐにゃりと視界が歪んだような気がした。喉から出るのは乾いた笑い声だけ。今の自分がどうやって立っているのかさえ分からない。
「ミカ、話はまだ終わっていない。私は、少なくとも私は、そんなことをしたいとは思っていない」
「え……?」
「トリニティ内部へ転校生として自然に侵入できる私がその役目を果たすことになっている。だから、私の一存で百合園セイアを殺さずにやり過ごすことも可能なはずなんだ」
「あ、アズサちゃんそれ本当!?本当にセイアちゃんを助けられるの!?」
ほとんど反射で体が動いてた。降って湧いた希望に縋り付くように、離さないように、私はアズサちゃんの肩を掴んだまま顔を近付ける。
「ああ、全て私達の手にかかっている。私の作戦を話そう」
アズサちゃんの作戦は至ってシンプル。セイアちゃんを誰にも見つからないどこか別の場所に隔離して、始末したことにしちゃうの。そうすればセイアちゃんは危険な目に遭わなくて済む。
……周りへの影響にさえ目を瞑れば。
「セイアちゃん、ちょっと今いい?」
「なにかあったのかい?」
「うん、ちょっとあまり人に言えないことでさ。できれば二人きりで話がしたいんだけど、いいかな」
「もちろん構わないが、どうしたんだい?」
「誰にも聞かれない所で話したいの。だから今は言いたくなくて……ごめんね」
「いや、気にしなくていい。じゃあどこに行こうか」
「実はいい場所知ってるんだ。着いてきて」
私が先導して歩くと、セイアちゃんは私の隣に追いついて一緒に歩いてくれる。セイアちゃんを騙してることに罪悪感が湧いてくるけど、でもセイアちゃんを守るためだから。ごめんね、セイアちゃん。
事前に一般の生徒が誰も入れないようにしておいたとある空き教室の前に辿り着く。扉を開けて中に入ると、そこにはアズサちゃんが一人立っていた。
「な、君は……」
セイアちゃんはアズサちゃんを見て少し驚いているみたい。なんでだろう。でも都合よく私から意識が逸れた今しかない。私はセイアちゃんの後ろに回り、アズサちゃんから渡されていた薬が染み込んだ手拭いで鼻と口を覆った。
「っ!?ミ、カ……?」
「おっと」
ふらっと前に倒れそうになったセイアちゃんを支え、顔を確認する。すると、セイアちゃんの瞳は閉じられており起きる気配はなかった。
「案外アッサリと事が進んでいるな」
私もアズサちゃんの言う通りだと思う。最初はアズサちゃんに何かしら注意を引いてもらうつもりだったけどその必要も無かった。
「でも、問題はここからだよね」
「そうだ。これから私達は誰にも見つからず百合園セイアを安全な所まで運ばなければならない。当初の予定通り部活動等が終わり人が居なくなる夜まで待とう」
「うん、分かってる」
教室内の椅子にセイアちゃんをゆっくりと座らせ、私達もその場で時間が過ぎるのを待った。
「ねぇ、アズサちゃん」
「なんだ」
「今更だけど、なんでアズサちゃんはセイアちゃんを襲わなかったの?なんで助けてくれるの?私のせいでこうなってるんでしょ?セイアちゃんを、トリニティを襲うのがアリウスの目的なんじゃないの?」
「……自分でもよく分からないが、こうするべきだと思ったんだ」
「……」
「あの世界には痛みと苦しみと憎しみと虚しさだけがあった。幸福や快楽なんて微塵もなく、多くの仲間達はそんな生活を強いられる世界を呪っただろう。産まれてきたことさえ後悔したかもしれない。この負の感情をいつか晴らすべく、私達は地獄を生きてきた」
「じゃあ、それこそなんで……」
「ミカに出会って考えが変わった。この世界はきっと
「……そっか」
「だからミカには感謝している」
「……こちらこそありがとう、アズサちゃん」
そうして辺りが暗くなって、学園内に人がいる気配も無くなった。
「日は落ちた。作戦を開始する」
「じゃあ手筈通りに」
私はセイアちゃんの肩と膝裏に腕を通して持ち上げ、アズサちゃんが私の前を歩く。そして、事前に把握していた監視カメラの範囲に注意しながらゆっくりと移動していく。
出来る限り足音は立てないように動くけど、それでも誰も居ない廊下には私達二人分の微かな足音と布の擦れる音が響く。
腕の中にあるセイアちゃんの体がやけに軽く感じるよ。もっとご飯食べて動いてくれないと心配だなぁ。ちょっとしたことで怪我しちゃいそう。
「ミカ、あそこだ。あの窓から飛び降りる」
「分かったよ」
その窓の下は校舎の外に設置してある防犯カメラの範囲外、なんてそんな都合がいい配置だったわけじゃない。ただ、アズサちゃんがそこを映してる防犯カメラの角度をちょびっとだけズラしたの。もちろんこっそりとね。
アズサちゃんはまだトリニティに転校生として入ってないけど制服はもう準備してあったからトリニティにいても変に思われることはないし、校舎の裏側というのもあってバレないようにやるのはそこまで苦じゃなかったみたい。
「この窓を飛び降りたら学園の外へ向かうが正門は使えない。敷地の端に位置する倉庫の屋根に登ってから近くの木を蹴って門の外へ飛び移る必要があるが、いけそうか?最悪私が百合園セイアの身を確保しておくからミカは別ルートでも構わない。ミカ一人なら監視カメラに映っても大きな問題にはならないはずだ」
「舐めないでよね。これでも体を動かすのは得意なんだから」
「了解。私の通る道からズレないでくれ。最悪監視カメラに映る」
「うん、案内は任せるよ」
「作戦、続行する」
アズサちゃんは窓に足をかけてそのまま闇に飛び込んだ。ここは3階だけど、アズサちゃんの身のこなしが凄いからか着地した音は聞こえない。
セイアちゃんの体をぎゅっと腕で固定し直して私も窓から身を放り出した。
急速に近付く地面に全身に感じる空気抵抗。アズサちゃんは少しだけ前に進んで私を見ている。私は羽根をはためかせ、落下速度を緩めながらトンッと静かに着地した。
「体を動かすのが得意というのは嘘じゃなさそうだ」
「もちろん」
前を歩くアズサちゃんに続く。スイスイと淀みない足運びだけど、たまに方向を変えて遠回りをしたりする。監視カメラの位置と範囲が見えてるみたいに。
「ミカ、一旦止まってくれ」
「うん」
「あの倉庫、前方の二箇所に監視カメラが付いている。近付くと大抵どちらかの監視カメラに映る」
「じゃあどうするの?」
「片方を破壊する」
「えぇ……ここまで隠密行動だったのに?」
「ああ。だが、これが一番リスクの低いルートだ。他のルートでは監視カメラが多すぎて対処できない。ここは建物の裏側でもないから昼間に人の目や監視カメラに映り込まないようどうにかするのは難しかった」
そう言いながらアズサちゃんは小さなハンドガンを取り出し、一発。サプレッサーを付けているとはいえ、夜の世界に小さくはない音が響く。
「大丈夫?誰か来たりしない?」
「この銃社会で一発の銃声、そんなもの特段注意されるものではない。整備中の誤射や悪戯、ちょっとしたトラブルなんかだと思って誰も気に留めないだろう」
スタスタと歩いていくアズサちゃんに置いていかれないよう、少し早歩きで着いていく。破壊された監視カメラには銃弾の跡が残っていた。
「アズサちゃん、これ破壊されたってバレないかな」
「誰かに破壊されたという事実は残る。だが修理やカモフラージュなんかをしている余裕はない。私達の姿は監視カメラに映り込んでいないのだから、私達の存在に辿り着くこともないだろう」
「うーん、まあそうかも。今は早く移動しないとね」
私達はそれぞれ倉庫の近くに生えている木に向かって飛び、三角飛びの要領で木を蹴って倉庫の上に登る。そこから更に木の上の方に飛んで斜め前方に向かうよう木を蹴り、学園を囲う塀の上へ着地した。そこから先はもう学園の外。
「後は足音を消しながら建物の屋根の上を進むだけだ。大通りを避け、道を歩く人の姿に気をつけていればさして問題は無いはず。案内は任せる」
「うん、着いてきて」
今度は私が前を進む。静かに飛んで、歩いて、目的地まで一直線に。そうして辿り着いたのは、一見すると普通の家だった。
「ここが私のセーフハウスだよ」
「ここが?」
「うん。私セーフハウスとかあんまり使ったこと無いけど定期的に清掃とか非常用の備蓄の入れ替えとかは行われてるハズだし、こういう時に使わないとね」
「確かに、それなら百合園セイアを数日間はこの中で匿えるか」
セーフハウスの中に入って玄関の鍵をかける。この家は家具の置いてあるリビングや部屋、お風呂やトイレまで、見た目通り普通の家のように使える。でも、その中の一室。二階の端に位置する一番奥まったところには鍵の付いた部屋があった。
その部屋を開けると、その中は普通の部屋で他の部屋と変わらない。ただ一箇所異色を放つのは窓のすぐ手前に設置された鉄格子。見た目じゃ分からないけど壁や床も厚くなっている。
本来なら私が隠れる所。まあ、家ごと全部壊されたら意味ないんだけど、そんな話してたらセーフハウスなんて意味ないからね。周りの家に擬態して隠れるっていうのが本質だし。
セイアちゃんをベッドに寝かせ、私達は向かい合う。
「アズサちゃん、これからどうするの?」
「一先ず私は百合園セイアのヘイローを破壊し、遺体については適当に処理したことにしてアリウスに連絡しておく。ミカはセイアが起きたらなんとか説得し、このセーフハウスから一歩も外に出ないようにしてくれ」
「分かった」
外との連絡手段を奪うために、セイアちゃんの持っていたスマホもこっちで預かっておこう。
「あとは、そうだな。誰にも百合園セイアの無事を伝えるな」
「……それはアリウスの目的だったトリニティを混乱させるため?」
「そうだ。百合園セイアが突如として居なくなったのにトリニティ側で混乱が起きないのはおかしい。アリウスを騙すためには、トリニティすらも騙さなくてはならない」
「……」
心がぎゅっと痛む。多分、みんなセイアちゃんを心配する。困惑する。人によってはきっと、深く絶望するかもしれない。私なら、もしその中に私がいたら、多分耐えられない。あたりをずっと探し回るかも。
でも、セイアちゃんを守るためなら、私のせいでこうなってしまったのなら、やらないといけない。
「……その後は?いつか、アリウスが攻めてくるんでしょ?」
「ああ、そこが問題だ。私も暇を見つけては罠を仕掛けたりするつもりだが、それだけでなんとかなるような集団じゃない」
「じゃあどうするの……?」
「……」
「……」
沈黙が続く。
私もアズサちゃんも分かってるんだよ。これはただ問題の先送りに過ぎないって。セイアちゃんをなんとか匿っても、その先にある戦争からは逃れられない。
私達二人だけじゃ学園規模の相手には勝てない。そうなればトリニティは不意打ちによって大きなダメージを受ける。最悪の場合全滅しちゃうかも。
トリニティに助けを求めるにしても、セイアちゃんの存在は隠さないとアリウス側からセイアちゃんを始末するための刺客が送り込まれてくるかもしれない。
それに、アリウスの対策を始めるとしたらその説得はどうやって?私達二人の言葉を信じてくれる人はどれだけいるの?アズサちゃんがアリウス出身だってバレちゃったら、アズサちゃんの扱いはどうなるの?
「……私は、私に出来ることを探す。ミカもそうしてくれ」
「……うん」
八方塞がりの現実に直面しながら、私とアズサちゃんはその場で別れた。私はベッドの上で死んだように眠るセイアちゃんの手を握ってそのまま夜を明かした。その手はほんのりと暖かかった。
次の日、いつの間にか眠っていた私が起きてもこの部屋はそのままだった。
「セイアちゃん?起きないの?」
セイアちゃんはずっと眠ったまま。ずっとここにいたいけど私は学校に行かないといけない。どうしようかと悩んだ結果、書き置きをしていくことにした。
セイアちゃんが起きたら困らないように。でも、このセーフハウスからは出ないように。部屋の鍵も家の鍵も内側から開けられるから、セイアちゃんが外に出ないことを信じるしかないけど。
「……いってきます」
返事は無かった。
一日が過ぎた。一日休んだくらいじゃセイアちゃんが居ないことを誰も不思議には思っていなかった。体調不良か何かだろうって勝手に理解してくれた。
私はまた夜になってからセーフハウスに向かう。鍵は閉まったままだった。
「ただいま」
廊下を歩く。電気は点いていない。どの部屋からも生活の跡がない。私はセイアちゃんのいる部屋の鍵を解錠し、その扉を開けた。
セイアちゃんは眠ったままだった。
「セイアちゃんまた寝ちゃったの?確かにやることは無いだろうけど……」
おかしい。
「セイアちゃん……?」
セイアちゃんは私がこのセーフハウスから出ていく前の姿のままだった。多分、動いてない。ベッドの横の机にある書き置きも、その他の物も、何も動いてない。シーツのシワや髪の毛、尻尾の散らばり方にも見覚えがある。
もしかして、一日ずっと眠ったままだった……?
急速に体の熱が下がっていくのを感じる。サァっと何かが失われていくような、何か大きな間違いがあったような、そんな気がして。
「セイアちゃん!セイアちゃん起きて!起きてよ!」
肩を揺すっても、いくら呼んでも、セイアちゃんが起きてくれることは無かった。
私は震える手でスマホを取り出す。急いで操作して電話をかけると、何度目かのコール音の後に繋がった。
『ミカ、何かあったのか』
「セイアちゃんが起きないの!」
『なに?』
「あの手拭いに染み込ませた薬、本当に大丈夫だったの!?」
『ああ、アレはただ意識を失うだけだ。個人差はあれど長くて数時間もすれば目を覚ます』
「じゃあなんで!?あれから一度も目を覚ましてないの!」
『なんだって?いや、それはおかしい。そんなことある訳が……息はしているか?心臓の鼓動に違和感は?』
セイアちゃんの鼻と口の前に手をかざすと、微かに吐いた息がかかる。それに呼吸に合わせて胸も上下してるし、胸に耳を当ててもとくとくと心臓は動いてる。
「多分大丈夫。ずっと眠ってるだけだと思うんだけど……」
『なら命に別状はないはずだ。しばらく観察するしかない』
「そっか、そうだよね。……ごめん、少し取り乱した」
『いや、構わない。何かあったらすぐに連絡してくれ』
「うん、ありがとう」
そうして電話が切れる。その瞬間どっと疲れが出たような気がして、体が重く感じた。
「セイアちゃん、早く起きてよ」
声も何も届いてないことは分かるけど、そう言わずにはいられなかった。
でも、セイアちゃんは次の日もその次の日もこうして眠ったままだった。
アズサ
自分の知らない世界を夢見させてくれたミカの友人を守るために力を貸す。
セイアをセーフハウスへ匿った次の日には転校生としてトリニティ内へ。
アリウスを騙すことは上手く行きそうだが、その先を考え焦っている。
ミカ
アズサの協力のもと、セイアをセーフハウスへ。
セイアが起きないことへの焦燥感と、周囲に黙っていることへの罪悪感で情緒がどんどん怪しくなっていく。
本小説ではあまり補修授業部がメインで出てこないと思います。平和に勉強会してる所とか青春してる所とかはあんまりね?
私だって書きたいさ!マリーとセリナが参加し、ハナコがハナコしてない状態の補修授業部とか興味ある!でも!それを書いてたらマジで進まないんだ!許せサスケ!
あと感想と高評価ください。(豹変)
なんぼあってもいいですからね。モチベに繋がる繋がる。ニヤニヤ教授して見てますから。無いと勝手にへこみます。