成り代わりセイアは未来が分からない 作:ロリコンではない。好きな子がロリなんだ。
不思議な方でした。
『ソレ、見ていて楽しいかい?』
"いつもの私"に疲れてぼーっと噴水を眺めている時、彼女はそう声をかけてきました。端から見たらきっとその時の私はおかしい人だったのでしょう。ピクリとも動かず、ただ噴水だけを眺めて。
ふと気の緩んだ瞬間を誰かに見られてしまったことに焦りながら振り返ると、そこには百合園セイアさんが立っていました。
ただ、その声や表情には私を馬鹿にする意図もなく、かといって心配するような素振りもなく、興味本位で私に声をかけたのだということが分かりました。
ですので、私はいつも通りに返しました。美しい噴水に見惚れていたのだと、素晴らしいものなのだと、心にも無いことを並べて当たり障りのない返事を導き出して。
『そうかな。私はそうは思わない』
けれど、彼女にはその言葉が一切届いていないようでした。
『私は捻くれているからね。"そうあるべき"として作られたソレを"そうであるから"と評価はできない。もし私が評価するのならば、その相手はこの噴水を手がけた張本人だろうよ』
彼女は噴水を見ていました。私を見ていませんでした。それだけを語って、彼女は去っていきました。けれど、私の胸の中には彼女の言葉がずっとずっと残っていたのです。
意味のないやり取りだったのでしょうか。ただの世間話の一環なのでしょうか。たったそれだけのために、面識のない私に声をかけるものなのでしょうか。
なんとなく、彼女の存在が気になりました。
次期サンクトゥスのリーダー、そして次期ティーパーティ。そんな彼女の言葉を意味のないものとして放り捨てることはできませんでした。
けれど、私が答えに辿り着かなくとも日常は続く。いつものように仮面を被り、いつものように周囲に溶け込む。毎日毎日毎日毎日。
うるさいくらいに投げかけられる称賛の声、無責任に放たれる期待の言葉、見知らぬ人からの勧誘。それらを一身に受け止めて、けれど驕った様子は欠片も見せず、謙遜もしすぎず、事を荒立てず、時には相手を褒めて顔を立ててあげるのです。
周囲に味方なんて居ないそんな毎日に耐えられるはずもなく結局また疲れて、今度は一人、あの噴水の前にやってきました。理由は特にありません。なんとなく、ここなら休めると思ったのです。そう思った理由も分かりませんが。
静かに噴水を眺める。
水の音が鼓膜を揺らし、陽の光を浴びて水が煌めく。
特別綺麗だとは思わない。
見ていて楽しくはない。
けれど、どうしてか私はこの噴水に戻ってくる。
「やあ、また会ったね」
いつの間にか、私の隣に彼女が立っていました。彼女も私と同じように噴水を眺めています。
「お久し振りです、セイアさん」
「ああ、久し振りだね」
それから会話はありませんでした。二人静かに噴水を眺めて、時間が来たのかいつの間にか彼女は居なくなっていました。
また、一人。
……。
あまり長居するものでもありません。私も早々に切り上げて噴水から離れていきました。
そんな毎日を繰り返していました。
仮面を被る日々。それに疲れたら噴水へ赴き、たまに出会う彼女。それを繰り返し繰り返し繰り返して、ほんの少し、ほんの少しだけ踏み込んでみることにしました。
「セイアさん」
噴水を前に私達は顔を合わせることもしません。彼女の顔色は分かりません。私が噴水を見ている横で彼女の目がどこを見ているかなんて、そんなことも分かりません。
でも、それが少し楽でした。
「なんだい?」
「どうして、私の所に来るのですか?」
忙しいと話していたはずです。ええ、その立場のことを考えたら当然です。忙しくないはずがないのです。けれど、彼女は度々私の所へ訪れました。何も言わず、ただ挨拶だけをして隣に立っています。
不思議でした。意図が分かりませんでした。既にそんな彼女の行動も日常になりつつある中で、けれど聞いてみたくなったのです。
「私がそうするべきだと判断したからさ」
しかし、彼女の返答はあまりに返答とは言えないもので、要領の掴めない返しに私は困り果ててしまいました。
「……意味が分かりません」
「ふふ、そうかもしれないね」
それで、終わり。それ以上の答えを教えてもらうことはできませんでした。自分で考えろということですか?それともこれまでのはただの気まぐれ……いえ、それにしてはあまりに無駄な時間を費やしています。
「セイアさん」
「今度はなんだい?」
「セイアさんは、毎日楽しいですか?」
「ふむ……そうだね。私には友人がいるし、楽しくないとは言えないな」
「そうですか」
「ああ」
しょうもない質問です。何も得られない、意味のない質問。どうしてこんなことを聞いたのでしょうか。私は彼女に何を求めているのでしょうか。まさか、こんな私の同類を探そうとでも?彼女も私のように悩みを抱えていて欲しいとでも?
チラリと見えた己の汚い感情に強い自己嫌悪を覚える。抱えるべきではない感情を振り払うべく一度瞳を閉じて、一息入れてから再度瞳を開けます。
ふと彼女の方を見ると、彼女はそんな私を見ていました。
「君は、見ていて楽しくなさそうだけどね」
「……」
言葉に詰まる。だって、その通りですから。仮面を被ろうにももう遅い。彼女の瞳は私を貫いて離さない。いつもの私にはなれない。体が思うように動かない。言葉が発せない。
蛇に睨まれた蛙のように、私はただその場で固まっていました。
『ソレ、見ていて楽しいかい?』
なのにどうしてか、初めて出会った時の彼女の言葉が頭に浮かぶ。あの日の彼女が今の彼女に重なる。噴水に対して言っていた筈の言葉が、私に突き刺さる。
『"そうあるべき"として作られたソレを"そうであるから"と評価はできない。もし私が評価するのならば、その相手はこの噴水を手がけた張本人だろうよ』
なら、あなたは私をどう評価しているのですか?周囲の期待に応えるべく仮面を被る私を、あなたはどう思っているのですか?この仮面を手がけた張本人は周囲の同調圧力か、過度な期待か、汚い派閥争いか、それとも弱い私の心か。
目の前にいるあなたは、私の何を見ているのですか?
「ハナコ、疲れたのなら休めばいい。君は少し張り詰めすぎだ。四六時中周囲に合わせる必要なんてない。いや、むしろ君が周囲に合わせる必要なんて無いと思うのだけれどね」
「……」
それができれば苦労はしませんよ。だって、ここでは常に誰かがいて、私は、期待されていて……そもそも、この政治だらけの空間では何をしようとも……
「君のソレは才能さ。周囲の空気を読み取る力、最適解を弾き出す頭脳に実行してみせる胆力、さらに結果を引き寄せる実力もある。君はもっと自分に自信を持った方がいい」
「自信……ですか……?」
「君が周囲を見るんじゃない。周囲に君を魅せるのさ」
何を言って……
「君がしたいことをすればいい。君の嫌なことはしなければいい。批判の声も結果で黙らせろ。全て実力で捻じ伏せろ。君にはそれができる」
「そ、そんなの……」
「君は自分を低く見積もりすぎだ。私は君を高く評価している」
面と向かって目線も逸らさず、己の想いを全て私にぶつけてきました。抱えきれない、受け止めきれないそれは、それでも私の心に届いたような気がして。ずっしりと重かった筈の心は、幾分かラクになっていて。
正面からの真っ直ぐすぎる想いに思わず顔を背けて噴水の方へ視線を向けると、やっぱり目の前に映るそれは何も楽しくなかったです。面白みのない、ただつまらないだけのモノ。
あぁ、なんで私はこんなモノに固執していたのでしょうか。
それ以降、私はその噴水に足を運ぶことはありませんでした。
「セ・イ・アちゃん♪今日もいい天気ですね〜」
「ハナコ、暑いのだが」
ガバっと後ろから抱き着くと、セイアちゃんは気怠げな声を上げて首だけでこちらを振り返りながら見上げます。ジト目のセイアちゃんはもう見慣れちゃいました。
「いいじゃないですか、私達の仲ですし」
「はぁ、それが君のしたいことなのかい?」
「もちろんです」
「……なら何も言うまい」
諦めたように前を向いたセイアちゃんでしたが、その先にはうるさいお姫様ミカさんがいました。
「あー!!ちょっと!!そこは私の場所!!」
ズカズカとこちらにやってくるミカさんは私に抗議の目線を送ります。とはいえ、私が離れる訳でもないのですが。
「ミカさん、残念でした♪」
「ハナコちゃんズルい〜!!」
ぎゅっとセイアちゃんを抱きしめると、ミカさんは悲鳴のような声を上げます。ふふふ、先にセイアちゃんを見つけた私の勝ちですね。
「二人とも、朝から騒がしいな……」
この世界のハナコはセイアの助言通り自分のしたいことをして嫌なことはしなくなりました。ちゃんと結果と実力で周囲を捻じ伏せ、派閥争いにも関与しない態度を示し続け、周囲に諦めさせました。強い。
全てを投げ捨てるように弾けたわけではないので服は脱ぎません。というかセイアに嫌われたくないのでそもそも脱ごうともしませんし下ネタも言いません。
なんだ、ただのつよつよヒロインか。
なお、セイア本人は全然状況が良くならないハナコに焦り(このままだと退学するのでは!?!?)を覚えて思っていることをブチまけました。ちょっとは前向きになって欲しかっただけだと弁明しています。
その後、原作と違う様子のハナコが爆誕して困惑している模様。お前のせいだぞ。