成り代わりセイアは未来が分からない   作:ロリコンではない。好きな子がロリなんだ。

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君は「引力」を信じるか?


これは本当にただの友愛なのか

私は次期サンクトゥスのリーダーではあるが、そこまで真面目に次期リーダーとしての活動をしていないというのが現状だ。まあ、仰々しく活動とは言ったものの、今できることなんてコネ作りや根回し程度のものがほとんどだがね。

 

私にとってはそんなものどうでもいい。サンクトゥスの派閥がどれだけ幅を利かせられるかなんて、そんなことよりも学園規模、世界規模の事件について考えていたほうが実に有意義だ。……何か解決策が思い浮かぶ訳では無いのだが。

 

とはいえ、それで全てを放棄していいということでも無い。あまり適当しすぎるとリーダーを降ろされてしまうかもしれないからな。そうなってしまえば原作破綻どころの話じゃない。その先はまったくの未知数だ。情報を仕入れることすら難しくなるだろう。

 

つまり何が言いたいかというと、ある程度は次期リーダーとして顔を売る必要があるのだよ。もちろんそういう活動をしているという身内へのアピールの意味も込めて、ね。はぁ、本当に面倒くさい。

 

……。

 

よし、サボるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という訳で、今日も少しお邪魔させてもらうよ」

 

やって来たのはシスターフッドの管理する聖堂。ここなら全ての条件を満たせる。中立の立場であるシスターフッドへ顔を売っているように周囲に見せ、信仰深さもアピールできる。しかもあまり人がごった返すような場所ではないからサボるのにうってつけだ。実に素晴らしい。

 

「そ、そうですか。我々はいかなる理由でも訪れる者を拒みませんが……」

 

それに今日は運がいい。私がサボる目的でちょくちょくここに訪れていることを知っているサクラコしかここには居ない。堂々とサボることができる。同年代の人間というのも気が楽だ。

 

「もちろん祈りも捧げておくさ。世界平和でも願ってね」

 

「ええ、それは大変素晴らしい祈りですね」

 

割とマジな祈りなのだけれどね。この祈りが届くといいのだが……神なんてものがこの世界にいるのなら、だけど。

 

「ところで、どうして今日はサクラコ一人なんだい?いつもは少なくとも三から五人程度居るはずだが」

 

「他の方は皆ボランティアの方へ向かわれました。聖堂を空ける訳にもいかず、本日は私が」

 

「そういえば今日は地域清掃の日だったか」

 

精が出るね。シスターフッドの面々は真面目ないい子ちゃんが多い。トリニティ内でもかなりの安全地帯だろう。ドロドロとした派閥争いを避ける人がシスターフッドの門を叩くこともあると聞く。まあシスターフッド内でもイロイロあるようだが……。

 

シスターのお手本のように真面目なサクラコもボランティアへ行きたかったに違いない。いや、真面目だからこそ一人残る選択が出来たのかもしれないな。

 

「じゃあ、少し祈りを捧げてくるよ」

 

「はい、どうぞ気の済むまで」

 

そんな長時間やらないが?でもそう言われるとパパっと終わらせることに謎の罪悪感のようなものが生まれるんだよ。そういう作戦か?相手の心理を逆手に祈りの時間を増やそうって魂胆か?

 

……いや、それは流石にシスターとしてアウトか。サクラコはそういうことしないだろうしな。仕方ない、いつも通り少し長めに祈っておくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、これでもうやることはなくなってしまったが……ここまで来て今から戻るのもナンセンスだ。それだと私がここまで来た意味が薄い。少し話し相手になってくれるかい?」

 

「話し相手ですか?」

 

「ああ、こういう言い方は悪いが君も暇だろう?私達以外人っ子一人居ないんじゃあね」

 

「それはそうですが……」

 

私の一切包み隠さない言葉選びに苦笑いのサクラコだが、否定もできない状況だからな。今日は本当に珍しく私達以外誰も居ない。

 

まあ、わざわざ己の時間を削ってまで祈りに来るような信仰深い人はそう多くないということか。普段祈るようなシスター達はボランティアに行っているというのもあるだろう。

 

「なに、友人同士の雑談とでも思ってくれ。別にこの会話をもって派閥争いにシスターフッドを巻き込む意図はないよ」

 

「ええ、それは知っていますよ。セイアさんはそのような事をしない御方ですから」

 

どういう御方だと思ってるんだ。サクラコからの印象とか絶妙に気になるな。あのシスターフッドの長になる人物からの印象だぞ。割と大事なことじゃないか?

 

「なんとも信頼してもらっているようだね」

 

「こうして何度もお会いしていますからね。それに、友人ですから」

 

おや、私が友人というワードを出したことに反応しているのかな?かわいい奴め。真面目でお堅いサクラコは信頼足る人物ではあるが、その第一印象のせいか初対面の人からは避けられやすいからな。勿体ない。

 

最初の頃のサクラコは私相手でもまあお堅かったからね。いや、私相手だから余計か?私のサボり歴も長いからなんだかんだ顔を合わせる機会も多いしもう長い付き合いだ。今は適度に肩の力が抜けているようで私も嬉しいよ。

 

サクラコと仲良くなることにデメリットなんて考えられないからな。サクラコ本人が義理人情に厚い人物であるし、シスターフッドとの関係が良好であることのアピールにもなる。しかもサボれる。完璧だ。私の目に狂いは無い。

 

「なるほど、確かにそうだ。次期シスターフッドの長と友人だなんて私も鼻が高い」

 

「セイアさん?何を言って……」

 

おっと、シスターフッド内ではまだ次の長を決めていないのか?もしくは先輩達の中では決まっているが発表されていないだけだろうか。まあ、原作云々が無くともサクラコが適任なのは外野の私でも分かる。

 

ここまで真剣に、真面目にシスターとしての活動に取り組むような人間はあまり居ないぞ。周囲からも信頼されてるしな。

 

「君程の人物なら恐らくなれるだろう。君は敬虔なシスターであると同時に、私の友人なのだからね」

 

「……ふふ、セイアさんには敵いませんね」

 

うむ、柔らかないい表情をしている。そういう顔が出来るのなら将来的に周りと壁が〜みたいな悩みは起こりにくいんじゃないだろうか。原作のような悩みも発生せず、穏やかにシスターとして活動していけるだろう。

 

我ながらとてもいいことをした。数少ない私の成功体験かもしれない。お互いwin-winだな。

 

 

 

 


 

 

 

 

セイアさんに初めて出会った日の事を、今でも覚えています。きっと忘れることは無いでしょう。

 

 

あの日、新入生だった私は聖堂内の廊下や窓硝子などの清掃をしていました。私達がこれから三年間祈りを捧げる場所、まずはそこを自らの手で綺麗にするのだと教わり、私以外にも同年代の方々は皆意気込んで清掃に取り組んでいたように思います。

 

それは数日かけて行われました。広い聖堂を隅から隅まで綺麗にするのはかなりの時間と労力がかかったものです。

 

ですが、同じ志を持った仲間達と協力したあの時の一体感、実際に聖堂を隅々まで綺麗にした時の達成感、その後に行った祈りの充足感。シスターとしての一歩を確実に踏み出したあの日の記憶が、今の私の活力になっているのです。

 

そうして、気持ちを新たに仲間達はポツポツと帰路に着きました。翌日からようやく始まるであろうシスターとしての本格的な活動に胸を弾ませて。

 

けれど、私はどうしても帰る気になれなかったのです。わざわざ最後の戸締りの役を引き受けてまで。

 

何日もそこを清掃していたのですから、もう見慣れたはずでした。壁や床の模様も、細かな傷も、窓硝子の構造も、椅子の配置も、光の差し方も。全てを知っているはずなのに、誰も居なくなった聖堂に私の心は惹きつけられていました。

 

数秒か、数十秒か、もしかしたら数分その場に居たのかもしれません。

 

「ほう、随分と綺麗になったものだね」

 

ぼんやりと立ち尽くす私の隣には、感嘆したように声を漏らすセイアさんが立っていました。けれど、その時の私は聖堂に目を奪われていて隣に立つ人が誰かなんて全く考えていなかったのです。

 

「ええ、素晴らしい景色ですね……本当に……」

 

「ふふ、いい顔をしているね。まるで新しいおもちゃを買い与えられた子供のようだ」

 

「っ!?なっ、そ、そんな顔してましたか……?」

 

「ああ、心踊って仕方ないとでもいう風にね」

 

そこで初めて隣に立つ人の顔を見て、思わず絶句したのを覚えています。

 

「っ……せ、セイアさん……」

 

「おや、案外パッと見ただけで気付くものなんだね。既にそこまで知れ渡っているのか。まあ、家柄というものはこの学園で切り離せるものではないか」

 

新入生の中で最もサンクトゥスのリーダーに近い御方。入学する頃から既に噂は広まっていました。他にもナギサさんやミカさんの名前すら、その時点で知れ渡っていたのです。

 

全く関係のない私が知っている程、と言えばそれがどれだけのことか簡単に想像できるでしょう。私とは比べ物にならない立場に立ち続けてきた人が、私の目の前に立っている。それだけで無意識のうちに手に汗を握っていました。

 

「ところで、君以外この場に居ないのだが入ってもよかったのかな?誰か居るだろうと思っていたが、ここまで誰にも出会えなくてね」

 

「え、ええ、おそらく大丈夫だと思うのですが……いったいどのような御用で……?」

 

「わざわざ聖堂まで来てすることといったら一つしかないだろう?」

 

「お祈りですか?」

 

「ああ」

 

端的に応えたセイアさんはそのまま聖堂の奥へと足を運んでいきました。その背丈よりも一回り大きく見えるような堂々とした立ち振る舞いに淀みない足使い、優雅という言葉がピタリと当てはまる姿。

 

その後ろ姿を見て私はどこか納得していたのです。噂されるだけの人物であると。姿勢というのはその人そのものを表すと耳にしますが、それを強く実感した瞬間でした。

 

そうして、セイアさんは静かに祈りを捧げていました。私とセイアさん以外誰も居ない聖堂で、窓から差し込んだ光がセイアさんを優しく包み込みます。

 

僅かにオレンジがかった光を受けて純白の衣装が輝き出し、所々にあしらわれた金の刺繍がその存在を主張しています。艷やかな髪には天使の輪っかが浮かび上がって、風の音すらしない静寂の中、私の瞳に映るその光景がまるで一枚の絵画のように思えて――

 

 

 

 

「……ふぅ、こんなところかな」

 

セイアさんが祈り終わるその時まで私は一歩も、いえ、指先すらも動かせずにいました。こちらに向かってくるセイアさんに声をかけることも出来ず、ただ立ち尽くすばかり。

 

「おや、わざわざ待っていてくれたのかい?」

 

「……ええ、私が最後でしたから」

 

水分の足りない口内ではなんとか言葉を紡ぐことが精一杯でした。

 

「なるほど。これはお邪魔してしまったかな?」

 

「い、いえ、そういうことでは……そ、そもそも私が許可を出したようなものですし、その……」

 

先程の光景が脳裏に焼き付いてどうにも回転しない頭でしどろもどろになりながら弁明していると、セイアさんは手を口元に持っていってくつくつと喉を鳴らしていました。

 

そんな姿にもどうしてか目が奪われてしまうのです。

 

「ふふ、そう本気にしなくてもいい。軽い冗談さ。君は真面目だね」

 

「そ、そうでしょうか」

 

「ああ、そんな真面目な君は不真面目な私を見習うといい」

 

「ですが、セイアさんは不真面目では……」

 

目の前に立つセイアさんのピシッと伸びた背筋は本人の意識の表れですし、今目の前で見せた祈りからも不真面目なんて印象は一切受けませんでした。

 

よく分からないままその言葉を否定すると、セイアさんはニヤリと笑って一歩私の方へ近付きました。

 

「せ、セイアさん?」

 

ズイッと顔が近付けられて、思わず仰け反りそうになります。ですがそれはそれで失礼な対応になりそうで、どうするのが最適解かも分からずただ目と鼻の先にあるセイアさんの顔を見つめていました。

 

「ふふ、こう見えても私は結構不真面目だよ。現に派閥争いあたりで面倒になったからここに逃げてきたのさ」

 

それは、私には分からないものでした。シスターフッドとして中立の立場にいる私には理解しきれないもの。けれど、やはり立場が立場なだけに相応の苦労をしておられるのだなと察せられます。

 

「まったく、私は新入生なのだから持ち上げられたところで出来ることなど限りがあるというのに。まさか大量にやって来る人間を全て来年再来年も正確に覚えているとでも?実に馬鹿馬鹿しい。随分と暇な人達なんだろうよ」

 

「……」

 

そう言ってのけるセイアさんの顔は少し疲れていそうな感じでした。なんと言えばいいのか分からず黙り込む私でしたが、次の瞬間にはその表情は鳴りを潜めて、今度は悪戯な笑みではなくほんのりと笑いながら私の胸元に指先をトンッと置きました。

 

「少しお喋りが過ぎたね。今話したコレは、私と君だけの秘密だよ。その胸に仕舞っておいてくれ。分かったかい?」

 

「は、はい」

 

まるで幼子に言い聞かせるような柔らかな口調で、するりと言葉が耳に入ってくるのです。

 

その表情も、私に触れたその手も、鼓膜を揺らすその声も、有無も言わさず私に「はい」と言わせるだけのナニカがありました。意識せずとも、私の口は勝手に返事をしていたのです。

 

「うむ、いい返事だ。もし誰かに告げ口でもしようものなら私が君を罰さないといけなくなってしまうからね。ところで、君の名前は?」

 

「う、歌住サクラコ、です」

 

「――――そうか、いい名前だね。君とは長い付き合いになりそうだ。また来るよ」

 

そうして、セイアさんは私から離れて聖堂から去っていきました。思わずセイアさんが祈りを捧げていた聖堂の中心部へ視線を向けると、誰も居ない伽藍洞に差し込む光だけが見えました。

 

先程までは美しいと思えた光景が、どうしてかその時の私にはポッカリと穴が空いたような、何かが物足りないように感じたのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間にすればそう長くはないやり取りは、一年以上経った今でも鮮明に思い出せます。

 

やはりセイアさんがサンクトゥスのリーダーとなるのは今では殆ど確定のようなものらしく、周囲は決定事項として話を進めているようです。

 

それを聞く度に一介の生徒である私との差が、間にある距離が開いていく実感があります。セイアさんは私を友人と呼んでくれますが、あの日、ただ偶然居合わせただけの私が果たしてセイアさんの友人足り得るのでしょうか。

 

もしもセイアさんの話していたようにシスターフッドの長になることが出来たのなら、セイアさんとの距離も縮まるのでしょうか。隣とまではいかなくとも、近くに立つことができるのでしょうか。

 

自身を不真面目だと評したセイアさんはそれでも業務に手を抜くことはなく、学園内でふと見つけた際には周囲に集まった多くの生徒の対応をしていました。

 

たしかにセイアさんの立場を考えての方達も見受けられましたが、それ以上にセイアさんを慕っている方が大勢居たのです。尊敬や好意が入り混じった視線、言葉。セイアさんの周りに集まった人達がセイアさんの人間性をセイアさん以上に表していました。

 

口では面倒だと言っておきながら、それでも誠実に対応してきたのでしょう。誰であろうと、それこそあの日の私のようにただの一生徒に対しても。

 

不真面目なんてとんでもない。それは全てセイアさんのこれまでの努力が、誠実さが実を結んだものです。それを私達は知っています。知っているから応援したくなるのです。近くに居たいと思うのです。

 

けれど、私は派閥に属していません。私の進む道とセイアさんの進む道が重なることはありません。

 

それでも、祈るくらいなら私でもできます。中立だとか派閥だとかそんなものは関係なく、ただ遠い所を進み続ける友人に、祈りを。

 

 

 

どうか、セイアさんの歩む未来が幸福に満ちた世界でありますように。

 




この世界のサクラコはセイアによって鍛えられた表情筋と対話術により、怖がられることが減っています。(たまにある模様)
初対面時の謎に雰囲気あるセイアの祈りが脳に焼き付いているため、今もセイアが祈りを捧げている間はその姿を見逃さない徹底ぶり。仕事してね。

なお、サクラコが意を決して"周囲の方と親しくなるにはどうすればよいのか"と聞いた際、セイアが柔らかく笑いながら「やっぱり君は真面目すぎるな」なんて言って相談に乗るイベントがあるとか無いとか。




シスフモブちゃん達から見た、セイアと仲良く対等に(主観)会話してるサクラコの異常さ。モブちゃん達からしたら、既にサクラコも"そっち側"の人間なんだよね。サクラコは気付いてないけどね。長になれる器なんだよね。
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