成り代わりセイアは未来が分からない 作:ロリコンではない。好きな子がロリなんだ。
初めはお堅そうな子だなぁって思ってた。
背筋もピシッとして歩き方もキレイで所作の一つ一つから優雅さみたいなものが滲み出てたし、周りに色んな子達が集まってた時の受け答えとか話し方だってなんか大人っぽいし。
余裕のある笑みを浮かべて、集まった子達を落ち着かせながら一人一人の話を聞いてあげて、先輩達相手ですら物怖じせずに対応できて……本当に同じ一年生だとは思えなかったもん。
私もナギちゃんも一応そういう立ち振る舞いとかは教えられてたけど、それでも明らかに一段違ってた。雰囲気っていうか、オーラみたいなやつなのかな。それが当時のティーパーティと比べても遜色ないどころか、もしかしたらそれ以上だったのかもしれない。
ナギちゃんはそんなセイアちゃんの振る舞いを参考にしてたりしたっけ。当時はセイアちゃんのことを"上に立つ者として理想的な御方"だなんて言って、すっごい尊敬してたんだよ?自分を見直したりしてさ。私は、ちょっとそこまでやる気は出なかったけどね。
私達はリーダー候補で一応接点というか共通点はあったんだけど、派閥が違うしナギちゃんみたいに幼馴染ってわけでもないから話す機会も無くて。人も集まってるから行きにくいのもあったかな。
そんな状況が入学からしばらく続いてたから、すれ違った時に話しかけてくれたのは本当にビックリしたよ。
私は政治的な部分はナギちゃんに大きく劣ってる自覚があったし、セイアちゃんみたいなカリスマ?とかも無いって分かってた。てっきりセイアちゃんのような人には私なんて眼中にないと思ってたのに。
『ごきげんよう、聖園ミカ』
『へ?あっ、うん、ごきげんよう……』
落ち着いた、品のある声。対して素っ頓狂な声を上げる私。この時点で大分逃げたくなっちゃったけど、でもセイアちゃんは一切笑わずにお話を続けてくれた。
『こうして話すのは初めてかな。以前からコンタクトを取ろうとは思っていたのだが中々機会がなくてね。挨拶が遅れてしまった』
『そうなの?』
『ああ、君や桐藤ナギサは私と同じく入学以前から話題になっていたからね。コンタクトは取っておくべきだろう』
『うん、私達もそう思って話しかけようとはしてたんだけど行きにくくて……』
『ああ、
『分かる〜、なんか周囲の目とか対応とかね〜。それにセイアちゃんは特に人気者だもんね』
『勝手に期待するのならば、少しくらい私のことを気遣ってくれてもいいとは思わないかい?』
『ふふ、それはそうかも。いつも人がいっぱいいて大変そうだもん』
少しだけ愚痴っぽく冗談めかして話すその姿はどこか人間味があって、こんなすごい人でも私みたいな感性を持ってたりするんだなぁって思ったり。まあ多分、私より色々とマジメに取り組んでるんだろうけど。
出会ってすぐの会話が愚痴なのはどうなのかなって今になって思う所はあるけど、でもそれがきっかけでセイアちゃんに親近感が湧いたのも事実だし……仲良くなれるかもって、思ったんだよね。
『ねえねえセイアちゃん、モモトーク交換しない?折角だしさ』
『もちろん構わない。むしろこちらから願い出るところだったよ』
それで、私とセイアちゃんは連絡先を交換したんだよね。そこから私経由でナギちゃんとも連絡先を交換して、三人のグループが出来たの。
その数日後に私とナギちゃんとセイアちゃんの三人でお茶会を開いたんだ。ナギちゃんとセイアちゃんの顔合わせが主な目的だったかな。
だからって二人ともヒドいんだよ?私が二人を紹介したのに、二人でずっと喋ってるんだもん。少しくらいは私の事を考えてくれたっていいのに。
『ごきげんよう、桐藤ナギサ』
『ごきげんよう、百合園セイアさん。噂はかねがね伺っております』
『噂か。出処が分からない情報はあまり鵜呑みにしないでくれよ』
『もちろん分かっていますよ。セイアさんの噂が本当なのかどうかはこれから共に過ごしていくことで分かるでしょう』
『おや、もしかして試されているのかな?』
『まさか。そのような意図はありません。私はセイアさんを尊敬していますから』
『尊敬?まだ出会ったばかりだが……』
『セイアさんの在り方は私の理想とする上に立つ者の在り方です。是非近くで学ばせていただきたく』
『私はあまり特別なことはしていないよ』
『ほう、特別な意識はせずとも自然に振る舞えるほど身に付いているということですか。やはり素晴らしいですね』
『……まあ、好きにするといい。私なんかが君の見本になるとは思えないがね』
それから先も長々と二人でお話しちゃってさ。ナギちゃんなんて私がいることを忘れちゃってるんじゃないかなって思うくらい私の方をぜーんぜん見ないでセイアちゃんに夢中だし、セイアちゃんもナギちゃんのお話に付き合ってるから私の方に意識を向けてくれないし。
『……』
私は一人でムスーっとしながら紅茶とお茶菓子を摘んでただけだもん。なーんにも楽しくない。二人の会話をBGMに適当にティーカップの縁を指でくるくるとなぞってると、それに気付いたセイアちゃんがナギちゃんとの会話を切り上げた。
『ナギサ、この辺りにしておこうか。私達は随分長いことお姫様を蔑ろにしていたらしい』
『あ……そうですね。すみませんでしたミカさん』
『別にー?楽しく二人でお喋りしてていいよー』
『い、いえ、ミカさんもお話しましょう?ね?何かお話ししたいこととかはありませんか?』
『知らなーい』
ずっと放置されてた腹いせに投げやりに返すと、ナギちゃんは困ったように眉尻を下げていた。でも、そんな私達を見てセイアちゃんは笑ってた。
『ふふふ』
『セイアさん?』
『いやなに、先程まで上に立つ者の在り方がどうのと語っていたナギサがミカの機嫌一つでタジタジになっているのが面白くてね』
『う……』
『なんか、私がナギちゃんを困らせてるみたいな言い方じゃん』
『ああ、すまない。そういうことが言いたい訳では無いよ。ただ……そうだね、お互い他派閥のリーダー候補であるにもかかわらず気の置けないやり取りができるというのが興味深かったのさ。これも幼馴染という関係性がなせるわざかな』
『『……』』
微笑ましいものを見るような笑みを浮かべてそんなことを言われるとなんだか気恥ずかしくて、私もナギちゃんもセイアちゃんに何も言えなくなっちゃった。
年の近いお姉さんに見守られてるのってこういう感じなのかな。恥ずかしいけど、でもなんだか安心感みたいなのがあって不思議な感じ。いや、同年代なんだけどさ……。
『……んんっ、それはそれとして、折角のお茶会ですし紅茶とお茶菓子も楽しみましょうか』
逃げた。思わずナギちゃんの方を見ると、ナギちゃんは私から顔を逸らす。
『ああ、そうだね。折角用意して貰ったのだから楽しもうじゃないか』
ナギちゃんが逃げたことを知ってか知らずか、セイアちゃんは目の前に置かれたクッキーに手を伸ばした。
いや、多分ナギちゃんが逃げたことを知ってて見逃してくれたんだと思う。私でも分かったんだもん、セイアちゃんが分からないはずがないし。こういう自然に気遣いができる所も大人っぽいんだよね。
『……ふむ、紅茶の茶葉が練り込まれているのか。良い香りがして美味しいね』
感心したように言うセイアちゃんの方を見ると、顔を綻ばせながら頭上にある大きな耳がピコピコと動いてた。あれ、すごいかわいくてさ。
美味しそうにサクサクと食べ進めるセイアちゃんはさっきまでのお姉さんみたいな雰囲気から一転、その背丈通りの小動物みたいな幼い雰囲気になってるの。
これがギャップ萌えってやつ?狙ってるのかな?って思ってたら……
『ん?二人は食べないのかい?』
心底不思議そうに小首を傾げながら言うセイアちゃんの姿があってさ。そこでもう分かったよね。「あ、これ
仲良くなれて良かったとも思ってるけど。
懐かしい記憶を思い起こしていると、いつの間にか近くにはセイアちゃんがいた。
「ミカ、どうしたんだい?一人でニヤニヤして」
「なんかその言い方はやだなぁ……」
「事実だろう?」
こういう所は気が利かないんだから。人が悩んでたりするとすぐ気付くクセに。
「乙女にニヤニヤしてるとか言っちゃダメなんですー」
「む、そうか。すまない」
ナギちゃんやセイアちゃんを見てるとね、私でも分かるんだ。私って政治に向いてないなぁって。私の理想や希望を伝えるとナギちゃんが難しそうな顔するんだもん。多分突拍子もないことを言ってるんだろうね。
でもさ、2人みたいに資料とかの情報とにらめっこしてウンウン考えて案を出すのってつまんないんだもん。その案を通した場合の周囲への影響とか、リスクの大きさとか、反発が無いかとか。
そういう話を聞いてると「こうしたらもっと簡単なのに」とか、「なんでこんな回りくどいことをしないといけないの」とか、そう思っちゃう。
だから私の案はぜーんぶ直球。多分、理想のカタマリ。だからナギちゃんの表情が曇るの。私の言ってる事が実現不可能で、それを私に伝えないといけないことが分かってるから。幼馴染で仲の良い私の案を全部断らないといけないから。
でも、セイアちゃんは違うんだ。どんな話でも一旦私の案を聞いてくれるの。全部、本当に全部。なんでそう思ったのか、それでどう問題が解決するのか、私の思ってることを私の気付いてない所まで深堀りして。
それでね、無理なものは無理ってちゃんと理由も含めて言葉で教えてくれるの。私に分かるように言葉を選んだ上で。
大体全部の案が駄目なんだけどさ、「どうやって傷付けないように断るか」じゃなくて「私の話のどこが駄目でどうそれを伝えるか」を考えてくれるんだよ。結果は全部却下だったとしても、これってぜんぜん違う。
ナギちゃんが悪い訳じゃないの。そもそもは変なことを言い出す私のせいだし、幼馴染で仲良しだから余計言いにくいのかもしれないしね。むしろ、セイアちゃんがそういう役割を買って出てくれてるような気もする。
「あ、そうだ。少し気になってたことがあるんだけど聞いてもいい?」
「ああ、構わないよ」
でも、だからかな。少しセイアちゃんが人気者な理由が分かった気がする。ギャップだけじゃない、セイアちゃんの良さ。
セイアちゃんはね、相手の事を理解しようとしてくれるの。私だろうと、ナギちゃんだろうと……多分、役職も何もない普通の生徒達に対しても。上辺だけじゃなくて、ちゃんとその本人のことを。
このトリニティで本気で自分の事を理解してくれる人なんて滅多にいない。本当に仲の良い友達以外はそんなこと基本的に望めない。派閥がどうとかそんなことばっかり。自分の立ち位置と相手の立ち位置ばかり気にしてる。
だからあんなに人が集まるんだろうね。だから皆から慕われるんだろうね。セイアちゃんが明確に自分達より立場が上だから。その上で肩書きや立場なんて関係なく、純粋に自分を見てくれるから。
「セイアちゃんはたまに私のことをお姫様って言うけど、どうして?理由とかあるの?」
「理由か。考えたことも無かった」
「ナギちゃんには言わないよね?立場的には同じなのに、なんで私だけ?」
「ふむ……その言葉が君に似合っているから、だろうか」
「へ、へぇ〜、そうなんだ……」
あと多分、こういう所。
直前までは普通の顔してるのに、というか今もいつも通りの顔してるのに急にそういうこと言ってくるんだよ?どういう思考回路してるの?恥ずかしげもなく言うから照れてるこっちがおかしいみたいじゃん。
なんか、ズルい。
「無意識のうちに出てしまっていたらしい。嫌ならやめるよう意識してみるが、不意に出てしまうかもしれないね」
「別に嫌とかじゃないけど……」
無意識のうちにってことは、本当にそう思ってるってことでしょ?なんでこう、ね?なんで私を目の前にしてそういうこと言えるのかな。「あの子はお姫様っぽいなぁ」なんて普通思わないよね?私のことどう思ってるんだろ。
「ふふ、同級生からのお姫様扱いは少し恥ずかしいかい?」
そうなんだけどそうじゃないっていうか、いっつもこういう所はニブいっていうか……察せられるのもそれはそれで恥ずかしいし、セイアちゃんらしいからいいけど。
この二年間でいつの間にかセイアちゃんの周りには色んな人が集まっていた。普通の生徒達も、正義実現委員会の人も、シスターフッドの人も、救護騎士団の人も。他にもいっぱい居るのかもしれない。才能がとか天才だとか持て囃されてた話題の一年生のハナコちゃんまで気付いたらメロメロにしてたし。
そういう人達にもこういうこと言ってるのかな。
誰に対しても同じような対応してるのかな。
私達は同じティーパーティ兼派閥のリーダーになる者同士なのに。
他の子達よりも長い時間一緒に居たのに。
セイアちゃんの優しいところもかっこいいところもかわいいところもいっぱい知ってるのに。
セイアちゃんはもう私のことを幼馴染のナギちゃんくらい知ってるのに。
それなのに、セイアちゃんにとっては大勢居るうちの一人なのかな。
「ミカ?どうかしたかい?」
「……ううん、なんでもない」
「そうかい?それならいいんだが……何かあれば気軽に言ってくれて構わないよ。私もナギサも、いくらでも力を貸そう」
「うん、ありがとう」
やっぱり優しいなぁ。自分が困ってても全然私達を頼ってくれないのに。頼りないのかな。信頼されてないのかな。話を聞くだけでも力になれるんだよ?解決しなくても、話を聞いてくれるだけでいいの。
気付いてないかもしれないけど、セイアちゃんがいつも私にしてくれてるんだよ。私にもさせてよ。力になりたいだけなの。
でも、何も言わない。こんなこと言ったらセイアちゃんをもっと困らせちゃうだけだもん。それはイヤ。セイアちゃんの周りの子に嫉妬しちゃってるのも、力になりたいけどさせてくれないことにモヤモヤしてるのも、全部全部私の胸の中にしまっておくの。
でもね、こうして心配してくれるのは嬉しいんだ。私の事ちゃんと見ててくれてるんだって思って。細かな変化に気付いてくれるんだって。それで嬉しくなって、でも力にはなれないんだなって悲しくなって。
……。
正直に話しちゃえばいいのにね。セイアちゃんなら困ったように笑って、それでもお話を聞いてくれるって知ってるのに。それだけで私のちっぽけな悩みなんてカンタンに解決しちゃうのに。
でも、こんなこと考えてるってセイアちゃんに知られちゃうのはちょっとイヤだなぁ、なんて。そうやってなんにも解決しないまま嫉妬もモヤモヤも増していって、心配されてちょっと嬉しくなっちゃって、何も言い出せなくて。
……我ながら面倒くさいなぁ、私って。
ミカ
至近距離でセイアの魅力を受け続けた人。
ナギサのように尊敬から入った訳ではなく、最初から等身大のセイアを見て等身大の自分をセイアに受け入れられてきた被害者。
セイアから稀にポロっと「お姫様」と呼ばれることがあり、その言葉の裏に含まれる意味を考えては枕に顔を埋めている。
面倒くさい。
セイア
周囲に集まってくる生徒達に心の中で面倒だと思いながらもイメージダウンを避けるため丁寧に対応してきたが、そのせいで周囲に集まる生徒が減らないどころか増えた。
「どしたん話聞こか」をちゃんと話を聞くだけで終わらせる人。
記憶の影響で「ミカ=お姫様」の図式が完成している。
ふと思い浮かんだ小ネタを供養しときます。謎時空謎空間です。フリーレンを見て思い浮かんでしまったのです。
〜皆の前で一発ネタをすることになったセイア〜
「一発ネタ……?まあ、やってみるが……」
とはいえ、何も思いつかん。あ、アレでいいか。セイアと言えばアレだろう。じゃあ、アレに繋げるためには……うむ、これでいこう。
右手を口に添え、静かに佇む。僅かに腰から上を前に倒して前傾姿勢になり――
「ちゅっ♡」
投げキッスをした。
「「「「は?」」」」
「セクシーセイアですまない」
「「「「あ゛?」」」」
圧こわっ。
いや、言ってみたかっただけなんだ。そんな怖い顔しなくてもいいじゃないか。まさか、投げキッスはセクシー判定ではないのか!?くっ、とはいえやり過ぎると品が無いしな。下手なことをして私の印象が下がるのは困る。
でも、なんかみんなの目が怖いんだ。ガンギマってない?もしかして、やったか?コレ……。
〜続かない〜