成り代わりセイアは未来が分からない 作:ロリコンではない。好きな子がロリなんだ。
「ハナコ、ここはどう解けばいい?以前のやり方ではどうもできそうにない」
「あら、その式の場合そのままだと以前の解法は使えないですよ。ほら、この部分が以前教えたものとは形が違いますよね?」
「ああ」
「こういうときはこのように式変形をして形を整えてあげれば……」
「なるほど、こうすれば解けるようになるのか。ありがとう」
「ええ、気軽に声をかけてくださいね」
今私の前で机に向かっているのは白洲アズサちゃん。最近トリニティに転校してきたらしいです。本人は真面目で受け答えも素直ではありますが、学力を見るとどうやって転校するための試験を突破したのかが気になります。
ここは腐ってもお嬢様学校。転校となるとそれ相応の資格が必要になります。家柄がかなりよければそれでよしとなる場合もありますが、そうでない場合は試験による学力の検査は必須。
例外として芸術センスなどの一芸に秀でているものがあれば別枠での転校ということもあり話は変わってきますが、そういったものが当てはまるとは到底……。
ならば、アズサちゃんはどうやってこの場所に?
考えられるのは誰かの力を借りること。そこそこの地位に立つ人間であれば人一人転校させるくらいは出来るでしょう。そこで問題になってくるのはそれをやったのは誰かという点。
アズサちゃんをトリニティに転校させて得をするような権力のある人間、そんな人がいるのでしょうか。アズサちゃんの受け答えや仕草を見るに普通ではない環境で過ごしてきたとは思うのですが、アズサちゃん側からその誰かに何かを提供できるとは思えません。
場合によっては……。
……。
いえ、考えても分かりませんね。情報が少なすぎます。せめてアズサちゃんの出身地が分かれば話は別なのですが、それを聞き出すには関係性がまだ希薄。ここは焦る所ではありません。
今はまだ。
「ハナコさん、今少しいいですか?」
「ええ、構いませんよ
ヒフミちゃんに勉強を教えていたセリナちゃんが私の方へと近付いていました。困った様子でもありませんし、どうしたのでしょう。
「いえ、何かあったという訳ではないのですが。ヒフミさんは今のところ問題なさそうなので、アズサさんの進捗はどうなのかなと思いまして」
「そうですね、やはり転校前の学校のカリキュラムが異なる影響か、教科毎の理解度にバラつきがあります。そのため、どの教科も少し手前から進めていますよ」
「そうですか……やはり転校というのは大変そうですね。ヒフミさんは基礎もかなり出来ていますし、何かあれば私もお手伝いできますから気軽に呼んでくださいね」
「はい、ありがとうございます。解けない問題があったりしたらぜひ頼りにしますね♡」
「は、ハナコさんが解けないような問題は私も解けないとは思いますが……」
なんて優しいのでしょうか。自分はヒフミちゃんの勉強を見ているというのにその上でアズサちゃんの心配までしているなんて。こういった人がトリニティに増えればいいのに、なんて思ってしまいますね。
「あちらも順調そうですね」
その言葉につられてセリナちゃんと反対側を見ると、そちらではコハルちゃんに付きっきりで勉強を教えている
「こ、こう……?」
「はい、そうです。それで合っていますよ」
「じゃあ、これも同じ感じ?」
「はい、その通りです。素晴らしいですね」
「そ、そこまでじゃないけど……今やったやつと同じだし……」
「同じであると気付けている時点でコハルさんの身に付いてきているということですよ。自信を持ってください」
「そ、そうかな……」
あちらはあちらで見ているだけでほっこりしますね。私達相手にはツンケンしちゃうコハルちゃんも、優しく寄り添ってくれるマリーちゃん相手には普段の感じが出てなくて大人しくなっちゃうんです。
今、
外部からの転校生でカリキュラムの問題もあり少し教えるのに難があるアズサちゃんの対応に私が、あとは同年代同士ヒフミちゃんにセリナちゃん、コハルちゃんにマリーちゃんがついています。
先生役の全員が学力に問題はなく、素行もいい。補習授業部の三人のことを考えられた実に素晴らしい配役です。ええ、端から見ればそうでしょう。
ただ、あまりにも綺麗に所属がバラけています。綺麗すぎると言ってもいいでしょう。正義実現委員会、シスターフッド、救護騎士団、転校生、そして私とヒフミちゃん。六人いて全員が全員関係のない人達になるなんて、恣意的なものが無ければどれだけの確率でしょうか。
本当に補習授業部の三人のことを考えているのなら、少なくともコハルちゃんの先生役は同じ所属の正義実現委員会の生徒の方がいいとは思いませんか?ヒフミちゃんに関しても友人がそれなりにいるはずです。なぜわざわざ全く接点がない六人を集めて勉強会を?
それほど必死ということです。こんなあからさまなことをされて気付かないはずがありません。やはり、ナギサさんはセイアちゃんの行方不明がかなり堪えているようですね。
コハルちゃん、マリーちゃん、セリナちゃんはそれぞれハスミさん、サクラコさん、ミネさんへの牽制。そして転校のタイミング的に怪しいアズサちゃん、個人的に仲の良かった私とヒフミちゃんは直接補習授業部への関与という形で。
コハルちゃんやアズサちゃんはその学力を理由に、ヒフミちゃんはテストを受けていないことを理由に、マリーちゃんとセリナちゃんに関してはその人柄を鑑みれば勉強を教えてあげてほしいという
退学の恐れがあるコハルちゃんは当然として、マリーちゃんとセリナちゃんに関してもかなり危ない橋を渡っていますね。関係ないお二人を補習授業部へ関与するよう仕向けさせ、長時間身柄を拘束しているようなものですから。いわば人質です。
ナギサさん、これは悪手ですよ。あなたは各委員会の長達を敵に回しているということに気付いていないのですか?「あなた達のことは信用していません」と明言しているのと同義ですよ?
むしろ全方位に牽制しているナギサさんが彼女達に疑いの目を向けられてもおかしくはないのです。これではどう転んでも孤立していくだけ……。
マリーちゃんやセリナちゃんの善意を利用している時点で自業自得ではありますけどね。人を信じられなくなると自分の考えが全てになりますから、視野も自ずと狭くなるものです。それを指摘してくださる方はもう近くにいませんし。
とはいえ、少しだけ同情もします。ナギサさんの置かれた状況は考えうる限り最悪です。何も悪いことをしていない子達を巻き込むナギサさんの行いは到底擁護できませんし許せるものではありませんが、それでも……。
まさか一番近くにいる人が一番怪しい人物であるだなんて、思いもしないでしょうから。
セイアちゃんが学校に姿を現さなくなってから数日、セイアちゃんと特に関係が深かった私達は誰もが心配を胸に日々を過ごしていました。連絡も無いものですから、セイアちゃんの身に何かあったのではないかと。
ナギサさんも酷く疲れていましたね。精神的に参っていたのでしょう。けれど、あなたの側にいる人は、一番セイアちゃんのことを心配して取り乱してもおかしくない人は、もっと別の事を考えていましたよ。
たしかに何かを焦っていたような見慣れない姿は見ましたが、心配とはどこか違う様子でした。誰もセイアちゃんの安否すら分からない中、一人だけ……。
おそらく誰も気付いていません。ナギサさんの疲労が表面化する頃には彼女はナギサさんを見て心配そうな表情をしていましたから。早期に彼女の異常さに気付いた私だけが最も怪しい人物に近付けた。それだけの話です。
セイアちゃんに好意を寄せていた彼女が大きく取り乱すこともなく学園へ登校しているという時点でセイアちゃんの無事は保証されているようなものでしょう。
ならばセイアちゃんはどこにいるのか、目的は何なのか、それを知る必要があります。
もし盲目的にセイアちゃん本人を求めて連れ去ったのだとしたらわざわざ彼女が学園へ来る意味が分かりません。そのままセイアちゃんを連れてどこまでも逃げてしまうはずで、セイアちゃんに説得されたのだとしたらセイアちゃんも戻ってきているはずです。
やはり情報が少ないですね。彼女が一番怪しいという所までしか判明していません。こちら側から強引にでも彼女にコンタクトを取ってみるべきでしょうか。今は少しでも手掛かりを――
"みんな、残り三十分になったよ。最後の三十分、集中して頑張ろう"
……そうでした。今は勉強会の途中でしたね。
一回目の試験まであと数日、今の調子だと突破は厳しいでしょう。もちろん教えるのに手を抜くなんてことはしませんが、それでもコハルちゃんやアズサちゃんのスタート地点がかなり後ろ側にあったという点を考えれば仕方のないことです。
全体の監督をしているのはシャーレの先生。ナギサさんによってこの補習授業部の顧問になったようです。大体はナギサさんから説明を受けたとは思いますがどこまでこのトリニティの内情を知っているのかは不明。
どうせハリボテの理由しか説明されていないでしょうし、その理解度を推し量るのは難しいです。おそらくですが、一般の生徒達と同等の理解度と考えるのが妥当でしょう。
セイアちゃんは自らの事情で不在、成績不振の方達を救うべく補習授業部の顧問になってほしい、という感じでしょうか。まさか外的要因で姿を現さなくなっただなんて説明をナギサさんがするはずがないですから。
アズサちゃんの勉強を見ながらも思考を続けていると、パチンと先生が手を合わせる音が響きました。
"はい、今日はここまで。みんなお疲れ様"
「はい、お疲れ様です」
「お疲れ様です」
皆さん勉強道具を片付け、挨拶もそこそこに部屋を出ていきます。私も荷物をまとめていると、先生に呼び止められてしまいました。
"ハナコ、ちょっといいかな"
「構いませんが、何か気になることでもありましたか?」
何のことかと部屋を出る足が止まっているヒフミちゃんには気にしないようにと促しておきます。これで私と先生の二人きり。とはいえ特別何かがある訳ではありませんが。
"いや、さっき少しの間考え込んでいたようだからどうかしたのかなと思ってね"
この人は存外人のことを見ているのです。そして、それをしっかりと相手に聞いて寄り添うことも。そういうところはやはり'先生らしい'と言えますね。
しかし、退学をかけた勉強会を進めている先生にさらにセイアちゃんのことを伝えるというのはあまりに酷というもの。きっとあの疑心暗鬼なナギサさんのことで頭を悩ませていると思いますし。
そして何より、そこまで信用していいのかも分かりません。
「試験までの日数と勉強の進み具合について考えていました」
"そうなんだ。アズサはどう?進み具合的に大丈夫そうかな?"
「それは、少し怪しいですね。一度で合格するのはハードルが高いと言わざるを得ません」
"そっか。ハナコがそう言うのならそうなのかもしれないね。でも試験は一度じゃない、コツコツと積み重ねていこう。きっと合格できるはずさ。それに、もしかしたら一度で合格しちゃうかもしれないしね"
常に前向きな姿勢なのは好感が持てますが、なんともその言い方が引っ掛かりますね。私が言うのなら、と。まるで信用されているような……私、何かしましたか?まだお互いの理解はそこまでのハズですが。
「その言い方ですとかなり先生からの評価が高いように感じられるのですが……」
"ああ、ごめんね。見てた感じ勉強を教えるのが上手だったし、ハナコは頭が良くて頼りになると聞いたからつい"
「それは誰から聞いたのですか?」
なんとなく気になって聞いてみると、先生は困ったように眉をひそめてポリポリと頬を指で掻いていました。
"あー、それは……秘密かな?一応"
「秘密なんですか?」
"こういうの、勝手に言っていいのか分からないしね"
真面目というかなんというか。プライバシーを守るような感じなんでしょうか。たしかに人への印象を勝手に本人に伝えられていただなんて嫌でしょうから仕方ありませんね。私でもそれは嫌ですし。
"ごめんね、引き留めて。気を付けて帰るんだよ"
「ええ、さようなら」
"はい、さようなら"
こうして今日の勉強会は終わりました。こうして今日が終わりました。結局何も分からないままオレンジ色に染まる街中へと身を投じていきます。
……。
委員会や部活が終わる時間帯、人の話し声や笑い声で賑わう帰り道。すれ違う。追い越す。人混みに紛れて一人。そんな帰り道でも思考は続くのです。
補習授業部のこと。先生のこと。ナギサさんのこと。彼女のこと。セイアちゃんと仲の良かった方達のこと。セイアちゃんのこと。考えることでいっぱいで、次から次へと思考が切り替わり終わることがありません。終わらせることができません。
いつの間にか早歩きになっていました。止まれそうもありません。
肩にかけた荷物の紐を握る手に力が入っていました。痛みすら感じる手の力を緩めることはできません。
視界のほとんどが塗装された地面でした。上を見ようとは思えません。
それらがどうしてかなんて考えないようにしながら、私は一人家に向かいました。
コハル
普通に点数が足りなくて補修授業部へ。
ハナコ達には原作のようにツンケンしていたが、優しく丁寧に寄り添ってくれるマリー相手にその態度を続けることができず大人しく勉強している。
ハナコがダル絡みしてこないのでそこまで反発しないというのもあり、原作よりも態度が丸い。
アズサ
勉強を教えてくれるハナコに感謝している。
外部からトリニティに転校してきた割には学力が不足しているためハナコに疑われているが、ガチの容疑者()がハナコの脳内にいるためそこまでガチガチに警戒はされていない。「'一応'要注意人物」程度。
ヒフミ
案の定。
テストは受けてないし、多分懲りてない。
先生役が三人もいてそれぞれマンツーマンの勉強会が行われているため、悲壮感や危機感はあまりない。
セイアと連絡がつかない間は心配していたが、ナギサからセイア本人の都合で休みであると発表されて安心した。
マリー
ナギサに声をかけられ、力になれるのならと補修授業部の先生役へ。
シスターフッド、サクラコへの牽制として利用されているとは欠片も思っていない。
コハルの担当。
セリナ
ナギサに声をかけられ、力になれるのならと補修授業部の先生役へ。
救護騎士団、ミネへの牽制として利用されているとは欠片も思っていない。
ヒフミの担当。
ハナコ
ナギサから補修授業部の先生役について言われた時はもっと見るところがあるだろうと思ったが、ナギサの思い込みや疑心暗鬼で犠牲になる子がいるのは許容できないため受諾。
アズサの担当。
基本的に根が優しい善人が集まっている補修授業部に居心地が良いと感じている。
怪しいと目星を付けている人がおり、その人の振る舞い的にセイアは無事だろうと考えている。
一見冷静に見えるが、心の中の焦りや不安をとめどない思考で塗りつぶしているだけに過ぎない。
今にも問いただしたいが証拠や根拠がないため情報を集めている最中。
長時間拘束される補修授業部の先生役を受諾したことを心の何処かで若干後悔している。
我慢の限界はそう遠くない。
先生
先生。
私気付いた。これ、二年生編の段階で原作が崩壊しまくっているな??
そのせいでもう既に原作からズレていますが、こっからもうズレにズレると思います。なんなら別ルートすぎて原作なんてアテにならないね。筆は遅いです。ゆるして。
あいも変わらず感想や高評価お待ちしております。画面の向こうで私がニチャアって笑顔になります。多分歯茎出てる。