【新・青道高校 やる気:好調 体力:70 2年3月4週 残20週】
昨年秋、東京都大会を制して7年ぶりに選抜甲子園出場を決めた青道高校。
春の甲子園、通称センバツの八日目。
二回戦、日本庄野との試合を勝利で終えた青道高校はホテルに戻ってきた。
「取材、断ったんですか?」
「あまりに数が増え過ぎたので制限させてもらいました」
試合で疲れている選手達が一度各自の部屋に戻ったのとは別に、ホテルにまでやってきたマスコミを帰した片岡監督を出迎える落合コーチと太田部長と高島副部長。
「風浪がノーノ―をしてから取材陣が殺到してましたもんね。降谷の方にも取材が来てますし」
日本庄野との試合で先発した風浪力がノーヒットノーランを達成したことで押し寄せたマスコミのあまりの数に、太田部長は驚きと嬉しさが半々と言った様子で頷き、1回戦で2年生ながらも154㎞を記録した降谷目当ての取材が入っていたことを口にする。
「こういうのは慣れですからどんどん受けさせた方がいいですが風浪は慣れているようですし、注目はノーノ―をした時点でいっそ過剰なぐらいです」
「降谷も一々浮かれるタイプではありませんが、試合前日ですから今は下手な刺激をしたくありません」
「急に降って湧いたような風浪を明らかに意識してますからね」
1学年上ながらも長らく眼中にも無かったであろう右腕が 同じ剛速球を武器とするタイプに急成長して意識してオーラを漲らせていた降谷。
「か、川上も出場さえすれば……!」
「本来なら予定の球数に達すれば川上に交代する予定でしたが……」
降谷の姿を思い出していた落合コーチに部内一の川上憲史押しである太田部長に眼鏡の位置を調整する高島副部長。
「ノーノ―をやれそうな時に代えたらブーイングものですよ」
過去の歴史でも数少ないノーヒットノーランの記録達成を不意にするような交代をすれば甲子園を敵に回しかねない。
容易に想像できるイメージに落合コーチは苦笑を零す。
「正直、風浪くんがここまでやるとは思いませんでした」
「そうですか? 私が来た頃には、投手としても野手としてもそこそこ出来る選手でしたよ」
高島副部長の感想に落合コーチは一部同意しながらも違う意見があった。
去年の秋頃、次期監督として落合が来た頃からは投手も野手もやっていたが特に秀でた特徴のない、レギュラーではあるが器用貧乏タイプの選手だと思っていた。
「入学した頃は今とは違って小柄で華奢でしたから」
太田部長は、風浪が青道を選んだのはスポーツ推薦で入学が決まっていた御幸一也の誘いがあったからと続ける。
「入部して直ぐの1年対2・3年の紅白戦では、1回で15失点と上級生にメッタ打ちにされてました。それでも明るさを失わなかったのは凄いですが、やはり投手としてはリトル時代で終わったとみんな思ってましたね」
「御幸とのバッテリーでU-12で優勝したんでしたっけ? シニアでは全然噂を聞きませんでしたが」
「北海道に引っ越しして、中学の部活に入っていたようです」
北海道は遠いが全国大会などに出れば有名選手なので噂の一つぐらい出る。無いと言うことは周りに埋もれたということ。落合が来た時点で投手として目立つ存在では無かった時点で察しはつく。
「一年の夏後くらいから遅れて成長期が来たのかってぐらい背が伸びて、そこから徐々に頭角を現わしてきた感じですね」
風浪は一年時の身長が170㎝丁度で、同年の夏の予選で青道が敗退してから新チームが発足してから目に見えて身長が伸びたことを高島は覚えている。
「私が来た頃には、普通に能力があって便利な選手だったので少し驚きです」
落合が来た頃には既にレフトのレギュラーだったので最初は野手だと思っていた。とはいえ、野手としての評価は可も無く不可も無くといったところで、得点力を優先するならば長打力がある降谷を、守備力を優先するならば麻生尊と言ったように特徴は薄い。
しかし、2年秋より投手としてもカムバックしてからは、安定してイニングを食ってくれる
イップスだった沢村や、ムラが大きい降谷、イマイチ強みに欠ける川上と比べると安定しているのでもっと試合に出した方が良いと思うほどだった落合と違って、片岡監督からは野手としてはともかく、投手としての信頼はあまり無かったようだが。
「風浪の投手としての成長は落合コーチの指導があってのことです。ありがとうございます」
「『スペシャルメニュー』をしたり、『成長のきっかけがほしい』と言われたので教えたりはしましたが、ここまで伸びるとは完全な予想外でしたよ」
まるで今まで溜め込んでいた物を解放したかのよう。
特にオフの間の伸びは、前園や樋笠といったスランプに陥った者達とは反対の進化とでも言うべきほどの急成長。
片岡監督からの謝礼を受け止めた落合コーチは謙遜でもなく本心から言う。
「小さな出来事から爆発的な成長をする選手がいるとは聞いたことはありましたが、誰もあそこまで伸びるなんて予想していなかった、あの紅白戦までは」
対外試合禁止期間が明ける前の部内での1軍(A)vs1.5軍+2軍(B)戦。
Aの先発は降谷、Bの先発は風浪(当初はAのレフトに付く予定だったが、御幸の激押しで代わった)
Aの捕手は御幸、Bの捕手は小野
投手は長くとも3回縛りで、降谷と風浪の後はそれぞれ沢村と川島、最後に川上と金田に続くはずだった。
「それまで御幸くんが徹底的に隠していたので、お披露目となったあの試合でみんな驚いていましたね」
あの二人、一年の時から自主練の時に良く風浪が投げて御幸が受けていた。
気がつけば二人でいることを、部員のみならず大人勢も何度か観たことがある。
「御幸の、あのしてやったりの顔が今でも目に思い浮かびますよ」
「ああ、圧巻のピッチングだった」
球威はともかく降谷以上の速球に、キレキレの変化球。
神宮大会でバッテリーエラーを起こしてから、特に捕逸に関しては気をつけていた小野弘がキレ過ぎる風浪の変化球を後ろに逸らしてしまった。一度ならず二度までも。
傍目から見てもキレキレな変化球に、慣れている自分でないと厳しいという御幸の自己申告もあって、特別に風浪が投げる時に限って捕手交代となった。
結果、3回投げて三振6、凡打3の無四球。御幸が受けていたので打者は小野で、前園が大スランプだと発覚する前だったがスタメン相手にパーフェクトな投球内容。
その後の対外試合でも安定した成績を見せた。
センバツでの第二戦の先発を任せたのはそこら辺の理由。
「打者としても、今のところ成績は御幸以上。5番に据えて大成功でしたな」
「ええ」
対外試合でも、打者としても投手としての能力の飛躍と同様に上がり、御幸に迫る、或いは超える成績を出したので大スランプが発覚した前園に代わり6番に下がった降谷の前の5番に抜擢されたがこれが大当たり。
この二試合で 打っては打率6割以上、1本塁打、2盗塁。
投げては、ノーヒットノーラン。
「明日の巨摩大藤巻には、好調の降谷一人に任せていいのでは?」
エースの降谷は初戦で七回まで投げ、それから中四日空いているので休養は十分。
好調と言えば、ノーヒットノーランをした風浪もいるが、流石に前日に完投した投手を翌日にも登板させるのは怪我をして来いと言ってるようなもの。
「む、まだ川上がいますぞ!」
「甲子園に来てから沢村はパッとしませんし、川上もブルペンで今一乗り切れていない」
太田部長は妙に川上を押してくるが、相手は夏大会と神宮を優勝した優勝候補筆頭の巨摩大藤巻を相手に休養が十分に取れているエースを除けてまで登板させる理由はない。
「調子の良い者を優先して使う。甲子園を勝ち抜く上での鉄則だと思います。最悪、降谷が崩れた時は風浪を当てましょう」
連投になるが負けたら終わりのトーナメント勝負、終わるよりも次に繋ぐ。
青道高校首脳陣が話している頃、部屋の風呂で汗と泥を流した御幸と風浪が自分のベッドに座る。
「おめでとう、ノーヒットノーラン」
「ありがとう」
女房役からの賛辞に、乾杯したジュースを一気飲みする風浪。
「あんま喜んでないのな」
「嬉しいさ。でも、ノーヒットノーラン自体は何回もやってるし」
「て言いつつ、顔が崩れてるぞ」
風浪と違ってチビチビと飲む御幸が、気を抜けば緩みそうになっている風浪の顔を指摘する。
「誰が崩れてるだ! 笑っていると言え!」
「いや、変な顔になっててキモいから」
遠慮の無いツッコミによる客観での評価を下された風浪は鼻から息を漏らして空になったコップをプラプラと揺らす。
「長いこと鬱屈してたんだ。久しぶりのノーヒットノーランを甲子園で出来ればこんな顔にもなる」
「前やったのはリトルの世界大会だったけか。そこでパワプロシステムの操作にロックがされたから良く覚えてる」
「パワプロシステムって」
「お前の爺さん命名で、まんまのネーミングだろ」
風浪が生まれつき持っていたシステムを祖父が命名し、その管理を祖父の死後に任された御幸には特に名前を変える理由もない。
「いやまあ…………自覚はしてる。それ以上に振り回されてもいるけど」
「リトル時代はパワプロシステムのお陰で無双できたけど、中学時代にはロックがかかって成長が完全に止まってたもんな」
おおよそ小学生としては上限値の球速や身体能力に到達したが、ロックがかかったということはその時点からの成長が無い。
小学生としては身長170㎝は高いが中学生になればそれ以上は当たり前になってくるのに1mmも伸びず、球速も何もかも一切の成長が無い状態が続いた。
「お陰で北海道では散々失望され、後輩にも直ぐに追い抜かれた」
「その後輩が次の巨摩大藤巻の本郷だっけ?」
「ああ、正宗が二年に上がる頃には、もう遥か彼方に追い抜かれたよ」
「1年の夏で鳴と投げ合えるんだから妥当か」
どれだけ小学生時代の貯金があろうとも、成長が著しい中学生時代に全く成長の無い風浪は後輩に直ぐにあらゆる面で置いていかれる。
例えば去年の夏に巨摩大藤巻で一年生ながら甲子園決勝で、稲城実業高校のエースの成宮鳴と投げ合ったほどの本郷政宗にはかなり早い段階でエースの地位を奪われたことに寧ろ御幸は納得を深めた。
「そこは納得するんじゃなくて慰めろよ」
「今の能力なら勝てるんなら過去は匙だろ」
風浪はパワプロシステムを持っているからか、人の野球能力をたまに見ることが出来る。
開会式で偶然、会場で本郷と遭遇した際に現在の能力を見ていた――――こちらは手を上げたが普通に無視されて背を向けられた(円城が後ろで頭を下げていた)。
「コントロールとスタミナは同等だぞ」
「球速は上だし、金特の数が違うじゃねぇか。そこら辺のプロよりも絶対に上だぞ」
「高校レベルの金特がプロと比べられるわけないだろ。慢心するのはリトル時代で懲りてる」
「やっぱり酷かったのか?」
「そりゃあな……」
江戸川リトルで御幸と共に日本一となり、U-12の世界大会でも優勝した投手だったから期待が強かった分、失望もより大きかった。
「北海道に行ってもか。東京に残ってたらもっとヤバかったかもしれないな」
シニア時代に失望されたのは御幸も同じだった。
「俺も世界大会優勝バッテリーだからって無茶期待されて、その期待に十分に答えられたといえず失望はされたが東京でも最上位の捕手としての立場は揺るがなかった。それでもシニア時代には期待外れの目が向けられることはあった」
その頃のことを思い起こした御幸自身、期待が失望に代わるのを何度も経験しているので結構きついものがあったと風浪に深く同意する。捕手としては一学年上のクリスの方が明確に上だったから。
「青道でお前の球を受けた時、本当にパワプロシステムって残酷だと思ったよ。まさか安西先生にばりにまったく成長していないをやるとは思わなかった」
パワプロシステムのロックと同時に風浪の野球に関わるあらゆる成長は止まった。
身長も伸びず、どれだけ運動をしても身体能力は変動しない。
御幸が誘い、風浪が青道に来てから受けた球はリトル時代のパワプロシステムにロックがかかる前と一切の成長が無かった。ただ、経験点だけがどこまでも蓄積されていく。
「中学時代は基礎能力が全く上がらなかったからな。まだ1年の夏後に打者の基礎能力を上げられるようになっただけ良かったよ」
パワプロシステムの操作が出来なくなったのが突然なら、野手能力限定とはいえども能力を上げれるようになったのも突然だった。
「あの時は急だったもんな。稲実に負けて東先輩達が引退して新チームがって時に急に言われて、俺がどれだけ驚いたか」
「オレの方が驚いたわ!」
ロックが外れたと分かったのは本当に偶然で、ロックがかかっても気が向いた時に操作できないかとシステムを触ることがあって。突然のシステムの反応に風浪は文字通りひっくり返った。
叫ぶ風浪の当時の狼狽と興奮が混ざった顔を思い出した御幸の口から笑みが零れ落ちる。
「はは、お陰で基礎能力を上げれて結果を出せたから、試合に出れるようになって更に経験値を得られた。どうせなら全部S(100)にしても良かったんじゃね?」
「なんとなくその方が良いって思ったんだ」
中学三年間と高校一年夏まで使うことも出来ずに貯まった経験値。
一度ロックされたのならば二度目があってもおかしくはない。その恐怖にかられ、上げられるだけ上げてもなんら不思議ではない。実際、御幸はその提案をしたが風浪は退けている。
「中学に上がる時も東京の全寮制の所から推薦が来てたのに北海道に行った時も同じこと言ってたな。諸々、考えるとその方が良かったんだろうな。今回もそうだし」
選抜に来れた今ならばオフ期間の間に成長したで済ませられる。短期間の異常な成長は、今でさえ大分訝し気に見られているのに奇異の目を向けられるだろう。
「俺としては秋季大会の時にもうちょっとお前の能力が上がってれば楽が出来たはず」
二年秋の新チームになってからの諸々が解決する手段が目の前の風浪が能力をカンストさせてくれれば全て解決出来てしまう。球速はある程度上げたものの、野手能力と同じくコントロールとスタミナはどちらもC(60)止まり。
他に強みらしい強みは無く、安定はしているが強力ではない微妙な立ち位置。
良いところ投手としての地位は三番手から四番手。
能力をカンストさせれば瞬く間にエースだった降谷を超えることも容易だっただろうが、新チームでの問題の数々にぶち当たって乗り越えてきたからこそ今の自分達がいる。とはいえ、苦労は避けられるならば避けたい。
安易に頼りすぎてはいけないと分かってはいても消えない御幸の中にある矛盾した気持ち。
「『パワーヒッター』は御幸の希望で取っただろ」
二年夏後には投手能力のロックも外れて、そこからは投手野手関係なく各種特殊能力のコツも得られるようになった。
コツを得られたら際限なく取得するのではなく、最大の5まで上がるまで待つ。かと思えば、Lv1でも取得しているものもなる。金特で上位被りがある可能性もあるので出来るだけ取得を遅らせるのは分かるが、御幸にはその基準が全く分からない。
「大分渋ってたじゃないか」
そんな中で、御幸が野手青色特殊能力でコツLv.が4までしかない『パワーヒッター』を激押しして押し通した。
風浪はそれはもう渋ったが、前園がオフ後にスランプになり打線の中で長距離打者が御幸以外にいなくなり、打線に厚みが無くなってしまったから。
「初戦でホームランを打てたのはパワーヒッターのお陰なんだから、俺の選択は正しかったろ」
「うぅ、まあ、そうなんだが」
風浪が打った打球が柵を超えたのはかなりギリギリだった。本人も自覚しているので抗弁しにくい。
「俺の希望は渋る癖して、丹波さんのカーブは簡単に覚えてよ。まあ、終わったことはもういいんだが、次の巨摩大藤巻相手には本音を言えばお前に投げて欲しかったぜ」
有用だと御幸が取得を勧めても受け入れてくれたのは『パワーヒッター』だけで、かと思えば三球種目の変化球の習得を自分で勝手に決めてしまっている。
「降谷もみたいにセンバツに来てからデータが更新されたんだ。きっと大丈夫だって」
降谷は投手・野手能力どちらも上がっており、投手能力の赤特である『スロースターター』が消えている。
御幸の方は野手能力が大幅に上がっている。
「でも、基礎能力はまだ本郷には届かないし、まだ『四球』と『乱調』の赤特が残っている。これもお前が監督の信頼を得られていないからだぞ」
「信頼はされてるだろ。じゃなけけりゃあ二回戦の先発を任せてもらえない」
エースの背番号を背負っているのは降谷である。負けたら終わりの初戦にエースを当てるのは当然。
二回戦と準々決勝は一日おきだから連投はしない方が良いから降谷は温存された。エースを温存しても勝てると信頼されているとも言える。
「後少し信頼されていれば……!」
「夏から実質的なエースで秋には完全にエースだった降谷と、去年の秋から投手に復帰したばかりのオレとだと青道での実績が違う」
「分かってるよ、ただの愚痴だ。降谷はセンバツに来てから格段に良くなってる」
決まってしまったことはもう代えられない。能力を風浪経由で知っているだけに不安は残るものの、降谷の調子が良いのは事実なので腹を括るしかない。
「負けたら終わりなんだ。もしもの時は頼むぞ」
「ああ、打者として打ってみせる!」
「違ーう!」
御幸一也に出会った
御幸の評価が13上がった。
【御幸メモ】
名前:[不動の四番]御幸一也
選手能力『メインポジション:捕手/サブポジション:なし/利き腕(投球):右投/利き腕(打撃):左打』
野手ステータス
『弾:3 ミ:B[70] パ:A[80] 走:D[52] 肩:B[78] 守:B[75] 捕:A[87]』
特殊能力一覧
投手:なし
野手:金特 球界の頭脳/ストライク送球/不動の四番
青特 チャンス◎/意外性