東方精神崩壊【TOHO PSYCHO BREAK】 作:ランタンポップス
でもそんな残酷な事、スラスラ頭で描ける辺り、サイコブレイクのやり過ぎなんかねぇ(笑)
悲鳴と雄叫びが断続的に続くと、流石に長屋の住人は深夜と言えど、目を覚まし出す。人食い事件の背景もあるので、外には出ずに家の中から恐る恐る、「何だ」と様子を見に人々が窓より顔を覗かせる。
一人の勇気ある者が、事件性を疑い外に出たのだが、これが彼の運命を決める要因となってしまうとは、夢にも思わないだろう。
「逃げろおおお!!家から出るなあああああ!!」
家から外に出た一人の青年は、右手の道を通り過ぎて行く二人の男に気が付いた。すぐに自分の真横を走り抜けて行ったが、一瞬だけ見た限りでは気が狂ったような叫び声で喚き、この世の終わりでも見たかのような形相で走っていた。
「おーい!アンタら!どうしたー!?」
青年は二人の男を呼び止める為に、男たちが通った道へと「出てしまった」のだ。
「おおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「……ん?」
出てすぐ耳に入った、人間とは思えない唸り声。そしてつんざく轟音。
男二人が走って来た道を見てみれば、長屋の屋根に頭が届くほどの、圧巻の大男が目の前に立っていた。
どうやらそいつが、唸り声と轟音の主らしいが……
「ひ、ひひぃ!?な、何なんだぁ!?止まれぇ!!」
その醜悪な姿に、息が止まる。青年は、大男から放たれる迫力と狂気にやられ、足がすくんでしまったのだ。こんな生物が、この世に存在している事が信じられなかった。
必死に制止を乞っているものの、人の言葉など理解出来る者ではないらしく、大男は青年の目の前にまで迫った。
「あ……あぁ……」
両手に握っていた、巨大な刃。刀かと思えば機械的に出来ており、形容し難い轟音を散らして小さく鋭い刃が滑るように高速で回っている。
気付いてみれば、頭上にその刃が高速回転で振り上げられており、
「ぁ」
瞬く間に青年を、真っ二つに切り裂いた。
派手に臓物と血液が長屋のあちこちにぶっ飛ぶ。肉を切り刻み、磨り潰す音が機械的と混ざり合い、生々しくも重い音が遥か夜空に響く。
「うるせーなチクショー!明日早いんだぞゴラァ!!」
怒号をあげ、中年の男性が布団から起き上がった。安眠を邪魔され、短気な彼は鬼の形相で怒り心頭である。
音の原因を見て、説教の一つでもかましてやろうかと、男は窓辺にノッソリと、ブツブツと文句を呟きながら近付いて行く。
窓辺へ辿り着き、窓枠に手をかけ、木格子越しから外を覗いてみた。
「……ん?」
窓枠にかけた手に、妙な感触。ベチョリとした、湿り気と粘りのある柔らかい感触だ。気持ち悪い。
「何だ?」と思い、視線を手の方に写す。暗がりな上に、やや視力の弱い彼はぐっと掌を顔に近付けさせ、しかめっ面で睨み付ける。
すると、鼻を突く鉄臭い香り。
「クッセ……んだこりゃ?」
見てみれば掌にはベットリ付着した、赤黒い液体が滴っている。細やかだが、肉片も混じっている。
「…………血……か?」
窓の外から、大男が彼に向かって目をギラギラ光らせていた。
大男は、その家に突き刺すようにして刃を思いっきり突っ込んだ。木屑が飛び散り、窓が備わっている長屋の壁を粉砕する。
その木屑の中に混じり、多量の血が一緒に飛び散った。突き刺した先で、誰かが刃を食らったのだ。
「グモォォォォォォ!!!!」
刃の回転を一度止め、一気に引き抜いた。裂いて砕かれ、無残に破壊された長屋の壁には、破片も含めて血が生々しく付着している。
「ひぃ……!?」
大男の背後で、様子を見に来た隣人の女性が、小さな悲鳴をあげる。
小さな悲鳴とは言え、音の少ないこの場では良く聞こえる。ゆっくりと首を回し、大男が振り返った。女性と目が合う。
「あ……あ……」
あまりの恐ろしさで体が止まってしまっている。
女性に気付いた大男は、体を彼女に向け、刃を再度回転させた。そのまま例に違わず、女性だろうが容赦なしに彼女を切りつけるのだ。
「ば、ば、ば、化け物めぇ!!」
その横、家から持ち出したのか刀を取り、刃先を大男に向けて果敢にも立ち向かおうとする者が現れた。ただ、震えながら基礎すら踏んでいない構え方を見れば、非常なほどに滑稽。
大男は刀を見たところで動揺の色すら見せず、刃を回転させながら彼の方へと歩いて行くのだった…………
「この先を進めばもうすぐだ……」
慧音は長屋の方へ向かい、凄いスピードで大通りを低空飛行で飛んでいた。こうやって移動した方が、走るよりは断然速く里を回れる。
ここまで見回り中の自警団員たちに事情を話し、見回りを中断させ、住民への避難誘導を頼んだ。その時にリーダーの死の事を包み隠さず話した。
「そ……そんな……副団長も……」
「卑怯な奴らめ……クソがぁ……!」
「何で……何でこの二日で……親しい人が二人も…………」
「…………外道どもめ……」
話す度にみんな表情をひきつらせ、震え、怒り、膝から崩れる者もいた。一人一人に話すのが、とても辛かった。
しかし、悲しみに沈んだ彼らでも、里に危機の事を伝えれば颯爽と住民の避難に動き出してくれたのだ。
「あぁ、任せてくんなせぇ……これ以上、好きにさせるか……」
「我々に出来る事があるんでしたら……上白沢さん、従いますよ」
「今すぐにそいつらをぶっ殺してやりてぇが……里を守るのが俺らの役目だからな」
「任せて下さい……叩き起こして避難させまっさぁ!」
彼らの強さに、少し羨ましさを覚えてしまう。
今、彼らの協力もあり、向かって里の北部と西部の避難が実施されている。鐃を喧しいほどに叩き鳴らし、里のみんなを起こして避難させている。廃墟地帯のある南部から遠ざけるようにして避難させて貰っているのだ。
もしかしたら化け物はもう出現しないかも知れないが、それならそれで良い。「危険がある」と言われたからには、その危険を避ける行動を全力でするまでだ。
「あとは……この二人組だけか……」
この先にある、長屋の密集地を見回りしている団員が最後である。
ここまで異常は起きていない。化け物にも遭遇はしていない。順調だ。
「だが、何だろう……この胸騒ぎは……」
何か悪い予感が、彼女の中を巡っていた。冷たい氷の粒が、血流と共に流れているんじゃないかと思うほどに、ヒヤリとした感覚が、長屋に近付く度に強まって行く。
「まさか……」
嫌な想像が頭を過る。恐ろしい事が、この先で起こっているのか……と。
「…………気のせいであって欲しい……!」
次の角を曲がれば、長屋へ辿り着く。何でもない事をただひたすらに祈っている。
角に差し掛かった所で、暗闇から現れた誰かとぶつかりかけた。
「おっと!」
「ひぃぃぃ!!??」
寸での所で飛行を解除し、衝突は免れた。ただ、相手をかなり驚かしてしまった。どうやら人間の男性のようだ。
驚きからか男性は後ろへすっ飛び、尻餅をつく。
「だ、大丈夫ですか?」
すぐそばまで近付き、立たせてあげようかと、手を差し出した。
だが、相手はうずくまってガタガタと震えている。慧音の方をチラリとすら見向きしない。何かしらの要因があるかと思われるが、完全に自分の世界に閉じ籠っているようだ。
自分とぶつかりかけて驚いた、にしては大袈裟過ぎる反応。勿論、彼女はそれ以外男に対して何もしていない。
「どうしました?何が起きて……」
「ぁぁぁ……あぁああ……」
慧音の呼び掛けに、奇声で応じる。どうやら声すらも耳に入っていないのだろう。それほどショックな事でも起きたのか。
悪い考えが、再び舞い戻って来た。
「……落ち着いて下さい!私ですよ、上白沢慧音です!」
「うぁぁ…………ぅぁ……ぁ、け、けぇねさん……?」
彼女の名前を聞いた彼は、少しだけ冷静さを取り戻したのか、やっと彼女の顔を怯えた目付きで見つめた。
自身を見つめる彼は、見覚えのある顔であった。
「あ!君はもしかして、自警団の……!」
確か、最近入団したと言う青年だ。見回り開始前に、わざわざご丁寧に挨拶して来てくれたのを思い出した。
話し口調と表情から見て、かなり明るそうな印象だったのだが、目の前でうずくまる彼は全く逆の印象……人が違っているようだ。
二十歳だと伺っていた割に、プラス十歳以上も老けて見える。
「うぅぅ……」
「こんなに怯えて……何があったんですか!?」
目からは涙が流れ、鼻からは鼻水を滴らせ、口からは涎が溢れている。とても尋常じゃないその様子に、「悪い考え」の信憑性が増して来た。
「ばけ、ばぁ……ばばばばばば「化け物」が……化け物がぁぁ!!」
化け物と言うワードを聞き、体中を凍らされたような冷たさと息苦しさを感じた。フラリ、目眩を催す。
「う……ウソ……ここに……!?」
動揺する彼女をよそに、彼は勝手に錯乱状態へと陥って行く。
「とても、とても大きくて、とても大きな刃で血だらけで、とても……とてぇ……うあ、うあ、うわああああああああああああ!!!!」
「え?あっ、き、君ッ!?」
彼の叫び声で我に帰り、落ち着かせようとするが、気付けば彼は慧音を通り過ぎて大通りに走って逃げてしまった。
「そんな……ッ!!」
いても立ってもいられなくなった彼女は、長屋の上空へ再び飛び上がる。風が、肌へと当たる度に、心臓が締め付けられて行くようだ。
飛んですぐに、たくさんの悲鳴が大合唱のように響き渡った。
「うわああああああ!!!!」
「許してくれええええ!!殺さないでくれえええええ!!!!」
「イヤアアアアア!!死にたくないいいいいい!!」
長屋の住民たちが老若男女問わず、慧音の真下を通り過ぎて逃げて行く。恐怖で視界が前にのみ限定されているのか、誰も彼女に気が付かなかった。声をかける者もいない。
常軌を逸した怯え様に、炸裂した狂気さえも伺える。
「これは……!最悪だ、守ると言ったのに……!」
守れなかった自分を恨み、悔しさで拳が強く握られる。
化け物を討伐し、生きている人を助けなければならない。戦いの覚悟をしなければ。
逃げ惑う人々を見てみれば、正常な意識を持った人間は一人もいない。我先にと長屋を脱出しようとする、恐怖に溺れた人々だけがここに存在していた。
川が氾濫したような激流が如く、人の波で入り乱れている。誰もが混乱状態のせいもあって、逃走する人々の速度は空からみれば、酷く遅い。
「この先に敵がいるとなると……すぐに追い付かれてしまうぞ……!」
それに、逃げ遅れた者も存在するハズだ。
すぐに慧音は、逃げる人々の上を飛び、それに逆走して混乱の中心へと向かう。奥へ行くほどに人の密度は減って行き、最後には暗闇だけの通りへと変貌する。
ただ沈黙の世界ではなく、遠くなって行く人々の悲鳴と、逆に強くなって行く血肉の臭いが沈黙を掻き消す。
「うっ……!?」
嗅覚を震わせる強烈な臭いに思わず急停止し、地面へ降りる。
地面へ降りると、何かを踏んでしまったようだ。硬いような、柔らかいような物だ。泥でぬかるんでいるにしても、妙な感触。
そこで慧音はふと下を見てしまったのだが、ここで彼女は後悔する事となる。
「ん?……何か踏ん……で…………」
踏んでいたのは、黒く、粘着性を持った物体だ。
足を上げてみれば、潰れたそいつが血を噴き出した。その物体に繋がっている細い管を辿れば、何か大きな物体へと繋がっていたのだ。
暗がりで目を凝らせば、その物体には顔があった、腕があった、そして下半身がどこにもなかった…………
半分に裂かれた人間の死体から、内臓が投げ出されている。
「な…………ッ!!」
叫びそうになった口を塞ぐ。近くに敵が潜んでいるのかも知れない。
しかし、惨殺されたその死体を見れば、抑えきれない感情の嵐が心と言うより、頭で大暴れし出した。もう、気がどうかしてしまいそうだった。
「酷い……狂っている……!滅茶苦茶だ……!!」
全身を黒く塗り潰す、どす黒い感情が沸き起こる。怒りや悲しみなどが、一緒に同居しているような、ごちゃ混ぜの感情。
心臓の締め付けが一気にきつくなった。締められ、締められ、潰されてしまいそうだ。
「…………絶対に許さない……!!」
長屋に潜む化け物へ、底の見えない恨みを掲げ、彼女は夜闇の深淵へ歩いて行くのだ。
食事中に読む物じゃねぇな……
グロいのは寄生獣とジョジョで鍛えたが、自分で書くとなると辛いべ(苦笑い)