東方精神崩壊【TOHO PSYCHO BREAK】   作:ランタンポップス

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だいぶ、間が空きましたな。久しぶりです。
最近はサイコブレイクのDLCで毎日充実しとります。見計らったように皆様からコメントを貰いましたが、やっぱ私ってキーパー狂いですかね?(笑)
最近のお気に入りはライトウーマンです。カッコイイです


轟音とサディスト【Roar and Sadist】1

「テメェら顔覚えてんぞ!!自警団の奴らだなぁ!?」

「んなこたぁ、今関係ねぇだろ!!黙って里の北方面へ逃げろってのッ!!」

 どよめきと怒号響く、深夜とは思えぬ騒がしさ。自警団員たちによって鐃を鳴らされ、目を強制的に覚まされた里の住人たちは、不安と不満の混じった表情で先導されるがままに歩いて行く。

 

 突然な避難勧告ではあるが、「里に怪物が現れた」と言われたからには言われた通りに避難はする。

 この所、見えざる怪物によって、里には悲報しか起こっていない。故に、怪物に対する恐怖だけがどんどんと高まっている。「現れた」と言われればまず逃げる。当たり前だ。

 

 

 しかし、中には気性が激しく短気な者も存分する。自分の命の為とは言え、無理矢理起こされた事が気にでも食わなかったのだろう。

 北側へと長蛇の列を連ならせる人々の横で、一人の中年男性と自警団員が、離れていても耳が痛くなりそうなほどの大声で怒鳴り合いの口喧嘩を展開していた。横を通って行く人は、心底うんざりした顔をしている。

「もうちょっと気の効いた起こし方とか出来なかったのかぁ!?」

「怪物がすぐそこまで来てるってのに、んな事考えられるか!!それとも何だ!?怪物がそこまで来てんのに、一人一人肩揺すって「起きて下さい」と言って回れと!?」

 もう鐃がとやかくより、お前らの方がうるさい。……と言いたげに住民たちは二人の横を通る。耳を塞いでも手を突き抜けて来る怒号は、耳の穴に指を突っ込む事によってやっと聞こえなくなった。

 

 一方が大声で怒鳴るから、もう一方も更に大声で怒鳴ろうとする。そのボルテージはグングンと上昇し、こんな絶叫レベルの怒鳴り合いへと発展したのだ。

 最も、双方共に負けず嫌いな性格なのが一番の要因だとは思うのだが。

「そもそも怪物が出たってのが怪しいんだよなぁ!何か企んでんのじゃねぇの!?」

「んな訳あるかボケェ!?慧音さんが嘘つく訳がねぇだろうが!!」

 聞いている分には、何とも程度の低い言い争いに捉えられる。内容が元より黙ってくれと、睨み付けて訴えている住民たちだが、そんなサインに二人が気付くハズない。

「そんなにソイツが信用出来るのか!?」

「ハァ!?どー言う意味だ!?」

 中年男性は怒りで赤くなった顔で、今日一番の大声で高々に訴えた。

 

 

「アイツかて妖怪の仲間だろ!?信用なるかって話だ!!」

 箍が完全に外れてしまったのか、とてつもない事を言ってしまう。聞いてしまった住民たちの表情が、一瞬にして凍り付いた。

「…………んだと?」

 団員は怒鳴らず、低くドスの効いた声で聞き返した。

 場に張り詰めた一触即発の空気が、掴むようにして通りかかる人々をも巻き込んだ。肌を通じてヒシヒシと感じられるほどだ。

「だから、アイツも妖怪だろうがって!!実は裏で犯人と通じてんじゃねぇかって話だよダボがッ!!」

「もう止めてくれ」と願いはするも、二人の剣幕に割って入る勇気を持つ者は存在しない。

 完全に怒りに身を任した状態の男は、慧音に対しての懐疑を訴え、罵倒する。

 

 里のみんなは慧音の事を良く知っている。勘違いとは言え、里を守ろうとした事も知っている。故に彼女への人徳は厚い物であった。避難しているのも、彼女の指示だと知っているので住民たちは従っているのだ。

 なのに、慧音を「人喰いの仲間」と疑う者がいる事に対し、驚きを隠せない。しかしそれ以前に、彼女を慕う自警団員に向かって「その発言はマズイのではないか」と冷や汗をかいた。

 思った通りに、団員の表情に出ていた怒りは、深層から更に這い上がって来たかのように表れた。

「……てめぇ、その言葉は撤回しろやこの野郎!!」

 掴みかかってしまいそうな剣幕。このままだと、殴り合いの大喧嘩に発展しかねない。

 二人が怖いとは言え、このままの放置は危険だと判断し、一番近くにいた三人組の青年が止めに入ろうかと動き出した時、

 

 

「どうしたのですか?大声で怒鳴り合いをして」

……青年らより速く二人の間に割って入ったのは、一人の少女だった。

「げ……アンタは……!」

「……また貴方でしたか……感情を抑える努力をしなさいと言いましたよね?」

 中年男性の方は彼女と面識があるようで、顔を見るなり気まずい顔をする。話を聞く限り、以前から男の短気な性格を少女に咎められたようではある。

「最早、悪い癖ですね。考えよりも体が先に動く上に、根も葉もない噂をあたかも真実のように語る……憶測のみでしか動けないのですか?」

「だけどよぉ……」

「言い訳無用。周りの方々に謝罪した後、その方の指示に従いなさい」

 反発しようと食ってかかろうとするものの、少女にギロリと睨まれ、男は渋々引き下がった。その様子にホッとした人々だが、少女は次に団員の方へと目を向けた。

「え、えっと……」

「貴方の言いたい事は分かります。分かりますが、貴方までも感情的になられては困ります。人々の安全を確保するのが貴方の役割のはず。なのに口喧嘩でその役割を蔑ろにするとは、本末転倒もはだはだしい所です」

 困惑する団員をよそに、今度はクドクドと彼に説教を垂れ始める。そのまま「他者への迷惑は考慮しなかったのか」や「一歩下がった視点を設けるように」と言われた後、五分で彼は解放された。

「……あまり長く説いてはいけませんね、貴方には手放した役割に取りかかる責務がありますから」

「で、では、もうよろしくて……?」

「言いましたでしょ?貴方には大事な役割があります。今すぐに取りかかって下さい。さぁ今すぐ!!」

「は、は、はいぃぃ!!!!」

 高々と返事をした団員は、提灯片手に颯爽と避難誘導の任務へ駆け出した。さっきまでの喧騒が嘘のように止んだ事で、近場にいた展開の速度に着いていけなかった人々はポカンと少女を見ているしかなかった。

 

 

 薄紅色の髪にシニョンキャップが二つに、飾りの牡丹が胸元に咲くように着いてある赤をベースとした中華風の服が真っ先に目が行く容姿。整った顔立ちは満場一致の美人だろう。しかし、しかめた表情と生真面目そうな声色は何処か威圧的である。

 すると今度は誘導される人々の方へと顔を向ける。一瞬だけピクリと身構えてしまった人々。

 

「申し訳ありません。皆様の不安を助長させたかも知れませんが、自警団の方々の誘導の元、この辺りは私が警護致しますので安心して避難を継続して下さい」

 しかし彼女は打って変わった、幾分優しい表情と柔らかい声色で人々に謝罪をした。その変わり様に少しだけ戸惑ったものの、笑顔で「いえいえ」と会釈出来るくらいには安心感があった。

 それに、里の人々の殆どは彼女の事を良く知っているし、良くして貰っている。彼女が警護するとあっては、不安よりもホッとした安心が出てくるだろう。

 

 

 彼女の名前は「茨木 華扇(いばらき かせん)」。本来は妖怪の山辺りに住んでいる、「仙人」と称される少女である。性格は生真面目で厳格であり、先程のように説教を長々としてしまう性分だが、困った人を放っておけない温和で優しげな一面を持つ、才色兼備と富相敬愛の精神を持つ人である。

 気になるのは右手にキツく巻かれた包帯だけ。

「おーい、華扇殿ー!」

 遠くから手拭いを首に巻いた、五十代半ばの男性が彼女の方へ走って来る。着用している服と提灯で、自警団の者とすぐに分かった。

「あぁ、これはどうも。どうされましたか?」

「いやぁ、うちの若衆が山彦に負けず劣らずの大声で喧嘩しとるって聞いたんでね。この辺りの責任者なんで大急ぎでやって来たんですわ!まぁ、話を聞けば華扇殿が仲介したとの事でして、お礼をしようかと」

 結構な距離を走って来たのか元々が汗かきな体質なのか、男の顔中に汗が浮き出ており、シトシトと落ちるそれを手拭いに吸わしている。もう冬へ近付く季節だと言うのに、真夏のような暑苦しい熱気を放っている。

「いえいえ、私が勝手にしたまでであります。丁度、喧嘩をしていた者が顔見知りだったもので……特にお礼を言われるような筋合いは私にありませんよ」

「やや、御謙遜!いやはや、華扇殿が加わって下さり、なんと心強いか!慧音殿と妹紅殿とで、鬼に金棒でございますな!皆の士気も上がっとります、本当に感謝感謝の雨霰で御座いまする!」

「ど、どうも……ははは……」

 捲し立てるようにはやしたてる。太鼓持ちな性格なのだろうが、その性分は彼が商人である事も起因しているだろう。商人としてなら、申し分ない才能だ。

 彼の熱気に圧されそうになるものの、苦笑いをしたまま華扇は男に質問をした。

 

「それで、南方に現れた「化け物」についてですが、何か情報があればお聞かせ願いたいのですが」

 その質問を聞き、男は腕を組み、難しそうな表情で言葉一句一句を絞るように話し出した。てっきり「機密事項」と言われて断られるかと思ったのだが、意外とすんなり話してくれた。

「ふんむ……私が直接見た訳やないんですけどね、慧音殿が血相変えて我々に伝言して下さった訳なんです。それによると……」

 

 一瞬、朗らかで人の良さそうな男の表情が苦しげに歪んだのを華扇は見逃さなかった。メラリと目には怒りが灯り、悔しそうに口角を片方吊り上げ、唇を尖らせた。「何かがある」とはすぐに気付いたのだが、今は触れてはならない所だと察し、そのまま黙って彼の言葉を待った。

「……どうやらそこらの妖怪とは一目置いた存在との事ですわ。詳しくは急いでいたようなんで聞いていないのですがね、風貌がこれまた変わった化け物らしくてねぇ……」

「一目置いた?妖怪じゃないのですか?」

「いんやぁ、そこまでは実際に私は見とらんで分からんのですがね。あくまで、そう聞いただけでありまして」

 意味深げな慧音の言葉に、ただならぬ何かを感じとった華扇。

 彼女が自警団に参加したのはつい先程。自警団が慧音らと夜間に大掛かりな見回りを開始すると聞き、いつもはグッスリ眠っている時間なのだが様子を見ようとわざわざ里に来た訳だ。来てみれば里に大掛かりな避難誘導が行われており、自警団の目にかかった彼女が協力を依頼され、参加に到ったのがここまでの経緯だ。

 

 そもそも彼女が自警団の様子見に来たと言うのは、「今回の事件の犯人は悪霊ではないか」と噂されている所に注目したからだ。里で犠牲者が出る度に胸を痛め、自分も人間たちを守る為に何かするべきだと考えていた矢先、との理由もある。勿論、そちらも本心からの理由だが、やはり「悪霊ではないか」と言う所に興味が付いた。

 その強い興味の裏に、彼女が悪霊に対して並々ならぬ因縁が存在しているのだが…………

 

 

 何はともあれ彼女のそんな背景もあり、「一目置いた」の表現が気になって仕方なくなっている。

(しかし、彼が分からない以上は詮索は無理……か)

 男に何かを隠しているような素振りは伺えない為、本当に詳しい事は分からないらしい。一旦考えを打ち消した。

「そうですか……すみません、話を折ってしまいましたね、続けて下さい」

「へぇ、お気遣いどうも!えーっと、何処からだったかなぁ……あぁ、風貌でしたな!変わった風貌が、ですたな!」

 人指し指でこめかみをトントンと叩き、慧音の言葉を頭から捻り出すように思い出そうとする。あとは台本の台詞を読むようにして語り出す。

 

「聞いた限りじゃ、私も二度聞き返したんですがね?姿は人間なんです、人型の化け物だそうです。だけども変わったってのは何とソイツ、仮面を被って外来の銃で襲ってくるそうです」

「……え?」

 それを聞き、華扇は目をパチクリさせ、男に聞き返した。

「すみません、もう一度よろしいですか?」

「ねぇ!?聞き返すでしょう!?人型で仮面被った妖怪なんて、聞いた事ないですよ!!銃を使う事は存じておりましたがね」

 自分と同じリアクションを取った彼女に、嬉しそうに同意を求める男だが、確かに聞き返してしまいそうな変わった風貌だ。

 男は知っていたようだが、彼女は外来の銃を使う所も分からなかったので何が何だか……と言った状態である。記憶を掘り起こしてもそんな妖怪は見た事ないし、聞いた事も勿論ない。ましてや、そんな悪霊を見た事もない。彼女は再び質問した。

「人間……じゃないんですか?猟奇的な狂人の可能性もある……かと?」

「それは私も思いましたもんで、人型であって人じゃないんですか?って聞いたんですわコレが。すると次は人間なら動けるはずのない重傷を負っている上、目が光っていたとの事ですわ」

 もう分からなくなった。そんな妖怪や悪霊など知らない。それに、あの人間好きの慧音が「人じゃない」と断言しており、人間ではない事は信憑性が高いと思われる。それであっても、聞いただけではイメージ出来ないのに不気味な様と狂気的な物だけをイメージ出来るのが非常に気味が悪い。

 

 

 しかし彼女には、どうしても引っ掛かる事があった。それについて質問しようかと思ったのだが、

「おっとっと、お礼だけを言うつもりが、話し込んでしまいましたなぁ」

……どうやら男は持ち場に戻ろうとしているらしい。話を終着させた。

「ではではでは、私はこれにて失礼しようかと。あまり下の者に任しては先輩の面目潰れですな!ハハハ!」

「あの、一つだけ……」

 挨拶を交わそうとする彼をどうにか止めて、最後の質問だけでもと思ったのだが、その考えは悲鳴で消しとんだ。

 

 

「助けてくれぇぇぇぇ!!!!」

 さっきの喧嘩よりも大きな悲鳴。それも、一人二人ではなく非特定多数の人間の声だ。そちらの方へ目線を向ければ、夜闇の中から狂乱状態の人々が現れた。誰も彼もが顔を汗や涙でドロドロに汚し、転んででも走って来たのか、傷だらけの体だった。それが彼らの異常性をかもし出している。

「え!?」

 彼らの様子に驚きの声を上げた。避難を行っていた人々も鬼々迫る表情の彼らに驚き、本能的に避けていた。そんな中でも華扇は地面にうずくまってしまっていた女性に目を付け、近付いて話を聞こうとした。その背後を、団員の男がオズオズと着いている。

「落ち着いて下さい!大丈夫ですか?私がいますから安心して下さい!」

 まずはその人物を安心させる事から始まった。出来るだけ語気を抑え、優しく問いかけるようにする。

 

 

 しかし、

「アアアアアアア!!??触らないで、私に触らないでぇぇ!!!!」

「ッ!?」

……差し出された左手をバシリと払い除け、鬼でも見るかのような目で華扇の顔を見たかと思えば、それからはうずくまって震え、懇願するようにブツブツ呟くだけとなってしまった。

「うあああああ許して許して許して許して……死にたくない死にたくない死にたくない死にたくないぃ……!!」

「お、お嬢さん!どうなすったんですか!?皆さん、何事ですか!?」

 男が地面にへたれ込んだ人々に話しかけるも、完全に閉じ籠ってしまっているようで誰一人として耳を貸そうとしていない。

 彼らはいきなり現れたかと思えば、光の届く場所に着いたかと思えば塞ぎ込んだ。強烈な恐怖でも抱いているかのように、闇に対して怯えを持っているようにも見えた。

「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…………」

「うあぁぁ……俺が何をしたんだ……何でこんな目に合うんだよぉぉ…………」

「ウワアアアアア!!うっ……ウェェエエ!!」

 相当な恐怖を体験したのか壊れたように呟く者、ひたすら泣く者、叫ぶ者、嘔吐する者などが通りを遮断している。その数は十五人いるだろうか。

 阿鼻叫喚の地獄絵図に呆然と立ち尽くす人々の中に、華扇も入っていた。払い除けられ、ヒリヒリと熱を纏って痛む左掌を擦りながら。

(一体これは……何が起きた!?)

 見てみれば、左手が真っ赤になっていた。かなりの力を加えて叩かれた証拠だ。周りが見えないほどに怯え、自衛行為として自身の世界に閉じ籠ってしまっているようだ。こうなっては、心を開けようとすると敵と見なされ攻撃される。終いには恐怖から逆上されかねない。

 

「み、皆さん!!私は自警団の物ですのでどうか、ご安心を!!ホ、ほらほらアナタ!!」

「だ、駄目です!刺激してはなりません!!」

 そう分析した折に自警団の男はあろう事か、うずくまる初老の男性の肩を揺すった。華扇が忠告するも、時既に遅し。

「うあああああばば!!触んじゃねぇぇよぉぉぉ!!」

「ぐぅッ!?」

 思った通り男は逆上し、団員の首を掴んで締め上げようとする。その目に理性は感じられない、完全に恐怖によって狂気に陥ってしまっている。

「お、おい!!あんた何て事をしてんだ!?」

「おちつ……落ち着けって、落ち着けっての!!」

「うおお!?力強い!?」

 流石に往生していた人々も危険と判断したのか、若い者が三人がかりで男を抑えつけた。しかし三人がかりでも、恐怖に狂った男の力は凄まじい物で逆に引きずられている始末。それもそうだ、理性の箍が外れた者の力は時として下級の妖怪(下級とは言え人間の腕をへし折る位の力量がある)に匹敵する。数人がかりでやっとなのに、三人で止められるハズはないだろう。

 周りの人々もあまりの迫力に気圧されてしまい、成り行きを傍観するのみとなってしまっていた。

「し、仕方ありません……すみません貴方がた!その方を何とか押さえて下さい!!」

 見かねた華扇は、暴れる男を止める方法は説得と力技では不可能だと判断し、男の背後に回ったかと思うとその首元に当て身を食らわせた。

「申し訳ありません……ご辛抱下さい……!」

「ぐッ!?…………」

 謝りながら食らわせた当て身は見事に成功し、暴れていた男は項垂れてフッと動かなくなった。どうやら気絶したようだ。同時に首を締められた団員も解放される。

「ゴホッ!ゲホゲホッ!!あぁ、死んでしまうかと……!」

「無闇に体に触れてはいけません!!さっきの私を見ましたよね!?彼らの神経を逆撫でする事は決してしてはなりませんッ!!」

 鬼の形相で怒鳴られた彼はすっかりすくみ上がってしまい、「すいません……」と小声で呟いたかと思えば立ち尽くしてしまった。首には彼女の左手のように真っ赤な手形がクッキリと残っている。

 

 

 気絶させた男は、押さえていた三人の手によって近くの家に運ばれた。三人の内の一人の者がその家の主で、快くその人の為に家を空けてくれたのだ。その事に感謝しつつ、彼女は表通りを見渡した。

 今だ人々はガクガクと震え、うずくまっている。何かあった事は誰が見ても分かるのだが、何があったかも分からないし、どこから来たのかも分からない。聞こうにも先程の事がある為、無闇やたら聞けないだろう。

「……さて、どうするか……」

 顎に手を当て、アレコレと思案する。何か些細な事でも分かれば良いのだが……

 

「あんれぇ!?アンタ、博末(ひろすえ)でねぇか!?」

「あ、駄目ですお母さん!触れてはいけません!!」

 うずくまっていた男性に近付こうとした婦人を、済んでの所で引き止めた。

「な、何をなさるんですかい!?この子は私の息子なんですよ!?」

「心持ちはお察しいたします!しかし今は刺激してはなりません!我が子を思うのでしたら、今は心の整理をさせてあげて下さい!!」

 この理由では勿論、婦人も納得いかない様子であったのだが、華扇の熱心さが彼女を圧し、何とか留める事が出来た。変わり果てた我が子を見て、気が動転してしまった彼女にお茶を出して休ませてあげる事を頼み、家へと案内されて行った。

 

 

「可哀想な子だよ……何があったのやら、とても怖い思いをしたんだね……それに「里の東側」に住んでいるのに良くここまで来たもんだよ、なかなか距離があるのに……」

 男に連れられる最中に呟かれた婦人の独り言。何気無いその独り言を聞いた華扇の反応は素早かった。一旦、婦人を呼び止めた。

「あ、あの!息子さんは東側に住んでいるのですか?」

「……えぇ、鍛冶屋へ修行をしにね……長屋に住んでいるって聞いていたがねぇ」

 華扇はすぐに思考を張り巡らせた。

(東側……里の東方で何が起きたのだろうか……!)

 悪寒が体を巡った。嫌な予感が脳裏をよぎった。とにかく、微かだが情報が手に入ったのだ。少なくとも彼は「里の東方」にある長屋住まいである事が分かった。

 ただ勿論の事、それが判明しているのはこの婦人の息子だけで、もしかしたら他の者は違う可能性もある。東で異常事態が起こったと断定するには、少な過ぎる確証である。しかし、

 

「里の東の長屋……一先ずは様子を見るべきか……」

……とやかくは言っていられない。一人がそこから来たと言うのなら、まずはそこから調査をするのが妥当だろう。

「すいません!少し東の方へ調査に行きますので、後はお願いします!」

「へ?あ、あの、華扇殿ー!?」

 団員の制止も聞かず、彼女……茨木華扇は里の東方に位置する長屋へ向かって走り出した。




残念ながら「東方茨華扇」は触りしか読んでいません。なので、性格についてはwikiなどを参照に致しました。
STEMのゴーストと茨木華扇って、相性ええと思いませんかね?
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