東方精神崩壊【TOHO PSYCHO BREAK】 作:ランタンポップス
「いっ……!?」
右肩に鋭い痛み。何かが彼女の肩をかすったようで、チラリと見てみればパックリと、傷が口を開き血を吐き出している。予想外の痛覚に、光弾発射寸前だった札は指の間から抜け落ち、不発で終わった。
「うあぁ!!??」
傷を左手で押さえながら反射的にバックステップを行い、怪物と距離を更に離した。しかし、前方に白けた「光の刃」が迫っている事に気付き、足が着地したと同時に横飛びを繰り出して軌道から逃れた。
彼女から逸れた光の刃は、高速で通り過ぎて行き、背後の長屋に衝突。瞬間、爆音と共に長屋が土煙を放って崩壊した。
「何だ今のは!?」
すぐさま視線を怪物へと向き直す。
怪物の持っていた武器の、ギザギザとした刃が青白く光っていた。慧音にはすぐに、武器を纏う妖力の存在を感じ取った。
「その武器……か?」
鬼の形相をした怪物はまた叫ぶような唸り声を出したと思えば、武器を再び振りかざした。そして、妖力が凝縮していく様を空気の震えから観測する。
「まさか……!」
渾身の力で振り下ろされた武器から、青白い光が分離するかのように「光の刃」が彼女目掛けて再度放たれた。
「うっ!?」
迫り来る「光の刃」を急遽空へと舞い上がり、何とか回避した。刃は強烈な破壊力の下、長屋三棟を吹き飛ばす。
空中でフワリと浮いている慧音は、その破壊力を目の当たりにし息を飲んだ。焼けるように傷む右肩は、やや麻痺を引き起こしていた。
怪物の武器を更に良く見れば、柄の部分である機械には夥しいほどの「呪符」が貼り付けられているのを発見。その一札一札より妖力がまるで、雨水が地底へと流れて、地下水として溜まるようにして呪符から機械に蓄積されて行く。妖力が蓄積して行くに従って、刃は再び青白く発光を始めた。
「アレは一体なんだ……妖力が練り込まれているようだが、そんな物をどうやって……」
無機物に力を与える効果とは、かなり高度な妖術を有しての呪符と見た。それだけに、普通に何処でも入手出来るものかと思われたらとんでもない。まず、人里近辺で手に入れる事は不可能である。
高度な妖術を行使した物であるだけに、妖怪たちは人間の手に渡らぬよう厳しい管理がつくハズだ。結局の所、人間にも妖怪に対抗出来る力が容易に手に入るのを防ぎたい訳である。
そんな代物を、大量に使用しているのだ、目の前にいるこの醜い怪物は。
「ぐぅぅぅぅ…………」
また、武器を振り上げた。眼光は狂気的なまでに彼女に突き刺さり、怒りからか呼吸の度にブルブルと震えている。強烈な殺意を持って彼女へ一撃食らわそうと構えた。
その様子を見て、悔しげに慧音は舌打ちをすると、
「長屋を壊す事になるがやむを得ない……!『弾幕』で迎い撃つ!」
……懐から変わった色彩の施された札を取り出した。
それと同時に、怪物は武器を振り下ろし光の刃を一直線上の慧音に向かって放った。しかし、なんと彼女は避ける事は全くせず、眼前に迫る刃に宣告するように叫んだ。
「産霊『ファーストピラミッド』!」
札が青白く光ったと思えば、慧音を中心に無数の光弾が八方に散った。光の刃は光弾を物ともせずに突っ込んだものの、突如弾かれたように明後日の方向へと軌道を変更した。
「!?」
呆気に取られた怪物目掛けて、光の刃は弾いたであろう「巨大な光弾」が迫って来る。怪物は武器に妖力再び纏わせて刃を強化した上で、バットのように光弾を打つ。
「なかなかだが、それで終わらないぞ!」
「ぐぅ!?」
巨大な光弾の直撃は免れたとしても無数に発生した「小さな光弾」は手がつかなかった。それらはやたらめったらに飛ばされ、規則性のないもの。ただ、雨のように降り注ぐソレを回避するのは至難の技だ。
「がぁあっ!?」
光弾は怪物に直撃。体表へ接触した瞬間に爆発した事で、怪物はどうする事も出来ず吹き飛ばされるだけ。地面を転がり、長屋の壁へとめり込んだ。
攻撃は成功だ。だが、慧音は顔をしかめた。
「あれじゃ、ダメージにならない!」
幸か不幸か、怪物は吹き飛ばされた事で長屋の中へ突っ込んだ。突っ込んだ事により長屋自体が防御壁となり、怪物は弾幕の射程距離外へと出てしまったのだ。空からでは怪物の姿が確認出来ない。
これ以上の消耗は無駄だと判断し、弾幕をストップさせる。その時、長屋の屋根を裂いて光の刃が飛び出した。怪物が屋内から攻撃を加えたのだ。
「その攻撃は通じないからな!」
慧音は迫る刃を、右へステップを踏むようにして早急に避けた。
続いて、二つ目の刃が放たれる。
「まだ来るか!」
今度も同じく、左へ旋回するようにして次の刃も避けた。
敵の攻撃は止まらず、次の刃は間髪入れずに連続して放たれた。
「躍起にでもなったか」
無数の燕が迫って来るように、それらは一斉に牙を剥いた。縦斬り、横斬りとバラバラな光の刃だが、怪物との戦いで体が順応した事もあり、至って冷静にそれらを避けられた。
横、縦、斜め、二つ合わさり十の字……慧音は繊細な飛び方で全てを避ける。避ける度に、耳元では風切る音と蓄音機からの音楽が聞こえた。
暫くして、攻撃が止んだ。止んだと共に、耐久力を失った長屋は一気に崩れてしまった。崩れた中、粉塵の中で怪物の影がユラリと見えた。
「言ったハズだ。同じ攻撃はもう通じない」
そう挑発したものの、慧音は何か不気味な物を感じていた。さっきの暴れっぷりから一転、波が静まるようにピタリと止んだ様に怪しさを察知したのだ。彼女は様子見で、浮遊したまま。
粉塵が晴れ、怪物はまた姿を現した。だが、慧音は怪物の背後を見て絶句する。
「なん……っ!?」
怪物の背後には、十体ほどの薄汚れた「マネキン」が設置されていた。全てのマネキンの顔が慧音の方へと向けられており、無機質で冷たい視線を浴びせるのだった。侍るように並べられたマネキンは、怪物の足元にあるサーチライトでライトアップされているようだが、どれもこれもただずっと、慧音を見つめて佇むだけ。感じていた不気味さが、余計に嫌悪感を増幅させる。
(攻撃はしてこない……背後の人形に、何か仕掛けられているのか……?)
行動の読めない怪物に、予想外の事態を考えつつ札を取った。
「一先ず、弾幕で牽制してみよう」
そう思い、札を怪物へ向けた。怪物はそれでも動かない、マネキンは何もしない。
札は発光を始めた。光弾発射はすぐだ。
……その瞬間、背後に殺意を感じた。
「なにっ!?」
光弾発射を中断し、飛び上がろうとした時、甲高い銃声と共に脇腹を何かが貫通した。
「ぐっ!?ぁぁ!?」
脇腹の銃創から血が噴き出す。あまりの激痛に力が脱けてしまい、とうとう地面へと落下を始めてしまった。落下中の逆さまの世界から見えたのは、長屋の屋根に腹這いとなっていた、南方の廃墟にいた者と似た仮面を被った怪物だった。構えていたのは、長い銃。
慧音は撃ち抜かれ、地面に倒れ伏した。