東方精神崩壊【TOHO PSYCHO BREAK】   作:ランタンポップス

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蘇ったラウラ【RE-Bone Laula 】3

 床は削れて、木のササクレをぷつぷつ浮かせて、ややゴツゴツとしていた。そして、所々に血溜まりが出来ており、腐った肉の臭いが充満しているのは、さっきの光景となんら変わってはいない。

 変わった点で言えば、壁一面に書かれていた不気味な文字は消えた事、壁掛け燭台だけの薄暗がりな廊下は錆びたシャンデリアの登場で、かなり明るくなっている事。

 

「んん…………うん?」

 目を覚ました途端、タンっと飛び上がり、臨戦体勢の構えで立ち上がった。気絶からの起き上がりにしては俊敏で、大抵の者なら意表を突く事が出来ようなほどに訓練された行動だが、その場に誰もいなくては徒労と言うものだ。

「…………誰もいないわね……はぁ、油断した」

 そう呟くのは、謎の手によって拐われたハズの霊夢であった。やはり、数々の修羅場を潜り抜けて来ただけあって、状況判断も常人より遥かに優れている。

 霊力による光弾は明後日の方へ飛び、腕を掴まえられた所で、光弾の破壊による煙に混じって……そこから先は良く覚えていない。恐らく、気絶したのはその頃だろうと分析した。

「まさか下から来るとはねぇ…………それも、かなり力の強い生物か…………」

 

 気絶する前の光景を、何とか引き摺りだした。

 腕を掴んだのは、大きく、焼け爛れたような、長い爪をした手のようなもの。形状的に「手」と言う言葉を使用してはいるが、人間の手と比べると歴然とした違いしか存在しない訳で、手に似たものとしか言い様がない。

 火傷した大きな腕に、分かれた細い指が鋭く木の枝の先端のように伸びている。そして、霊夢の細い腕を握り潰さん限りに大きな掌などからして、正しく異形であった。ただ、五本の指と爪など、手の形状と同じなので、「手」と表現しているのであり、人よりも巨大で於曾ましく、あまり生物の手だとは信じたくなかった。

 

 腕には感触が残っている。肉の弾力が全くない硬化した皮膚と、強い力…………

 

 

「うぅ……会いたくない…………こんなのが幻想郷にいるなんて、異変よ異変!」

 触られた腕をはたき、そのまま服の方もはたく。

 ベチョリと、左半身に濡れているような感触がした。ねっちょりとしている。

「…………」

 今まで自分が寝そべっていた地面を見る。ボロボロの赤いカーペットが敷かれており、血がじっとり染み込んでいる。ピクピクと表情筋を痙攣させて、嫌悪感を溜め息にして表現した。

「…………最っ悪!服だけは汚さないようにしてたのに!…………絶対潰す!」

 彼女はやや、自己中心的な性格だろうか。謎の敵に抱いていた嫌悪は、自分の服を汚された怒りに塗り潰された訳だ。キッと前方を睨んだ。

 

 長い長い、廊下が続いている。唯一ほっとした部分は、シャンデリアで明かりが増している事のみだろう。これなら視界が冴え渡り、敵との遭遇時でも対応出来る程度には余裕が出来るだろう。

 ずっと先まで見える。背後は行き止まり、廊下は果てしない。

「……進むしかないかぁ…………段々、飽きて来たんだけど?」

 ここまで歩かされっぱなしの霊夢には、苛々が募っていた。特大のスペルカードでも使用して、目の前のもの全て吹き飛ばしてやろうかとも考えていた。

 しかし、咲夜と離れ離れにされたのは痛い。仮にめたらやたら吹き飛ばしまくったら、咲夜に被害が及ばないかを考えなくてはいけなくなったからだ。

(恐らく、離したのはそんな思惑が絡んでいるわね…………破壊されたら都合の悪い事があるのかしら?)

 そう思えば、奴らの意表を突く意味も兼ねてやってみるのも面白い。

 咲夜には悪いが、当たるかも分からないのだし、文句はないだろうと考え直した。とことん、自己中心的な性格である。

 

 

「よし!決めた!『霊符・夢想封印』!」

 懐から出したスペルカードが、宣言とともに光だした。

 響き渡る轟音に、空気を揺らすほどの霊力の集結。それらが限界を越えて沸騰するかのように、カードを覆い尽くす光は増して行く。

「はぁっ!!」

 気合いの咆哮を飛ばし、振り上げられたカードを勢い良く下ろせば、まるでカードから分離するように巨大な光の弾は、前方四方向へ七つに散らばった。赤、青に桃など、それぞれ色の違った、霊夢の身の丈を一回り越すほどの七つの巨大な光弾は壁に天井、床へと衝突する。木片が飛び、煙が舞い上がり、盛大に屋敷は破壊されて行った。

 その時の霊夢の表情と言えば、今日一番の笑顔であった、相当鬱憤が篭っていたのだろう。

 

 

 スペルカードは効力を失い、焦げるようにして崩れた。完全に手元から煤となって煙風に流された頃には、破壊によって発生した粉塵は薄くなっていた。

 シャンデリアを破壊したので、また辺りは暗がりに戻ったので警戒はするものの、粉塵の中から不意討ちされるのではないか、との心配は杞憂で済んだ。

「さてさて…………どれだけぶっ壊したかなっと」

 ストレス発散兼ねて、やたらスッキリとした顔だ。咲夜の存在を、ちょっとの間頭から離していたのは暴走気味であった証拠となる。

 

 煙は晴れて、自分が無惨に変形させた屋敷の形相が現れた。

 

 

 

 

「…………は?」

 破壊したと思われていた壁も床も天井も、何一つ壊されていない。ただ、紅魔館を代表する赤い廊下は、黒い壁紙へと変更され、血溜まりとボロがあった廊下は綺麗なフローリングになっており、屋敷の破壊よりも屋敷その物が変わっていた。漂っていた腐臭も消え、代わりに埃っぽい臭いだけが残った。

「ちょっと!!何よこれ!?」

 廊下を照らすのはシャンデリア。しかし、それらは電気式になっており、切れかけるようにプツプツ明滅を繰り返していた、とても薄暗い。

「あーもう、訳分かんないって!何で壊したのに直るの!?」

 動揺した彼女は、身の危険を感じて札を取り出す。

 

 瞬間、廊下の奥が激しい閃光を放った。

 ここから五十メートル先だろうか、大きな窓が廊下の奥にあり、外の落雷がその窓に光を通したのである。雷鳴が轟いた。

 

 

 それで一瞬、明るくなった廊下、窓の前に何かがいた。

「…………!誰かいるの?」

 背の高い、人間の女性が見えたが、雷の光は一瞬だった。すぐに闇の中へフィードアウトして行き、完全な全貌を確認する事は出来なかった。

 敵か味方かは分からないが、呼び掛けてみる。

 

 返答はなし。

「咲夜…………にしては髪が長かったわね……レミリアにしては背が高いし…………パチュリーか門番かしら?……いや、帽子とか被っていなかったし…………」

 自慢の洞察眼で、一瞬の閃光で映った人影をカメラのようにカッチリ記憶する。記憶した人影の姿形から、この館に住まう知人たちと当てはめてみる。だが誰にも一致がしなかった。

 覚えているのは、長い髪、ロングスカート、高い身長…………帽子は被っていない、背中からも羽根などは無かった、そのまま人間の姿形。霊夢と同じ人間なのは咲夜だが、その人影は彼女にはまず見えなかった。

 

 とすると、全く知らない第三者。

 浮かんだのは、あの醜いゾンビ。

「……敵か…………」

 持った札は下ろさず、寧ろ霊力を溜めながら前方を凝視する。それに、廊下の奥の中央に大きな窓があったのだ。窓の無かった今までの行程で、始めて発見した窓だ。そこからこの場所を脱出する手立てを見出だしたのだった。

 しかし咲夜がいないのが難点だ。果たして自分だけ出て良いものか。

「一先ず、出られるかどうか試さないと…………明らか異常しかないし……この廊下だって、誰の能力よ…………」

 ガラリと作り自体が変わった廊下。唯一の希望となった窓も、罠のように思えて来た。

 それに、『夢想封印』の威力に絶対的な自信があった彼女は軽くショックしていた、神経はピリピリと全方位に注意を向けている。

 

「慎重にね」

 向こうからは行動はない。意を決して、ゆっくりとこちらから近付いて行く。悟られないように、猫足立ちの姿勢で足音を極力立てずに気配を消す事を努めた。

 札に込めた霊力も、発光するギリギリのライン。発光すれば、この薄暗い部屋で自分の場所を明かしてしまう。

「さぁて、どっからでも…………!」

 再度、雷鳴が響き、窓が閃光を放つ。

 

 

 

 

 窓の前の女性は、異形へと変貌している。

 四つん這いの姿勢になり、背中から生えるように大きな手がゆらゆら動いていた。あの手は、霊夢を引き摺り込んだ手だ。

「っ…………!?」

 絶えまなく雷が落ち、窓はひっきりなしに閃光を放つ。窓の前の怪物は二本の大きな手をうなだらせ、こちらに一歩二歩と這うように迫って来た。影だけで感じた狂気は、百戦錬磨の霊夢に動揺を与えた。

「く、来るんじゃないわよ!」

 霊力を札に溜めて、光弾を発射。

 弾丸のスピードで飛ばされた光弾は怪物に着弾、ダメージを与える……ハズであった。

 

 

 飛んで行った光弾は怪物の目の前まで来た。しかし、着弾の瞬間に怪物は一瞬だけ消えて、その消えた一瞬で光弾を通り過ぎらせ、回避したのだった。

「なぁっ!?」

 中央に撃てば、この狭い廊下なら避けるのも難儀で、怪物の図体を考えれば必然的に当たるハズであったしかし、「瞬間移動」で避けるとは予想しようものか。

 避けられた光弾は、窓ガラスを突き破った。

「くっ…………!まだまだ!」

 すぐさま三枚の札を用意し、間髪入れずに三つの光弾を発射。

 

 しかし、それさえも避けられた。一つ一つを間隔を微妙に変化させて放ったのだと言うのに、三発分の光弾を三回の明滅で避けてしまった。

 光弾の一つは窓枠に衝突し、爆発、破壊した。

「なんなのよアイツは!?」

 怪物はどんどん近付いてくる。もう、三十メートルの位置までだ。

 撤退しようにも、背後は行き止まり。正面衝突は免れなかった。

「ちぃっ!…………分かったわよ、ぶん殴ってやるわ!!」

 危機的状況で自棄(やけ)にでもなったのか、キッと怪物を睨み付け、対決する事を決意した。その際でも策を何とか頭の中で組み立てているが、果たして考えている間に追い付かれるか…………間に合うのか。

 

 

「こっちだ!!」

 すると、すぐ右真横で男の声がした。がなるような、お世辞にも良い声とは言えない中年の声。

「え!?」

 驚きで見やると、無かったハズの扉がそこにはあった。

 扉は少し開かれ、開閉出来る事を証明している。しかし、敵の罠かと躊躇するのは仕方がないだろう。

 

「何やってんだ!?早く入れ!あの『メイド』共々、逃げるぞ!」

『メイド』の単語に反応する。咲夜がいるのか?

「咲夜もいるの!?」

「聞いている場合か!?早く!『戻れなくなるぞ』!?」

 焦燥感煽る、男の声。しかし、こう言った声の方が信用出来る者のように思えるのは、彼女自身も焦っていたからだろうか。

 それに、『戻れなくなる』の言葉に異質なニュアンスを感じ、不安を抱かずにはいられなかった。

 扉に入るか、怪物と戦闘か…………二択だ。

 

 怪物は男の声を聞いて理解でもしたのか偶然か、霊夢を逃がすまいとゆっくりとした動作を早めて、ダッシュを開始した、かなり早い。流石の霊夢も面食らう。

「うわ!走って来た!?」

「だから入れって言っとるだろうがぁ!!??」

 怪物の行動と男の怒号をトリガーに、反射的に霊夢は右隣の扉のノブに手をかけ、開いたと同時に飛び込むように入り込んだ。

 怪物はもう、五メートル手前だった。

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