東方精神崩壊【TOHO PSYCHO BREAK】 作:ランタンポップス
椛は私の友人たちの間で非常に人気の高いキャラクター。イメージ間違えたら刺されそうだべ。
お陰で慎重に執筆したせいで五回も書き直しだぜ。
それではどうぞー。
本日の新聞が飾るピックアップは、気が病むような衝撃的な内容であった。
新聞の一面には、大きく太い文字でドドンと書かれていた。
『怪奇!?人里で人食い発生!!』
ある「幻想郷の決まり事」により、人はあまり襲われなくなったこの時世において、いままでの均衡をぶっ壊すような大事態だ。
新聞にはこう綴られている。
『昨晩、人里のとある町の路地裏にて、四十代前後と見られる男性が首筋を食い千切られた姿で死亡していたのが発見された。
男の身元は、現在行方不明中の「田辺 樹兵衛(たなべ きべえ)」さんだと断定。友人宅での飲み会帰りに何者かに襲われたのだと思われる。
第一発見者は朝方に路地裏を散歩していた最中、ゴミ置き場から血が流れているのを不審に思い調べた所、無惨な姿で殺された田辺さんの死体を発見したとの事。
また、近隣住人に話を伺った所、夜中に男の悲鳴が聞こえたのを多数の住人が証言。事件との関連が疑われる。
自警団は妖怪の仕業であると見て、「博麗の巫女」に協力を仰ぎながら捜査をしている。
「人が食われた」。長らく平和を保っていたこの人里にとって、青天の霹靂とも言える事件だろう。この事件は幻想郷中に広まり、人間には恐怖を、妖怪には動揺を与えた。
現在、人里でも妖怪が人間の店で働いていたり、飲み屋では人間と妖怪が酒を飲んでドンチャン騒ぎを起こすように、人間と妖怪は昔と比べて近い存在となっていた。
その中で起きたこの事件に、双方共に波紋が広がっている。
人里では勢い付いた妖怪共存否定派が排他を吟う。団子屋で働く一つ目娘が石を投げ付けられたと言う話もあがっている。
否定派が暴徒化すれば取り返しのつかない事態となる。非常にデリケートな問題に発展すると思われる。』
そう綴られていた。
「……文さんにしては真面目な記事ですね。捏造もなさそうですし。どうしました?高速で岩にでも頭ぶつけました?」
「ちょっと酷くない椛?私だって真面目に仕事しーまーす!」
既読済みの新聞を畳みながら、白髪の少女は黒髪の少女に褒めているのか貶しているのか分からない感想を述べた。いや、貶しているのか。
二人は丁度隣同士に並んだ切り株を椅子の代わりにし、新聞の内容について話し合っていた。
「この記事が本物としたら」
「そんな前提いらないからね、本物だからね」
「犯人の妖怪も妖怪ですが、関係のない妖怪たちにまで危害を加える人間も人間です。これじゃあ被害者、加害者どっちもどっちですよ」
白髪の少女はキッパリとした辛口コメント。妖怪に対しても人間に対しても味方しない中立的な意見だが、最もと言えば最もな意見だろう。
新聞の編集長と思われる黒髪の少女は予想通り、と言いたげな溜め息を漏らした。
「全く、椛は生真面目だねぇ……そんなどっち付かずの意見言えるのは貴女ぐらいだわ」
「それが取り柄だと自負していますので。それにしても……」
再度、白髪の少女こと「犬走 椛(いぬばしり もみじ)」は記事を良く見てみた。少し不気味がったような目なのが気がかりだが。
「……文さんにしては変わっていますね。殺人といった話題は取り扱わないはずだったんじゃ?それにチャラけた様子もないですし、取材もキチンとしているようですし……」
一呼吸置くと、彼女はもう一つ付け加えた。
「……ここだけの話、妖怪が人を食べる事件は度々あったじゃないですか。これだけが注目されているのが少し理解に苦しむのですが?」
核心を突くような椛の質問に、黒髪の少女こと「射命丸 文(しゃめいまる あや)」は「およ?」と感心したような声をあげた。
「そーですねー……別に殺人事件は取り扱わない、と言ったのは大して面白そうにないからであって取り扱う時は扱いますよ。チャラけてないのは人間側を刺激しない為。デリケートな問題になるって、書いてんでしょ?上からもキツく言われてんのよ。あと、人間が妖怪に食べられる事件は度々ある、と言いましたが、「今回」と「いままで」とは少し事例が異なっておりますー」
文の話に、椛の犬耳がピョコリと反応した。殺人事件を取り扱う取り扱わないとか、チャラけてないとかは正直どうでも良かった一つの疑問。
興味を示したのは次の話。「人間が妖怪に食べられる事件は度々あるが、「今回」と「いままで」は違う」と言う所が彼女の好奇心を刺激した。
その反応を内心面白がりながら、もったい振りの素振りを見せずその「違う所」を話した。彼女も彼女で話したがりなのだ。
「まず「いままで」だけど、いままでは夜中にフラフラ度胸試しか何かで人里外に出て妖怪に挑む人間が食べられているのです。つまりは「人間側の自業自得」。これがいままで」
たまにいるのだ、そう言う輩が。妖怪の住処に好奇心から堂々と入り込む人間まで稀に存在した。好奇心は猫をも殺す、と言う言葉を知らない連中が帰らぬ人となっている。
これに関してはあまり大きな問題にされない。人間側でも、「夜中に里の外に出る奴が悪い」と言う事になっている。それを受け入れられない者が妖怪共存否定派となるのだが。
そういった事実が背景にある事を知った椛は、呆れたような表情になった。
「さて、次に「今回」ですがー」
そう言うと彼女はポケットからメモ帳を取り出した。「いままで」と自分の取材内容を照らし合わせてみるつもりだろうか。なかなか様になっているなと椛は思った。
少し一拍を置き、文は再び話し出した。
「今回は第一に「人里の中で起きた事」、第二に「妖怪に襲われたにしては現場が静か過ぎる」、最後に「脳ミソだけが抉り取られていた」事の三つ!以上がいままでとの相違点でしたー!」
納得しかけた所、妙な違和感から怪訝な表情になる椛。違和感の原因である文の話を思い出す。
待て、「脳ミソだけが抉り取られていた」?
「ちょっと文さん。脳ミソ抉り取られたってのは初耳なんですが」
「あやや、言っちゃいましたぁ?これは機密事項だったのですが……いやー!うっかりうっかり!」
やっちゃった、と言わんばかりに頭の後ろをポンポンと叩きながらおどけてみせる。
おどける様子からして、本当にうっかりなのかわざとなのか分からなくなった。椛の驚いた姿を見て面白がっているようにも見える。
「一つ一つを説明しますとねぇ、まず人里内で人間が襲われる事自体異常なんです。人里は妖怪の監視下にありますし、妖怪退治のプロも沢山いる訳ですからね。まぁ、「決まり事」を知っていたら人里内で暴挙に出る妖怪は存在しないはずなんですがねー」
先程からの決まり事とは、この幻想郷存亡に関わる事でもある大変重要な「決まり事」なのだ。
あまり難しい説明は省くが、早い話「妖怪が生きる為には人間が必要なので、極力襲うのは止めて下さい」といった内容だ。
この決まり事にのっとると、人間の生活圏で人間を襲う行為は、この決まり事を無視している事になる。つまりは人間にとっても妖怪にとっても危険人物と言う訳だ。
「二つ、静か過ぎる。被害男性の悲鳴を聞いて外の様子を見に来た人が多数いたのですが、その悲鳴までに他の声ってのが聞こえなかったらしいのです。相当声の小さい妖怪なのか、意外と慎重なのか。首筋に噛みついて即死させ、隠れて脳ミソを抉る、と言う流れなら犯人はなかなか賢いですし、ある意味不気味ですねぇ」
ここまで際限無しに喋り続けた文は、流石に疲れてしまったのか大きな深呼吸をして一服する。
しかし、聞けば聞くほど奇妙な事件だ。この事件が以下にしていままでとは異質だと言う事が良く分かった。
分からないのはあと一つ。「脳ミソを抉り取った」行為に対してのみ。
「脳ミソの事なんですがー、どうにも食べられた痕跡がないんですよー。そのまんま持ち去られたようでして」
「脳の味が好きな妖怪だったんじゃないんですか?」
「せっかくリスクを背負って人里で人間襲ったのに、脳ミソだけとは変な犯人ですねー」
少し小馬鹿にしたような彼女の言い方に、椛はムッとなる。考えてみれぱそうだ。わざわざ脳が食べたいから襲うと言うのは、決まり事を知っている妖怪の行動としては頭がおかしいレベルの奇行だ。
それに、脳ミソをその場で食さず持ち去った事に関しても疑問が残る。
「私ならこう考えますねー。犯人は「人間の脳ミソが必要」だから襲ったのですよ」
人指し指をピンッと突き出し、得意気に自分の考察を述べた。
一方の椛はどこか不満気だ。馬鹿にされた事に対してでもあるが、文の考察に納得出来ていないようでもある。
「必要って、人間の脳ミソなんか何に使うつもりなんですか?まさか脳の収集が趣味の快楽殺人者の仕業だー、とでも言うつもりですか?」
「うーん……その線もあるかも知れませんが、ここから先は調査しないと……と、言う事で!」
突然立ち上がったと思えば、文の背中に生えた翼が大きく開いた。右手にカメラ、左手には葉団扇を握り、満面の笑みで椛の顔を見つめていた。
彼女の「仕事」が始まった。
「こんな面白そうな話題、調べるしかない!人里へと取材に行ってきまーっす!それでは椛、お勤め頑張って下さい!」
最後に声をかけようかと口を開いた瞬間、彼女は砂埃と突風を撒き散らし、あっと言う間に人里方面へと飛び去ってしまった。
後に残った椛はとことん不満気だ。
「……ハァ、何で烏天狗はああなのか……せっかちと言うか好奇心旺盛と言うか……おっと、見回りしなきゃ」
彼女は仕事とプライベートを分ける、誠実で真面目な性格だ。嫌な気持ちを一旦忘れて仕事に戻ろうとする。
座っていた切り株から下りた時、一瞬だが妙な気配がよぎった。
「むっ……」
腰に携えていた刀を取り出し、臨戦態勢を取る。耳と目に神経を集中させ、少しの動きも音も逃さぬよう辺りを見渡す。
葉がさざめく森の中、暫しばかりの緊張と沈黙が流れた。
十秒経っても妙な気配は感じられない。
「……気のせい?ハァ、まだピリピリしているのか私は……」
辺りに誰もいない事を確認し、取り出した刀を鞘に納めた。誰もいない事を完全に確信すると、風を斬るようなスピードで持ち場へと戻っていった。落ち葉がフワリと舞い上がる。
舞い上がった落ち葉が何者かの足元に落っこちた。その足は、次の瞬間スッと消えた。
誰もいなくなったのに落ち葉を踏む音が聞こえて来るのは、幻聴だろうか?
公式と二次とで、文には翼があるかないかが論点となっているようです。
でも、従来の烏天狗像に乗っとり、翼は付けさせて貰いました。
「文は羽根ない方が可愛い」と言う方、マジですいません。