東方精神崩壊【TOHO PSYCHO BREAK】 作:ランタンポップス
そろそろ幻想郷側も、敵側も動きを本格的にして行きます。
んな事よりバイトの給料が先伸ばしだってよ。どうなる俺!?!?
昨日とは打って変わって、空は厚い雲が覆い鈍色に染まっている。
そんな憂鬱な曇り空がまるで己の心を表しているようだと、彼女、上白沢慧音は空を見上げてしみじみにそう思った。
「……あの会話が、最後とは……」
風が髪を揺らし、雲は流れて行く。その様子にただただ感傷に浸る彼女。
昨晩……いや、今日の深夜頃にまた一人死んだ。死んだ人間と言うのが、昨日彼女に協力を求めたあの自警団の団長だったのだ。
最初、その凶報を聞いた時は頭が真っ白になるほどのショックを受けた。
自警団本部にて彼の遺体が運ばれて来た時に見てしまったが、後頭部を切り開かれて脳を抜き出された酷い状態であった。
「まだ若いのに残酷な最後だ……酷過ぎる……」
辛かった。とても辛かった。心臓を握り潰されるような感覚に陥った。昨日の彼が、希望と決意に満ちたあの目は、無惨にも奪われたのだ。
団員のみんなは必ず犯人を捕らえて償わせると、口々に決意を語っていた。
人望が厚かったのか、費用を皆で負担して彼の葬式は必ず開くとも言っていた。勿論、慧音も参列するつもりだ。
「未練が残っているだろう、悔しいだろう……私たちが意志を受け継ぐ。君は休んでいるんだよ」
彼の魂に語りかけるように呟くと、彼女は家路を急ぐ。雨は今にも降りだしそうだ。
「……犯人は……本当に幽霊なのか?」
医者がやって来て彼の検死を行ってくれた。どうやら直接的な死因は心臓を銃か何かで撃たれた事。右腕にも同様の銃創が見つかっている。
調査してみれば死体が発見された廃屋でも弾丸が見つかった。鉄で出来た、「外の世界」の物だ。
里の人間は皆何に使う物か検討がつかなかったものの、慧音は一度、外来から来た書物にてそんな銃がある事を知識として頭の片隅に置いてあった。
だから弾丸を見てすぐに外の世界の物と分かったのだ。幻想郷にある猟銃や火縄銃は弾丸が完全に球体であるので、違いは一目瞭然。
外の世界の武器を使う幽霊なんて聞いた事がない。
「と、言う事は……犯人は外来人?」
外来の銃を扱える者は、幻想郷にほとんど存在しない。あまり武器に頼らない妖怪たちも考えにくい。その推理は必然的に辿り着ける物であった。
「だとしたら何が目的なんだ?」
疑問も必然的に起こる物。外来人が犯人だとしても、何故人間を襲うのか?動機が不明なのだ。
「幽霊のように神出鬼没で人を食らう……そして、外来の銃を扱える…………うぅむ」
チンプンカンプンだ。現段階では真相に近付くヒントも何もない状態。
犯人像があやふやになったままだと、追いかける事も追い詰める事も不可能だ。一歩たりとも、だろう。
とにかく、何らかの対策が必要だ。敵の尻尾は必ず掴む。
「……あ、降って来た」
ポツ、ポツと小雨が肌に落ちて来る。当たる度に雨が皮膚をほんの少し濡らし、冷やして行く。
本降りに降られる前に家へ帰ろうと慧音は足を早めた。
しかし、次の門を左に曲がると、
「いたっ!」
「あうっ!」
曲がり角に立っていた誰かと衝突してしまった。衝突、と言うものの互いに互いを小突いた程度なので転んで怪我した訳ではない。
「すいません!急いでたもので……おや、妹紅」
「あーいやいや、気にしないで……って、なんだけーねか」
どうやら二人は知り合いのようで、すぐに謝罪から挨拶へと変わった。慧音がぶつかった相手は、白い髪と赤い袴を着た少女である。
彼女の名前は「藤原 妹紅(ふじわらの もこう)」。慧音とは友人であり、また慧音同様、彼女も人間とは違う能力を所持している。
「どうしたの?そんなに急いで」
「小雨が降って来たからな、本格的に降られる前に帰りたかったんだ」
そう言われてみれぱ雨の量が少し増えたような。ポツ、ポツからポツポツポツってな感じだ。
みんな考えが同じなようで、ドタバタと忙しない様子で道を往来している。
「あ、じゃあさ、けーねの家に行っていい?聞きたい事もあるし」
「ん?聞きたい事?どうした、悩み事か?」
「いやいや、実はね……」
妹紅が語り出した所で、更に雨の量が跳ね上がった。ポツポツポツからシトシトシトな具合。本降り一歩出前だ。
「あー……やっぱけーねんちの中で言うわ。すぐにザーッと来るよコレ」
掌を空に向けて雨を受ける。チンタラしていてしとどに濡れるのも嫌だ。
「良し!なら競争でもしようか!」
「え」
慧音が競争を提案し出し、露骨に嫌そうな表情になる妹紅。いつもならノり気になると思うのだが、雨空で少し憂鬱な気分になっていたので、そんな気力がない。
この人には憂鬱と言う感情がないのか、と思う妹紅である。
寧ろ妹紅の想像を越えるほどに慧音は憂鬱なのだが、明るく振る舞って妹紅には心配かけさせないようにしているのだろうか。
「あ、あのねぇけーね……妖怪とは言えまがりにも良い歳なんだか」
「よーいドン!」
妹紅が言い終わる前にかけっこの火蓋が落とされた。気付けば彼女はもう四メートル先へと離れていた。
「……って、コラァ!?喋っている最中にとか卑怯だぞ!!」
負けず嫌いな性格なのか、俄然やる気が出てきた。後からスタートして先にゴールしてから見下してやろうと、彼女も走り出そうとした。
「うん?……うわ」
ふと視線を横にした時、家と家との間にある隘路に挟まっているように置かれた女性型の「マネキン」を発見した。
黄ばみがかり、薄汚れて傷も入っており、妙にリアルな作りの上にこっちをジーッと見ている。
幻想郷では珍しい物なのだが、好奇心よりも不気味さが先に出てきた。
「気味悪いなぁ……あぁ嫌だ嫌だ、さっさと離れよっと」
気を取り直して妹紅は、もう結構先にいる慧音に向かって全力で走り出した。
雨はもう一段階強まった。
妹紅を最後に一切の喧騒がなくなった通りは、雨の落ちる音のみ微かに響くだけ。
突然、それに割り込むような人の足音が聞こえて来た。ザクザクと、まだ乾いた砂を踏みしめる軽い音。
「…………」
背中で紐をくくって着るような白い服と白いズボンを着用し、何故か裸足で体もフラリとしている。
血の気がないほどに色素のない手には、様々な書物が抱えられていた。しかし、ゆっくりとした足取りで自分も本も雨に濡れてもお構い無しな様子から、書店帰りの人間とはまず思えない。
「グゥルル……」
理性を伺えない絞り出すような呻き声に、白い服に付着している血。一目で通常の人間ではないと分かるだろう。
「…………」
あのマネキンの前まで来ると、その重い足取りを止めた。マネキンと目を合わせるように見つめている。
すると、
「……ウゥ……」
その人物はいきなり辺りに響いた風を切る音に気が付き、空を見上げながら振り返った。
「わーわー!降って来た降って来た!」
雨が顔にかからないようにと手をおでこにかざしながら空を飛ぶ一人の妖怪。取材帰りの文であった。
「濡れるのも嫌だし……仕方ない、雨宿りしながら取材しますかー!」
幻想郷最速と詠われる彼女。その気になればあっと言う間に自宅のある山へと帰れるのだ。
しかし、雨が降れば別。そんな超高速で雨の中飛んでみれば小雨とは言え身体中にビシバシ当たる。雨が落ちる前に当たりに行っているような物だから。
つまりは豪雨を浴びたようになってしまうのだ。
だからってゆっくり進んでもいずれ本降りを迎え、びちょ濡れになるのは目に見えている。
「はぁ、取材に熱入れ過ぎましたかねー……時間を感じなかった……と言うかなーんで降るかなぁ。誰かが奇跡でも起こしたのかなぁ」
ブツブツとぼやきながら屋根を探そうかと、はためかしていた羽根を畳み、地面に降り立った。
通りは雨のせいか人通りが全くなく、なんだかゴーストタウンのようだ。それでも窓から焼き物でもしているのか、煙が立ち上っているのが見え、人の気配はするのだが。
「……んんー?」
しかしそれとは別に感じる謎の「視線」。辺りを見渡してみても誰もいない。
家から見られているのか?そう思い、文は周囲に注意しながら雨の人里を行く。
「妖怪否定派がいますからね、狙われてるのかな」
そんな事を呟きながら彼女はそそくさと逃げるように次の角を曲がり、通りからいなくなった。マネキンには気付かなかったようだ。
いなくなった通りに、誰もいなかったはずの通りに、先程の人物が再びマネキンの前に現れた。まるで囲炉裏の石が弾けるような、突然の出現。
「…………」
彼女の消えた曲がり角を睨み付けた。黒目のない、生気の失せた目であった。
その目のある顔は、赤い触角のような物がたくさん生えているとてもおぞましい姿をしていたのだった。
「…………ウウゥ」
そいつはマネキンに触った途端、マネキンと共に煙のように消えてしまった。
パシャリ。
雨の中、消えた瞬間に聞こえたシャッター音。それは、文の曲がった角とは逆の位置にある物陰から聞こえた。
「ふ……ふふ………ふふふふふふ……」
不気味な笑い声と共に顔を出したのは、あの角を曲がったはずの文だった。
「何かいるかと思っていたら特ダネじゃないですか……曲がった後に、わざわざ飛んでここに隠れたのは無駄な行動ではなかった……!」
興奮冷めぬ様子の彼女は、雨に濡れる事を忘れて盛大に飛び上がった。
「まさかの新種妖怪!?うおおお!!射命丸文、掴んだぞおおおお!!」
驚きで住民が家から飛び出すほどの雄叫びをあげ、文は「妖怪の山」へと超猛スピードで飛んで行った。
何があったあの妖怪は。そんな様子で空を見つめる住民たちであった。
雨はとうとう本降りに差し掛かった。
透明になるホーンテッドさんには散々痛めつけられました。三体出る所鬼畜過ぎるべ。フラッシュさん、ありがとう。
さて、次回はどうなるだろう。一先ずお金がねぇ。