東方精神崩壊【TOHO PSYCHO BREAK】 作:ランタンポップス
代わりに意外なあの人も幻想入りしました。色々、印象深かったんでね(笑)
妹紅は燃え盛る右手を、化け物へと向けた。
しかし「仮面の男」は、驚く素振りも媚びる素振りも見せない。それほどの強者なのか、それとも感情がないのか。ただただうねり声と、不快感を煽る不気味な音を放っている。
「何だコイツ……!?オイ!!名乗りくらいしなさい!」
「…………」
威嚇の為にボワッと炎を広げさせた。
彼はそれにすら臆する事もなく、左手に持つ銃をフラフラと持ち上げ、銃口を妹紅に向けた。
彼女の問いかけにも応じる気もなさそうだ。理性を全く伺えないのが不気味で仕方がない。
「……それを下げろ、殺人鬼……抵抗すんのだったら全身火傷は覚悟するんだな」
彼女は彼に向かって殺意を放った。同様に向こうもさっきからダダ漏れの殺気が感じられる。
どうやら敵は、降伏するつもりは毛頭もないらしい。表情も伺えず、男の仮面は笑ったまんまだ。
「仮面くらい取れ。顔見せやがれ」
返答はなし、暫しの沈黙、一触即発の瞬間。互いが互いを睨み合いながら牽制し合う。
雨と炎の音、そして彼の放つ不気味な音が混ざり合い、不協和音に化ける。
動こうとしない仮面の男に、妹紅は痺れを切らした。
「殺気がある、と言う事は……容赦しないよ」
瞬間、銃の引き金が引かれ銃弾が妹紅に向かって放たれた。
それは真っ直ぐ、彼女の心臓部を捉えた。直撃は危険だ。
しかし、彼女は避ける素振りも見せない。
「フンッ」
銃弾が放たれた一瞬、その一瞬で身体中に炎を纏わせたかと思えば、いきなり辺りがバッと昼のように明るくなった。
彼女を中心に爆発したのだ。銃弾は爆発の勢いに押し負け、彼女に披弾する事はなかった。
爆発が収まってからもその明るさは消えず、そのまま火力を更に増して燃え盛る。
火を作り出したのは彼女だ。勿論、中心の彼女は何ともない。
「……良い度胸じゃん……それは外の世界の銃だよね、見た事ある。団長もおっちゃんも撃ったのもアンタだよねぇ……」
炎も彼女の怒りを表しているように、熱量を上げて炎上する。
あまりの熱に、彼女の周りに降る雨は地面に落ちる前に蒸発し、泥の地面もカラカラの砂へと乾いていた。
「も、妹紅!!」
慧音の呼び声が聞こえる。
顔色が白くなり、既に生気のないリーダーを抱きかかえ、飛び火を受けぬよう妹紅から離れていた。
「けーね。おっちゃんは……」
妹紅の問いに、慧音は静かに首を振った。
「誰も死ぬんじゃない」……そう、皆に言い聞かせていた彼が、誰よりも先に死んでしまった。
「……そうかい」
沸々と沸き上がる熱く、黒い感情。
この瞬間、彼女の中にある仮面の男に対する殺意は決定された。
燃え盛る炎を前に物動じしない彼は、ただ殺意を発しながら成り行きを傍観しているだけ。その様子が余計、彼女の怒りを募らせて行く。
人を殺したのに、次は自分を殺そうとしている。後悔も罪悪感もない。
仮面の男に感じていた不気味、そんな感情は燃えて灰になり……怒り、ただそれだけが頭を支配した。
「じゃあもう容赦しない!!火傷じゃねぇ、炭化は覚悟するんだな!」
纏わせた炎を、先程の鳥のような形に変えて次々と放って行く。さっきとは比べ物にならないほどの弾数と熱量が、彼を取り囲むように襲いかかる。
「グルル……」
妹紅が火の弾を放ったとほぼ同時に、彼は後ろにスッと倒れ込んだ。背後には戸のない廃家の入り口があり、吸い込まれるように闇へと消えていった。
直後、弾は全弾直撃。廃家は砕けて燃えて、花火のような閃光が炸裂する。誰も住んでいない廃家の為、手加減せず全焼、全壊させた。
「…………」
燃える廃家の跡地を静かに見つめる妹紅。
火の粉が上がり、隣接していた家々にも火の手が入る。今日は雨が降っているとは言え、雨を吹き飛ばす強力な火力によって木造の家々は良く燃える。
「……地下に逃げたか……」
木端微塵に消し飛んだ廃家から、地下へと続く穴が出てきた。緊急用の脱出経路として以前の家主が掘っていた物だろうか。
「敵はこの辺りの地理を理解している。馬鹿ではないようね」
飛び火して燃えた家々も、長い間放置されて耐久性がない事もあり、次々に崩れて行く。
後は残骸が燃え尽きるのを待つだけで、消火する手間は省けた。
「けーね、大丈夫?」
慧音の方へ近寄り、膝を曲げた。
そして、変わりきった彼の姿を間近で見た。
「私は大丈夫だが……しかし……」
彼女の表情は悲壮に満ちている。今にも泣き出しそうだ。
被っていた笠はどこかへ飛んで行き、雨は彼女を濡らして行くのだ。
「……守ると誓ったのに……もう犠牲者は出さないと誓ったのに……私たちだけでもここの見回りをするべきだった……」
悔しさと後悔が慧音を蝕む。感情を押し殺す為に噛み締めた下唇から血が滲んでいた。
「……とりあえず、おっちゃんを傷付けさせたら駄目だしさ……自警団の本部で安置しよう」
妹紅も同じ感情だ。必死に悲しみを押し殺すのに精一杯だ。
だが、ふざけた仮面を被り、まるで楽しむように人間を殺害する奴に対しての恨みと怒りは抑え切れない。彼女はスッと立ち上がった。
「……私はアイツを追い詰める。けーね、おっちゃんを頼んだよ」
「……え!?」
ハッと顔を上げた慧音だが、声をかけるまでもなく妹紅は地下の穴へと飛び込んで行く。
「ちょ、ちょっと妹紅!!待って……」
大声で呼び止めるも、もう彼女がいなくなった後。妹紅はリーダーの、死んだ者たちの仇を討ちに行ったのだ。
降り頻る雨の中、燃える廃家の残骸の明かりを頼りに辺りを見渡してみた。誰の気配もない。
視線を下げる。腕の中の彼は瞼を開き、光のない目で空を見ていた。
「……すまない……私が、不甲斐ないばかりに……」
左手でその瞼を下ろし、彼は眠るような顔となった。顔へは攻撃されていない為、綺麗な死に顔をしている。
「……立ち止まっていても仕方がない」
彼女は長い時を生きて来た。悲劇を何度も目の当たりにして来た。
だからこそ、それは乗り越えるべきだと彼女は思う。折れてしまっては誰の為にもならない事を学んでいる。
「今、皆の元へ帰してあげよう。私の仇討ちはそれからだ」
悔しさ、悲しさを「決意」へと昇華させる。必ず彼や亡くなった人たちへの復讐を成し遂げてやると、固く誓ったのだ。
「妹紅に言われた通り、早くここを出よう。安全とは決まっていないからな」
彼を持ち上げ、慧音はゆっくり立ち上がった。雨は少し弱まったような気がした。
燃え盛る残骸を背景に、彼女は廃墟地帯から出ようと振り返った。
「おいアンタ!!そこのアンタだ!!」
その時、どこからか誰かを呼ぶような、男の野太い怒号が響いた。突然の大声にビクッと体が反応する。
「だ、誰だ!?どこにいる!?」
この近辺は人が寄り付かない。もしや敵では?と、慧音は警戒心を高める。
どこからでも対処出来るように、気配を見落とさないように、辺りを鋭く見渡した。
「アンタだアンタ!!聞いてんのか!?」
「アンタとは誰だ!?私の事か!?」
あまりに喧しいので、強めの口調になってしまった。
しかし今度は慧音の倍、キレたような声が爆発するように響く。
「アンタしかいないだろうがッ!!それとも俺の事を死体に呼び掛けるイカれ野郎とでも思ったのかぁ!?アンタだアンタ!!青い変な服のアンタ!!」
「変な服は余計だッ!!どこが変だッ!?……て、そうじゃなくてだな……」
今は笠を被って来ていたので、いつもの帽子を被っていなかった。被って来ていれば間違いなくそれを馬鹿にされていただろう。
それは良いとして、彼女は一度頭を冷やし、声の主に居場所を聞いた。
「まず私の前に出てきてくれないか?なんで怒っているかは知らないが、こんな場所にいる辺り普通の者ではないのだろう?」
「…………」
喧しかった男の怒号はいきなりピタリと止んだ。不気味しか感じないその男が黙る事により、一層不気味な感情が深まって行く。
「……私に対して無害な者なら出てきてくれ。信用出来ない以上、私は貴方に近付かない。襲ってくるのなら容赦しない」
不気味に感じると言う事は、恐怖の心があると言う事。そう思われないようにと、謎の男に対しては強気で対応する。
これは強がりではない。自分には襲って来ようとも退けられる自信と実力と能力がある。
少しの沈黙の後、「ククク」と気味の悪い笑い声を含ませながら、男の声が再び聞こえて来た。
「なるほど……なかなか肝の据わった嬢さんだ。アンタの言う通り、俺はアンタの前に出なければならない」
「あぁ、私は急いでいる。要件なら早急に済まして欲しいのだが」
怒って来るかと思えば、どうやら落ち着きを取り戻したようだ。いや、何やらこの状況を楽しんでいるようにさえ思える。
笑い声が消えると、静かに彼は話し出した。
「アンタの気持ちはヒジョーに分かるんだが、俺には俺の「都合」と言う物がある」
一呼吸入れ、彼は話の続きを喋る。勿体振っているようにも聞こえるのだが、慧音は静かに彼の話を聞いていた。
「……俺はアンタの真横……アンタから見て左か?……そこの「扉」の奥にいる」
それを聞き、ハッと言われた通り左を見た。
言われるまで気付かなかったが、引き戸の多いこの人里では珍しく、前後に開く木製の「扉」が付いた廃家があった。
「こんな「扉」……あったのか……そこにいるんだな?出てきてくれ」
「扉」には赤い、妙なマークが張り付いており、「扉」の覗き窓から白い光が漏れている。
一見して普通ではないのが分かる。警戒心は絶対に緩めない。
「あぁ……「都合」と言うのは、ここから出られない事だ。悪いがアンタの前には出られないが、こうしてアンタと会話は出来る。……急いでんだろアンタ?こっちに来てくれ」
「…………」
勿論これで慧音の警戒心が解ける訳がない。余計に警戒されるだろう。
近付いた所で何が起きる?もしかしたらそうは言いつつも、「扉」からいきなり出てきて襲ってくるかもしれない。
今は緊急事態だ、無視した方がいいのだろう。そう思い、謎の男に別れを告げようかとした時、その意図を察してか男は被せるように喋り出す。
「アンタだって薄々気付いてんだろ?俺が「奴ら」と何か関係がある事を……あの紅い嬢さんなら余裕だとは思うが、俺の知る「奴ら」より何かおかしいんだよなぁ……あんな俊敏に動けたっけなぁ……」
別れを告げようかとした口を止めた……コイツは何かを知っている。
更に男は話す。
「急いでんだったよなぁ?時短目指すならこっち来い。正直ここよりも里の方が危険地帯になってんぞ?」
数秒迷った。
その迷いの末、慧音はこの男の言う通りにしようかと考えたのだ。何か知っている、何か情報をコイツは持っている。
「……分かった。言われた通り「扉」の前まで行く……が、妙な事を起こせば容赦はしないぞ」
そう言うと、少しずつ少しずつ、「扉」方へと近付いて行く。
何かあった時、リーダーには指一本触れさせないように用心しながら。
「……イヒヒ!物分かりの良い嬢さんで助かったぜ!いつかの「刑事」のようだ」
「「刑事」?誰の事だ?」
「こっちの話だ。「扉」に近付いたら覗き窓から中を覗け。なに、目を突き刺すとかそんな事はしねぇからよぉ」
「扉」へと近付く度に、何か音楽のような音が耳に入って来る。ピアノの音だ。
「音楽……?」
「良い曲だろう?ドビュッシーって奴の「月の光」って曲だ。まぁ、良いBGMだろ?」
BGMの意味が良く分からなかったが、確信した事が一つ。この男は「外来人」だと言う事だ。外の世界の音楽を流している上、作曲者まで知っている。
そして彼が外来人だと仮定すれば、男が良く知ると言うあの「仮面の男」も幻想郷外から来た存在と言う事になる。
確証はない、直接聞くしかないだろう。慧音は最大限の注意をはらい、「扉」の覗き窓に顔を近付けた。
「はいご対面。そう警戒すんなアンタ。俺は敵じゃないっての……イヒヒヒヒヒ!!」
覗き窓から見た「扉」の向こうは、「扉」の付いている木造の家に全く不釣り合いな鉄製の部屋であった。
「扉」から数歩離れた位置に、灯りの灯るランプとそれが置かれている机。
机とは反対側にベッドが置かれ、机とベッドに挟まれる形で椅子が置いてある。生活感の少ない、質素な部屋だ。
その椅子に、声の主と思われる人間が腰掛けていた。機嫌が良いのか、お世辞にも聞いていて気持ちの悪い笑い声をあげている。
「む……」
しかし、部屋の光源はそのランプだけなのだろうが、あまりに目映いその光が半逆光となり、男の顔が影がかって全く見えない。
「さて、話をしたいのは山々なのだが、急いでいるんだったな?なら発現した「能力」を行使して一気に飛ばしてやろう。ヒヒヒ!!」
男は愉快に笑う。
この部屋と言い、この男と言い……異常な何かを察した彼女はいつでも攻撃出来るように身構えた。
どうやら「能力持ち」のようだが、どのような能力を使うのか?
「待て。あの仮面の男の事については話してもらおう。情報が欲しいんだ」
彼が何者か、と聞くのは今はどうでも良い。敵の情報が欲しい。それだけでも聞こうかと思い、彼を呼び止めた。
「……アンタ、俺は「奴ら」と言っているんだ。敵は仮面野郎だけじゃねぇんだぜ?そして、そいつらは今に里を襲う。「デカい」のが来るぞ」
「……それは本当か?」
「あぁ、本当に決まってんだろ。この状況で嘘言ってどうする」
それが本当なら一番目、二番目、三番目の殺人事件の違いにも合点が行く。
犯人が同一犯ではないとすれば、殺し方や手順など違っていたのも頷ける。まだ納得行かない所も多いが。
だが彼の話を信じるのなら、里に魔の手が向かっている。
「……一先ず君を信じよう。里へ戻ってするべき事を済ませて来たら、またここへ来る。その時には君の事も話してもらうからな」
「オイオイオイオイ、待てってのアンタ!!」
「なんだ!?急いでいるんだ!?」
立ち去ろうとした慧音を、男は必死に呼び止めた。流石の彼女も焦りからイラつきが募ったのか、ややキレ気味だ。
「話聞いてたか!?時短の為に「飛ばしてやる」って言ってんだ!!ここから人の住んでいる所まで歩いて十五分もあるだろ!急いでんのならこれを見ろ!!」
すると男は、ベッドの上に置いてあった「何か」を手に取り、それを慧音に見せ付けた。
精巧な作りの額縁に飾られた、丸い「鏡」である。
「……鏡かそれは?曇っていて何も見えないが……それよりも早く行かせてくれないか?」
「せっかちだなアンタ!?とにかく、この鏡を見ろっての!」
無視しても良かったのだが、仕方なしにその曇った鏡を凝視した。
「見ているか?ホレ」
男が一声かける。
すると鏡がひび割れ、その奥から強い光が溢れ出した。
その光を見ていると、まるで鏡の向こう側へと引き摺り込まれて行くようだ。意識が集中している。
「な、何だ!?この光……!」
慧音は危険だと判断し、鏡から目を背けようと努力するのだが、不思議とそれを体が拒絶しているようだ。首すら動かない。
パキ……ピキピキ……パキン……
鏡はどんどんひび割れて行き、光は一層強くなる。逆にさっきから流れている「月の光」が遠ざかるように聞こえなくなって行く。
「アンタの行きたい所かは知らねぇが、適当に飛ばすぜ……用事が済んだら、「花屋の隣の空き家」に来い。もうここは「使えない」からなぁ」
彼のその声を最後に、光に意識が飲まれていった。
六千文字越した時はビビりました、新境地でした。
それにしてもあのおじさん、何者やったんやろねぇ……あ、次回こそ出します、あのチェーンソーが似合うおじさん。
いや、もしかしたら次回の次回かもしんない。ちょっと揺らいでますすいません妖怪のせいだ。