東方精神崩壊【TOHO PSYCHO BREAK】 作:ランタンポップス
プランクをどうにか取り戻したいと思ってますだ(笑)
「えっ!?」
鏡から溢れ出した光が無くなったかと思えば、慧音はリーダーの遺体を抱え、「大通り」の真ん中に立っていた。
「あれ!?え!?」
さっきまで自分は「廃墟」にいたハズだ。しかし気付いてみれば、里の中心部分へと戻っていたのだ。
ポカンと周りを見渡す。幻覚とかではなく、本当に自分は戻って来たようなのだ。
「あの「男」の……能力なのか……?」
様々な能力を持つ者たちがひしめく幻想郷だが、今の場所から別の場所に飛ばせると言う妖怪も、ましてや人間も聞いた事がない。十キロの道を徒歩三分に出来る死神は知っているが。
ともあれあの男の言う通り、能力の原理は不明だが、里に帰って来るまでの時間を短縮出来た。ただ彼は何故、自分に味方をするのか……その疑問は、今度出会った時に聞けば良いだろう。
まずは、本部へ向かわなければ。
「ここは市場だな……と、するとあそこか……」
人里については土地勘が充分ある。本部の場所に目星を付けると、駆け足で颯爽と走り抜ける。急がなければならない。
『……アンタ、俺は「奴ら」と言っているんだ。敵は仮面野郎だけじゃねぇんだぜ?そして、そいつらは今に里を襲う。「デカい」のが来るぞ』
あの男の言葉を思い出す。本当の事なら、敵はすぐそこまで迫っている事になる。今度は自警団員たちは愚か、里の人々が危険に晒される。
妹紅が帰ってくるまで、待っている訳にもいかない。慧音が里を守るのだ。
「…………」
それは、死んで行った者たちへの償いと弔いを兼ねての決意だった。遺体を再度見つめながら、悔しさで下唇を噛み締める。
「絶対に許さないからな……あの化け物……!!」
鉄の味がする。どうやら唇を強く噛み過ぎたようで、血が口から滴っている。自分に対しても力をセーブ出来ないほどに、彼女は怒りに震えていた。
本部へは、二分弱で到着出来た。
あの男は「適当な場所に飛ばす」と言いつつも、目的地の近場に飛ばしてくれたのは偶然なのか、意図されていたのか……どちらにせよ彼には感謝しなければならない。一刻を争う状況なのだ。
「明かりは……点いていないな……みんなは見回り中か……」
戸には鍵をかけられていたのだが、その鍵はリーダーが所持していた。それを使って戸の鍵を開き、暗い部屋の中へ入って行く。
畳の上に、遺体を寝かしてやる。両手が自由になったので、最近人里で流通し出したマッチの箱を手に取り、点火させたマッチ棒で蝋燭に火を点けた。ぼんやりとした小さな光なのだが、部屋全体を照らすには充分だ。
「えーっと、確か見回る箇所を書いた地図が……よし、あった」
机の上に、地図が束になって置かれていた。どの場所で、誰が、どの道順でなども詳細に書かれていた。この地図があれば、団員たちを探しやすくなるだろう。
守る。そう決意したからには、里の人間も全員守り通す。その為には、団員たちの力が必要不可欠となる。
ただ、その際に言わなければならない事がある。
「……みんなを探さなければ。今までの経緯を説明しなくては……彼の事も……」
伝える事が辛い。正直、彼女は泣き叫びたい気分だ。一人ぼっちになりたい気分だ。
リーダーの遺体が目の端に写る。
……そうだ、彼女は戦わなくてはいけない。感傷浸る時間は残されていない。大好きな人間たちを守る為に、今すぐにでもここから出なければならない。死者への追悼も、泣くのも、危機を乗り越えてからだ。さもなくば、残酷な未来だ。
「……すまない」
ポツリ、彼女はもう、動かない彼にそう呟く。
「……行こう」
強固な決意を胸に、深夜の里へ再び飛び出して行った。
いつの間にか、彼女の心を表すように降り行く雨は、すっかり止んでいた。
深くなって行く夜。
自警団に所属している二人の男は、長屋方面の見回りを任されていた。ゆっくりと流れて行く長屋の風景を横目に、闇を照らして道を進む。
「……お、雨が止んだな」
雨が止んだ事に気付き、被っていた笠を取り、水滴を落とした。笠は充分に雨水を含み、頭にずっしりと重しとなっていた。その様子を見て、相方の方も笠を取った。
「うわぁ……笠が雨に打たれ過ぎて、笠の意味無くしてやすぜー」
「そうだなぁ……髪が湿っとる」
兄貴分の男は濡れた頭頂部を撫でている。
びっしょりと、しとど濡れた笠は正直被りたくはない。が、手に持っていた所で荷物になる為、大きく笠を振って水気を逃がし、再度笠を被る。
あまり変わった気がしないのだが。
「にしても……出ないな……」
彼が言っているのは、里の人々を恐怖に陥れ、挙げ句の果てに団長を射殺した、忌々しき殺人鬼の事である。冷静そうに見えて、実の所腹が煮え繰り返っている。
「向こうも、こちらの動きに気付いたんじゃないですかね?」
弟分である相方の青年が、そう予測した。
今までの犯行を見れば敵は大胆で、知能的だと言う事を聞いた。この大警備が予測された事だとすれば、彼らは完全に敵の掌に踊らされている事になる。そう考えると、更にムシャクシャしてならない。
感情は正しい判断を殺す事を知っているので、兄貴分の彼はその考えを消した。
「とりあえず雨は止んだし、視界は良くなっただろ……しっかり目を凝らせよ。イタチ一匹見逃すな」
「了解しやした」
相方に用心をさせ、警戒心を高めてやる。提灯の灯火で闇を払っているとは言え、まだまだ暗い。慎重に、慎重に、深夜の里を歩いて行く。
雨音が消え、純粋な沈黙の中ではやはり声が良く響く。かなり小さな声だったかと思ったのだが、相方にはバッチリ聞こえていたようだ。でもやはり、静まり返った辺りは非常に不気味である。
何かが化けて出そうだ。
「そう言えば、この辺に血に塗れた女の霊が……」
「え、そ、それ、本当ですか?」
「……出たらいいなって」
先輩の茶化しに、相方が安心したような、呆れたような溜め息を吐いた。
「心臓に悪い」と少し怒る相方に、「悪い悪い」と謝る。こんなしょうもない事をついつい言ってしまうくらいに、今の空気が気味悪いのだ。
それに、いままで何度も深夜の見回りをしているが、今夜は特別不気味に感じる。団長が亡くなったのもあるかも知れないが、昔から勘の強い彼は別の要因があるように感じており、心配なのだ。
だからと言えど、団長を殺された怒りに勝る事はない。たとえ犯人を死ぬまで殴った所で、この怒りは収まりそうになさそうだ。
「そうだ、この辺は妖怪・米かけババアが出るそうな」
「……何ですか、そんな勿体無い事する妖怪は……」
暗い気持ちを立たせる為、それからは他愛もない会話を、二人は話し合っていた。
十分が経過。見回り開始から一時間半を越したが、ここまで平穏無事、異常はなし。変わった事と言えば、雨が止んだ程度だろうか。
「出ませんねぇ……敵は単独狙いじゃないんですかねぇ……」
相方が持っていた見えざる敵への恐怖は、見回りの時間が経つにつれて薄れて行く。
「だと良いが……それでも見回りはしねぇと」
対照として兄貴分の彼は、依然として変わらない緊張感を持っていた。
視線を感じる。何だか、先ほどから誰かに付けられているようでならない。
「ぬ……?」
振り返ってみるものの、まだ泥状態の地面に着いた自分たちの足跡と、奥が見えない闇が延々と続いている。足を止めて振り返る彼を見る度、相方はうんざりしたような目を向けた。
「またですかぁ?……本当、どうしました?」
ここまで彼は、度々足を止めては後ろを見ている。つい、三分前からずっとこの調子だ。相方の方はその度に焦れったくなり、文句を呟くようになる。
「……さっきから誰かに見られているようでならないんだが……」
「気のせいですって!」
相方はそう断言する。いや、この台詞は何回目だろうか。
そろそろくどく感じ始め、相方の方は恐怖がナンヤカンヤ言うより、そっちの苛立ちが沸き始めていた。
「ほら、先行きますよ!副団長にその事報告すればいいですから!」
先へ先へと催促させる相方に、彼は「あぁ」と返し、納得行かないと言わんばかりの表情で前を向いた。
しかし、またすぐに彼はクルリと振り返ったのだ。
「ちょっと……僕を驚かせたいのならそう言って下せい……そろそろくどいですぜ?」
イライラが募り、先輩に対してだが、ややぞんざいな喋り方になる。
彼はどうかと言えば、今度は相方の言葉など全く耳を貸さず、後方のとある一点をジッと見つめていた。表情も段々険しくなって行く。
彼の表情を見て、流石に心配となった相方だが、「どうした?」と聞く前に、あちらから声がかけられた。
「……足跡見てみろ」
「え?」
そう言われ、視線を地面へと向け、自身の足跡を見つめる。
両者共に草鞋を履いているので、横に線が幾つも入った足跡が、点々と続いている。ただそれだけだ。
「違う、もっと先だ」
また相方が質問しようとした時に、彼が指摘をした。勘の鋭さは一級品である。
「……先ですけ?」
驚かそうとしているだけじゃないのか?そんな懐疑心を持ちながら、足元からつーっと、闇で見えなくなるギリギリの場所までの足跡を目で追った。
その「ギリギリの場所」で、違和感を感じた。
「ん……アレ?」
横線模様の草鞋の足跡が、二人分……それは自分たち二人の物だ。その足跡は自分の足元まで続いている。
では、「裸足の足跡」は誰の物なのだろうか?
「……え?」
自分たちの足跡と混じって、「別の誰か」の足跡が視認出来る足跡の中で最後尾の場所にだけ存在していた。
そこから先に、「別の誰か」の足跡はない。その場で立ち止まっているようだ。
「…………」
「…………」
姿はない。足もない。空には何も飛んでいない……それに、「自分たちの足跡の上から、更に踏んだような形」の足跡なのだ。つまり、自分たちの後に誰かが踏んだ、と言う事になる。
目が見開かれた。変な汗が背中を伝う。自然に呼吸が荒くなって行く。
透けて消えて行ったハズの恐怖が、また振り返した。
「あ、ああああ…………だ、誰か本当にい、いる……!」
「……落ち着け……とにかく落ち着くんだ……!何処にいるのか、見渡すんだ……!」
二人はキョロキョロと辺りを素早く見渡した。
屋根の上も、長屋の角も、目の当たる場所は全て見渡した。けれども、微塵ながらの気配さえ感じられない。
「ど、ど、ど、ど、何処だ……何処に隠れた……!?」
躍起になり、首を激しく動かして探し始めた。
半狂乱状態の相方を、兄貴分の彼は宥める。そんな彼も、恐怖からか汗がびっしょりである。
「落ち着け!静かにしろ!……敵の場所が不明確な今、鐃を鳴らして人々を起こす訳にはいかねぇだろ……待ち伏せしているかも知れないからな……!」
彼は、その足跡の場所にゆっくり人指し指を向けた。つられるようにして、相方も指の先を見る。
「見ろ……誰かの足跡はあそこで止まっている……そこから移動した形跡がないぞ……」
言われてみれば、謎の足跡は「左足」を出してから、その先が続いていなかった。
後戻りしたようでもないし、飛んだような感じでもない。
じゃあ、どこへ行った?
「……なぁ……何か聞こえないか?」
ふと、兄貴分が静かな闇に耳を傾け、そう言った。
相方もどれどれと、耳を闇にすましてみる。
誰かのうめき声が聞こえた。微かだが、確かに聞こえた。不快な声であった。
犬の唸り声にも似ている、形容のしづらい音。
「………………」
「………………」
二人は唐突に出でた緊張感から、成り行きを黙って傍観している。
沈黙の中、何もいないのに「右足」の足跡が出来た。
「ッ!?」
予想外の事態に、冷静に冷静にと言い聞かせていた兄貴分が言葉を詰まらした。
敵はいない。奇妙な言い方をすれば、「いないのに、確かにいる」のだ。こんな妖怪は、見た事も聞いた事もない。
「ど、ど、ど、鐃をなら、鳴らせ……!」
見えざる敵は、確かに「見えざる敵」であった。何もいないのに感じる視線と足跡は、また一歩近付いた。近付いているのだ。
鐃を鳴らせと命令するも、応答なし。相方をチラリと見てみれば、青い顔をし、鐃を持つ手はガタガタ震えていた。
また一歩、近付く。
「ぅ……あぁ……」
「おい……頼むから鐃を鳴らすんだ……」
恐怖が苛立ちに付加する。やや口調が荒くなってしまった。彼の話を聞かない相方に、沸々とした怒りが沸いている。
「おい!!鐃を鳴らせと言ってんだ!!」
言う事を聞かない相方への怒りが火花を散らした。言葉を強く、怒鳴ってしまった。
真横に首を回し、相方を睨み付ける。
「……え?」
相方の後ろに、大きな影が立っている。とても大きく、自分の二倍近くはある背丈の、大男。
鈍っていた感覚が、ショックで巻き戻る。血生臭さと、粗暴な唸り声が一気に鼻と耳に流れ込んで行く。視線は、「怪物」に奪われた。
血で錆びた、見た事もないほど巨大で「ギザギザとした刃」を、相方に降り下ろそうかとしていた。
「あぶねぇ!!」
「いっ……!?」
膠着していた体が、咄嗟に動いた。
反射の良さは柔道を習っていたのが幸であったか、持っていた提灯を投げ捨て、相方を抱えて路地へと飛び込んだ。その衝撃で、相方も鐃を落とした。
すぐ瞬間、巨大な刃は空気を切る音と共に、降り下ろされた。その様子を感覚で感じ取り、ゾッとなる。
「な、ななななななな…………」
相方はパクパクと口を動かし、突然現れた「もう一人の化け物」を凝視している。
兄貴分の男も、バッと振り返り、化け物の全貌をその目に収めた。
巨大な刃を軽々持ち上げ、筋肉隆々の体には血だらけのシャツを着用している。
頭部には鉄の、籠のような被り物を被り、怪我だらけの顔面は、醜悪な形をしていた。
「ぐるぅぅぅぅるるぅぅ……………」
目線が合った。理性を感じなかった。巨大な刃を大振りし、こちらを威嚇するように粗暴な唸り声を響かせた。胃の底を震わすような重低音。胃が煮え、嘔吐してしまうかと思ってしまう。
「あ、あぁ……あぁぁぁ……」
口からは空気しか吐き出せない。さっきの怒鳴り声のような大声が、出せなくなっていた。
ただ、生存本能が体を動かしてくれていたようだ。フラリとだが、相方と共に立ち上がる。
「ガアァァァァァァアァアアアァアッ!!!!!!」
巨大な刃が、轟音を撒き散らし回転。雄叫びと共に再び振り上げ、二人に向かって襲いかかる。
「に、に、逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
張り裂けんばかりの「逃げろ」の叫びが、サイレンのように響いた。提灯をなくし、完全な闇と化した長屋を二人は手探りで逃げる。
ホーンテッドの夜が、今宵も開始された。
出せたぜ。
序盤のトラウマ、サディストさんです。自分、開始一時間でこいつに殺られやした(泣)