東方精神崩壊【TOHO PSYCHO BREAK】   作:ランタンポップス

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ほぼ24時間後の投稿となります。自分もびっくりスピード執筆です(笑)
プランクをどうにか取り戻したいと思ってますだ(笑)


ホーンテッドの夜【Night of the Haunted】9

「えっ!?」

 鏡から溢れ出した光が無くなったかと思えば、慧音はリーダーの遺体を抱え、「大通り」の真ん中に立っていた。

「あれ!?え!?」

 さっきまで自分は「廃墟」にいたハズだ。しかし気付いてみれば、里の中心部分へと戻っていたのだ。

 ポカンと周りを見渡す。幻覚とかではなく、本当に自分は戻って来たようなのだ。

「あの「男」の……能力なのか……?」

 様々な能力を持つ者たちがひしめく幻想郷だが、今の場所から別の場所に飛ばせると言う妖怪も、ましてや人間も聞いた事がない。十キロの道を徒歩三分に出来る死神は知っているが。

 

 ともあれあの男の言う通り、能力の原理は不明だが、里に帰って来るまでの時間を短縮出来た。ただ彼は何故、自分に味方をするのか……その疑問は、今度出会った時に聞けば良いだろう。

 

 まずは、本部へ向かわなければ。

「ここは市場だな……と、するとあそこか……」

 人里については土地勘が充分ある。本部の場所に目星を付けると、駆け足で颯爽と走り抜ける。急がなければならない。

 

 

『……アンタ、俺は「奴ら」と言っているんだ。敵は仮面野郎だけじゃねぇんだぜ?そして、そいつらは今に里を襲う。「デカい」のが来るぞ』

 あの男の言葉を思い出す。本当の事なら、敵はすぐそこまで迫っている事になる。今度は自警団員たちは愚か、里の人々が危険に晒される。

 妹紅が帰ってくるまで、待っている訳にもいかない。慧音が里を守るのだ。

「…………」

 それは、死んで行った者たちへの償いと弔いを兼ねての決意だった。遺体を再度見つめながら、悔しさで下唇を噛み締める。

「絶対に許さないからな……あの化け物……!!」

 鉄の味がする。どうやら唇を強く噛み過ぎたようで、血が口から滴っている。自分に対しても力をセーブ出来ないほどに、彼女は怒りに震えていた。

 

 本部へは、二分弱で到着出来た。

 あの男は「適当な場所に飛ばす」と言いつつも、目的地の近場に飛ばしてくれたのは偶然なのか、意図されていたのか……どちらにせよ彼には感謝しなければならない。一刻を争う状況なのだ。

「明かりは……点いていないな……みんなは見回り中か……」

 戸には鍵をかけられていたのだが、その鍵はリーダーが所持していた。それを使って戸の鍵を開き、暗い部屋の中へ入って行く。

 畳の上に、遺体を寝かしてやる。両手が自由になったので、最近人里で流通し出したマッチの箱を手に取り、点火させたマッチ棒で蝋燭に火を点けた。ぼんやりとした小さな光なのだが、部屋全体を照らすには充分だ。

「えーっと、確か見回る箇所を書いた地図が……よし、あった」

 机の上に、地図が束になって置かれていた。どの場所で、誰が、どの道順でなども詳細に書かれていた。この地図があれば、団員たちを探しやすくなるだろう。

 

 守る。そう決意したからには、里の人間も全員守り通す。その為には、団員たちの力が必要不可欠となる。

 ただ、その際に言わなければならない事がある。

「……みんなを探さなければ。今までの経緯を説明しなくては……彼の事も……」

 伝える事が辛い。正直、彼女は泣き叫びたい気分だ。一人ぼっちになりたい気分だ。

 

 リーダーの遺体が目の端に写る。

……そうだ、彼女は戦わなくてはいけない。感傷浸る時間は残されていない。大好きな人間たちを守る為に、今すぐにでもここから出なければならない。死者への追悼も、泣くのも、危機を乗り越えてからだ。さもなくば、残酷な未来だ。

「……すまない」

 ポツリ、彼女はもう、動かない彼にそう呟く。

「……行こう」

 強固な決意を胸に、深夜の里へ再び飛び出して行った。

 いつの間にか、彼女の心を表すように降り行く雨は、すっかり止んでいた。

 

 

 

 深くなって行く夜。

 自警団に所属している二人の男は、長屋方面の見回りを任されていた。ゆっくりと流れて行く長屋の風景を横目に、闇を照らして道を進む。

「……お、雨が止んだな」

  雨が止んだ事に気付き、被っていた笠を取り、水滴を落とした。笠は充分に雨水を含み、頭にずっしりと重しとなっていた。その様子を見て、相方の方も笠を取った。

「うわぁ……笠が雨に打たれ過ぎて、笠の意味無くしてやすぜー」

「そうだなぁ……髪が湿っとる」

 兄貴分の男は濡れた頭頂部を撫でている。

 びっしょりと、しとど濡れた笠は正直被りたくはない。が、手に持っていた所で荷物になる為、大きく笠を振って水気を逃がし、再度笠を被る。

 あまり変わった気がしないのだが。

「にしても……出ないな……」

 彼が言っているのは、里の人々を恐怖に陥れ、挙げ句の果てに団長を射殺した、忌々しき殺人鬼の事である。冷静そうに見えて、実の所腹が煮え繰り返っている。

「向こうも、こちらの動きに気付いたんじゃないですかね?」

 弟分である相方の青年が、そう予測した。

 

 今までの犯行を見れば敵は大胆で、知能的だと言う事を聞いた。この大警備が予測された事だとすれば、彼らは完全に敵の掌に踊らされている事になる。そう考えると、更にムシャクシャしてならない。

 感情は正しい判断を殺す事を知っているので、兄貴分の彼はその考えを消した。

「とりあえず雨は止んだし、視界は良くなっただろ……しっかり目を凝らせよ。イタチ一匹見逃すな」

「了解しやした」

 相方に用心をさせ、警戒心を高めてやる。提灯の灯火で闇を払っているとは言え、まだまだ暗い。慎重に、慎重に、深夜の里を歩いて行く。

 雨音が消え、純粋な沈黙の中ではやはり声が良く響く。かなり小さな声だったかと思ったのだが、相方にはバッチリ聞こえていたようだ。でもやはり、静まり返った辺りは非常に不気味である。

 何かが化けて出そうだ。

 

「そう言えば、この辺に血に塗れた女の霊が……」

「え、そ、それ、本当ですか?」

「……出たらいいなって」

 先輩の茶化しに、相方が安心したような、呆れたような溜め息を吐いた。

「心臓に悪い」と少し怒る相方に、「悪い悪い」と謝る。こんなしょうもない事をついつい言ってしまうくらいに、今の空気が気味悪いのだ。

 それに、いままで何度も深夜の見回りをしているが、今夜は特別不気味に感じる。団長が亡くなったのもあるかも知れないが、昔から勘の強い彼は別の要因があるように感じており、心配なのだ。

 だからと言えど、団長を殺された怒りに勝る事はない。たとえ犯人を死ぬまで殴った所で、この怒りは収まりそうになさそうだ。

「そうだ、この辺は妖怪・米かけババアが出るそうな」

「……何ですか、そんな勿体無い事する妖怪は……」

 暗い気持ちを立たせる為、それからは他愛もない会話を、二人は話し合っていた。

 

 

 十分が経過。見回り開始から一時間半を越したが、ここまで平穏無事、異常はなし。変わった事と言えば、雨が止んだ程度だろうか。

「出ませんねぇ……敵は単独狙いじゃないんですかねぇ……」

 相方が持っていた見えざる敵への恐怖は、見回りの時間が経つにつれて薄れて行く。

「だと良いが……それでも見回りはしねぇと」

 対照として兄貴分の彼は、依然として変わらない緊張感を持っていた。

 視線を感じる。何だか、先ほどから誰かに付けられているようでならない。

「ぬ……?」

 振り返ってみるものの、まだ泥状態の地面に着いた自分たちの足跡と、奥が見えない闇が延々と続いている。足を止めて振り返る彼を見る度、相方はうんざりしたような目を向けた。

「またですかぁ?……本当、どうしました?」

 ここまで彼は、度々足を止めては後ろを見ている。つい、三分前からずっとこの調子だ。相方の方はその度に焦れったくなり、文句を呟くようになる。

「……さっきから誰かに見られているようでならないんだが……」

「気のせいですって!」

 相方はそう断言する。いや、この台詞は何回目だろうか。

 そろそろくどく感じ始め、相方の方は恐怖がナンヤカンヤ言うより、そっちの苛立ちが沸き始めていた。

「ほら、先行きますよ!副団長にその事報告すればいいですから!」

 先へ先へと催促させる相方に、彼は「あぁ」と返し、納得行かないと言わんばかりの表情で前を向いた。

 

 しかし、またすぐに彼はクルリと振り返ったのだ。

「ちょっと……僕を驚かせたいのならそう言って下せい……そろそろくどいですぜ?」

 イライラが募り、先輩に対してだが、ややぞんざいな喋り方になる。

 彼はどうかと言えば、今度は相方の言葉など全く耳を貸さず、後方のとある一点をジッと見つめていた。表情も段々険しくなって行く。

 彼の表情を見て、流石に心配となった相方だが、「どうした?」と聞く前に、あちらから声がかけられた。

「……足跡見てみろ」

「え?」

 そう言われ、視線を地面へと向け、自身の足跡を見つめる。

 両者共に草鞋を履いているので、横に線が幾つも入った足跡が、点々と続いている。ただそれだけだ。

「違う、もっと先だ」

 また相方が質問しようとした時に、彼が指摘をした。勘の鋭さは一級品である。

「……先ですけ?」

 驚かそうとしているだけじゃないのか?そんな懐疑心を持ちながら、足元からつーっと、闇で見えなくなるギリギリの場所までの足跡を目で追った。

 

 

 その「ギリギリの場所」で、違和感を感じた。

「ん……アレ?」

 横線模様の草鞋の足跡が、二人分……それは自分たち二人の物だ。その足跡は自分の足元まで続いている。

 

 では、「裸足の足跡」は誰の物なのだろうか?

「……え?」

 自分たちの足跡と混じって、「別の誰か」の足跡が視認出来る足跡の中で最後尾の場所にだけ存在していた。

 そこから先に、「別の誰か」の足跡はない。その場で立ち止まっているようだ。

「…………」

「…………」

 姿はない。足もない。空には何も飛んでいない……それに、「自分たちの足跡の上から、更に踏んだような形」の足跡なのだ。つまり、自分たちの後に誰かが踏んだ、と言う事になる。

 目が見開かれた。変な汗が背中を伝う。自然に呼吸が荒くなって行く。

 

 透けて消えて行ったハズの恐怖が、また振り返した。

「あ、ああああ…………だ、誰か本当にい、いる……!」

「……落ち着け……とにかく落ち着くんだ……!何処にいるのか、見渡すんだ……!」

 二人はキョロキョロと辺りを素早く見渡した。

 屋根の上も、長屋の角も、目の当たる場所は全て見渡した。けれども、微塵ながらの気配さえ感じられない。

「ど、ど、ど、ど、何処だ……何処に隠れた……!?」

 躍起になり、首を激しく動かして探し始めた。

 

 半狂乱状態の相方を、兄貴分の彼は宥める。そんな彼も、恐怖からか汗がびっしょりである。

「落ち着け!静かにしろ!……敵の場所が不明確な今、鐃を鳴らして人々を起こす訳にはいかねぇだろ……待ち伏せしているかも知れないからな……!」

 彼は、その足跡の場所にゆっくり人指し指を向けた。つられるようにして、相方も指の先を見る。

「見ろ……誰かの足跡はあそこで止まっている……そこから移動した形跡がないぞ……」

 言われてみれば、謎の足跡は「左足」を出してから、その先が続いていなかった。

 後戻りしたようでもないし、飛んだような感じでもない。

 

 じゃあ、どこへ行った?

「……なぁ……何か聞こえないか?」

 ふと、兄貴分が静かな闇に耳を傾け、そう言った。

 相方もどれどれと、耳を闇にすましてみる。

 

 

 誰かのうめき声が聞こえた。微かだが、確かに聞こえた。不快な声であった。

 犬の唸り声にも似ている、形容のしづらい音。

「………………」

「………………」

 二人は唐突に出でた緊張感から、成り行きを黙って傍観している。

 

 

 沈黙の中、何もいないのに「右足」の足跡が出来た。

「ッ!?」

 予想外の事態に、冷静に冷静にと言い聞かせていた兄貴分が言葉を詰まらした。

 敵はいない。奇妙な言い方をすれば、「いないのに、確かにいる」のだ。こんな妖怪は、見た事も聞いた事もない。

「ど、ど、ど、鐃をなら、鳴らせ……!」

 見えざる敵は、確かに「見えざる敵」であった。何もいないのに感じる視線と足跡は、また一歩近付いた。近付いているのだ。

 鐃を鳴らせと命令するも、応答なし。相方をチラリと見てみれば、青い顔をし、鐃を持つ手はガタガタ震えていた。

 

 また一歩、近付く。

「ぅ……あぁ……」

「おい……頼むから鐃を鳴らすんだ……」

 恐怖が苛立ちに付加する。やや口調が荒くなってしまった。彼の話を聞かない相方に、沸々とした怒りが沸いている。

「おい!!鐃を鳴らせと言ってんだ!!」

 言う事を聞かない相方への怒りが火花を散らした。言葉を強く、怒鳴ってしまった。

 真横に首を回し、相方を睨み付ける。

 

 

「……え?」

 相方の後ろに、大きな影が立っている。とても大きく、自分の二倍近くはある背丈の、大男。

 鈍っていた感覚が、ショックで巻き戻る。血生臭さと、粗暴な唸り声が一気に鼻と耳に流れ込んで行く。視線は、「怪物」に奪われた。

 血で錆びた、見た事もないほど巨大で「ギザギザとした刃」を、相方に降り下ろそうかとしていた。

 

「あぶねぇ!!」

「いっ……!?」

 膠着していた体が、咄嗟に動いた。

 反射の良さは柔道を習っていたのが幸であったか、持っていた提灯を投げ捨て、相方を抱えて路地へと飛び込んだ。その衝撃で、相方も鐃を落とした。

 

 すぐ瞬間、巨大な刃は空気を切る音と共に、降り下ろされた。その様子を感覚で感じ取り、ゾッとなる。

「な、ななななななな…………」

 相方はパクパクと口を動かし、突然現れた「もう一人の化け物」を凝視している。

 兄貴分の男も、バッと振り返り、化け物の全貌をその目に収めた。

 

 巨大な刃を軽々持ち上げ、筋肉隆々の体には血だらけのシャツを着用している。

 頭部には鉄の、籠のような被り物を被り、怪我だらけの顔面は、醜悪な形をしていた。

「ぐるぅぅぅぅるるぅぅ……………」

 目線が合った。理性を感じなかった。巨大な刃を大振りし、こちらを威嚇するように粗暴な唸り声を響かせた。胃の底を震わすような重低音。胃が煮え、嘔吐してしまうかと思ってしまう。

「あ、あぁ……あぁぁぁ……」

 口からは空気しか吐き出せない。さっきの怒鳴り声のような大声が、出せなくなっていた。

 ただ、生存本能が体を動かしてくれていたようだ。フラリとだが、相方と共に立ち上がる。

 

 

「ガアァァァァァァアァアアアァアッ!!!!!!」

 巨大な刃が、轟音を撒き散らし回転。雄叫びと共に再び振り上げ、二人に向かって襲いかかる。

「に、に、逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 張り裂けんばかりの「逃げろ」の叫びが、サイレンのように響いた。提灯をなくし、完全な闇と化した長屋を二人は手探りで逃げる。

 

 

 ホーンテッドの夜が、今宵も開始された。




出せたぜ。
序盤のトラウマ、サディストさんです。自分、開始一時間でこいつに殺られやした(泣)
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