固有魔法が武器ガチャだったけど全部使いこなせば問題ない   作:武器確定ガチャ

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第1話:冒険者【千変万化】

 ――子供の頃、俺は御伽噺の英雄に憧れた。

 全てを救う英雄に、怪物を倒す英雄に、誰かを助ける英雄に――何より大切な人を守れる全てを救える英雄に……そんな英雄達に何も知らない俺は憧れた。

 そして、その頃の俺は憧れることを間違いだと思わなかった。いや、思いさえしなかったってのが正しいだろう。

 だけど、今なら言えるんだ――英雄なんて呼ばれるモノは、ただの。

 

「はぁ冒険者……やめてぇ」

 

 ふと、漏れてしまったのはそんな一言だった。

 万感というか、もうなんか自分でも驚くくらいに疲れているのか溜息まで入り、すでにボロボロであと一回でも降れば壊れそうな戦鎌を杖の代わりに立ち上がれば、少しふらつく。

 

「なんで? まじで、強かったんだが? ……ほんと、やめてぇよ」

 

 草原で立ち上がる俺の目の前には首が刎ねられた赤龍の死体。

 一時間ほど戦って得たその戦果。急遽来た依頼ではあったし、それを受けれる人材がいなかった故ではあるが、なんとか勝てたことに一応安堵する。

 

「お疲れ、シエル」

「そっちこそな、アリア」

 

 そんな俺にかかる声が一つ。

 武器が消えた途端に気付けば姿を現した銀の髪と蒼い瞳を持つ少女が、俺に労いの声をかけてきた。俺の魔法の要でもあり一番の功労者である彼女の頭を撫でつつも、俺はこの龍の死体をどうするか考える。

 

「……持ってく?」

「いや、無理だろ……」

 

 巷で噂のアイテムボックスや空間魔法とかがあれば、この龍を運べるかもしれないが……俺に使える魔法なんて精々身体強化と軽い回復魔法ぐらいなので、こんな十メートルを超す巨体を運ぶなんて出来ない。

 

「また、運搬頼むかぁ」

「お金減っちゃうね、仕方ないけど」

 

 ギルドからの依頼とはいえ、これを換金するためにはそこまで運ばなければいけない。それには当然金がかかるわけで、この大きさとなるとそれだけの設備が必要になり……報酬から引かれると考えると、ギリ許容だと思いたい。

 それに珍しい龍の死体なんて物を放置なんて出来ないので、業者が来るまではここに待機した方が良いだろう。

 

「……とりあえず、一時間仮眠で」

 

 呼ぶための硝煙を焚いて、横になった俺はいつでも起きれるような体勢で意識を落とし、そのまま疲れを癒やすために寝始め――というか意識が落ちる。

 あわよくば、問題起こりませんように……と、そう願いながら。

 

「……すげえ、こんな魔物だらけのところで寝てるぜ」

「赤竜を倒して即昼寝だと……さすが英雄だ」

 

 あれぇ、なんか速くない?

 

――――――

――――

――

 

 俺は平穏が好きだ。

 大金持ちになりたいとか、名声を得たいとか、そんな事は思ったことがない。ただ人並みに生きて、人並みに死んで、自分の時間を過ごせればいいなぐらいに思って生きている。子供の頃は英雄なんて物に憧れはしたが、それはもう過去の話で。

 

「シエルさんが帰ってきたー!」

「まだ出発して二時間ぐらいだぞ!?」

「背中のあれって――赤龍の首だ!」

 

 帰ってきた自分が住む街のギルド本部。

 討伐証明のために仕方なく背負っていた赤龍の首に沸き立つ冒険者達の声を聞きながらも、ちょっと痛む胃に頭を悩ませ俺はギルドの担当に声をかけた。

 

「……依頼完了だ。これで大丈夫だろ」

「ッはい、赤龍カルバの討伐確認しました! お疲れ様ですシエルさん!」

 

 二年程の付き合いのあるヒューマンの女性。

 ……労いの言葉をかけてくれるのは良いし、悪い気はしない。

 でもだ……普通に体が限界なので、なんというか喜ぶことは出来なかった。

 今の俺の中にあるのは帰って寝てぇぐらいの思いだけで、長引くのは勘弁したいし、報酬金とか後ででいいから休みたかった。

 

「あれが、シエル・アゼルディア――あれが英雄か」

「赤龍カルバって百年以上生きた龍だろ? それを倒すなんて……」

「俺、初めて見た――この人が【千変万化】」

 

 無駄に耳が良いせいか、自分に向けた言葉が聞こえてしまう。

 色々周りに言われながらも、俺は冒険者ライセンスを提示して討伐証明として龍の鱗が魔道具であるそれに吸収されるのを見ながら、終わったことに安堵する。

 

「なぁこれで終わりか? もうほかに討伐してほしい魔物はいないよな?」

 

 一応の確認。

 これで「あ、まだ仕事ありますよー」とか急に言われたら、マジでつらいし、あっても絶対に行かない。というか行けないが、立場的に訊かなきゃ不味いし。

 

「すげえ、英雄様はまだ血に飢えてやがる」

「連戦しないと戦ったことにすらならねえってことか」

「名声も報酬もいらない、魔物との戦いだけが、俺の心の渇きを潤してくれる……ってやつか!?」

 

 それ一周回って化け物だろ、馬鹿にしてるよな?

 さっきから心の中でツッコミが止まらず、なんというか余計に疲れてくる。

 

「流石シエルさんだぜ! 次は何を倒すんだろうな!」

「見ろよ、赤龍相手に無傷だぜ? それにあの表情、余裕だったに違いないって!」

「一回も本気出してないって噂もあるし、英雄ってやっぱり凄いよな!」

 

 あの、止めてくれ。

 本当に当たったら死ぬから避けてただけだから、本気というかマジ限界というか――もう俺全身筋肉痛で足ぷるっぷるだから。

 

「ねぇ待って」

 

 もうマジ無理、休みたいと思う俺の元に……声をかけてくる一人の少女。

 とても長い黒髪を後ろでまとめた、朱色の瞳のその子は――急に現れて俺をしっかり睨んでくる。

 

「なんだ、お前?」

「あれって【桜鬼(おうき)】か!?」

「え、あれが極島から来た特異と呼ばれるの英雄の!?」

「十六っていう若さで英雄の位に辿り着いたあのか!?」

 

 まじで見たことなかったし、完全に初対面だろうからそう言えば……周りからそんな声が聞こえてくる。だが、そう言われてもマジで誰か分からないし凄く困る。

 とりあえず桜鬼って名前……か二つ名だろう事と、極島から来た子ってのは分かったけど、何の用なんだろうか?

 

「私は、エンラ・ヤマト……いずれ貴方を超える者」

「そうかよ、それは楽しみだな」

 

 まじで働ける人材が増えるなら俺の仕事も減るし、出来れば超えて仕事を楽にさせて欲しい。というか、十六歳でSランクなら俺なんて十分超えてるだろ。

 

「で? それを言いに来ただけか?」

 

 要件がそれだけならもう帰っていいよな?

 というか、帰らせてくれ……もうさっきも寝れなくていい加減寝たいんだよ。

 

「ない、今日はそれを伝えに来ただけ」

「……そうか。じゃあ、俺は帰るが。何かあったらまた連絡してくれ」

 

 これ以上ツッコむのは嫌なので、俺はそうやって切り上げる。

 そして依頼をこなした翌日のこと号外号外! と外で叫ぶ声が聞こえてきた。

 寝惚け目で家の外に出てポストに入った新聞を取ってみれば、書かれている記事を見てすぐに目が覚めてしまう。

 

「英雄シエル、赤龍カルバを討伐……流石は【千変万化】――はぁ」

 

 ここ数日で何度目になるか分からない溜息。

 あの赤龍との戦いせいで筋肉痛というか、体が悲鳴を上げているせいで二十代前半にも関わらず湿布生活から抜け出せない俺。

 新聞で称えられても、なんか微妙に喜べないというか死にかけた俺からすると、なんというかぁ……という思いである。

 

「…………寝よ」

 

 現実逃避がてらに振り向けば、そこにはまだローンが残っている豪邸が。

 断り切れなかったせいで買ってしまった家。二人で住むには大きすぎるそれに入りながらも、俺は同居人兼相棒にだけ飯を作って、その日は休養に努める筈だった。

 

「――は?」

 

 そして、ベッドに入ろうとした瞬間の事だった。

 なんか自室から見える範囲が爆発したというか、巨大な茶色い影が暴れているというか……巨大な牙を持った阿呆みたいな猪が。

 

「……なんで、魔猪(まちょ)が?」

「大きいね」

「あ、うん……そうだなアリア。これ、放置したら不味いよな? 主に家」

「うん……仕事、だね」

「はぁぁぁぁぁ、もうマジで過労」

 

 あの猪に進行方向的に、このままいけば屋敷直撃壊滅コース。

 そしたら残ってるローンと住む場所的に倒さないといけなくて――。

 そう思った俺ははすぐに鎧に着替えて、街中に突撃してきやがったクソ猪に武器を創り出して突撃しに行った。

 

「かかってこいや魔猪野郎ゥ!」

 

 そして、俺が住んでいるウェントスの街に――自棄になった馬鹿の泣き声が響き、それから戦闘が終わったのは、三十分後の事だった。

 

「鎌一本だけで、しかも魔法も使ってなかったぞ?」

「シエルさんが本気出す場面とかあるのか?」

「あまりに強すぎるだろ……」

「やっぱり、強い」

 

 そんな反応を見てあぁ英雄を。何より冒険者やめたいと心底思って、そろそろソロストライキでも起こそうかと思い――もう限界な俺は、人知れず溜息を零した。

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