固有魔法が武器ガチャだったけど全部使いこなせば問題ない 作:武器確定ガチャ
酒場の喧騒を感じる。
依頼帰りの冒険者や、仕事終わりの街人、そんな彼らの騒がしい声に酒場のオーナーの娘さんの歌声が響き、そこら中から香るアルコールの香りを嗅いで。
「――あぁ酒だけが俺の心の渇きを潤してくれる」
そうしてビールを一杯煽って一言、ローブで顔を隠す俺は、万感の想いを込めてそう言った。依頼が多くというか、残業擬きまでさせられた二日前。未だ話題になっているせいで顔を隠す必要があったからの格好だ。
「まじでこのローブ様々だ」
認識阻害の能力を込めているという一級品のローブのおかげか、誰も俺に気付かない。顔を出さない限りバレることはないし、今日はもう好きなだけ酒が飲める。
「金は貯まってるからな、今日は飲むそして寝る――ビバ自堕落生活」
三杯目ということもあってか、少しだけ酔いが回り始めた時間。
上機嫌になりながらも鼻歌を歌い、そのまま一人言葉を零すも酒場の喧噪にかき消される。
「聞いたか? シエルさんがまた凄い魔物を討伐したらしいぞ!」
「魔猪だろ? 流石に知ってるって……というかその話何度目だよ」
「だって、ギルドに肉分けてくれたおかげで魔猪肉パーティー出来たし……」
「まあ凄いのは分かるぞ、だって傷一つなく戦ってたしな」
「魔猪の攻撃を全部避けて――そして「これでお前は終わりだ」って言葉、まじで痺れたわ!」
最近暴れていた赤龍を討伐したおかげか、魔物も騒がしくないし……これこそが、平穏というやつだろう。だから今の噂話とか聞こえないし、何も分からない。
というかなんだ? 俺そんなこと言ってたのか? 途中からつらすぎて、何やってるか分かってなかったんだよな。デカいし速いし、街が壊れないように戦う必要あって――思い出したらムカついてきたから猪肉のステーキたのも。
頼んで届くのは皿一つからはみ出る程のでっかい魔猪肉の塊。
ステーキ用に切られたそれからは焼いたばかりで肉汁が溢れているし、ナイフを入れれば、じゅわーぱちぱちと踊ってる。
鼻に入る香ばしい匂いにクラっとしながらもそれを口に入れてから酒で流し込む。
「うめぇよ、霜降りすげぇよこの魔猪肉……なんか魔力も回復してる気がするし」
昨日は疲れからか一切口に入れる気がなかった討伐したての魔物の肉。
腹いせと恨みを込めて頼んだそれだけど、本当に美味しくて自然と笑顔が溢れてくる。油も甘く、嚙むたびに肉汁が溢れる最早禁断ともいえるその肉塊になんか涙出てきた。
「はは、美味いな……はぁ明日依頼がなければいいなぁ」
傍から見たら笑いながら泣いている不審者なのだが、今だけは許してほしい。
だって、連日つらい魔物としか戦ってないから。
何が悲しくて赤龍を倒した後にあんな破壊力しかない巨大魔猪と戦わなきゃいけないんだよ。
誰か代わってくれよ……と切に願うが、この街の戦力というか、冒険者のランクであれ倒せるクラスにいるのは俺ぐらいだから仕方ないんだよな。
まぁ、倒せるって言ってもぎりぎりだし運悪いと俺は普通に死ぬし。
正直なところ、連日高ランクの魔物と戦ってるばっかりで運はいいとは言えないが戦闘に関しては本当に運がいいから勝ててる部分がある。
ぶっちゃけると死ななきゃ安いので、はやく隠居できるだけの金を貯めて冒険者止めるのがやっぱり得策だろうな。
「にしても肉美味い、あとで包んでもらお」
俺の相棒であるアリアをこんな場所で出せば、騒ぎになるのは分かってるし……何よりあの子は、俺の義妹としてこの街の住人には認知されている。
優しくてよく子供の遊んでいる彼女はいい意味でとても有名、そして基本は俺としか行動しないってことが知れ渡っているので喚んだ瞬間に俺が俺だとバレてしまう。
だからこの場で喚べないので、家で一緒に食べる用のお土産を包んでもらい帰ろうとした時の事だった。
「冒険者様はいませんか!」
この酒場の扉が開いて、二人の子供が現れたのは。
息を切らした少年少女。
金髪碧眼のそんな子供達は必至な顔でこの場にやってきたようですでに汗だく。
何があったか気になったが、ただわかることはただ事ではないという事だけで、観察すれば見覚えもあるし、確かこの子達は街の教会に住んでた子だった気がする。
気になるが、何があったかを聞くまでは動けないので聞き耳を立てた。
「何があったんですか?」
「シスターを助けてください!」
率先して聴きに行くのは酒場のマスターの娘さん。
まだ気づいていない冒険者や、酔いつぶれている者達が多いことに気付いたのか、屈みながら視線を二人に合わせて声をかけた。
「そ、その、シスターが魔物がいる森にみんなを助けに行っちゃって……」
シスターというのは彼らが住んでいる教会の育て親的な存在。
俺もよく挨拶するが、戦えるけど無茶しがちな子だった気がする。
ぽつぽつと懺悔するように語る子供達の話をまとめるに、シスターの誕生日であった今日、花を摘みたくて子供達で森に入ったのはいいが数人が姿を消したらしい。
唯一帰れた二人がそれを話したら聞いた彼女が助けに行ってしまい、日が暮れても帰ってこないとのこと。
「お願い、シスターを誰か助けて!」
この近くの森と言えば、牙の森と呼ばれる場所だけ。
昼は比較的に平和だが、夜になれば魔物が溢れる自然的なダンジョンともいえるその場所に子供が入るなとは言いたくなるが、行ってしまったのはしょうがない。
だが、この時間それも深夜に差し掛かったあの森に行ける冒険者がいるとは思えない。あの森は、統率が取れていて魔物が外に出ない代わりに、夜が深まるほどに危険度を増す性質がある。
こんな時間に入ってしまえば、あそこを守るあいつと敵対するかもしれなくて――それにだ、そんな命を懸けるような依頼の報酬を子供が払えるわけもなく。
話を聞くも命を懸けて、何より勇気を出して森に行くという選択を取れる者は少なく、何よりそんなバカはここにはいなかった。
子供を見る。
泥だけで駆け回ったのは服はボロボロ。
ここに来るまでに何度か断られたのかもしれなく、不安が見え隠れしている。
それに、道中にあるギルドに依頼を出したかったのかくしゃくしゃになった依頼用紙を持っており、断られたのが見てわかる。
ギルドも困っている人を全員助けるような、慈善事業じゃないし、冒険者は貴重な戦力。一定以上の場所に不可侵契約が結ばれている牙の森を探せなんて依頼出せるわけないし、悪戯に冒険者を使うわけにもいかない。
だからこそ、この場で動ける者はいなかった。
娘さんも、それを分かっているからか言葉を出せずにいるし……。
だけど、そんな光景を――俺に宿る彼女が、見捨てるのなんてことだけはあり得なくて。宿る彼女の不安と期待を、俺は感じてしまって。
「はぁ――しゃあない」
俺は深く、とても深く溜息を吐いて。
後の苦労を考えず認識をずらすローブを脱ぎ去った。
「おい、本当に牙の森だな?」
「え、うん。助けて、くれるの?」
「絶対に報酬は受け取る。それと、もうあそこに行かないことが条件な」
「――シエルさん!?」
「え、なんでいるんだ!?」
姿を現せば俺の姿を見えて驚く子供。
いることを知らなかった娘さんや、今まで傍観していた冒険者たちも俺の姿に驚いたようで、誰もがそれ以上言葉を発さない。
「依頼は受ける、それと行くのは俺だけな」
「本当に行くんですか!? あの森には神獣が」
「こう言って行かないは変だろ、それにアレとは面識があるからまぁ平気だ」
これがギルドに知られれば罰金とかあるかもしれないし、面倒くさいことは沢山。
でも、ずっとこの人生でついてきてくれてる相棒に期待されたなら仕方ないだろう。だから、無茶でも行くしかない。
「まぁなんだ、一応助けるが運が悪かったらごめんな」
俺は耐久なんてほとんどない。そんな俺が魔物溢れる牙の森に行けば、連戦で潰れるし本当に運任せ。
だからそれだけ伝えて……酒場を後にした。