燻んだ太陽は異世界を覆う〜召喚勇者たちの異世界侵略記〜   作:とりさん

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第一話 日出づる処の勇者

 

 

 目を開けた時、そこには別世界が広がっていた。

 

 

「おはよう」

「おはよ〜」

「おっはよー」

「……つかれた」

「朝から疲れてんのか〜……昨日は何人?」

「5人」

「おはようございます、今日もいい朝ですね」

「やべぇ、課題忘れたー!!」

「教科書忘れたー!!」

「「貸して!!」」

「課題貸すってなんだよ!? あと教科書貸したら俺が授業わかんねぇだろうが!?」

「まぁまぁ、諦めて先生に言ってみたら?」

「それ一昨日もやったよ」

「どんだけ忘れてんだおまえ……」

 

 

 灰色の淀んだ空、コンクリート製の教室。

 さっきまでは、そんな慣れ親しんだ世界が広がっていたのに。

 

 

「うわっ! まぶしっ!?」

「暴動か!?」

「爆弾だ! 爆発するぞ!!」

「テロか?」

「身を守れー!!」

「床に模様? なにこれッ!?」

「んな事言ってる場合か、逃げるぞッ!!」

 

 

 光に包まれ、気付いたときには床に倒れ伏していた。

 見覚えのない床には、気を失う前に教室の床でも見た模様と同じものが描かれている。

 

 

「───どうか」

 

 

 覚醒したばかりの頭が、誰かの声の認識する。

 顔を上げると、人がいた。

 

 

「我が国を救ってください」

 

 

 絹のようにキメ細やかな銀色に輝く髪を僅かに揺らしながら、目の前の少女はそう言った。

 白いベールで顔の正面以外を覆い、祈るように手を前に組みながら、少女は続ける。

 

 

「勇者さま」

 

「…………」

 

 

 沈黙が広がる。ボクのクラスメイトたちはいきなりの出来事に全く脳の処理が追い付いていないようだ。

 まあそれはボクも同じことだが。

 

 

「すみません、少しよろしいでしょうか」

 

 

 痛いほどの重い沈黙を破るようにボクの隣から声が上がる。

 クラスメイトのひとり、秋月(あきづき)くんの声だ。

 

 

「はい、なんでしょうか。私ができることなら如何様にも」

 

 

 ん? 今何でもするって言った?(幻聴)

 莫迦なことを考えているボクの横で、秋月くんは堂々とした態度で質問する。

 さすがクラス委員長。面構えが違う。

 

 

「よかった。こちらの言葉も通じるのですね。此処は明らかな異国。このような場所で日本語を聞けるとは。随分と流暢な日本語だ」

 

 

 確かにそうだ。双方向での日本語が通じている。

 ボクたちが目を覚ました場所は、明らかに西洋様式の建物。

 クラスメイト一同が座り込んでいる床の不思議な模様を中心に、四方に太い大理石と思われる柱が伸び、お椀をひっくり返した様な天井を支えている。

 この部屋の大きさから考えると、まるで教科書で見た教会や城のような巨大な建造物の中にいると考えられる。

 

 ……もっとも、そんな建造物が(・・・・・・・)現存している(・・・・・・)場所なんて(・・・・・)聞いたこと(・・・・・)がありませんが(・・・・・・・)

 

 

「? そう、です……か? 私が今話しているのは西方ズムソク語ですが……」

 

「西方ズムソク語……? 寡聞にして存じ上げないのですが、どの国の言葉でしょうか」

 

 

 困惑しながら応えた少女の回答に、秋月くんも困惑した様子を見せる。

 

 でも確かに、西方ズムソク語なんてボクも聞いたことがない。

 どこの言葉だろう? ヨーロッパ? アフリカ? それとも祖国か”片割れ”のどっちかに住んでる未開の蛮族だろうか。

 

 

「そうですね……西方ズムソク語を公用語として使っているのは主に───」

 

 

 自分の知識に抜けがないか、暫く考えた後に少女は言う。

 

 

「───この国、”帝国”ぐらいですね」

 

 

 ”帝国”。

 その言葉を聞いた次の瞬間。

 

 

「「「「「「「「「「「───は?」」」」」」」」」」」

 

 

 ボクたち、『第一桑港高等学校』二年三組の生徒一同は。

 

 

「「「「「「「「「「死ね」」」」」」」」」」

 

 

 少女───ではなく。

 

 その背後に控える中世ヨーロッパような甲冑姿の騎士(と思われる集団)に拳で殴りかかった(・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 § § §

 

 

 

 

 

 ボクが生まれる少し前、大きな戦いが起こった。

 大きな、とても大きな戦いだ。

 

 その戦いには世界中の国が参加し、国の大小問わずあらゆる手段で勝利を目指した。

 天然資源、技術、人口、土地、食糧、文化、思想。

 今まで積み重ねてきた全てを投じて、それらを磨り潰しながら戦い続けた。

 

 戦いは十年以上続いたらしい。

 

 過度な徴兵が原因で男手は減り、田畑は荒れ果て、食糧の供給は止まり、飢餓によって更に人口は減った。

 経済は停滞し、物価は制御不能に陥り、治安は悪化し、都市では疫病が蔓延した。

 

 前線に近い場所では毎日のように爆弾が頭上から降り注ぎ、それでも生活に必要な最低限の物資さえ手に入らない。

 全てが軍事に優先され、民間はそこからこぼれ落ちた僅かなものを受け取ることができる。

 

 国家の軍事力だけでなく、人的資源・経済力・技術・思想など、国力のすべてを動員して戦う戦争形態───総力戦。

 

 その総力戦が全世界でほぼ同時に起こった出来事を人々はこう呼んだ。

 

 

 ───世界大戦、と。

 

 

 ボクたちの住む星、地球。

 凄惨な世界大戦の後、知的種族たる約二十億人の人類と豊かだった(・・・)自然環境を有するこの星は、現在主に二つの文明と世界を三分する三つの大国に割かたれた「冷戦」と呼ばれる時代が続いている。

 

 この時代の国際関係はかなり単純だ。

 

 戦いの構造は二つ。

 

 一つは数百年前から永遠と続く西と東。西洋文明と東洋───日本文明の戦い。

 

 二つは三大国。『日本民族主義人民皇国(皇国)』『亜米利加=大和連邦(連邦)』『大西洋第二帝国(帝国)』の戦い。

 前二つの国は、「旧」日本政府を祖とする国家であり、日本政府の後継国家を自称し、互いの正統性を傷つけ合う仲である。

 最後の『大西洋第二帝国』は、通称”帝国”と呼ばれる「日本文明への報復」を国是として掲げる軍事国家だ。

 

 つまり、ボクたち「正統な」連邦市民(日本人)にとって、”帝国”と自称する勢力とは、出会ったら即逃げるか殺し切るかの二択を選ぶことになる存在である。

 

 

 ……んで。

 

 

「あなた達の言う”帝国”とやらは、ボクたちの言う”帝国”とは無関係だと?」

 

「はっ、はい!! ぞぅ゙、そうなん、でず!! そ゛う゛なんです゛。ごべんなざい、……ごベンナじぁいぃぃ……」

 

「はぁ……、勘違いさせないでくださいよ。紛らわしい」

 

 

 涙を流しながら地べたに這い蹲り、何度もごめんなさいと繰り返す少女を前にして、ボクはため息を吐く。

 

 ……あっ、失禁しながら気絶した。汚いですね。

 乙女の尊厳とか欠片も感じない姿です。

 普通に美少女の類だったので、こういう醜態を晒しているのを見ると無性に笑いたくなりますね。

 

 

「おいカエデ、そっちはどんなもんだ」

 

「特段、これといった収穫はないですよ」

 

 

 アンモニア臭に顔を顰めていると、ボクの名前(カエデ)を呼びながら秋月くんがこちらに寄ってくる。

 

 ……血の匂いを全身から漂わせながら。

 

 

「そっちはどうですか?」

 

「いや〜、しょーじき微妙」

 

「使えないですね。こっちは拷問なしで此処まで心を折ったのに」

 

「いや、そりゃお前……」

 

 

 ───こんな状況じゃあな。

 

 

 呆れたような秋月くんの声に釣られてぐるりと周囲を見渡す。

 

 

「いやだ。やべで、やめでぐだざい゛」

「ま、待って゛、やめ───」

「あ、あぁぁぁぁ。目が!! い゛だい゛!!」

「たすけてくれ……だれか、誰もいいから……」

 

 

 殴打という原始的な暴力が齎した惨状。

 悲鳴が木霊し、ベキベキと骨が折れる嫌な音が聞こえてくる。

 

 床に転がるのは甲冑姿の騎士たち。

 ただし剣は半ばから折れ、少し離れたところに捨てられ、彼らの鎧は所々が陥没している。

 鎧ごと(・・)折れている手足を見るに、鎧の中身は既にグチャグチャになって手足の体を成してないだろう。

 

 

「地獄ですね」

 

「地獄だな」

 

 

 そして、その地獄のような光景を作ったのが秋月くんを筆頭としたクラスメイト一同だ。

 

 

「ところでこちら側の被害は?」

 

「ゼロだ。まあ、そもそもこんな原始的な装備で傷なんて付くわけないだろ。せめてライフルの一つでも持ってこいって話だな」

 

「そうですか、それならよかったです───っと」

 

 

 背後に近付く気配を感じたので、素早く片足を軸にターンをしてソレ(・・)を回避する。

 視界の端に黒い影が映った。

 

 

「うわっ! 急に出てくるなよビックリするなぁ」

 

「えぇ〜、ミナト(秋月)でも気付かなかったのに、なんでカエデは避けれたの〜?」

 

「企業秘密です。それより、いきなり背中から抱き着こうとしないでください。まったくもう、心臓に悪い……」

 

 

 ピンク色のシュシュで留められたポニーテールを揺らしながらケラケラと笑うのは、ボクの友達の風見(かざみ)ハルカ。

 

 

 正直危なかった。

 足元に映る影が2人分から3人分になってなかったら気付かなかった。

 年々気配を消すのが上手くなってる気がするのだが、彼女は一体何を目指しているのだろうか。

 もしや旧日本にいたとかいう「ニンジャ」にでもなろうとしてるのか。

 

 

「あなたは……、いえなんでもありません。そういえば奇襲はハルカの得意分野でしたね」

 

 

 こちらも秋月くんと同様、血の匂いこと漂わせているものの、目立った傷は無さそうだ。

 というより、返り血がベッタリと付いているせいで、怪我していても外から見ただけじゃあ分からない。

 まあこの調子なら、多分大丈夫だろう。

 

 ボクが安堵したのが伝わったのか、ハルカはニヤリと笑った。

 ハルカのチャームポイントである八重歯がチラリと覗く。

 

 

「あっれ〜? カエデ、私たちの心配してくれてるの〜? やっさしぃ〜〜」

 

「孤立無援の状況で被害の確認は常識でしょう。別にあなた達を心配したわけじゃありません。あと血がつくので触らないでください。ボクが汚れる」

 

「ひっど〜! 私たちは拳を痛めてまで戦ったのに、カエデちゃんは血が付くってだけで触れてくれないの〜? うわ〜んミナト〜、カエデが意地悪する〜」

 

 

 大げさな演技をしながら、頭を犬のように秋月くんの身体に擦り付けるハルカ。

 秋月くんも慣れた様子でよしよしと苦笑しながらも、ハルカの頭を撫でる。

 

 ……あ、髪の毛に血がついた。血塗れの手で女の子の頭を撫でるとか最低ですね秋月くん。

 

 

「髪は女の命らしいですよ、秋月くん。ハルカの髪が血で汚れてしまったでしょう。分かったらさっさと手を離してください」

 

「だってさ」

 

「いいも〜ん! 私は気にしないよ〜! カエデがやってくれないならミナトにやってもらうだけだも〜ん!」

 

「だってさ」

 

「こっち見ながらこれ見よがしに撫で続けるのを辞めなさい」

 

 

 ああもう、イライラする。

 なぜか2人が戯れているのを見ると、無性に胸の奥がチクチクとするんですよ。

 いつもですよ。

 

 この前、ボクの家のビックマザーことお婆様にこの話をしたらすごい生暖かい目で見られました。

 一体ボクの何処に生暖かく見られる要素があったんでしょうね?

 襲うときにはうちを使いな、ってどういう意味だったんでしょうか。

 

 そもそもあの妖怪ババア(お婆様)一体何時になったら死ぬんでしょうね?

 もう百年は生きているらしいと聞いたのですが。

 世界大戦でも最前線で切った張ったしてたらしいし。

 ポックリ逝ってくれたら楽なんですけどね。

 

 遺産相続とか、家督相続とか。

 

 あっ、兄弟姉妹親戚連中は軒並み仏様になった(死んだ)無力化(植物状態に)されているので、相続対策はバッチリです。

 ……両親だけは、なーぜか傷ひとつ付けられないですが。

 

 送り込んだ(乗組員を脅した)産業廃棄物(戦車)を素手でペチャンコにする両親はもう人間とかそういう次元にいないのかも知れません。

 

 

「……まあ汚れてないところなら撫でても───」

 

「まあこいつは自分の手を汚さずに目標を達成することに関しては一日の長があるからな」

 

「失礼ですね」

 

 

 ほんと、デリカシーの欠片もない男ですよね、秋月くんって。

 あ〜あ、せっかくボクからも歩み寄ろうとしたのにー。

 そういうこと言われるとやる気なくしますね。

 

 

「もっとマシな言い方があるでしょう。ボクは単に血を浴びて変な病気を貰いたくないだけですよ」

 

「えへへへ〜、ミナトはどんな時でもちゃんと褒めてくれるから好き〜。───ウチのクソ両親と違って」

 

 

 ボクの言い訳を意に介さず、急にどんよりとした感情のない声で話すハルカ。

 秋月くんに頭を押し付けているので表情は見えないが、きっと死んだような顔をしてるのだろう。

 

 ……ほんと、急に闇を出すのやめてもらいたいですね。

 

 

「……はぁ……」

 

「あはは……」

 

 

 いたたまれない気持ちになって視線を彷徨わせていると、秋月くんと目が合った。

 何とも言えない顔をしている。多分ボクも同じような表情なのだろう。

 

 

「……(ヒョイヒョイ)」

 

 

 秋月くんがハルカの頭の上で撫でるジェスチャーをする。

 ボクにもやれと?

 

 

 ───お い で。

 

 

 口パクしながら手招きしないでくださいよ。これもうボクも撫でる空気じゃないですか。

 

 ハルカの背後からゆっくりと近付く。

 

 そして手を伸ばして───。

 

 

「むふ〜、さっきより優しい撫で方〜。カエデの手だ〜」

 

 

 わっしわっしわっし。

 乱雑に撫でてやるとハルカは喜んだ。

 

 こうして見ると犬みたいですね。

 尻尾をブンブン振り回しているのを幻視してしまいます。

 

 

「よーしよしよし」

 

「お前もなんだかんだ優しいよな」

 

「あ゛っ゛?゛」

 

 

 ボクが優しい? そんな訳ないでしょう。

 ボクはただ、することがなくなっただけで───。

 

 

「……そういうところが好きなんだけど(ボソッ」

 

「わ〜お」

 

 

 秋月くんの声が聞こえたのだろう。ハルカが感嘆した声を上げる。

 

 そして、偶々聴力を強化してい(・・・・・・・・・・)()ボクも全部聞こえていました。

 

 

「…………」

 

 

 なんとなく撫でる手を止め、じっと視線をハルカの頭の上に乗せた手に固定する。

 

 なんとなくです。

 

 別に手の震えを隠すためとか、勝手に緩む口角を抑えるためとかではありません。

 

 なぜか体の奥がじんわりと暖かくなったり、むずむずしたりします。

 

 

「ハルカ」

 

「ん?」

 

「何処かで髪、洗いましょうね」

 

「ん〜? ふへへ、は〜い!」

 

 

 結局、ボクの手も血で汚れてしまいました……。

 さっさと洗って綺麗にしたいですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


◯Tips「世界大戦」

 

 嘗て起こった世界規模の総力戦。当時隆盛を極めていた日本(旧日本政府)とそれに敵対する国家(日本以外のほぼ全国家)の間で起こった。

 最終的にはアジア一円を支配する日本が勝利したものの、内地人口の消滅、技術開発の完全停止、重要製品の製造不能化、日本人の絶滅危惧種化など、甚大な被害を齎した。

 現在、日本列島(元内地)は、『日本民族主義人民皇国』『亜米利加=大和連邦』両国から「神聖民族保全領域(神域)」と定められている。

 

 




一応世界地図も創ってみたので、載せておきます。

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