燻んだ太陽は異世界を覆う〜召喚勇者たちの異世界侵略記〜   作:とりさん

2 / 2
第二話 民主主義は拍手の中で死ぬ

 

 

「みんな注目!!」

 

 

 ハルカが一通り満足して秋月くんから離れた後、秋月くんは手を叩いて注目を集める。

 そしてこちらを一斉に見つめたのはクラスメイトたち。

 

 室内は静寂に包まれ……と言いたいところでしたが、うめき声が聞こえてくるので、普通に五月蝿いです。

 音の発生源は、クラスメイトたちの背後、さっきまで殴打されていた騎士たち。

 今は全員床に転がっていますが、合計で僕たちと同じ、20人くらいいます。

 

 手足が曲がってはいけない方に曲がっているので、うめき声の原因は、おそらく身体に走る激痛でしょう。

 まだ彼らについての情報は少ないですが、神経の通りはボクたちと同じようですね。

 

 

「黙ってください」

 

 

 とはいえ全く黙る気配がなさそうだったので、ボクは手を地面と水平に広げ、静かに下ろしていく。

 

 

「ぉ゛ガッ゛!? ギャ゛ッ゙! ベッ゙……!」

 

 

 手を下ろすにつれ、騎士たちはゴリゴリという音と湿ったうめき声を漏らしていく。

 まるで上からの強い圧力が掛かっているように、鎧は拉げ、肉体は血や筋肉の破片を床に広げながら、騎士たちは平らになっていく。

 

 たがいくら圧力があるとはいえ、人間の骨とは頑丈なものだ。

 特にそれが肉体の最も重要な器官である脳を守るための骨───頭蓋骨ともあれば。

 

 

 ……だから。

 

 

「……っ」

 

 

 ボクは手に、少し力を入れる。

 

 

 潰す。

 

 高いところから落とされた果実のように潰す。

 

 できる(・・・)

 

 そういうイメージを強く持って、ボクは手を下ろしきる。

 

 

 ───グシャ。

 

 

 PK能力(念動力)基本技能【捻転】。

 

『亜米利加=大和連邦』政府が定める初等学校(小学校)学習指導要領。

 課程修了に必要な、その最低条件。

 それがこの技能(スキル)の習得だ。

 

 

 果実()が潰れた。

 

 いや、潰れたというより、弾けたといった方が正しいでしょう。

 外圧に耐えかねて内側から弾けた。

 

 うまい例えが出てきませんが、叩き割った柘榴みたいなものです。

 

 

「はい」

 

 

 そう言って秋月くんを見る。

 

 

「静かになりましたので、どうぞ?」

 

 

 クラスメイト何人かは弾けた時に飛び出した中身(・・)が服について嫌そうな顔をしていましたが、ここで文句を言う人はいませんでした。

 流石は連邦市民(日本人)

 空気を読んで周りに合わせることにかけてはピカイチですね。

 

 どうせあとで陰口か、直接文句を言われるのでしょうが。

 まあ、それは甘んじて受け入れましょう。

 五月蝿い彼らに苛立ってつい潰してしまったボクにも非はあるので……。

 

 秋月くんは満足気に頷くと、話し始めました。

 

 

「よし、なら早速だけど、みんなに聞いておこうと思う。なにか頓痴気な事が起こっていて、今が緊急事態で、ただ座して待つというのが一番危険な選択肢って事は、理解してるよね?」

 

 

 首を振ることで肯定したクラスメイトたちを見回しながら秋月くんは続ける。

 

 

「それで聞きたいのは此処からなんだけどさ……。取り敢えず、状況が落ち着くまでは俺が指揮を執る。俺がこのクラスの方針を決めて、君らにはそれに従ってもらう。個人の意思決定でも、基本的にクラスの方針に沿うようにしてくれ。自分で判断に迷ったら、俺に相談してくれ。

 俺はクラス委員長として、非常時のクラス属員の指揮を執る義務がある。これは校則にも書かれていることだ。リーダーを変われという意見は、悪いんだが聞けない。

 ……異議があるなら言ってくれ。なるべく要望に添えるようにする」

 

 

 沈黙。

 

 ……そんな直ぐには同意できませんよね。

 要するにこれは、「自分の命とクラス全体の危機が天秤に乗った時、自分の命が秋月くんの決定ひとつで切り捨てられる」ってことなんですから。

 

【非常時に伴う、教導員および教導補佐員の指揮権について】。

 

 何処の学校にも共通してある校則の項目。

 

 実際、過去にテロに遭った学校ではこの校則が適応され、クラス委員長の決断によってクラスの半数近くの生徒が犠牲になった痛ましい事件もありました。

 

 秋月くんは、今回の事態にこの校則を適応しようとしているのでしょう。

 

 

「まっ、いいんじゃね?」

 

 

 沈黙を破るようにがさつな声が上がる。

 声を上げたのは雨宮(あまみや)レンショウ。

 

 なんでも路地裏で複数人を血祭りに上げたとか、ヤクザの事務所に出入りしてるとか、あまり良い噂を聞かないで有名な生徒ですね。

 

 耳にピアスを開け、睨むような目で秋月くんを見る雨宮くんは、傍から見ればガラの悪い、どちらかと言うとチャラチャラしたというよりもオラオラしている印象を受ける。

 イメージで言うなら、チャラ男ではなくチンピラみたいな男子です。

 

 あとボクはこいつ(雨宮くん)のことが嫌いです。夢に出てくるくらいには。

 こんなチンピラが同じ学年にいると知った時点で、なんとか実家のコネでクラス割りに干渉しようとしましたしね。

 まあ無理でしたけど。

 

 だったらと試してみた先生への賄賂は通じないし、物理的な書き換えは差し向けた人員が全員秘密警察に逮捕されたので、結局断念することになりましたけどね。

 公共施設、特に未成年の情報がある学校というだけあって、国のガードも想像以上でした。

 

 ……そんな嫌いな人が一番に賛意を示すとは予想外でした。

 こういう人間って、大抵「俺がルールだ!」とか言って和を乱してくるイメージがあるんですが。

 

 ……馬鹿も馬鹿なりに考えて結論を出した、ということでしょうか。

 

 それがボクと同じ意見だったのは腹立たしいですけど。

 

 

「おい川瀬ッ!! なんかお前シツレーなこと考えてねぇかァ?」

 

 

 そんなことを考えていたからか、秋月くんからボクに視線を移した雨宮くんは、いきなり謂れのない非難をしてきました。

 

 

「気の所為じゃないですかね。あなた程度が分かるような簡単な思考なんて、多分ここにいる誰も持っていないと思いますよ?」

 

「あ゛ァ゛?゛ テメェ誰が人の心も読めないバカだと? ブチ殺すぞっ?!」

 

「あ゛ぁ゛ん゛? 殺れると思うならわざわざ宣言せずともかかってくればいいでしょう! ほら、何時でも受けて立ちますよ?」

 

 

 ボクと雨宮くんが互いに睨み合っている中、周りはヒソヒソと話し合う。

 

 

「わかりやす……」

「カエデちゃんも大概武闘派よな」

「だよな、色々考えてインテリっぽく振る舞うけど、結局殴ったほうが早いって結論に行き着くやつ」

「てか雨宮のやつ、わざと挑発したな……」

「まじ? 誘導ができるとか、川瀬より賢いじゃん」

「川瀬ってIQは高いけどEQが低いからな……。性格悪いし煽り耐性皆無なのよ」

 

 

 全部聞こえてますよ、君たち。

 というか、内容の大半はボクに対する悪口では?

 雨宮くんに誘導された? このボクが? 学業成績は学年トップ帯のボクが? 文武両道完璧天才超人美少女のボクが?

 

 

「 」

 

「あは〜。カエデちゃん、みんなから馬鹿にされて頭真っ白になってる〜」

 

「今なら殺そうとすれば一瞬で殺せるな。多分殺られたとも認識できないと思うぞ」

 

「え〜、心理状態に左右される危機察知とか一番最初に辞めろって習うじゃ〜ん。自動(オート)で警戒回して寝てても銃弾を反らせるようにしろって仕込まれるでしょ〜?」

 

「こいつそれが出来ないからって、初等教育の卒業認定試験賄賂でパスしてるぞ」

 

「えっ!? やっぱりカエデちゃんって犯罪者だったの〜?」

 

 

 なんですか、やっぱり(・・・・)って。

 

 まるで元々ボクが犯罪者みたいに認識されてたってことじゃないですか。

 ハルカ……ッ! さっきまで撫でてやった恩を忘れたんですか?!

 

 あの時撫でるんじゃなくて髪の毛を毟っとけば良かったかも知れませんね……。

 

 

「ひえ〜。なんかやな予感がする〜」

 

「勘の精度はバッチリみたいですね。ハルカ?」

 

「うひゃぁ〜、ゆるして〜。……じゃなくて。そうじゃなくって」

 

「ん?」

 

 

 ハルカは部屋の外に通じるであろう扉を指差す。

 騎士たちを殴るのに夢中で誰も調べなかった部屋からの出口。

 

 

「なんか、気配する〜。誰か来ると思う〜」

 

空木(うつぎ)さん!!」

 

「ひっ……! いっ……い、今から見ます(・・・・・・)!」

 

 

 空木(うつぎ)ミクネ。

 背はクラスで一番小さく、若干ボサボサの後ろ髪や目に隠すように下ろされた前髪の事もあって、全体的に暗い印象を受ける。

 フチの太い丸メガネをかけ、季節的にギリギリなセーターを着ており、まさに文学少女といったイメージがピッタリな子です。

 

 ボクもよく皇国の本(発禁本)を紹介してもらって、一緒にお茶したりする仲です。

 

 

「一枚……いや、三枚? 複合素材で構築してる? 階段……の上に扉。ということは計五枚?」

 

 

 扉の横の方を向いたミクネちゃん。

 焦点の合わない目で壁を見つめながらブツブツと呟く姿は正直言って怖かったが、この状況ではそうも言っていられません。

 

 ハルカの勘はよく当たります。

「誰かが来る」と言うならそう時間を置かずしてあの扉は開くのでしょう。

 

 そしてミクネちゃんが行っているのはESP能力(超知覚)基本技能【透視】。

 ある程度の薄さの物質であれば、それを無いものとして扱い、その先の光景も見ることができる技能(スキル)

 

 PK能力(念動力)ESP能力(超知覚)

 全てを纏めて”超能力”なんて呼ばれるこれらの力は、日本人であれば生まれた時から使える力だ。

 

 詳しい説明は省きますが、超能力には技能(スキル)と呼ばれる細かい種類? 使い方? があって、人それぞれに得意不得意があります。

 全ての技能(スキル)を完璧に使えたり、一部の技能(スキル)を全く使えないという例外も極稀に起こりますが、大抵の人はどの技能(スキル)も最低限使うことができます。

 

 ちなみにボクはPK能力(念動力)系の技能(スキル)が得意で、ミクネちゃんはESP能力(超知覚)系の、特に【透視】が得意です。

 

 つまり秋月くんは、ハルカのひと言で状況を把握し、最適な能力を持ったミクネちゃんを動かしたということになります。

 

 

「見えるか?」

 

「う、うん……。8人くらい……? ゆっくり歩いてきてる……と思う」

 

「そうか、あとどれぐらいであの扉の向こうに着きそうだ?」

 

「えぇっと……。ここは地下みたいらしくて、扉の向こうは階段になってて上まで上がれるようになってるの……。それで、その人たちはゆっくりと階段を降りてきてる。……まだ上の方だから時間はあと少しあると思う」

 

「よし、なら早く決めておくべきだな」

 

 

 目まぐるしく動く状況にざわめき出したクラスメイトたちに向かって秋月くんは手を挙げる。

 

 

「みんな聞いてくれ。さっきのリーダーの話だ。どうやら状況はもう俺たちじゃ掌握できない段階に来ているらしい。そこで俺から最初の方針の提示だ。

 

 ───自衛以外の攻撃を禁止する。

 

 どんな相手であれ、話し合いを第一の選択に据え、関係が悪くとも最初の一発は相手に出させろ。間違っても此方から攻撃する、なんてことを起こさないようにな?」

 

 

 さて、と秋月くんは嗤った。

 クラスのみんなも釣られて嗤った。

 ボクも嗤った。

 

 

「さあ、推定誘拐組織の関係者が来るぞ? ───せいぜい友好的にいこうじゃないか。なぁ諸君?」

 

 

 カツ……カツ……という、階段を降りる足音が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 ◯超能力

 皆さんご存知超能力。

 火を生み出したり、雷をビリビリしたり、ベクトルを操作したり、硬貨で簡易レールガンをやってのけたりする頓痴気パワー。

 ファンタジー世界でよく見る魔法との違いは、消費しているのが魔力か精神力かの違い。

 厳密には、超能力の行使で消費するのは何もない。だが、継続的な行使による集中力の減少、それに伴う体力や精神の消耗が発生する……というのが最近の通説。

 

 PK能力(念動力)ESP能力(超知覚)に分類され、外部に「出力」して影響を及ぼすものをPK能力(念動力)、内部に「入力」して情報を取り込むものをESP能力(超知覚)と呼ぶ。

 

 どの技能(スキル)が得意かは、両親の得意技能(スキル)が遺伝する……と言われているが、経験則上の話であり、詳細なデータ収集が行われた訳ではない。

 

 

 そして一番の特徴は、これを使えるのが神州を故郷とした日本人という少数民族だけであるということだ。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。