燻んだ太陽は異世界を覆う〜召喚勇者たちの異世界侵略記〜   作:とりさん

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第四話 ワーストコンタクト

 

 

「あ、あれ?」

 

「どうしました?」

 

 

 さぁいよいよ、と待ち構えたところでミクネちゃんが不思議そうに首を傾げる。

 

 

「さっきまで8人いた……んだけど、全身真っ黒な人たちがいきなり消えて……」

 

「消えた?」

 

「うん。まるで底なし沼に沈むみたいに、影とかの暗い場所に呑み込まれていってた……よ?」

 

 

 影に沈む? 超能力の一種でしょうか。

 でもそんな超能力は聞いたことがありませんし、超能力を使えるのは日本人───日本民族主義人民皇国(皇国一等臣民)亜米利加=大和連邦(連邦市民)だけのはずです。

 

 ボクたちの傍で気絶している銀髪の女の子は明らかに日本人とはかけ離れている容姿をしていますし……。

 

 いや、別にそういう髪色の日本人がいないわけではないですけどね?

 黒目黒髪は確かに日本人のデフォルトですが、髪を染めていたり、生まれつき海外の血が入っている人も珍しくはありません。

 旧日本時代にはヨーロッパ系の男女と結婚して周りと違う容姿の子供を作るのが一種のステータスになっていたらしいですし。

 

 意外に思うかもしれませんが、世界大戦前も大戦後も民族主義が続いている日本人たちは、実はこういったことには寛容です。寧ろ積極的と言ってもいいです。

 というのも、ボクたちの民族主義や選民意識、つまり日本人としてのアイデンティティというのは、超能力の有無に依る割合が大きいです。

 

 超能力が使えるか使えないか、そこで日本人か日本人以外かが分けられているのです。

 明らかに異国の人間でも超能力さえ使えれば、生まれ故郷が違うだけの同胞(日本人)として待遇を受けられる、ということですね。

 

 ……逆に言えば、日本人同士の子供でも超能力が使えない場合は、その子供は悲惨な運命を辿ることになりますが。

 

 

「空木さん。暗い場所……って言ったよな。もしかして外は夜なのか?」

 

「いや……夜中の外の明るさじゃなくて、照明で照らされた淡い暗さの狭くて……階段かな? 上から降りてきてるから、たぶんここは地下なんだと思う」

 

「たぶん?」

 

「ごめんなさい、秋月さん……。今の私の【透視】は調子が悪くて、そこまでハッキリとは……」

 

 

 確かミクネちゃんの【透視】は視力に依存していると、以前ミクネちゃん自身が話していた気がします。

 ミクネちゃんの両親は【透視】と【千里眼】の技能(スキル)を得意としていたのですが、父親の【透視】しか遺伝しなかったらしいです。

 

 眼鏡が必要なくらい視力が弱いミクネちゃんは、偶に眼鏡をかけていても視界が霞むことがあるらしいので、今回は本当にタイミングが悪かったんでしょう。

 酷いときはボヤケて明るさや物の形くらいしか分からないらしいので、本当に大変そうです。

 

 ちなみにボクは両目とも2.0の鷹の目女子ですよ。

 

 

「そうか。ありがとう空木さん、見るの(・・・)疲れてないか? 少しでも不調を感じたらやめてもくれて大丈夫だから」

 

「うん全然平気だから大丈夫。少し霞んでるせいで情報量が減ってるから、たぶん処理の負荷も軽いんだと思う」

 

 

 注意を払う必要があるほどの疲労が生じるのは、ESP能力(超知覚)系の技能(スキル)の共通する特徴ですね。

 外部から情報を入力するESP能力(超知覚)は、使用者が取得する情報量によって使用者自身の脳に大小あれど負荷をかけます。

 状況によっては、セルフで宇宙を背景にした猫みたいな(虚無顔)顔になることもあるってことです。

 

 想像した結果を外部に直接作用させて、物体を移動させたり破壊したり拘束したりするPK能力(念動力)は、逆に”脳がイメージできる範囲で”、という出力の上限があります。

 なのでPK能力(念動力)のほうはそこまで負荷がかからないというのが、今の超能力研究界隈での一般的な論調です。

 

 

「あ、もう扉の目の前に来るよ。どうしよう……」

 

「みんな慌てないで。俺達なら大丈夫。……たぶんね」

 

「おいおい、そこは言い切れよ。委員長サマよォ?」

 

 

 雨宮くんと同意見なのは相変わらず嫌ですが、とはいえ秋月くんには上手くリーダーとして役割を果たし切ってもらいたいですね。

 自信なさそうなリーダーとか、付いていくのは絶対ゴメンですよ。

 

 ……ボクもなにか応援しておきますか。

 

 

「秋月くん……頑張れ」

 

「「「…………?」」」

 

「……ほえ?」

 

 

 ポカンとした顔でこちらを見る秋月くんたち。

 ハルカに至っては、間の抜けた声まで漏れ出ています。

 おかしい……ボクはただ頑張れと言っただけの筈なのに……。

 

 

「あ、あぁ。が、頑張る。頑張るよカエデ。……危ねえ、一瞬カエデの声だと認識出来なかった(小声)」

 

「それは私も一緒だよミナト〜。カエデが誰かを応援するなんて……。明日はミサイルが降ってくるんじゃない?」

 

「どうしちまったんだ川瀬。お前そんな殊勝な事する奴じゃなかっただろ……。この非常事態で狂ったかァ?」

 

「……ッ、もうッ! なんでボクが応援するだけでそんな反応させなきゃいけないんですか! 特に雨宮ァ!! 誰が気狂いだブチ殺すぞテメェッ!!」

 

「まぁまぁ、カエデちゃんその辺で……。怒りすぎて表情怖いよ〜」

 

 

 雨宮くんは後で絶対に締めます。

 川瀬家に代々伝わる『頚椎大締め』の威力を思い知らせてやらねば……。

 

 

「こんな状況なのに随分と楽しそうだね。もしかしてこんな場面には慣れっこだったりするの?」

 

 

 ───ボクの右側でクラスメイトの誰のものでもない声がした。

 

 失禁気絶少女はそこに転がっているので今の声とは関係ありません。

 そして、今この部屋にはクラスメイトと少女以外はミンチになって床に延びているか、或いは壁のシミになっているはず。

 

 ボクは静かに目を声のした方へ向ける。

 そこには、長い白髪のミクネちゃんと同じくらい小柄な背丈の少女がいました。

 

 真横に立っている様子からは隠密行動をするときの独特の構えは見られません。

 さも普通に歩いてきたと言わんばかりの自然体です。

 でもそんなことしていたなら誰かが気付くはず……。

 そもそもこの部屋に入るには扉を開ける必要があって、開けた時に誰かしらがわかるはずで……。

 

 ああもう訳が分からない。

 一体誰なんですか、この子は。

 

 

「カエデ離れろッ!!」

 

 

 秋月くんが叫んだのと同時、ボクは足の裏に【捻転】で何倍にも圧縮した空気の層を薄く敷く。

 

 PK能力(念動力)系応用技能(スキル)【縮地】。

 急激に圧縮した空気を足の裏や体の各所で解放し、自身の体を吹き飛ばすことで文字通り爆発的な推進移動を可能とする技能(スキル)

 PK能力(念動力)に於いては右に出るものはいないとまで言われた川瀬家が生み出した高機動戦闘流派『風閃流』の基幹をなすもの。

 

 少しでも力の入れ方や圧縮空気の解放タイミングを間違えれば、体の一部が先に吹き飛ばされて変な方向に捻れたり、受け身をうまく取れずに骨や内臓がぐちゃぐちゃになる危険な技能(スキル)です。

 

 あとはこの足の裏の圧縮空気を解放すれば───ッ!?

 

 

「待ってよ」

 

「ぐうううぅぅぅぅッッ!!??」

 

 

 首がッ!! 首が締まるッ!?

 離脱の一瞬前に制服の襟元を掴まれたボクは、足を離脱方向に飛ばしながらも上半身が下半身の動きに追従できず、その場に縫い留められた自分自身の服に首を絞められる。

 

 やばい、今すぐにでもなんとかしないと最悪首の骨が折れる。

 でも【縮地】は圧縮空気を解放したあとは勢いが収まるまで飛んでいくので急には止めれません。

 

 

「ゔごっ゙?! がッ、へあッ、ゴボッ゙……、……ッ!? あ゙っ゙、がぁ……」

 

 

 ぐるじい゙。

 死ぬ。死んじゃう。

 こんなふざけた死に方があるかっ!!

 超能力の制御不足で死ぬなんて馬鹿にも程があるだろ?!

 ましてやこんなガキに良いようにされるなんて!!

 目の前が暗くなって、まずいッ!? 息ができな───。

 

 

「あぁごめん。足だけ宙に浮いてるから、そういう芸なのかと思ったよ。はいどうぞ」

 

「───ッ! ……ッ、ハァ、ハァ、ハァ……げほっ、げほ、げほ……おぇぇ……」

 

 

 襟元を掴んでボクを瀕死に追い込んでいた少女は、少しも申し訳なさを感じない態度で謝ってボクを解放する。

 文句の一つも言ってやりたいというか殺してやりたいところですが、死から遠のいたおかげで体が勝手に涙を流して今はそれどころじゃありません。

 

 床に蹲って必死に息を吸っていると、漸く状況が飲み込めたのか、周囲が急にざわめき始める。

 

 

「カエデ、大丈夫ッ!?」

 

「だい、じょう、ぶ……です……」

 

 

 ハルカの心配に無理やりサムズアップして応えますが、正直かなりキツイです。

 

 超能力の基本はイメージ。

「どんな技能(スキル)も発動前に一呼吸置くように」と習う通り、一度呼吸という区切りを与えることで思考に余裕を作り、精神を統一することは、ミスを減らし、より精密な制御を可能とするためには必須の行為です。

 

 今のボクは酸欠で頭が上手く働かず、オマケに先ほどの襟元を掴まれた状態での【縮地】のせいで、「次も同じように自爆するんじゃないか」というトラウマが先行してイメージが出来ないので、たぶん今もボクの傍に立っている少女の動向次第では、ボクはなす術無く……。

 

 

「ごめんって。でも話を聞かずにいきなり逃げようとするのも悪いんだよ? 余は君の傍に立っただけ。それに勝手に驚いて勝手に飛んで逃げようとしたのは君でしょ?」

 

「こ、この……ゔぅ゙……ハァハァ……」

 

 

 頭の上から少女───あのクソガキの声が響きますが、一度パニックに陥ったボクはまともに反応できません。

 

 くそっ、ボクの上で喋るなよ。

 たぶん見下されているんでしょう。癪に障ります。

 

 大丈夫、今こうして思考を回せているということは、ちゃんと脳に酸素が回っている証拠です。そのうち回復するでしょう。

 

 

「…………ッ」

 

 

 怖い。

 この女が怖い。

 

 さっきの首が締まったのは、半分はボクのミスです。

 もっと冷静に、例えば【縮地】を使わずに地面を蹴って距離を取れば、それでよかった。

 

 でもコイツはなにかが違う。人としてのなにかが。

 

 そうだ。ボクはそもそも突発的な状況で超能力を使えるほど成熟した使い手ではありません。

 想定外には思考が硬直して対応力が落ちる。

 だから強力なPK能力(念動力)者である割に未熟であると評価されたのがボクです。

 

 ……だと言うのに、なぜあのタイミングで難易度の高い、事前のイメージ補強が必要な【縮地】を使おうと思ったのか。

 

 そんなの決まってます。

 

 この白髪の少女をボクが本能的に恐れたから。

 だからボクの脳と肉体は、最も距離を取れる【縮地】を半ば無意識に発動した。

 

 

「無理に喋るなカエデ。お前はそこでじっと身を休めてろ。……それで、お前は何者だ。白髪頭」

 

 

 秋月くん、気を付けてください。この女、何かがおかしい。

 

 秋月くんが低い声で質問するのを聞きながら、ボクは荒い呼吸を抑えつけることに専念した。

 

 

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