燻んだ太陽は異世界を覆う〜召喚勇者たちの異世界侵略記〜 作:とりさん
「……それで、お前は誰だ。白髪頭」
秋月ミナトは目の前の白髪の少女を見つめながら努めて冷静に振る舞う。
声は低く、威圧的に。
相手にこちらの動揺を悟られてはならない。
あくまでもこちらが上か、若しくは対等な存在であることを態度で示さなくてはならない。
ミナトの生家は、代々外交官を輩出してきた名家だ。
大戦前は他の列強国を相手に、大戦後は
(……ま、つってもこのよく分からん集団を惨殺したのをみられた時点で、まともな交渉は出来なさそうだけどな。この規模の施設だ。きっとここにいる白髪頭やら銀髪頭やら、騎士姿の連中やら以外にも、まだ他の仲間も外にいるんだろうな)
「くふふ……」
「……? 何が面白い」
突然口元を隠して肩を震わせた白髪の少女をミナトは怪訝そうに見る。
「いや、だってさ───余に質問するのかい? こんな殺気に満ちた場所で? これじゃあまるで戦場のど真ん中じゃないか」
そう言ってくるりと一周する少女。
彼女の周りには、静かな表情で自身を見つめるミナトのクラスメイトたちが立っていた。
「いい表情だ。激情を仕舞い込み、ただ殺すことを目的として獲物を見据える……。よく訓練されているじゃないか。なんだ? 君たちは軍人だったのか? ……ああいや」
ニタリ。
そう聞こえてきそうな笑みで、少女は足元に蹲り荒く息を吸うミナトのクラスメイト───カエデを人差し指で指す。
「───たかが召し物を摘んだ程度で死にかけるような奴が軍人なわけないか」
「────ッ!! てっ、テメェ……」
意外なことに、この言葉に真っ先に反応したのは雨宮レンショウだった。
急激に変化する状況と人の死を身近で感じたストレス、騎士姿の人間を手加減なしで殴打した時のカタルシス。
そして、自分たちを、カエデを侮辱された時の激情。
それらがミナトの心臓の鼓動を早鐘のように打ち鳴らし、更なる衝動へと駆り立てる。
(抑えろ。抑えろよ、俺なら大丈夫。俺はただの学生じゃねえ。秋月家の跡取り息子だぞ。
だがミナトはその衝動を全て胸の内に仕舞い込む。
急激に上がる体温による発汗は、超能力によって体表に出ないように抑え込む。
それは、外交交渉中にポーカーフェイスを保つことを要求された秋月家の外交官が生み出した
基本
「てめぇ、黙って聞いてたら何様だ?! オレたちが───」
「レンショウ、そこまでにしとけ」
「おいミナト! コイツはオレたちを侮辱したんだぞ!? 軍人じゃないって!!」
「わかってる。頼むから黙ってくれ。話が進まん」
「おっ、わかってるね。そうそう、こんなところで君たちと話す時間を取ってるのに、その貴重な時間を無駄に減らすのは辞めたほうがいいよね」
「…………。……ミナト、信じてるからな」
白髪の少女からの煽りにもぐっと堪えて、ミナトにあとを任せたレンショウを横目に対話は続く。
「1個質問があるんだけど」
「なんだ?」
「君たちに言った”軍人じゃない”って言葉、君たちにとってはそんなに大事な問題だったのかい?」
「ああ、そうだ。とても大事な問題だ」
世界大戦で日本列島は滅んだ。
日本人を絶滅させるため、列強は本土へ核攻撃を繰り返した。
生き残ったのは外地にいた軍人や移住者だけ。
だから戦後、日本人は決めた。
二度と守るべき者を失わないため、日本人は全員が軍人であると。
連邦市民は生まれた瞬間から軍人であり、その資格を失うことはない。
「軍人ではない」という言葉は、日本人に対して「お前は日本人ではない」と言うのと同義だった。
「発言の撤回を要求する」
「皇帝が自らの発言を無かったことにするなど、あってはならない事なんだよ。それを君たちは余に要求するのかね?」
「要求?」
今度はミナトが尋ねる。
「周りの状況をよく見て物を言え。これは要求ではない。命令だ」
───秋月家出身の外交官と、そうでない外交官では生存率が全く異なる。
それは、いざという時には最後の一押しとして暴力も辞さない覚悟を決めている秋月家と、あくまでも対話で解決することを目指す者との違いが原因である。
交渉が決裂すれば、目の前の政府要人を撲殺して無傷で帰国する秋月家は、他国にとっては「日本」という恐怖の体現者であり、日本政府にとっては外交的勝利を収めやすく、仮に失敗しても相手国の政治中枢に打撃を確実与えられる上に確実に帰還する便利な駒だった。
結局のところ、そんな秋月家の跡取り息子であるミナトも本心では暴力で解決するのが手っ取り早いと考える脳筋なのだ。
(相手がいきなり現れたカラクリが分からない以上、仕掛けるなら相手が一人であることを狙った物量戦が最適だな。クラスの連中はやる気みたいだし……問題はあの白髪頭の足元に転がっているカエデの安全……か)
「カエデ……」
隣に立つ風見ハルカは心配そうにカエデを見ているが、決して前に出ようとはしない。
そしてそれは他のクラスメイトたちも同様だ。
彼らは自分の行動を律し、指揮者であるミナトの命令を待ち続けている。
きっと彼らは、仮にミナトがカエデの命を見捨てる決断をしたとしても、その決断を支持するのだろう。
それはミナトが、この『第一桑港高等学校』二年三組という名の組織のリーダーという役割を担うと宣言したからであり、リーダーに従うのは命令系統を遵守するという彼らの義務だからだ。
彼らは軍人である。
守るべき者を守れなかった者たちが、全てを「守る者」とすることで、そもそも「守るべき者」を無くしてしまったが故の被害者たち。
彼らだって人間だ。それもまだ子供である。
逃げたいだろう、不安だろう、泣きたいだろう、助けを求めたいだろう。
だがそうしないのは、彼らが『二年三組』という共同体に属する一員としての
彼らは躊躇わない。
殺人も、身売りも、勝利も、敗北も、もっともっと薄汚いことでも。
「ふぅ〜〜ん………?」
そんな彼らの様子から、白髪の少女は考えを変える。
彼らは使える。
想像していたよりも、ずっと、遥かに有用かもしれない。
思い掛けない
相手を対等と認め、対話を行う態度。
白髪の少女は、足元に蹲る
「ミナト」
「行っていい。多分、大丈夫だ」
ミナトの許可を得たハルカがカエデに駆け寄り介護する中、白髪の少女はミナトに語る。
「まずは自己紹介からしようか。余は皇帝。それ以上でもなく、それ以下でもない」
「なんだいきなり……。話す気になったのか? 別に俺達はこっちでもいいんだが」
ミナトは緩くファイティングポーズを取って、暴力に訴えても良いんだぞと暗に主張する。
「遠慮しておくよ。折角まともな会話が出来そうなのに、わざわざやり合う必要はお互いにないでしょ? ……それに、孤立無援のこの状況でその選択は、自分の首を絞めているのだと自覚したほうがいいと思うよ?」
「孤立無援? なぜだ? クソムズ語だかなんだか知らないが、俺達と同じ日本語を話しているんだ。俺達の祖国がどんな国か知らないとは言わせないぞ」
「全く知らないね。なんせ世界が違う」
「世界が……は?」
ミナトは今日一番の衝撃を受けた。
確かに今日起きたことは、原因が不明なことばかりだった。
朝教室に入り、いつも通りクラスメイトと会話していたと思えば、光に包まれて気絶し、地下と思われる空間で時代錯誤な騎士姿の者たちに囲まれ、オマケに日本語を喋るくせに”帝国”という敵対国の人物を名乗る銀髪頭に国を救えと言われ、今度はよく分からない不気味な白髪頭とやり取りをしている。
そもそも何故警備が厳重な学び舎からクラス丸ごと誘拐できたのか、どうしてこんな中世ヨーロッパ風の施設が
全てが意味不明で理解不能。
そんなミナトの様子を見て、白髪の少女───皇帝は「そこからか」とひとりごちる。
「君が質問し、余が答える。あまり時間がないから手早くいこうか」
ああそうそう、と皇帝は両手を合わせた。
「謝罪をしよう。君たちは立派な軍人だね」
「…………謝罪を受け入れよう。少し、疲れたよ」
ため息を吐きながら、ミナトはそうボヤいた。