メカゴジラ機龍VSショッキラス   作:よよよーよ・だーだだ

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1、出撃命令 ~『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』より~

 灯台の螺旋階段を、アキラは三段飛ばしで駆け上がった。

 

 踊り場の小窓から見える海がだんだんと広くなってゆく。潮の匂いがする風が吹き込んで、アキラは思わず目を細めた。

 頂上の見張り台に出ると、この大黒島(だいこくじま)の全景が綺麗に見えた。港に並ぶ漁船、急な坂道、石垣に囲まれた家々、丘の上の神社の赤い鳥居、その向こうに広がるどこまでも青い海。

 この場所の、島のてっぺんに立って全部を見渡す感じが、アキラは気に入っていた。

 

 灯台を登り切ったあと、アキラは手すりに背を預けて膝の上でスケッチブックを開いた。

 鉛筆を握って、今日は何を描こうかな、と楽しい思考を巡らせる。うまく描けているのか自分ではわからないが、両親や友達はもちろん学校の先生からも「アキラは絵が上手い」といつも褒められるからきっとそうなのだろうと思う。

 ここから見えるものはぜんぶ知っている。どこが誰の家か、どの船が誰の船か、坂のどこに犬や猫がいるか……この島のことならなんだって描ける気がした。

 よし決めた。描き始めようとしたちょうどそのとき、下から声がした。

 

「アキラ!」

 

 窓から身を乗り出して見下ろしてみると、港のおじさんが手を振っているのが見えた。

 おじさんは灯台の上にいるアキラにも聞こえるように、懸命に声を張り上げた。

 

「また灯台に入ったのか、危ないって言ってるだろ!」

 

 アキラも負けじと答える。

 

「危なくないよ、もう何回も来てるもん!」

「それが危ないって言うんだ、さっさと降りてきなさい!」

 

 アキラはちょっとだけ口を尖らせたが、もう一度だけ海を見てから階段を下りることにした。

 怒られるのはいつものことだ。大人たちはみんなそうだ、悪いことをすれば叱りはする。

 でもアキラは落ち込んだりはしない。次の日にはもう皆笑っているからだ。

 そんな島の皆が、アキラは大好きだった。

 

 

 その『船』が来たのは、夕方のことだった。

 港にいた漁師たちが最初に気づいた。見慣れない船だった。漁船でも観光船でもない、白くて四角い奇妙なデザインがアキラの印象に残った。

 船が泊まるのをアキラが眺めていると、一つ年上のケンちゃんが自転車を停めて声をかけてきた。

 

「なにやってんだ、アキラ」

「なんか船が来たんだよ」

「船?」

 

 そうこうしているうちに船から降りてきたのは、スーツを着た大人たちだ。五人か六人、みんな黒っぽい服を着ている。観光客ではないようで荷物も多く、大きなケースをいくつも運び込んでゆく。

 そんな『この小さな島に大勢の人がやってくる』という物珍しい光景に続々と、物見高い島の人たちが集まってくる。

 

「なに、あの人たち?」

「さあ。でも荷物すごいね」

「本土から来たのかな」

「そうじゃない? 東京でしょ」

「何しに来たんだろう……?」

 

 島の人たちがひそひそ話し合っていると、後ろから声がした。

 

「調査の人たちらしいぞ」

 

 振り返ると、さっきの港のおじさんが腕を組んで船を見ていた。アキラが訊ねる。

 

「調査?」

「ああ。本土から来たって。何か海底の地形を調べるとかなんとか」

 

 おじさんはそう言ったが、あまり嬉しそうではなかった。島の大人たちは、日ごろから本土から人が来るのをあまり好まない。そのことをアキラは子供心に理解していた。

 スーツの大人たちは港に出迎えた島の大人たちに会釈しながら、何かを話している。一見すると愛想は良さそうだ。でもアキラには、彼らの顔にはなんとなく作り笑顔が貼り付いているように見えた。

 リーダー格らしい黒いスーツの男が、ふと顔を上げてアキラの方を見た。

 目が合った。

 黒スーツの男は微笑んだが、アキラは笑い返すことができなかった。なんでだろう、と自分でも思った。知らない人を見てもいつもは平気なのに。

 

「アキラ、飯だぞ」

 

 おじさんに肩を叩かれて、アキラは踵を返した。

 夕焼けが海を赤く染める中、本土から来た大人たちは荷物を運び込んでいった。

 

 

「今回我々が向かうのは伊豆諸島、大黒島(だいこくじま)だ」

 

 隊長の言葉で、俺は事前に目を通した資料の内容を思い返した。

 大黒島とは伊豆半島沖、伊豆諸島のひとつだ。人口はおよそ200人前後、漁業の拠点や観光が主な産業の小さな火山島である。

 その大黒島の島民について、一昨日から本土との連絡が途絶えているのだという。

 機龍隊(きりゅうたい)の我らが総隊長、トガシ=ワタル中佐は続けた。

 

「これよりGフォースの部隊と合流し、現地に赴いて調査を実施、そこで連絡途絶の“原因”があるならこれを制圧、排除する。それが今回の我々機龍隊の任務となる」

「補足する」

 

 低い声とともに、隊長の脇に控えていた男が一歩前に出た。トガシ隊長の副官にして機龍隊のナンバー2、ミヤガワ少佐だ。

 

「〇六〇〇、輸送艦にてGフォース合同部隊と合流。機龍は艦載で沖まで運び、上陸時はしらさぎで空輸する。各員、乗艦までに装備の再点検を済ませておけ。以上だ」

 

 そのとき、俺の隣で同期の“叛逆児”ヤシロ=ハルカ中尉が声を上げた。

 

「質問の許可を、トガシ隊長」

「なんだ、ヤシロ」

 

 発言を許され、ヤシロはトガシ隊長に訊ねた。

 

「制圧・排除とは、穏やかではありませんね。それも機龍を連れてゆくなんて。“原因”がいったい何なのか、見当はついているんですか?」

 

 ……相変わらず痛いところを突くな、と思った。

 俺も資料を読んだ時から引っ掛かっていた。島一つの連絡途絶、まだ原因もはっきりわかっていない現状で、Gフォースの最高戦力であるメカゴジラ機龍まで持ち出すとは只事ではない。

 隊員全員が感じているであろう疑問に、トガシ隊長は答えた。

 

「そこも含めて調べるのが我々の仕事だ。大黒島近海はかつてゴジラが目撃されたこともあり、本土にも近い。かつてのゴジラ東京上陸のような万一の事態は避けたい、というのが政府の意向だ」

「……要は、見当はついていない、ということですね。いつもの上層部(うえ)の無茶振りか」

 

 これもヤシロがぼやいたとおりだった。俺たち機龍隊は初戦での機龍ロールアウトでゴジラと戦わされて以来、この手の無理無体が押し付けられるのが常になっている。

 俺たち機龍隊の位置づけが『事実上のGフォースの最高戦力を運用する部隊』であることからして『通常戦力では対処しきれない怪獣を相手にする』のは当然と言えば当然の理屈ではあるが、それにしても今回は横着が過ぎないかと思う。相手が怪獣かもわからないような状況へ適当に駆り出され、原因調査から後始末まで全部やれとはな。

 言いたいことは皆同じだ、だが。

 

「……司令部の方針にいちいちご高説とは、さすが“戦乙女(ヴァルキリー)”様は違うな。任務を選り好みする気か?」

 

 全員が黙ってるのに、いつもヤシロだけが素直に突っ込んでゆく。いつもそうだ。“英雄”のヤシロ=ハルカが言えば許されるという空気がこの隊にはある。それが俺は昔から気に食わないのだ。

 俺からの嫌味にヤシロはこちらに振り返って、不満げに反論してきた。

 

「選り好みなんてしてないわよ。それにどうせハヤマも同じことを思ってたくせに」

 

 売り言葉に買い言葉で、俺もつい言い返す。

 

「仮に思っていたとしても、俺は口に出さん」

「あら。腹では同意してるってことね」

「ブリーフィング中だ。場をわきまえろ」

「それは勝手に発言してるあんたも同じでしょうが」

 

 視界の端で、ミヤガワ副長が眉間を揉んでいるのが見えた。あれは「俺が止めるべきか、隊長に任せるべきか」を計っている顔だ。もう何十回と見た顔でもある。

 そして今回止めに入ったのはトガシ隊長の方だった。

 

「二人とも、ブリーフィング中だとわかっているなら、いちゃつくのはあとにしろ」

「……はい」

「……申し訳ありませんでした」

 

 隊長からの叱責を受け、俺たちは背筋を伸ばして前に向き直った。

 ちら、と横目で見るとヤシロの表情に笑みはなかったが、言いたいことは全部言ってやった、といつもの気取った顔をしている。俺にはそれが余計に気に食わなかったが、これ以上隊長たちの御不興を買うこともないので黙ることにした。

 

「……まあ、思うところがある奴もいるだろうが、」

 

 気を取り直し、トガシ隊長は総員に声を掛けた。

 

「今回は何らかの怪獣災害も想定される。単なる調査だと思ってぬかるな、心して掛かれ!」

 

 その言葉に隊員一同、『了解!』と声を合わせて敬礼で応じた。

 

 

 深い、深い、光も届かぬ海の底。

 

 そこには、数えるという考えそのものが意味をなさないほどの、おびただしい“群れ”がいた。

 ひとつひとつは小さかった。平たい背。幾筋もの節。たえず細かく蠢く無数の脚。湿った殻と殻が擦れあうたび、カサカサというかき乱す音が闇の底いっぱいに満ちている。

 “群れ”は飢えていた。

 満たされぬという感覚だけが、無数の殻の内側で同じ熱を持って疼いていた。

 寄る辺はとうに奪われた。残されたのは際限のない渇きと、それを埋めようと急きたてる出口のない衝動ばかり。

 飢えた殻たちが擦れあう音だけが、いつ果てるともなく底に響いている。

 

 “群れ”が干からびかけているのは、先日から底の闇に届いている“あれ”が原因だ。

 

 “あれ”は音ではない。光でもない。匂いですらない。

 殻の奥、その原始的な本能しか持ち得ない小さな脳髄に繋がるごく細い糸のような器官。そこを見えない指が、つう、となぞるような感覚があった。

 ぞわり、と。

 無数の背の節が、いっせいに逆立った。

 

 ……“あれ”は甘美だった。

 頭の芯まで痺れるほど抗いようもなく甘かった。飢えて干涸びた殻の内側に、その誘惑は蜜のように滲みてゆく。

 かつて寄り添っていた大いなるものの背を、いつ離れたのか。なぜ離れたのか。“群れ”はもう覚えてもいない。ただこの甘い震えに引かれるまま気づけば暗い海をさまよっていた。

 こちらへ。

 おいで。

 ここに、満たされるものがある、と。

 

 “群れ”の中のひとつが辛抱し切れずに応えた。

 ひとつが応えれば、隣が応えた。隣が応えれば、そのまた隣が。

 やがて“群れ”そのものが、ぐぐと盛り上がった。

 無数のものたちが、いっせいに同じ方を向き直る。脚という脚が宙を掻き、背という背が波打って、たがいを踏みにじり、たがいに乗りあげながら、上へ。

 光のある方へ。

 あの甘い“あれ”の源へ、黒い潮が立ちのぼってゆく。

 

 ……“群れ”は、知らない。

 その震えがどこから来るのかを。

 誰が、どんな手で、自分たちのいちばん柔らかいところを撫でているのかを。

 知らないまま、ただ呼ばれるがままに。

 

 “群れ”は“あれ”が招き寄せる小さな陸地――人間からは大黒島(だいこくじま)と呼ばれている島――を目指して海を昇っていった。




続きます。
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