邪悪なるモブ〜自分が学園RPGゲームのモブだと自覚していない転生者の残虐行為による原作破壊〜   作:とらとろ

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第一話 風紀委員

前世の記憶…そう呼ばれるものがルアナの頭には微かながら残っている。

 

前世の自分がどんな人生を送ってきたのか、どんな家族がいてどんな名前だったのかすらもルアナは覚えていない。

 

ただ一つ、彼の心に遺されていたのは強くなりたいという願望のようなものだった。

 

 

 

それゆえルアナは子供の頃から、厳しい修行を自身に課しており、齢十六歳…ゼルナヴァ学院に入るころには世界最強といえるであろうほどの力を手に入れたのである。

 

だがしかし、本来ならばそんなことは起こり得ないはずだった。

 

ルアナが転生した世界はとある学園RPGゲームがもととなっている。

 

 

 

そのゲームにおいて、ルアナという存在は名前も顔もストーリーに一切出てこないモブという立ち位置であった。

 

ルアナがゲームのシナリオに影響のない場所にいたなら良かったが、彼の在籍している学院がゲームの舞台。

 

つまるところ、大なり小なりシナリオに影響は出る…あるいは出ているのだ。

 

 

 

ルアナが一般的な感性を持っていたとしたら、シナリオは良い方向に転がっていた可能性が高いだろう。

 

だがルアナの本性は己が楽しければ他のことはどうでもいいと考える、絶対的な邪悪だ。

 

しかも運の悪いことに、本人がそのことを自覚していない。

 

 

 

ルアナが原作をどのように捻じ曲げるのか、それは誰にもわからない。

 

 

 

✚✚✚

 

 

 

鉄をも容易く斬り裂くであろう、魔力をまとった僕の右手はクソガキの首に届く前に停止した。

 

僕は、背後から僕の右腕をつかんでいる存在に対して声をかける。

 

 

 

「手を離してもらえないかな…風紀委員長殿。今の僕に君の相手をしてる暇はないんだ。いつもの僕なら少しは遊んであげるんだけど……ごめんね、鬱陶しいや。」

 

 

 

後ろを振り向くことなく、僕は告げる。

 

僕の腕をつかんでるのがこの学院の二大組織の長である風紀委員長だってことは顔を見なくても分かるのだ…彼女の気配は覚えているからね。

 

 

 

「離してほしければ、手にまとわせている魔力を解け。でないと手を離した瞬間、この男の首が落ちるだろう?」

 

 

 

「僕のことをよくわかっているじゃないか。そうだよ…君がこのまま手を離したら、僕はコイツの首を切り落とす。だけどさ、まだまだ理解が足りないね。僕はコイツを殺すって決めたんだ。だから手を離しても離さなくても、コイツが死ぬことは変わらないよ。」

 

 

 

右手だけではなく、身体全体を魔力で強化しようとしたその瞬間……僕の視界がガラリと変わった。

 

身体を包む浮遊感、急接近する食堂の壁。

 

そして理解する…僕は風紀委員長殿に投げ飛ばされたということを。

 

 

 

このままいけば顔面から壁にぶつかりそうなので、力ずくで身体を回転させる。

 

このままいけば壁をぶち破ってしまいそうなので速度を落としつつ、魔力を練って純度を高める。

 

トンと音を立てて両足が壁につくと同時に、僕は魔力をまとわせた右腕を振り抜いた。

 

 

 

直後、轟音と突風が起きる。

 

風紀委員長殿が懐に隠し持っていたのであろう短刀で、僕の放った魔力の斬撃を相殺したのである。

 

 

 

「相変わらずバカげた威力だな…問題児。それだけの力を、なぜ悪の所業のために費やすのだ?その域にたどり着くには、かなりの時間を必要としたはずだ。」

 

 

 

「ひどいなぁ…僕が悪の所業を成している?まったく、君の目は飾りものみたいだね。僕が悪だとでも言いたいのかい?僕はただ静かに生活しているだけじゃないか。」

 

 

 

そう、僕は静かに生活しているだけなのだ。

 

それなのにゴミどもは僕に絡んで、害をなしていく。

 

さっきのだってそうだ。

 

僕は一人でお昼ご飯を食べていただけじゃないか。

 

それなのにあのクソどもが僕に対していちゃもんをつけてきた。

 

 

 

しかもそれだけでは飽き足らず、僕のアップルパイを食べられなくしてくれた。

 

だからそれ相応の対処をしただけさ。

 

じゃないとつけあがるからね…ああいう輩は。

 

とにかくさ、僕はこんなことをしたくてしてるわけじゃないんだよ。

 

まぁそれが楽しいのは否定しないけど。

 

 

 

「私が言いたいのはそういうことじゃない。ルアナ…お前が先に手を出されているのは、我々もよく知っている。だから報復自体を否定しているわけじゃない。その報復がやりすぎだと私は言っているのだ。」

 

 

 

「ハハッ、風紀委員長殿は面白いことを言うね。それじゃあ僕が少し嫌がらせをされた程度で、誰も彼をも半殺しにするヤバいヤツみたいになってしまうよ。」

 

 

 

僕は風紀委員長殿の言葉に苦笑を浮かべる。

 

僕は喧嘩を売ってきたヤツを、全員殺そうとしたりするわけではない。

 

あくまで気に食わないヤツだけを半殺しにするのだ。

 

じゃないと、周囲が敵だらけになってしまうだろう?

 

 

 

「相手の多少の悪ふざけで、小さな被害しか出ないんだったら僕は怒らない。だけど彼らは僕の大事なものを奪い取った。だから僕は彼らから彼らにとって一番大切なもの…命を奪おうと思うんだ。分かってくれたかな?」

 

 

 

「あぁ…よくわかったよ。君と私は相容れないということがね。君が本気を出せば、私もそこで気絶している彼も一瞬で殺せるんだろう。だけど…少し、慢心しすぎたんじゃないかな?」

 

 

 

そう言って、風紀委員長殿はパチンと指を鳴らした。

 

すると観衆だと思っていた生徒たちが、左腕に風紀委員の証である剣と炎が描かれている腕章をつける。

 

 

 

「まさか野次馬たちが全員風紀委員だとは思わなかったよ。だけどさ…ほんとうに、コイツラだけで僕を止められるとでも思っているの?」

 

 

 

「さぁ?どうだろうね。もしかしたら、君を倒しちゃうかもしれないよ?まぁそれもこの後わかることさ…それじゃあ私は失礼させてもらおう。」

 

 

 

風紀委員長殿はいつの間にかクソガキの取り巻きたちを抱えていた風紀委員たちに、視線で先に行けと指示を飛ばして、すぐ後ろで倒れているクソガキを脇に抱えた。

 

 

 

「君が期待してるコイツラがどれくらい強いのか、少し楽しみだよ。すぐに終わらないことを祈るばかりだ。」

 

 

 

そんな僕のつぶやきを背にして、風紀委員長殿は食堂から出ていった。

 

彼女が食堂を出るのとほぼ同時に、無数の魔力弾が僕を襲う。

 

コイツラは僕がこの程度の攻撃に当たると思っているのかな?

 

だとしたら残念ながら、その期待には応えられそうにないね。

 

だってもう、斬ったから。

 

 

 

斬り裂かれた魔力弾はそよ風を起こして霧散する。

 

そのことに驚愕の表情を隠せない風紀委員たち。

 

そんな彼らに僕は優しく語りかけるような口調で告げた。

 

 

 

「なに、そんなに驚くほどのことじゃあない。誰であっても鍛えれば、この程度のことはできるさ。君たちの長も…風紀委員長殿もこれくらいのことはできるはずだ。」

 

 

 

魔力を纏えば、魔力を纏った本人を中心とした領域、あるいはテリトリーと呼べるようなものが展開される。

 

それを感じ取り、使いこなせるようになればできるようになるはずだ。

 

まぁそこまでが難しいかもしれないけど。

 

 

 

「さてと…前座はこれくらいにしても良いんじゃないかな?今ので全てを出し切ったわけじゃないだろう?ま、せいぜい足掻いてくれ。」

 

 

 

僕は煽るような言葉とともに、楽しさから口端を釣り上げる。

 

さぁ…楽しい楽しい蹂躙ショーの始まりだ。

 

 

 

 

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