邪悪なるモブ〜自分が学園RPGゲームのモブだと自覚していない転生者の残虐行為による原作破壊〜 作:とらとろ
「ふむ…全員出席か。うん、欠席者がいないようでなによりだ。昨日までは自由登校で授業も自習だけだったが、今日からは通常授業が始まるから、時間はちゃんと守ってくれ。」
教壇に立って、そう告げるのは僕たちの所属している第二学年のSクラスの担任である茶髪の女性教師…リリー・エインスだ。
ヌンチャクというこの国ではめずらしい武器を使っており、学内では学院長などといった英傑には一歩劣るもののかなりの実力者である。
Sクラスの担任を任されている時点で、それくらいのことはわかりきっているのだが。
「それじゃあホームルームはこれで終わる。それとルアナ、お前はこの後学院長室に来なさい。伝えなければいけないことがあるからな。」
とんでもない爆弾を落としてから、さっそうと教室を出ていくリリー先生。
うーん…僕、退学になるのかな?
まぁさすがにそんなことはないだろうけど、なんで学院長室に呼び出されたのだろうか?
問題を起こしたりはしてないと思うんだけど。
「問題を起こしたことのお小言とかじゃあないと思うよ。むしろもっと得にあることさ。とにかく、授業に遅れるのはまずいから、急いで行って帰ってきなよ。」
そう言って、席から立ち上がっている僕の背中を押すゼル。
ふむ…ゼルは何があるのか分かってるみたいだ。
聞いても答えてくれないだろうけど。
まぁゼルがそう言うのなら大丈夫だろう。
さっさと行って帰ってこよう。
✚✚✚
ゼルナヴァ学院の学院長…シルヴェスタ・ゴーレンは英雄【魔人公】と呼ばれている。
彼が魔人公と呼ばれるようになったゆえんは、今から十七年前に発生した大規模な魔物たちの侵攻…スタンピードにある。
貧乏貴族の庶子であったシルヴェスタは、十八歳の時に発生したそのスタンピードを不遇の少年時代に培った圧倒的な魔術の実力で沈静化させた。
そこから頂点に上り詰めるために有した時間は、ほんとに一瞬だった。
シルヴェスタの噂を聞いたフェリドリート王国の宮廷魔術師がシルヴェスタをスカウトして、彼は虐げられる庶子という立場からエリート中のエリートである宮廷魔術師の一員という華々しい立場に一転する。
だがシルヴェスタの躍進はこの程度ではない。
宮廷魔術師として大活躍し、シルヴェスタは二十歳のころに史上最年少で国王に英雄として表彰され、魔人公という二つ名を授かることになる。
その後の十年間は国王専属の護衛をしており、ゼルナヴァ学院の学院長になったのは今から五年前のことであった。
以上がこの学院の生徒ならば誰でも知っている学院長…シルヴェスタ・ゴーレンの話だろう。
あんまり人に興味が持てない僕もこの程度のことなら知っている。
まぁ直接話したことはなかったので、顔はまったく知らないけどね。
「ルアナ……一応聞いておくが、ここに呼ばれた理由は分かっているか?」
そう聞いてくるのは両肘を机の上に置いて手を組みながら沈黙を貫いている学院長であろう先生の後ろに立っているリリー先生だ。
呼び出された理由かぁ……うん、見当がつかないね。
そんな僕の内心を感じ取ったのであろうリリー先生は大きくため息をついて、学院長になんらかの意味を込めたアイコンタクトをとる。
「ふむ…ファルドルコス家の御令息からは、なんにも聞いていないようだね。まぁ聞いていようがあるまいが、そこまで問題があるわけでもないか。」
重苦しそうな雰囲気で、学院長はゆっくりと口を開いた。
ファルドルコス家の御令息…つまるところ、ゼルはやっぱり呼び出しの理由を知っているらしい。
まぁそれがわかったところで、呼び出された理由は分からないのだが。
「だいぶ先のことだが、我らがフェリドリート王国と友好国のキュルベシア帝国とレイズファール聖王国にある三つの国立学院で、国家間の交流の意味を込めた武闘大会が行われるのは知っているね?」
今朝の登校時にゼルから聞いた話をほんの少しだけ詳しくした感じの内容だったので、僕はコクリと頷いた。
「それならこの一ヶ月は武闘大会に出る生徒を決めるための予選が行われるのも知っているだろう。その予選には二つの種目があってだね……一人で戦う個人戦と誰かとペアを組んで戦うタッグ戦があるんだ。だが武闘大会にはもうひとつの種目がある。それが各学院が選んだ5人がチームを組んで戦うチーム戦だ。」
チーム戦……おそらくこれが武闘大会で、三国が最も重要視している種目だろう。
各学院が選り好みした5人にチームを組ませて戦うわけだ。
そのチームは文字通り、学院最強の5人組になる。
そんなチームが他所の学院のチームに負けたとしたら、その学院より教育の質、教師の質…ひいては建てた国の質が低いということになってしまうだろう。
まぁとにかく、このチーム戦で負けることが何を意味するかは分かったと思う。
「チーム戦とやらに出場する人はなかなかに重いプレッシャーを背負うことになるんですね。かわいそうで、涙が出そうですよ。それで……僕を呼び出した理由に、今の話とどんな関係があるんですか?」
「そうは言っているが、もう理由は察しているんじゃないのかな?ここまで情報を与えてあげたんだ。君の思った答えを述べてみたまえ。」
「まぁここまで分かりやすい情報を与えられてこの回答にたどり着けないのは、余程の間抜けか人間不信だけでしょうね。学院長は僕にそのチーム戦とやらに出て欲しいのでしょう?」
「そうだよ。私は…いや、ゼルナヴァ学院は君に武闘大会のチーム戦に出場してもらうことを望んでいる。受けてくれるかな…ルアナくん。」
普通だったら、チーム戦に選ばれることはすごいことであり、喜ぶべきことなのだろう。
まぁ僕からしたらそこまで喜べることじゃない。
だって僕が選ばれたら、学院の一部とかから不興を買いそうだろう?
主に貴族至上主義なヤツらから。
それは僕にとって嬉しいことじゃない。
名誉なんかよりも、僕は実利を優先したいんだ。
そもそもSクラスの生徒な時点で、僕の将来は約束されているからね。
まっ、チーム戦に出るデメリットよりもメリットが上回るんだったら、出場するかどうかの一考の余地はあるけど。
「大会に優勝すれば賞金として、キミには大金貨三十枚をあげようじゃないか。」
「わかりました、受けましょう。」
僕は即答した。
大金貨三十枚…具体的に言うと、平均よりも少し高い給料がもらえる地方騎士の年収六回分くらいだ。
つまるところ学生が持つには多すぎる額の大金である。
それだけのお金がもらえるんだったら、チーム戦に出場するメリットのほうが大きい。
「それならよかったよ。もしルアナくんが受けてくれなかったら、二年生以上から誰を出すか議論になっていただろうからね。」
「アハハハ……お世話になっているゼルナヴァ学院のためなら、当然(僕に利益がある場合のみ)受けさせてもらいますよ。」
僕と学院長は笑みを浮かべながら、ガッシリと固い握手を交わす。
僕が本音を隠しているのと同じように、学院長もなにかを裏に隠しているだろう。
まっ、なんでもいいさ。
大金貨三十枚がもらえるわけだからね。
「あぁ…それと今日の放課後にまたここに来てもらえるかな?君以外にあと二人は決まっているから、先に顔合わせを済ませてもらいたいんだ。それじゃあ授業に向かってもらって構わないよ。」
学院長のその言葉を最後に、僕は部屋から出ていった。