Archive to Glitch ─ Last Standing 作:黒凪カズキ
前日譚 1/3 『崩壊』
地上に出てから、およそ一年。
地下世界という言葉も、今ではどこか昔話のように感じられるほど、この暮らしは日常になっていた。
オレは街を見下ろせる、少しだけ高く盛り上がった平原に腰を下ろしていた。
山というほど高くはない。けれど、町全体を見渡すにはちょうどいい場所だった。
空は夕焼けに染まり始め、イビト山の向こうへ太陽がゆっくりと沈もうとしていた。
街中には帰路につくモンスターたち。微かだが店先から聞こえる笑い声。家々にぽつぽつと灯りがつき始めていた。
……それでも、時折オレの脳裏にノイズが走る。
いつまた、どこかで
……気づけば、隣にいつの間にかサンズが立っていた。
サンズ「どうしたんだジェノ?そんな辛気臭い顔して」
ジェノ「……サンズ」
「いや、いつまでこの平和が続いてくれるか気がかりでな」
サンズは肩をすくめ、いつもの調子で笑った。
サンズ「いつまで、じゃなくて、これからもずっとだろ?」
ジェノ「そうだといいんだが」
サンズ「ずいぶん先のことまで心配してんだな。そんなに考えてたら、骨が折れるぜ?」
ジェノ「スケルトンだけに、か?」
サンズ「おっと、こりゃ一本取られた」
ジェノ「スケルトンから何か取っても、骨しか取れないだろ」
サンズ「違いないな」
そんな穏やかな時間を切り裂くように、街の方が急に騒がしくなった。
ジェノ「なんだ?」
サンズ「とりあえず行ってみようか、そしたらわかるだろ」
サンズと俺は近道を使い、街へ向かった。
数人の人間たちが、オレたちの横を慌てた様子で駆け抜けていく。
そして、オレたちの顔を見るなり。
「あいつと同じ顔だ!」「来るな、人殺し!」だの。怯えた声を上げ、逃げるように去っていった。
サンズ「どういうことだ」
ジェノ「分からない、騒動の発生源へ向かおう」
人波を逆流し、騒乱の中心へ足を踏み入れた瞬間、俺たちは足を止めた。
そこには、人間たちが無惨な姿で転がっていた。地面には血溜まりが広がり、もはや原形を留めていない者もいる。
サンズ「ジェノ……これって」
サンズの瞳から光が消える。
道のあちこちに散らばるモンスターの塵。そして、その横で事切れている人間たち。共通しているのは、全員の首から上が綺麗さっぱり消え失せているということだった。
ジェノ「……ああ、恐らくだが、この惨状を作った張本人だろう」
サンズ「そいつはとんだ頭のネジが吹っ飛んだ野郎だな」
さらに奥へ足を進める。建物の壁には無数の鋭利な刃の跡が刻まれ、それに比例するように、足元に積もる塵の量は増していく。
そして俺たちは、騒乱の「元凶」とついに出くわした。そいつを目の前にすると――息が止まりそうになった。
“それ”は、こちらに背を向けたまま立っていた。巨大な斧。足元に広がる血。散らばる塵。
やがて、ぎしり、と首がこちらへ向く。
……骨格も、顔立ちも、まるで鏡を見ているように俺達と瓜二つだった。
だが、その姿はあまりにも無残で、異様だった。
割れた頭蓋骨。血に染まったような赤い左目。そして口元からは、人間のものと思しき血が糸を引くように滴っていた。
奴の手には、犠牲者の血で赤黒く染まりきった巨大な斧が握られている。
サンズ「……なんだよ、あれ」
そのサンズの見た目をしたなにかは何も言わない。ただ、赤い左目だけがこちらを見ていた。
???「……ヘッドドッグが、もう“二つ”」
サンズ「おい……こいつ、何言ってんだ?」
ジェノ「わからん。だが、敵意があるのは確かだ」
異形のサンズは、巨大な斧を両手で握り直す。地面が、みしり、と沈んだ。
ジェノ「!来るぞ」
異形のサンズは狂気じみた笑顔を浮かべたまま、ジェノ達へ向かって一直線に駆け出した。
ジェノ達は迎撃するように、無数の骨を奴へ向けて放つ。
だが、“そいつ”は巨大な斧の柄を前方へ突き出したまま、真正面から突っ込んできた。
骨が柄へ何度も激突するが、止まらない。骨を砕き、石畳に足跡を残しながら、強引に距離を詰めてくる。
ジェノ「サンズ!」
サンズ「ああ!」
二人は顔を見合わせ、何か合図を行う。そして奴に向けて手を向ける。
すると──
地面から無数の骨が石畳を突き破り、異形のサンズへ向かって一斉に突き出され、直撃――そう思った瞬間だった。
奴は大きく地を蹴り飛び上がる。
地面が砕け、斧を持っているにも関わらず、信じられない高さまで跳び上がった。
サンズ「なっ――!?」
空中。夕焼けを背にし、大斧を両手で構え直し、刃は後方へ。
そして身体ごと、大きく回転を始めた。一回。二回。三回。
遠心力に引かれた斧が俺達へと勢いのまま斧を振り下ろしてきた。
ジェノとサンズは咄嗟に左右へ飛び退くも、巨大な斧が地面へ叩きつけられ、石畳が砕け蜘蛛の巣のように亀裂が広がった
――だがそれだけで止まらず。
ヒビ割れた地面の隙間から、無数の血濡れた骨が槍のように突き出され。その骨はジェノとサンズの頬や服を掠める。
砕けた石畳と瓦礫が巻き上がり、周囲を濃い土煙が覆い尽くす。
ジェノ「チッ……!」
(視界が悪い、奴は何処だ!?)
その時だった。
土煙の奥で、赤い左目だけが不気味に光る。目が合った瞬間――奴が動いた。
いつの間にか巨大な斧を捨て、両手にナタを握っていた。そして獣のような勢いで、ジェノへと襲い掛かってきた。
被害は覚悟の上で、俺はガスターブラスターを召喚する。
すると奴はナタを投げつけてきた。しかし狙いは俺ではなくブラスターの方へ──
飛来したナタがブラスターへ突き刺さり、召喚したブラスターは暴発した。
青白い閃光が制御を失い、周囲を吹き飛ばす。
そして間近まで迫ったそいつは、俺へ刃を振り下ろそうとしていた。
その瞬間。
そんなギリギリのところで、そいつに向けて別方向からブラスターが放射される。全身直撃とはいかなかったが、片腕を焼き払うほどのダメージは与えられた。
サンズ「ジェノ!」
ジェノ「平気だ、サンズのおかげでな」
「だが……」
サンズ「なっ!?」
焼け焦げた腕をぶら下げながら、そいつはまるで気にした様子もなかった。
サンズ「ダメージをあたえたはずだろ……!」
焼け焦げた腕から白い煙が立ち昇る。それでも、そいつは笑っていた。
???「……へへっ」
サンズ「なんで笑ってやがる」
ジェノ「耐久力が異常だ。だが効いてる。このまま押せば勝てる」
サンズ「そもそもあいつはなんだ、俺達と同じ見た目だが」
ジェノ「分からないが、止めるぞ」
サンズ「止めるか。話は通じそうか?」
ジェノ「……難しいだろうな」
「だからまず、こいつを無力化してから……理由はその後だ。」
三者による1対2の啀み合い、しかしここの戦況は急変する
?????「随分と手こずっているようだなhorror」
ジェノ・サンズ「!?」
horrorと呼ばれた俺達と似ているサンズの影から黒い液体が飛び出る
horror「……ボス」
黒い液体が人の形を取り、やがて一人の男の姿を形成する。
nightmare「……」
その瞬間、空気が重く沈み胸の奥を掴まれるような圧迫感。
嫌悪。恐怖。絶望。
負の感情そのものが形になったかのような気配が街を覆う。