陰陽師が居る日本に召喚されたのは元日本人【悪魔】 作:庫磨鳥
カクヨムコン11用に投稿した小説を掲載します。
結果は落選となりましたが、もしよろしければ見てください。
カクヨムコン用に掲載されたものもあります。
俺は日本人の記憶を持ったまま、異世界へと転生した。
日本人であれば、誰もが憧れるらしい異世界転生。
覚えているラノベとかの主人公は地球に帰ることなく、異世界に順応して過ごしていた気がする。
「――日本に行きてぇ」
でも、俺は日本に行きたかった。
今日も小石しか転がっていない赤い荒野に寝そべり、雲も、雨も、太陽も無い、赤い空を見ながらぼやく。
「日本に行きてぇよ~」
「『ヤマト』、マタソレ、アキナイネ」
「行けなきゃ、何千年だって言い続けてやるね」
「何千年ッテドレクライ?」
「大体死ぬまでって意味だよ」
明らかに地球上には存在しない丸っこい体形をしたヒトとシャチを足して割ったかのような人外、『オルカ』と日本語で会話をする。
日本語を教えたのは俺。数百年前では鳴く事しかできなかった彼であるが、今では日常会話なら普通にできるまでになった。
「な~んで【地獄】って、なにも無いんだろうな」
「ワカンナイ、ムカシカラコウ」
「そんなんだから、やる事が殺し合いしかねぇんだよ。
「ソウダネ」
「……虚しい」
クソ寒いギャグをスルーされるのが、1番堪えるってもんだ。まあ、この世界に来てから寒さなんて感じたことないが。
さて、そんなオルカと話す俺こと『ヤマト』も人間ではない。というか、この【地獄】に人間は1人としていない。
自分の姿を表すなら人型ではあるものの、SF作品に出てきそうな細身の黒いメタリックパワードスーツみたいなので、顔に本来あるべき目が存在せず、なんで視界が有るのかは分からない。
そんで口は大きく、こめかみ辺りまで開くことができて。歯もめちゃくちゃギザギザしている。
自分の姿を初めて知った時。あまりにも悪魔的な見た目に俺は【悪魔】じゃんと思わず口に出してしまった。
それから、この【地獄】に住まう奴らは【悪魔】という事になった。ちなみに【地獄】という名称も俺が発祥である。
これを思い出すたびに、もっとポジティブになれる名前にすればよかったと後悔する。
ほんとこの世界。まじで意味わかんない。
どこまで進んでも、赤土地と空が続き、行き止まりが無い。かといって何十年も歩き続けてて一周した事は無かったので、地球みたいに丸くも無さそうなんだよな。
食べる物も、飲む物もない、あらゆる物が無いが、俺たち自我を持った【悪魔】だけが、何をするわけでもなく存在しており、やる事が無いので大体殺し合っている。
まさに【地獄】。やっぱりこれ以外の呼び名は他にないわ。
ちなみに太陽も月もなく、空はずっと赤いままなので時間という概念も無い。俺が言う時間はかなりテキトーな表現でしかない。一千年以上と言えば、だいぶ前って感じ。
――さて、ここまで【地獄】と【
「日本に行きてぇえええええ!!」
だってこの世界、本当に何も無いんだもん!
前世の記憶を元に、なにか作るぞってなっても、本当に何もないんだわ!
いちおう【悪魔】が持つ特殊な力の中には、文明を築けるかもと思ったのは何体か居たけどね。協力してくれなかったり、殺されてしまったり、単に俺の気のせいだったりと、全部ダメだった。
チェスとか将棋とか幾つかのボードゲームは、それをずっとやり続ける性格じゃなかったね。【悪魔】の中にはハマりすぎてるやつが続出して、あんときは大変だったなぁ。
9割ぐらい勝敗に納得いかず最終的には殺しあったりするもん。
他にもたくさんやったけど、どれも文明ごっこで終わる。もう心が折れてしまったよね。
だけど、悪魔に寿命というものが無いのか、俺自身は終わりが見えない。
ああもう、本当にこの世界は【地獄】だよ。
「日本に行きてぇよ……」
【悪魔】として長い時間を過ごしても日本の記憶だけはハッキリと覚え続けてられた。
それが本当に辛くて、結構しんどい。
日本に“帰る”という感覚に、どうしても違和感を覚えてしまうようになった。
おかげで日本に“行きたい”としか言えなくなったし、その時はもう百年ぐらい頭を地面にぶつけまくったよね。
「ニホンッテ、ソンナニスゴインダネ」
「あたぼうよ。いつも言っているけどな。美味い飯はあるし、いくらでも遊べる娯楽はあるし、とにかく楽しいものでいっぱいだわ」
「ニホンスゴイ……」
まあ、【地獄】と比べたら、何処でも天国な気はするけどね。
オルカは、つぶらな瞳をキラキラと輝かせる。俺がよく日本の事を話していたら、いつの間にかオルカも日本に行きたいと思うようになった。
こういう【悪魔】はオルカだけじゃない。中にはけっこう強火に日本を思うようになった奴もいるが……まあ、うん、どうせ現状、日本に行ける手段は何処にもない。
だから気がすむまで、この【地獄】で日本に行きたいと叫び続ける。それだけの時間がいつも通りに過ぎる。
――その筈だった。
「……? ヤマト、ナンカアッチニアルヨ」
「ん? どういった【悪魔】が来たんだ? ……いや、本当になんだ」
顔を向けると、地面が光っていた。よく見れば円に囲われた星のマークになっており、たしか
マジでなんだこれと見ていると、星のマークがねじれて行き、穴のようなものが開いた。
――懐かしい匂いがした。
いや、匂いというか、正確には空気だ。
酸素なのか、二酸化炭素なのかは分からないが、本来あり得る筈のない物質が、この出来た穴の中から、何もない【地獄】へと入り込んできた。
「ナンダロウネ? アレ、ヤマト?」
「……悪いオルカ、ここでお別れだ」
「ドウイウコト?」
もう確信しかない。考えるよりも前に、体が穴に向かって走りだしていた。
「日本へ行くって事だよ――!!」
「あ、ヤマト!? ……イッチャッタ」
間違っててもいい、罠でもいい、死んだっていい。
そんな気持ちで、俺は穴の中へとダイブした。
+++
――穴の中に入ってすぐ、赤だけではない世界が映った。この時点で【地獄】とは違う、別の何処かへと出たのだと分かる。
「ここは……もしかして日本か? マジでお願い神様! 日本でなくても地球であってくれ! 海外でも宇宙でも深海でもいいから! 同じ世界なら行けばいいだけの話だから!!」
【悪魔】だけど、心の底から必死に神様へと祈りを捧げながら、周囲を確認する。
妙に暗いというか、閉鎖的というか、もしかして何かしらの建物の中か?
「……わお」
思わず声を上げちゃった。
俺が居た場所は、コンクリートの壁に囲まれた四角いブロック状の空間。その壁にはホラー感満載の、よくわからない文字のようなものが書かれた大量のお札が貼り付けられていた。
「これはもう、明らかに【悪魔】を召喚しますって感じの場所だな。ってことは床には魔法陣が描かれて――」
「…………」
「おわ!? びっくりした!? 全然気が付かなかった!!?」
下を見て初めて、この室内に自分の以外の誰かがいた事に気がつく。
それは地べたに座り、二メートル半ぐらいの俺を見上げていた――人間だった。
「………人間じゃん」
全身真っ白な巫女服を着た、十歳ぐらいの黒目黒髪の女の子。
「人間じゃん!?」
「ビクッ!?」
もし、この体に涙腺があったら、俺は滝の如く涙を流していただろう。
人間って、こんなに触れたら暖かくて、柔らかい見た目してたんだ。
あ、やばい、今の考え、人外ポイント高すぎ。
っと、いかんいかん。
急に大声を出した俺に、めっちゃ驚いているじゃんかよ。
ただでさえ、子供が見たらギャン泣きする見た目なのに、このまま怖がらせるのは申し訳ない。
というか、この子が俺を召喚してくれた人間のようだ。どうにか会話をして友好的である事をアピールしないと。
――そういえば、言葉通じるのかな?
ていうか、見た目完全に日本って感じなんだけど!?
えっ、もしかして、そうなのか?
いやでも、ここで勝手に期待して裏切られたら、ガチでへこんでしまう。
こ、ここは一旦、日本でない事を想定していこう。この見た目でも言語は宇宙語かもしれないし。
「……あ、アイム、スピーク、イングリッシュ」
「……ごめんなさい。日本語しか話せ……ません」
「まじか!? つまりここは日本でオーケー!?」
「えっと、はい……日本……です」
「うおっしゃああああああああああ!!!」
地球、しかも日本だって、こんなにご都合な事あるのかよ!
ガチャでいえばなんパーだ? SSRを超えてるんじゃないですかね!?
「神様ありがと――!! ……おっと、ごめんね。思わずテンション上がっちゃって」
自分がブラックメタリックパワードスーツデビルな事を忘れるな。
そんなのが大声あげて、はしゃぎ出したら子供は絶対怖いだろうが。
――でも巫女ちゃん、なんか冷静というか、特に驚いていない感じだな。というか、この状況をあまり分かっていない感じなのか?
なんにしても怖がってないなら、召喚された【悪魔】らしくやってみよう。俺が呼ばれた理由も分かるかもだしね。
「おほん……それで、巫女ちゃんが俺を日本へと呼んでくださいましたでしょうか?」
【悪魔】なら威厳を出せ? できるわけねぇだろ、俺の救世主かもしれないんだぞ。
「……ごめんなさい、よくわからない……です」
「ふむ?」
本人はそう言っているが、俺は彼女が呼び出してくれた張本人であると確信を持っていた。
意識してみたら分かったが、俺と巫女ちゃんは見えない糸のようなもので“繋がれている”。そして、それが断たれてしまうと俺は【地獄】へと
これがいわゆる、召喚された事によるものかは分からないが。巫女ちゃんは間違いなく、俺を召喚した契約者様である事に間違いはない。
――なら、やる事はひとつ。
「巫女ちゃん、名前を聞いていい?」
「ミサキ」
「ミサキちゃんか、いい名前だね」
俺は限界まで
「俺は【悪魔】のヤマトだ。契約者で有るミサキちゃんの願いを、なんでも叶えてあげよう」
俺のやるべきこと。
それはつまり、ミサキちゃんを何がなんでも守り、そして嫌われない事だ!
ミサキちゃんが死んでしまえば、俺は【地獄】に逆戻りだし、もう嫌いだから契約破棄とかされてもアウト。
だからもう、下僕でもなんでもやりますぜ、ミサキちゃん!
「……なんでもいいの?」
「ああ、何でもいいよ……できればこう、“道徳的”な内容だと嬉しいかな」
「……“どうとくてき”?」
「ごめんね、難しい日本語だったよね! 例えば人を殺すようなお願いは嫌かなって事!」
なんでも叶えたいけど、どうにも日本人としての記憶があるためか、社会的
それは【悪魔】として、長く過ごしてきても変わる事は無かった。おかげで殺し殺されるが当たり前の【地獄】での日々は、地獄としか言いようのない日々だった。
犬みたいで、珍しく俺に懐いてくれた【悪魔】を可愛がっていたら、暇つぶしと殺された事もあった。
日本に初めて興味を持ってくれた【
石油のようなものを生み出せる【悪魔】と出会って、文明が築けるって喜んでいたら、まあ殺された。
それで殺したり、殺せなかったり、戦争を始めたりしたけど、それで気分は晴れる事なんてなくて、楽しいと思えた事なんてなかった。
ほんと、殺し殺される日々って萎えるんだわ……。
とにかく、ミサキちゃんが誰かを殺したいだとか、世界を滅ぼしたいタイプだったら、何とかして願いを変えてもらおう。まあ、それで契約破棄ってなるなら、全然叶えますけど。
だって俺、日本に滞在したすぎる【悪魔】だもん。
その時は、願いを叶えるようにしつつ、日本を滅ぼさないように上手く立ち回るしかない。そんな器用な事できるかは分からないけど。
「まあ、とりあえず、なんでも願いを言ってくれればいいよ」
「……じゃあ――」
「――おお、おお!? 儀式は成功していたのか!」
願いが決まったのか、ミサキちゃんが口を開こうとしたその時。扉が開かれて何人かの大人たちが入ってきた。
全員が白装束の格好をしており、顔を布で隠している。どう見たって一般人ではない。
まあ、この謎部屋に関係ある人物なのは間違いなさそうだ。さて、こいつらは良いやつか、悪いやつか。
「ふはは! これで桔梗家の奴らに復讐できる!」
あ、これはもう悪人確定ですね。復讐と言っているから、なにやら込み入った事情はありそうだけど、状況証拠がちょっとねぇ?
今のセリフから察するに、コイツらは桔梗家を滅ぼすために悪魔召喚の儀式を行ったって所か。
じゃあそうなるとミサキちゃんは、どういった立ち位置になるかだけど。
まあ、この様子からして、1番可能性が有りそうなのは生贄だよなぁ。
「さあ、我らに呼ばれた『人外存在』よ! どうか贄をお納めください! そして願わくば我らの
うわっ、確定しちゃったよ。ミサキちゃんはやっぱり生贄だったみたいだ。
――萎えるなぁ。俺としては日本は平和で、ご飯が美味しい場所でいて欲しいわけ。
そりゃあ、生きていれば不幸なこともあるさ、もう殆ど覚えていないけど【悪魔】になる前の俺は、あんまり幸せな人生を送っていなかったっぽいしね。
でもさ、なにごとも建前って大事だって【悪魔】として思うのよ。日本は平和です。だから平和であれるように過ごしましょうってね。
それなのに、子供を生贄にするはもう間違いなく平和じゃないよね?
――ダメだよね、ほんと。
「……この部屋、お前らが作ったの?」
「は、しゃべ……はい! その通りでございます!」
ミサキちゃんを抱き上げる。
本当に大人しい子だ。もしかしたら、コイツらが、そういう風に育てたのかもしれない。
「それで、俺に何して欲しいって? その桔梗家ってのを滅ぼしてほしいの?」
「その通りでございます! どうかアイツらを滅ぼしてください! もし必要ならば、さらに“悪魔の子”を生贄に捧げま――」
「やだ」
「……は?」
顔は見えないけど、目をまん丸にして唖然としているのは分かる。
それにしても“悪魔の子”ってなんだ? ミサキちゃんみたいな子が他にも居るってこと?
気になるけど、今はとにかくミサキちゃん優先だな。
「い、いまなんと……」
「ん? ああ悪い、聞こえなかった? ――やだって言ったんだよ」
「な、な、なぜですか!?」
「んー、まあ色々と理由はあるけども、お前らの願い叶えても、絶対楽しくないもん」
口に出した後で、もう少し言葉を選べば良かったかなと反省する。なにぶん人間とまともに会話するのは数千年ぶりなんだ。
まあいいか、俺って【悪魔】だし。
おそらく、この白装束のトップと思われるやつが肩を震わせる。
「ふ、ふざけるな!? ここを作ったのは私だぞ、断じてそのガキじゃ――!?」
「そうか、ありがとう、じゃあの」
――俺の足元から影が噴き出て、水のように室内へと広がり、全てを飲み込む。
「がぼ――――!」
――【悪魔】は、【
これを俺は『
『布影』は白装束たちを飲み込んで、さらに広がっていく。
俺の視界が真っ黒の空間になる。うーむ、相変わらず全方位に『布影』を広げると、世界が滅びたようになっちゃうな。
――そろそろ、全部“飲み込めた”みたい。結構時間がかかった所を考えるに、大きな建物に居たようだ。『布影』を、一瞬にして仕舞うと景色が変わっていた。
「……外?」
「そう、お外だよ〜」
俺たちは札に埋め尽くされた室内ではなく、樹木が生い茂る森の中に立っていた。
俺たちが移動したんじゃない。白装束の連中と建物を『布影』で飲んだ。いま奴らは、『布影』の中にいる。
「おっと、このままだと溺死するかも」
そういえば『布影』の中って、空気無いんじゃねと気づき、焦り気味に影を広げて、中にいる人間のみを外へと放出する。
「がは、ごほっ、ごほっ!?」
おおう、あの部屋に居た奴らの十倍出てきた。というか全員白装束着てる。もしかしてどこかの宗教団体か?
見た感じ、死んでいるやつは……全員動いているな、ヨシ!
「ごめんね。俺も初めて知ったんだけど影の中酸素無かったみたいだわ」
「……お、お前はいったい」
体を震わせて尋ねてくる。召喚に必要なあの部屋を用意したのはコイツみたいだし、名前ぐらいなら教えてもいいか。
「俺は【悪魔】のヤマトだ。よろしくな。もう二度と会いたくないけど」
「あ、悪魔……?」
お、よく見たら山の奥に人工的な光が見える。もしかしたら、令和な時代の可能性がワンチャンでてきたぞ!
最高かよ〜! SSSSSR級すぎる〜!!
「う、嘘だ……悪魔は架空の存在で……だが、お前は他の『人外存在』とはちが……」
――うん?
なにか気になる事を言いかけた所で、白装束は意識を失ってしまった。
『人外存在』、まるで他に俺みたいな人外がいるような口ぶりだった。
――もしかして、ここは俺の知っている日本じゃないのか?