陰陽師が居る日本に召喚されたのは元日本人【悪魔】 作:庫磨鳥
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二人の無事だけを確認していたから気が付かなかったが、目を離している隙に、他の白装束は食べられてしまったようだ。
ダイダラボッチは山よりも大きくなっており、体育館が靴のようになっている。
声だけで考えれば、白装束の中には悪魔の子とは思えない中年男性や老婆が混じっていたが、満梨花ちゃんたちのような子もいたのかもしれない。
最初に思い浮かんだ言葉は“都合がいい”だった。
建前なんて気にしなかったら全員を助けられたのかもしれないが、俺は人間でもなければ天使様でもなく【悪魔】だ。
どれだけ
「【悪魔】だって? もしかして、昨日逃げ出した『人外存在』?」
「さてな、もしかしたら悪魔違いなのかもな。そういうお前は? なんだか皆からは
「ふん聞いていたのか盗み聞きなんて趣味が悪いね。というか言うわけないじゃん、馬鹿なの?」
「聞いてみただけだよクソガキ。大人の会話も分からないなんて、
「は? なんでそこで鬼灯家がでるのさ?」
「子供のお行儀の悪さは、親の責任だろ?」
「――お前、もしかしてさ。貪波を役に立たない分家だって馬鹿にしているのか?」
なるほど、貪波家って鬼灯家の分家なのか。
それにしてもこのクソガキ。思った以上に感情的みたいだな。いい感じにレスバしたら、新しい情報とか出てきそう。
「いいや。知っていたのは鬼灯家だけさ。たんばけ? 聞いたこと無いなぁ。あったけなそんな家。本当にお前って鬼灯家と関係あるの? 最近、日本って警察とか、弁護士とかを詐称した詐欺って流行ってるよね? それの陰陽師版ってわけ? こわ~」
「――は?」
空気が鋭い針になって全身に突き刺さる。
たんなる
これって陰陽師の呪力か?
『布影』の自動防御が反応していないのを考えるに、肉体に直接影響はでていないっぽいけど心には毒っぽいな。
「ボ、ボクが、たた貪波が偽物だってぇ? ……所詮は本家のおまけって言いたいのか!?」
「だったらなんだよクソガキ? 俺はお前の名前すら知らないんだぞ? ちゃんと自己紹介も出来ない奴が本物だって言っても、信じられるわけねぇだろ、本当に常識知らずのガキだな」
「ボクは38歳だ!!!」
――は? 声や身長的にてっきりガキかと思っていたが、中年男性だったのか?
それなのにお前、あんなクソガキムーブして虐殺していたのかよ。
「きっしょ」
心からの本音を吐き出すと、肌に突き刺さる気配の強さが倍になる。
「貴様! 言ってはならないことを言ったな!? 言ってはならないことを言ったな!!?」
「多様性だから、なんでも受け入れなきゃだめってか? お子様ごっこして人様の命で遊んでいるやつに席なんてあるはずねぇだろ」
「……っ! お前の正体がなんであれ、もうどうでもいい! ダイダラボッチ! こいつをここの土地ごと踏み潰してしまえ!!」
体育館を埋めていたダイダラボッチの片足が上がる。
体重何十トンもありそうな巨人が踏んでいたにも関わらず、体育館の床が陥没していない所をみるに見た目よりも軽いのか、それとも物理法則とは無縁なのか。思えば太陽を遮っているはずなのに、光が届いているな。
これが『人外存在』か、なんだか不思議だなぁ~。俺も人の事ならぬ人外の事言えないけど。
しかしまあ、マジでかいな。〈
「お、おい! このままじゃ全員潰されちまうぞ、どうするんだ!?」
「まあまあ、あんまり慌てなさんなって」
「隕石みたいな足が堕ちてきてるんだよ、慌てるだろ!?」
「ナイスツッコミ」
「褒めてる場合か!?」
「だから慌てなさんなって、ちゃんと考えているからさ」
満梨花ちゃんたちの安全を考えると、速攻且つ周囲に被害を与えないように一撃で葬る。幸いにも似たようなサイズの【悪魔】を殺した時に開発した“技”があった。
「――〈影変身〉」
『布影』が全身にまとわり付き姿を変える。人間ではなく、【悪魔】としての肉体を変える。
陸上選手が速く走るために無駄を削ぎ落とすように。
力士が動かせないように脂肪を蓄えて体重を増やすように。
目的のために体形を変化させる。
「〈侍の型〉」
――姿が変わったであろう、自分の身体を確認する。見える範囲であるがブラックメタリックパワードスーツな見た目が変化したのが分かる。
「さ、侍……?」
どうやら満梨花ちゃんからみても、ちゃんと変わったようだ。
〈侍の型〉。その名前の通り、いまの俺の見た目は戦国時代に武士が着ていた漆黒の甲冑姿となっている。
また、その腰には『布影』で作った、2本の長さが違う日本刀が
「やっぱり【地獄】に居た時とは違うっぽいな」
これもミサキちゃんとの契約の影響が出ているようで、見える範囲だけでもデザインが変わっており、頭に触れれば
たぶん、めっちゃ格好良くなっている。全身を鏡で見てみたい。
「ま、マリカ。なにが起きてるの? あれ誰、というか何?」
「わ、分かんねぇよ……【悪魔】って言ってたけど……」
ナコちゃんは正気に戻ったらしい。見れば白頭巾を脱いでおり、顔を
「なんだよそのコスプレ! それで何が出来るんだよ! ダイダラボッチ。もういいから踏み潰せ!」
限界まで上げられた足が堕ちてくる。
大きすぎるためか、めちゃくちゃ遅いように見えるが、実際はあと数秒で俺たちをぺちゃんこにするだろう。
だが、その足が地を踏みしめる事は、もう無い。
「――〈
鞘から一瞬の内に刀を抜き放つ、振り抜く中で黒色の刀身が伸びていき、ダイダラボッチの足に届く。
斬った感触がまったく無い、まるで雲を斬ったようだ。
「それが何になる!?」
「俺の勝ちになる」
ダイダラボッチの動きが不自然に停止する。片足たちのままでとっても辛そうだ。
「は? な、何故動かない!? ダイダラボッチ!?」
貪波は動かないダイダラボッチに非常に焦る。どうやら上手く行ったようだ。
黒い刀身もまた『布影』だ。だから刀身を自在に伸ばす事ができるし、斬っている最中に切り離して、体内へと残す事もできる。
ダイダラボッチの動きを止めたのは、体内に残した『
それでも止められなかった時は、俺の方から『布影』の土台みたいなのを作って押し上げるつもりだったけど、どうやらあの巨人は見た目よりも軽かったみたい。
もしそうする事になったら格好つかなかったので危なかったぜ。まあ刀身を体内に入れた本題は別にあるんだけどね。
凝固させなかった一部の『
だったら、やりかたを変えないとな。
俺は後ろを振り向いて、
ひっ、
もしかして陰陽師だと、俺みたいなの見慣れているとかだろうか?
「な、なんだよ」
「雨が降るからな、濡れたくないだろ?」
「は? 雨……いったい何を言って……」
「お、おいなんで止まってるんだよ!? 動け、動けってば!?」
「……なにをやったんだ?」
流石に気になったのか
「この刀は俺の一部で出来ていてね。だから伸ばし放題、縮ませ放題。そんで切り離し放題ってわけ」
「そ、それでどうしたんだ?」
「伸ばした刀で斬った時、刀身を体内に残した。足が止まっているのは、その刀身で止めているから――そんじゃあ開くぞ」
「……開く?」
手に持った
「〈御免〉」
パチンという鍔音を鳴らしたあと、刀を和傘へと変化させて、
――ポタポタと傘に雨粒が当たる。
「雨? ……でも外は晴れて……?」
「ち、ちがうこれ……雨じゃなくて……」
その雨は真っ赤だった。
――ザアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
血の豪雨が勢いよく降り注ぐ、傘に守られている満梨花ちゃんたちは、顔を青白くして今にも卒倒しそうだ。
あ、やばい。体育館思ったよりも水はけが悪い。満梨花ちゃんたちを囲うように小さな壁を作り、床に流れる血で濡れないようにする。
「おい! この血の雨はなんだ!?」
「あのダイダラボッチ。内臓とか無かったからさ、体を中から割いてみた」
「割いてみたじゃねぇよ!?」
ごめんね、グロテスクで。でも巨大な敵相手は、これが1番効果的で安全だと思ったんだ。
〈侍の型〉は最初こそ武士みたいに刀で戦えるようになりたいと思って作った姿だったが、まあ後々近接戦闘だけで言えば他の“型”のほうが強いよねとなった。
なので色々と
【地獄】では銃は形を作っても、音速の弾丸は発射できなかったし、弓を使っていた時は、急接近された時対応できなくて死に掛けたのもあり、このスタイルとなった。
「……お、止んだな」
「お、終わったの……?」
「みたいだな……」
――血の雨が振り終わり、ダイダラボッチを見上げるとヘソあたりから、綺麗に左右に割れていた。
多分、中々エグい。後ろから小さな悲鳴が聞こえる。
「……おっ、妖怪って死ぬと灰になるのか」
ダイダラボッチは紙切れみたいな灰となって周辺に飛び散り、あっという間に消えて無くなってしまった。
「さて、クソガキならぬ、クソオジ……ん?」
「あ、おい……」
そういえばさっきから静かだな。もしかして逃げたのかと思って壇上をみれば、貪波が横に倒れていた。
なにごとかと思って、近づいて確認すると反応がない。というか息もしていない?
「……なんだこれ?」
白頭巾を脱がしてみて顔を見て驚く。 その中身は先程まで動いて喋っていたとは思えない子供のミイラだった。最初にこっそり貼り付けておいた『布影』の欠片がある事から、こいつが貪波である事は間違いないみたいだ。
俺がダイダラボッチをやったからこうなったのか?
それとも最初からこうだったのか?
分からないが直感的に“逃げられた”という感じがする。もしかして遺体を遠隔操作でもしていたのか?
くそっ、油断しちまったな。まさかこんな方法があるなんてな、今度から気をつけよう。
「まあ、過ぎたことを考えても仕方ないか。おーい、
再び満梨花ちゃんたちのほうへと戻って、声を掛けると怯えだす。
うん、やっぱりこれが普通の反応だよね。できれば怖がらないでほしいんだけど、まあ仕方ない。
「なんだ……い、言っておくが金はあんまりねぇからな!」
「食べても美味しくないよ~!」
そういえば契約の対価を貰わないとだな。忘れているわけじゃなかったけど、考えていなかった。
まあ、後でいいし、忘れたら忘れたらでいいか。
いまはとりあえず、二人に言いたいことがある。
「あー、ファ○マじゃなくて……あのコンビニの名前なんだっけな?」
「……もしかして、フミリカマート?」
「それそれ あそこのフライドチキン、マジで美味いから食いなよ」
「フライドチキンっていうか、フミチキだろ……知ってるよ。最近高くて食ってないけど」
物価が上がったからじゃなくて、お金がないからだろう。
「というか【悪魔】がなんで、フミチキ知ってるんだよ……」
「マリカ」
「あ? どうしたナコ?」
「私、コンビニ行くならプチ贅沢スイーツのロールケーキが食べたい……」
「はぁ?」
あー、いいよねコンビニスイーツ。俺も喰いたい。
「……お、お前……それなら私だってシュークリーム食いたいって!」
「……食べちゃう?」
「いやでも、流石に高けぇ……」
「いいじゃん今日ぐらい。他にもいつもは高くて避けちゃうやつ買っちゃおうよ!」
「ああもう分かったよ! 今日はもう知らん! 腹いっぱいなんでも食うぞ、それからの事は明日考える!」
――調子を取り戻したのか、ギャーギャーと騒がしくなる。そんな二人の気が済むまで、俺は静かに見守っていた。