陰陽師が居る日本に召喚されたのは元日本人【悪魔】 作:庫磨鳥
栄養がつくものを持ってきて欲しい。
そんなざっくりとしたお願いに、
「……すげぇ、重箱だ」
「おー」
今日の
「これって、
「は、はい。ただ、いくつかは冷凍のものを使用していて……駄目でしたでしょうか?」
「そんなわけ無いじゃん! 日本の冷凍食品は世界一!」
「それなら良かったです」
用意してくれただけでありがたいのに文句なんてあるわけない。
「それじゃあ早速、開けてもいいかな?」
「もちろんです」
「それじゃ失礼して」
前世でも経験したことのない重箱弁当に、うっきうきになりながら中身を確認する。
1段目は長丸型のおにぎりが8個、綺麗に敷き詰められていた。
「もしかして……具の中身違う系?」
「は、はい、昆布、鮭、梅、ツナマヨが二個ずつとなっています」
「おにぎり四天王勢揃いかな?」
なにより、ツナマヨも入ってるの凄くないか? もしかして、昨日俺が美味そうに食っていたから用意してくれたのか?
続いて二段目と三段目であるが、どちらも沢山のおかずが入られていた。
そのおかずの内容であるが、二段目は見た感じ野菜料理を中心とした感じで、しっかりと栄養を取れる内容となっている。人参とごぼうのきんぴらマジで美味そう。
そして三段目であるが、卵焼きに、ハンバーグ、ナポリタンなど、まさにお弁当の中に入っていたら子供と【悪魔】が喜ぶもので構成されており、俺の上がりきっていたと思っていたテンションをぶち抜いた。
「このお弁当、まるで宝石箱や~!」
「あ、なんだか聞いたことある……」
どうやら、この世界にも、かのグルメリポーターは居るらしい。
「こんなに用意するの大変だったでしょ?」
「いえ、そこまで手間は……ヤマト様が、どれほど頂くのか分からなかったので、とりあえず成人男性の1日分だと考えて、この量にしましたが、よろしかったでしょうか?」
「よろしすぎるよ、これから
「い、いえそれには及びませんので! ……ど、どうぞ、食べて下さい!」
「それじゃミサキちゃん、食べようか」
「いいの?」
「もちろんです!……あ」
「ん? どうしたの?」
「あの、実は箸を
「ああ、それなら問題なし、ほら」
『布影』で細い二本の棒、箸を作ってみせる。
「べ、便利ですね……箸の使い方も、とても上手で」
「めっちゃ練習したからね」
懐かしいな。【地獄】で過ごしている時。いつ日本に行ってもいいようにと、箸の使い方を練習した事があった。それに興味を持った【悪魔】たちにも教えたりもした。
殆どの奴が、全く興味を示さなかったが、その中で“八”……まあ、“八”の悪魔が興味を持って、それから“六”の悪魔とは関係を長く続ける事となる。
――アイツら元気かな。できれば日本に来て欲しいと思うが、大人しくても【悪魔】。来た時にヤバいトラブルを起こしかねないので、唐突には勘弁して欲しい。
「ヤマト様?」
「ん、なんでもない。それじゃミサキちゃん。頂こうか」
ミサキちゃんに普通の箸を渡す。
「いいの?」
「はい、もちろんです!」
「というわけだ、持ってきてもらって食べないほうが失礼。というわけで頂きます!」
「頂きます……」
――最初に箸を付けたのは、不思議な魅力がある焦げ目が無い綺麗な卵焼き。噛むたびに卵と出汁の旨味が、口いっぱいに広がる。
これは
具の中身は梅だったようで、程よい酸っぱさと米と卵の甘さが口の中で混ざり合い、幸せになる。
「
「はい……美味しい……です」
「よかった……こちら、ペットボトルのお茶になりますが、どうぞ」
「何から何まで……やっぱり敬語で話したほうがいいですか?」
「すいません、止めて下さい」
「……」
「ミサキちゃん、どうかしましたか? もしかしてお口に合いませんでしたか?」
「……スズメさんは、食べないん……です?」
そういえば、弁当に夢中で気が付かなかったが、
「はい、私は味見とかしてお腹いっぱいなので……」
「料理人あるあるだ」
なんだかいいなぁ。作れる環境になったら、俺も料理してみたい。
「というわけで、私の事は気にせずにどんどん食べて下さい!」
「はい……あの、とても美味しい……です……ありがとう……ございます」
「……はい!」
それから、ミサキちゃんも予想以上に食べて、結構大きめなオニギリを二個食べた。俺も夜に食べる分考えないとなと思いつつ、全部が美味いので我慢できずに食べ過ぎてしまう。
ただ、そのおかげで俺にも満腹感がある事が分かり、安心した。
――お腹がいっぱいになる幸福感を味わいつつ、両手を合わせる。
「ご馳走様でした」
「ごちそうさまでした」
「美味しく食べて頂き、ありがとうございます」
「マジで美味しかった。残りを食べるのが今から楽しみだよ。
「はい……昔、お兄ちゃんやお姉ちゃんに振る舞ったら、ものすごく喜んで貰った事がありまして、それから
出会った時もそうだったけど、
「あの、それで少しお話があるのですが、よろしいでしょうか?」
「いいよ〜。なんでも話して行ってねぇ〜」
「穏やかになってる……【悪魔】はお茶になると穏やかになる?」
「ごめん。単なるノリなんだ。そんな特徴はないよ」
危ない。もしもの今後、暴れる【悪魔】が出てきたとして、人間側は沈静化のために、効果のないお茶作戦をする所だった。
「それで、話ってなに?」
「あ、はい。ヤマト様とミサキちゃんのお二人は、住む場所や金銭が無いんですよね」
「そうだね。俺は召喚されたばっかの【悪魔】だし、ミサキちゃんも帰る場所がない状態だ」
特にミサキちゃんに限っては、生贄として俺に捧げられようとしていた。もしかしたら死亡扱いになって戸籍が消滅していて、【悪魔】である俺と同じ境遇になっているかもしれない。
「……わかりました。それで提案と言いますか、もう既に申請して認可を頂いたものがありまして、こちらをどうぞ」
そう言って、鈴明ちゃんはA4サイズの紙をテーブルの上に置いた。
なんぞやと手に取って内容を見てみると、限界までびっしりと書かれた文字の羅列に圧倒される。
「……
「はい、略して『
なんかすごい市役所的な書類だった。
「……つまり?」
「この家は、私こと桜間スズメの判断によって『人外存在』が定着した『特外地』に指定されましたので、ヤマト様たちがご自分の意思で住み続けたいと思う限り、このままこの家に住んでも構いません。また家の中にあるものは、自由にしてもらっても大丈夫です」
「……マジ?」
「はい、それとですが『人外存在』を安全に管理するという名目で電気水道ガスの復帰、最低限のリフォーム工事もさせてもらいます。ですが申し訳ありません。急な話だったので、早くても工事は数日後になってしまうとの事です」
「あ、はい、そりゃ全然いいですけども……」
――驚きすぎて、うまく反応できない。
なんだか知らないけど、この家に住んでいい事になったし、電気もガスも水道も通るみたいだぜ!
待て待て、ちゃんと頭を回転させて事態を把握しないと。
「……まとめると。ここは『人外存在』が住む。危険な場所って事で、
「はい、そうですね。この土地は持ち主不在のまま不動産屋が管理している状態だったらしく、問題解決まで実質無期限状態を維持できますので……実質、永住が可能です」
「……これ多分だけどさ。グレーなやつでは?」
『人外存在』と管理者が仲良くお喋りして、ずっと住んでいていいよって会話しているの想定されていないでしょ?
「まあその……でもこれが1番最良だと思いました。私はまだ未成年なので通常の手段では、この家を借りる事はできませんし、『特外地』にしてしまえば、他の陰陽師も私の許可なしでヤマト様を退治しようとすると法的に罰する事ができるようになります」
どうやら
「というか、これ半日ぐらいでできるものなの?」
「陰陽師の活動時間が夜なのもあって受付は24時間行われています……あと、頑張りました」
もしかして、目元に隈が出来ているのは、この手続きをやって弁当を作ってくれたからなのか?
そうだったとしたら、流石に【悪魔】でも罪悪感が湧きますが?
「それと、こちらをお納めください」
「これは?」
「先立つものが必要との事で、100万円用意しました」
100万円。
1万円が、100枚の束になってる。
100万円。
「100万円!?」
「足りなかったでしょうか?」
「いやいや、むしろ貰い過ぎな感じといいますか、流石にみたいな感じといいますか……これって
「い、いえ私の資産ではなく、桜間家が保有している『人外存在』の管理準備金です。本来であれば『人外存在』を管理するための
なるほどー。確かにお金があれば生活費を稼ぐためにって、外で変な事しなくてよくなるよねー。
「いやいや。流石に強引じゃない? 『人外存在』を管理するために生活品を買うって、普通の経費でも通用しなさそうだよ?」
「子供の幽霊を成仏させるために玩具と三輪車を買った前例があるので、特に問題は無いと思います……あ、できればレシートは貰って頂けるようにお願いします」
「あ、はい……いやでも、100万は多くない?」
「いえ、『特外地』の長期対応を考えれば……そのお値段なら、初期の祭具の用意だけで飛んじゃうかと」
「……人外対策ってお金掛かるなぁ」
「はい……とっても、掛かります…」
世の中、お金が無いと危険から身も守れないか。世知辛すぎる。
ともあれ、本当にいいのかなとは思うものの、この家に住めるようになって、100万円手に入れられたのはマジで嬉しい。
これで、ミサキちゃんにちゃんとした生活をさせる事ができる。
にしても、ただお金や住む場所を与えてくれただけじゃなくて、法的に俺たちの立場を保証する。
こんなの歴史ある名家のお嬢様だからといって、早々にできるものじゃないだろ。
「
「えっとですね……桜間家は代々陰陽師界隈と一般社会の
「なるほど、そりゃ色々と上手いわけだ」
凄い人と縁が出来てしまったな。昨日はミサキちゃんのおかげで日本に来られて、鈴明ちゃんにも会えて、悪魔人生の中で一番運が良かった日なのかも知れない。
「といっても私の場合は、お兄ちゃんに教えてもらった事をやっただけなので……」
「実行できる事が凄いと思うけどなぁ……お兄さんってどんな人なの? もしかして、めっちゃ凄い人?」
「はい! 皆から“化け物”って呼ばれているぐらい、すごい外交官なんです!」
「優秀すぎて恐れられるタイプか~」
というか化け物って褒め言葉なのだろうか? 『人外存在』が居る世界だからこその価値観なのかな?
まあ
「……?」
「ミサキちゃん、今の話わかった?」
「ごめんなさい。分からなかった」
何も言わないミサキちゃん。もしかしてと思い聞いてみたら、やっぱり難しかったか。
「つまり鈴明ちゃんのお陰で、ここに住んで良くなったし、お金も手に入ったし、美味しいご飯も食べられたってこと!」
「そうなの……です? ……ありがとうございます」
「いえ、ヤマト様には命を救ってもらったので、これぐらいでしたら、なのでミサキ様も、そう畏まらないでください」
「“かしこまる”?」
「えっと……これから呼び捨てで、敬語も使わないで話しましょうって事です」
「……いいの?」
「はい、もちろん!」
うん。2人が仲良くできそうで良かった。ミサキちゃんは人を拒絶するタイプじゃないし、鈴明ちゃんは他者に敬意を持って接してくれている。
滅多なことは起きたいと思ったけど、これなら安心だね。
「それで鈴明ちゃんや。ここまでしてくれたのは、対価を直ぐにでも払い切りたかったから? それとも別の目的があるから?」
「うっ……まあ、その……はい」
気まずそうに肯定する。
鈴明ちゃんとの対価で、俺が望んだのは今日のご飯だけだった。それなのに住める家や、お金を頼まれるわけでもなく用意したのは、何か目的があるのを察していた。
「世の中、善意だけで事は回らないっていうのが、俺の考えなわけで。ここまでしてくれた以上、よほど変な願いじゃなければ、俺の出来る範囲で叶えるよ」
そう言うと、鈴明ちゃんは無意識なのか、ほっと安堵の表情を見せる。こう顔に出すところを見ると、本人の言う通り、外交畑の人間でないらしい。
「とりあえず、〈
「い、頂けるのなら嬉しいのですが……2つ、お願いがあります」
「なに?」
「まず、ヤマト様とミサキちゃんには、この場所に留まってほしいのです」
「なるほど、だから住んでもいいようにしてくれたのか。理由を教えてもらえる?」
「それはヤマト様が【悪魔】だからです。いまの日本は悪魔という言葉に敏感です」
「あー、もしも俺が外に出て【悪魔】だとバレたら、悪魔の子の風評被害が加速する。だから、拠点と生活費を与えるので、大人しくしていてほしい感じ?」
「ちょっと違います。ヤマト様のする事を縛るつもりはありません。【悪魔】である事を隠して欲しいというものでもありません。でもどうか困った事があれば、もしくは困った事が起きてしまったのならば、まずは“桜間に相談”してほしいのです」
黙って騒動だけは起こさないでほしい。なにかトラブルに巻き込まれたなら相談して欲しい。どれだけ複雑な事を考えて、この願いを口にしたのかは分からないが、調停役である桜間だからこその願いだろうなというのだけは分かった。
「了解。俺は別に日本をどうこうするつもりはないよ。平和で居てくれて、ミサキちゃんが安全で不自由無く生きる事ができるなら、それでいい」
「……分かりました。精一杯勤めさせて頂きます」
とはいえ、
それに、お願いを聞く前だしね。
でも、いつかは相談しないとな。
……そういえば、さっきのお願い“桜間に相談”って言ってたな。
あー、これはやられたか? まあいいか俺にも都合がいいし、
「もう1つですが、ヤマト様は【地獄】からやってきた【悪魔】である事もそうですが、今までの常識とは異なる『人外存在』という事など、世間に知られれば、混乱は免れません。ですので、堂々と表立って活動したいのであれば、その前に桜間の方で、世間の認知のされかたについて段取りを組ませてもらいたいのですが、いいでしょうか?」
「もしも、その時は
「は、はい。大丈夫です!」
俺は日本の事は知っているけど、それは一般常識程度の知識だけだ。複雑な政治の事は一切わからない。
だから俺という【悪魔】が、どんな影響を与えるのか、もよく分かっていない。それなら
別に好き勝手に暴れてやるぜって性格なら、こんなことで悩まなくてよかったのだろうけど俺がほしいのは、ミサキちゃんと安心できる家に住んで、美味いものを食って、行きたい所に電車やバスでフラッと行ける。日本ならではの、どこにでもあるような幸せだ。
なので余程不快な内容じゃない限りは、めちゃくちゃ言うことを聞きますよ、
「ただミサキちゃんの事は伏せてほしいかな。なにぶんね?」
「……分かりました」
明らかに何かしらの事情を抱えているミサキちゃん。ちゃんと意図が伝わってくれたようで、
「そんじゃあ、話も区切りがついたし、今度は鈴明ちゃんが俺達に質問してよ」
「よろしいのですか?」
「こういうのは、お互い知らないとだと思うしね。日本的マナーが守られている範囲で、何でも聞いてちょうだいな」
というわけで、