陰陽師が居る日本に召喚されたのは元日本人【悪魔】 作:庫磨鳥
事前に二話投稿されていますので、そちらを先にお読みください。
『人外存在』が持つべき妖力が無く、かといって人間が持っている『呪力』も存在しない。
青鬼を一撃で倒せるほどの力を持ち、それでいて〈
そんな強力な力を持った第三存在とも言える【悪魔】のヤマトと出会いを果たした鈴明は、ある覚悟を持って接していた。
それは桜間家の四女としてヤマトと友好的な関係を続けることであった。
――ヤマトとの出会いから帰宅したスズメはパジャマに着替えて、少しだけ仮眠を取ったあと、エナジードリンクを飲んでパソコンで作業を始めた。青鬼に追いかけられたり、驚くことが沢山あったりとして疲れていたが、どうしても今日中にやるべき事があると思っての事だった。
「……あ、もう来た。本当に早いんだ」
それからスズメは、自分の部屋からもっとも近い屋敷の端にある外廊下を進んで、外にある台所へと移動する。
この台所は、兄と三人の姉が本人に黙ってスズメの中学校入学祝いだとして本人にプレゼントしたものである。その時には既に自分以外はお金を稼いでいた身であったが、一般常識を持つスズメは大好きな家族からの贈り物で初めて、受け入れるのに時間が掛かった。
「よし、がんばるぞー」
そんなスズメ専用の台所にして、エプロン姿になったスズメは早速調理を開始する。その手つきは手際が良く、慣れている事が分かる。
味が付くのに時間が掛かるものは、冷凍品などでカバーこそしたものの。お弁当の主役級と呼べるハンバーグや、独自の味がでやすいだし巻き卵や、
最初にお弁当で、ここまでしたのには訳がある。それは言ってしまえばヤマトのご機嫌取りである。
食事は相手を招く上でも、もっとも大事なものとされる要素。ここで何を出すかによって、印象が変化する。
1日分を用意するにしても、量だけ用意して飽きさせるような内容は絶対駄目だ。
また『人外存在』であるヤマトの好みがわからない以上、あらゆる種類を用意して調べる必要がある。
本人は日本が好きと言っていて、コンビニのフライドチキンとオニギリをあんなに美味しそうに食べていた。
とはいえ、それは日本の一般的なジャンクフードだけが好みなだけかもしれない。そう言った好みを相手の事を不快にさせないようにしつつ調べる事が肝心だ。
対価として充分なものでありながら、見た目的にも品数的にも相手に飽きさせず、どんなものが好きなのかを調べられる。
それこそが豪華な三段重箱弁当であると、スズメは考えた
――スズメは三馬鹿……他の妹たちよりも僕に近いけど、正直すぎちゃって調停役はできないね。
兄からハッキリと告げらたスズメを表した真っ当な評価。たとえ才能が噛み合わず“非才”の身であったとしても、彼女は誰かと誰かを繋ぐ桜間家の四女として、ヤマトとの友好関係の構築に手を抜くという考えは無かった。
「からあげできた……美味しいって言ってもらえるかな」
とはいえ、根は良い子であるのは変わりない。あれこれ考えてはいるものの、その根にある気持ちは、自分の作った料理を美味しく食べてくれたら嬉しいなというものだった。
「アー!」
「わっ!? ……ヤマト様の〈
おそらく自分の監視役も兼ねているのであろう、ヤマトからもらった〈
まさか、自分が着ていた狩衣の裏側に張り付いてたとは思わず、どこに行っていたのかと思っていたら、テーブルの上に立っていた。
「……もしかして、からあげ食べたんいんですか?」
もしかして、ヤマト様からの連絡だろうかと思って緊張したが、その様子がなく、どうやら〈
「アー!」
どうやら正解なようで、コクコクと〈
「カラスは雑食だし、油もちょっとなら大丈夫だっけ?」
いや、そもそも〈
こうやって自分の言葉を理解して返事ができているところを見るに、普通のカラスじゃないのは明らかだ。
「ヤマト様の【権能】で生み出したと言っていたけど……本当に大丈夫?」
「アー!」
「それでしたら、小さいの1個だけ……あ、流し台に近づかないで下さい!? 衛生面的な意味で!」
「あー……」
申し訳ないとうなだれる〈
『人外存在』の中には、使い魔や
そのため、〈
陰陽師と契約を結び式神になった『人外存在』の中には、意思疎通ができるものも居るが、それは中でも特別なものだ。
「……いま考えても仕方ないか、美味しい?」
「オァー!」
「よかった!」
そもそも、〈
自分の持っている知識からかけ離れたものだと考えるべきであり、いま気にしても仕方がない。
「ォ……オ……」
「ん?」
「……オイシィ」
「喋った!?」
本当に仕方ないで済ませていいのか、分からなくなったスズメであった。
+++
――頑張ったかいがあったと、寝不足気味な鈴明は達成感に満ち足りていた。
この家を『特外地』として申請して、管理準備金扱いで現金を用意した事をヤマトに喜ばれた。その事を契約とは別に恩義に思ってくれたようで、絶対に
――これによって、私だけではなく“桜間”として、ヤマトの相談役になる許可をもらった。もしも自分だけではどうにもできなくなったとき、お姉ちゃんやお兄ちゃん……本当にもしもの時は、お父さんにヤマト様の事を相談しても筋は通す事ができる。
ただ、気をつけなければならないのは、これは契約ではなく、あくまでも信頼の上での口約束のようなもの。
ヤマトの怒りを買うかは、結局は自分の行動次第である。むしろこれからが本番だと緩んだ気持ちを改める。
――失敗は許されない【
お兄ちゃんは何時もこんな事をしているのかとスズメは、どこかで常人ならとっくに過労死しているレベルで働いているであろう兄に、尊敬の念を送った。
――超うめぇ!
――美味しい……です!
だけど、スズメがなによりも嬉しかったのは。自分の作った料理を本当に美味しそうに食べてくれた事だった。
陰陽師の家系に生まれたのにも関わらず。才能が無くて誇れるものが無かったスズメにとって、ヤマトとミサキの純粋な喜びは桜間家の四女ではなく、桜間スズメとして二人を助けたいと思ってしまうものであった。
どこまでも調停役を担う桜間の子としても、とことん非才の身だと内心で自虐するも、悪くない気分であった。
そんなスズメだからこそ【悪魔】との縁を結ぶことが出来たと、本人はまだ気づかない。
「どうしたの
「あ、いえ、すいません。なにから聞けばいいのか悩んでしまって」
「まあそうだよね。まあ本当に何でも聞いてくれ、答えられるものだったら、なんでも答えるよ」
とはいえ、地雷を踏むことは絶対に避けたいスズメは、当たり障りのなさそうなものから聞いてくる。
「では、ヤマト様は【地獄】から来たという事ですが、あの人間が行く地獄からやってきたという事でしょうか?
「んー、いや多分違う。異世界みたいなものかな」
それから、ヤマトは地獄の事を話し出す。
そこは全てが赤く、他の色が存在しない。
空には太陽が無く、雨も降らなければ、雲が掛かる事もない。
大地は果てが無く、どこまでも平地で、石が転がっているぐらい。
そもそも地球の物質というものがなく、光や重力というものが有るのかも分からない。
本来であれば、思考を持った何かが居ていい筈のない、まさしく地獄のような世界。
だけど、そこにどうしてか【悪魔】だけは存在していた。
「――こんな所かな。あんまり詳しい事言えなくてごめんな。ほんとなにも無さ過ぎて表現も困る場所なんだよ、【地獄】っていう所は」
「いえ、教えてもらい、ありがとうございます……『
「『幽世』って? 陰陽師用語?」
「は、はい、私たち陰陽師はこの世界を『
『
「ですが、『
「じゃあ、【地獄】とは違うっぽいな。表示されている0のフォントが違うみたいな話だけど」
「う、上手く想像できませんね……」
「あー、しなくていいさ、まじでろくでもないからな……」
「あ、えと、あの! 【悪魔】についても教えてもらってもいいでしょうか!」
思い出しているヤマトは、どこかしんどそうであり、このままでは行けないとスズメは話を切り替えた。
【地獄】の話題は地雷を踏み抜く可能性ありと、スズメは脳に刻み込む。
「ん、あー。ごめん、正直【悪魔】に関しては俺もよく分かってないんだ。多分こうだろうなってのは、悪魔は単一存在で似たような奴は居ても同じ奴はいない。そして必ず『権能』と呼んでいる特殊な力を持っているって事だけかな」
「……ちなみに、『人外存在』が必ず持っているとされる、妖力のようなエネルギーって存在しますか?」
「それも無いと思う。体力みたいなのはあると思うけど、逆に言えば、今のところそれぐらいだけだな」
「わかりました……とんでもないですね」
もしかしたら、あの青鬼を倒した技を無限に放てる可能性が出てきたことに、スズメは頬が引きつりそうになった。
ヤマトの技は他にも沢山ある事を、スズメはまだ知らない。
「……ん? もしかしてだけど、『人外存在』って必ず、妖力を持ってるの?」
「はい、そうですね」
「それなのに、【悪魔】の俺は持っていない?」
「そうなります」
「……陰陽師的には、すごくヤバい感じ?」
「めちゃくちゃヤバい感じです」
「なるほどなぁ。さっきのお願いってそういう事か、うーむ」
ヤマトが
もしかして、なにか不満に思うことでもあっただろうか、スズメは緊張しながら次の言葉を待つ。
「……この状況、ラノベのタイトルでいうなら『悪魔、召喚された先で居た『人外存在』と全く違う【権能】でスローライフ生活”……になるのかな?」
「最強系ではないんですね?」
スズメは動揺してしまうと、すぐに口に出してしまう癖があった。
「やっぱりもっと長くないとダメかな?」
「すいません。ライトノベルはあまり
「そっかー。まあラノベとか、アニメとか、何でもいいから今度面白そうなの教えてよ」
「わ、分かりました……ちなみに何が好きなのとかありますか?」
「んー、いまは日本を舞台にした日常系が見たいかも」
スズメは1日の大半を勉学と料理に費やしていたため、創作物は偶然やっていた有名なアニメを見るぐらいであった。そのため、オタクカルチャー寄りの日常系は見たことがなく、ヤマトに紹介するため、今度しっかり調べようと心に決める。
そこでふと、スズメは根本的な疑問へと思い当たる。日本に来たのは前日であるはずのヤマトが、どうしてこんなにも日本に詳しいのかと。
「……そういえばヤマト様は、本当に日本に詳しいですよね? 召喚された時に知識を得たとかですか?」
そう口にしたが、内心でスズメは違うと確信を持っていた。ヤマトの会話は日本で長年、生活してきたかのような経験を感じられたのだ。
「あー、まあなんか【地獄】で生まれた時に、頭の中に日本に関する知識が有ったんだわ」
「そう……なんですか……でもどうして」
「分からん。そんでまあ【地獄】で日本を再現しようと頑張ってみたんだけど、上手く行かなくてさ」
それはそうだ。【地獄】では物質がない。それはつまり、世界を構成している粒子が存在していない。だから再現しようにも、全ての素となる物が存在していないんだ。
だか再現できるものを、スズメは将棋とかオセロとか石を加工してできるものしか思い浮かばなかった。
「――だから、ずっと来たかったんだ」
小さく呟かれた言葉は、あまりにも重く、深い年月を感じ取る事ができた。
昨日、どこにでも売っているコンビニのご飯を、どんな気持ちで食べたのだろうか。
「……日本にようこそ、おいでくださいました。桜間家四女として、ヤマト様のご来訪を心よくお迎え申し上げます」
――彼が、いったいこの日本にどのような影響を与えるかは分からない。それでも、こんなにも日本を想ってくれていたのならば持て成すべきだとした。
「ん……ありがとね。なるべく迷惑を掛けないよう平和的に過ごすよ」
「はい。どうかよろしくお願いします」
本人も難しいとは思っているのだろう。だけど、ヤマト様は平和を崩すような事をしない。それが聞けただけ心底安堵した。
「……ヤマト様。もしよろしければミサキちゃんの事を聞いていいでしょうか?」
「私?」
「はい。ミサキちゃんの事を知りたいです!」
「いいよ……いい?」
「おう、俺もバタバタして聞けていなかったし、ミサキちゃんがいいなら教えてくれ」
――この子は、間違いなく悪魔の子だ。
風評被害によって、日本社会を追われてしまった子たちの1人。
桜間は必死に風評被害の撤廃と、悪魔の子の保護に努めているが、“ある家”の妨害によって成果は芳しくないと、みんなが頭を悩ませていた。
――そんな悪魔の子が【悪魔】を召喚する。
『人外存在』を呼び寄せるという噂が現実になってしまった。
【信仰】によるものかは、まだわからない。
いま言える事は、この事が公になれば、風評被害ではなかった事になる。そうすれば人々は自分たちの行動が間違った事じゃなかったと、差別を加速させるだろう。
それは人道的にも、差別を受けた悪魔の子との
「ふー……」
「どうしたの?」
「もしかして寝不足か?」
「あ、いえ、大丈夫です!」
自分だけで考えても仕方がないと、スズメは一旦意識を切り替える。
いま、大事なのはミサキが世間の事を恨んでいるか、復讐などをしたいかと言う、攻撃的な意思があるのかを確認することだ。
もしも、本当にあるだとしたら、なんとか
「えっと、ミサキちゃん。改めまして私、桜間スズメです」
「桜間……」
「聞いたことありますか?」
「ごめんなさい。聞いたことあるだけ……詳しくは知らない」
「いえ、単なる確認なんで気にしないで下さい! それでミサキちゃんの
「……ごめんなさい。分からない」
「……分からないですか? 言いたくないではなく?」
「はい、分からない。お母さんも、周りも名前しか呼ばなかったから」
「わ、分かりました! それなら、ミサキちゃんって呼ばせて頂きますね!」
「……ごめんなさい」
「謝らなくていいですよ、むしろ分からない事を、ちゃんと分からないと言ってくれてありがとうございます」
この時点で、ミサキが普通の家庭環境で生活を送ってこなかった子供である事は、スズメの中でほぼ確定した。
――憐れみが1番キツイから、その目だけは絶対に“私たち”に見せないこと。
学校で唯一の友達の言葉を思い出して気持ちを切り替えた後、スズメは覚悟を決めて話を続ける。
「だったらミサキちゃん。なにか知っている名前ってありますか?」
「……覚えているのがある」
「本当ですか!? 呼び方は分かりますか?」
「……分からない、けど簡単だったから書ける」
「でしたら、こちらをお使い下さい」
もしも、これでミサキの出生元が分かれば、兄や姉の悩みを1つ解決に導く糸口になるかもしれないと、スズメは裾の中から筆ペンと細長く切られた和紙を取り出した。
「なにそれ?」
「常に持ち歩いている札作りの道具です。ミサキちゃん、この紙に思い出した名前って書いてほしいんだけどいいですか?」
「はい」
札を作るための筆ペンと長細い和紙を渡した。
ミサキが力加減ができていない腕で、漢字を書いていく、その文字は決して上手いとは言えないものであるが、記憶にあるまま書いているのか読むのには問題程度であった。
「――――――――え?」
ミサキは間違いなく、読めないと言った。
スズメは自分の聞き方が悪かったのかと疑う。
「み、ミサキちゃん……この漢字が読み方って分かるかな?」
「――分かりません」
「……本当に、この文字で間違いない?」
「はい。簡単だったので覚えました」
――紙に書かれていたのは“三”と“六”小学一年生の時に、日本人の誰もが覚えるべき漢数字であった。
ミサキちゃんは、それを読めない。
「あー、そういえばミサキちゃんや。さっき聞きそびれたんだけどさ――学校って行ったことがある?」
言葉に詰まってなにも話さなくなるスズメに変わり、ヤマトが尋ねる。
「ないです。普通の人間しか行けないからって、行ってない」
「……いつから?」
「……? 行ってないよ?」
学校には学年が存在する。それをミサキは知らない。子供が勉強しに行く所ぐらいしか理解できていないので、ヤマトの質問の意図を全く理解できなかった。
口数が少なく、とても静かで、理解できない事が多い。それは彼女の人格から来るものではなかったのだと、人と悪魔は気づく。
「……ミサキちゃんって、年幾つだっけ?」
「えっと、お母さんが死んだ時は12だったから……16歳です」
「――え? 私と……同じ年……」
小さな見た目から、小学生だろうと、スズメは信じて疑わなかった。
「……どうしたの?」
“悪魔”の子であるミサキは。
日本での当たり前の生活を、与えられなかった子であった。