陰陽師が居る日本に召喚されたのは元日本人【悪魔】   作:庫磨鳥

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悪魔、覚悟を決めるってよ。

 

 その後の買い物は食器から歯ブラシまで、とにかく生活に必要なものを手当たり次第に買っていくといった感じで動きっぱなしになった。

 他にも水道が通っていないので水入りペットボトルや、灯りが点かないので部屋を照らす照明など、あの家がリフォームされるまでに必要そうなのも購入。

 これらの大荷物は、全て『布影』にイン。間違って消滅しやしないかとドキドキしているが、今のところは全部問題なく中へと保管されている。

 

 ちなみに、『布影』に荷物を入れるところを、雑貨屋の店員さんに見られた。

 

「あ、これはですねぇ!?」

「わぁ、これって陰陽術ですよね? ものすごく便利なんですね!」

「……そう! コレ陰陽術! 超便利!!」

 

 やっちまったとワタワタしていると、陰陽術と勘違いして事なきを得る。

 

 談笑を装い事情を聞けば、陰陽術は動画投稿などで色んな術がオープンに公開されているらしく、こういう術もあるだろうみたいな認識だった。

 陰陽術、思ったよりも多様性に富んでいるし、情報社会に馴染んでいるな……。

 おかげで『布影』に荷物を入れている行為が、陰陽術の(たぐい)にしか見えなかったようで本当に助かった。

 

「ミサキちゃん大丈夫、疲れてない?」

「……ごめんなさい」

「いやいや、謝らなくていいよ!? むしろごめんね気づいて上げられなくて、今度から疲れたら疲れたって言ってね」

「……はい」

 

 そうして買い物が一段落した時、ミサキちゃんが歩き続けて疲れていた事に、ようやく気づき休憩。

 フードコートエリアへとやってきて、椅子へと座る。

 ミサキちゃん()に気づかないなんてマジで猛省(もうせい)だな。はしゃいでいたとはいえ、流石に注意が散漫すぎた。

 

 この時、ミサキちゃんに危険が迫って居ても気づくのが遅れていたかもしれない。

 一応ミサキちゃんの靴の裏や服の裏側には、大量の『布影』を忍ばせてあるので、ナイフで刺されてたとしても体を怪我する事なく、反撃もしてくれるとはいえだ。マジで気をつけないとな。

 

「それじゃあ疲れた体には甘いものってね」

 

 ずっと反省しても仕方がない。気持ちを切り替えて先程買った紙に包まれたお菓子を1つミサキちゃんに渡す。

 

「……魚?」

「そう、魚の形をした焼き菓子。中に餡子(あんこ)が入ってるよ」

「魚の味がするの?」

「いや全然しない。あくまで魚の形ってだけ、甘くて美味しいよ」

 

 紙の中にあったのは、日本伝統の和菓子こと“たい焼き”だ。

 まあ伝統ではあるものの、そんなお硬いものではなく、結構メジャーに何処でも売っていた気がする。

 前世は進んで和菓子を買うことはなかったけど、たい焼きだけは時々、妙に目が引かれてよく食べたっけな。

 例の歌も歌えるぜ……最初の3フレーズだけ。

 

「毎日毎日僕らは鉄板の~」

「歌?」

「そ~、また今度教えてあげるよ~」

 

 色んな店の中で、今回たい焼きを選んだのは帰ったら鈴明(スズメ)ちゃんの絶対美味しいお弁当の残りを考えて、量がちょうど良さそうだったから。

 そして焼き立てっていう言葉に抗えなかったからだった。

 というわけで、冷める前に頂こう。

 

「いただきまーす!」

「いただきます」

 

 高いテンションのまま合唱。周りに見られたからって構うものか、包み紙ごと持って、頭から(かぶ)りついた。

 

「甘い、餡子(あんこ)、美味い!」

「……美味しい」

 

 生地とあんこの甘さは、記憶にあるたい焼きのまんま。

 それが最高だった。

 ミサキちゃんを見れば尻尾から食べていた。しっかり餡子が入っていて、とてもいい。

 でも尻尾が生地だけってのも、結構好きなんだよな。

 

「いやぁこれは美味すぎるな。美味すぎてカスタードも買えば良かったかなって後悔しちゃうな」

「“かすたーど”?」

「牛乳で作る白くて甘いやつ……多分」

 

 そういえばカスタードって何で出来てるんだろう。牛乳が入ってるのは間違いないと思うけど知らなかったな。

 

「まあ、カスタードは次に来た時に食べようか」

「はい」

 

 ミサキちゃんはひと口がちっちゃくて、噛む回数も多い。たい焼きをちょっとずつ食べている姿はなんだか小動物みたいで可愛い。

 でも、鈴明(スズメ)ちゃんのお弁当、時間は掛かっていたけど結構たくさん食べていたな。

 今まで食事は、ちゃんと食べられていたのだろうか?

 背が小さく痩せているが不健康そうには見えないと、非常にアンバランスな感じがして、見た目だけではよくわからない。

 

「ミサキちゃんってさ。俺と会う前はどんなご飯を食べていたの?」

「……硬くて粒みたいなもの」

「……それだけ?」

「はい……色んなのがあった」

 

 フ○グラじゃないんだろうなあ。

 大豆(だいず)とか胡桃(くるみ)とか、そういうのか?

 もしかして一口が小さくて、噛む回数が多いのは固くて粒みたいなものしか食べてこなかったからだろうか。

 

「ミサキちゃん、お腹いっぱいになるまで食べられてた?」

「はい、お腹いっぱい食べてた。じゃないと終わらないから」

「そっかー……」

 

 ……明らかに普通じゃない食事。これってミサキちゃんが儀式の生贄になったのと関係あるのか?

 食べきらないと終わらないって事は、むしろ無理にでも食べさせられていたのか。

 

「……ミサキちゃん、食べるの楽しい?」

「楽しい?」

「あー、美味しかったり、鈴明(スズメ)ちゃんのご飯食べられたり、俺と一緒に食べれたりして楽しいかなって」

「……はい……お母さんと一緒に居た時みたい……」

「そっか……」

 

 それはきっと、ミサキちゃんにとって最高に楽しいって意味なのだろう。これからも、この日本で一緒に美味しいものを沢山食べようと決意を改める。

 

「さてと、後はもう忘れ物は無いかな?」

 

 先にたい焼きを食べた俺は、買った財布の中身を確認する。

 黒い見た目の格好いい感じの横長のタイプ。本当はバリバリ音がなるマジックテープとかが欲しかったんだけど、残りの80万ちょっと入るのが、これしか無かった。

 ちなみにミサキちゃん用の財布も買っており、何か有った時のために、1万円と小銭を入れて本人に渡してある。

 

 それでなにか欲しいものが有れば、好きに使っていいんだよと言ったのだが、特になにも買わなかった。

 なにも欲しくないというよりも、お金自体は知っているけど、実際にどう扱えばいいのか分からないといったようにも感じる。

 社会を生きていくには、お金の扱いを知っていなくちゃならない。ムダ遣いでも趣味でも、どこかで使う機会を設けた方が良いだろう。もしくは最後に玩具(おもちゃ)屋でも寄ろうかな、先ずはミサキちゃんに聞いた方がいいか。

 ミサキちゃんが、たい焼きを食べ終えたタイミングで話しかける。

 

「ミサキちゃんは他に行きたい所とか、やりたい事ってある?」

「やりたい事……ある」

「お、なに? なんでも言ってくれ」

「……トイレ」

「それはできれば早く言ってほしかったなぁ!? まだ我慢できる!?」

「……すぐ」

 

 ミサキちゃんを脇に抱えて、トイレまで全力ダッシュ。ギリギリ間に合った。

 そういえば水道通ってないからトイレも使えないのかと、災害時用の使い捨てトイレを幾つか買わないとな。

 水回り使えないのマジで不便だな。未払いで止められるのが最後だけあるぜ。

 

「水が使えないと洗い物ができないが、それは『布影』があるのでなんとかなる、あとは……風呂か」

 

 別に体の汚れも『布影』で、どうにかなると思うけど、なんだか味気がないというか、考えたらめちゃくちゃ風呂に入りたくなってきた。

 衣食住が揃っちゃうと【悪魔】は、さらに求めるようになっちゃうようで、入るまでずっと落ち着かなくなりそう。

 

「……帰りに銭湯行くか?」

 

 たとえ、今日我慢したとしても、水道が通るまでは家で風呂に入れない。

 それなら家の近くに銭湯があるか調べて、有るなら家で風呂に入れるまで(かよ)ってもいいんじゃないか?

 

「ヤマトお兄ちゃん」

「お、ちゃんとできた?」

「はい」

「なら良かった。それでミサキちゃん、これから銭湯に行こうかなって思うんだけど、どうする?」

「“せんとう”?」

「物凄くでかいお風呂があるお店のこと」

 

 やっぱり銭湯知らないかと思って、自分なりに分かりやすく伝えてみるが、ミサキちゃんの反応が怪しい。

 

「……ちなみにミサキちゃん、お風呂入った事ある? 温かいお湯を浴びて体を綺麗にしたり、お湯に入って温まったりするんだけど」

「……清拭(せいしき)の事ですか?」

「よし、多分違うやつだから帰りに銭湯行こう!」

 

 どうせ絶対に碌でもないので、詳しい話は聞かないでおく。

 とにかく、風呂の良さをミサキちゃんに知ってもらわなければという一心で、俺は動き出した。

 

 ――この時、俺は【悪魔】として、1つのラインを超えてしまう事に気が付かなかった。

 

 +++

 

 

 ――改めて確認しよう。

 俺には全世界の家事を行う人々が欲するであろう、どんな汚れだって1秒入れるだけで取り除けちゃうスーパーすごい【権能(けんのう)】である『布影』がある。

 これさえあればお風呂なんて入らなくてもいい。

 なんなら数日我慢すれば、家でお風呂に入れるかもしれないんだ。

 

 だが、それでいいのだろうか?

 

 俺は日本のあらゆるものを楽しむ事を誓った。それをミサキちゃんと共有するのだと誓った。

 ならば、日本を代表する文化である風呂を、我慢するというのは俺が決めた信条に反することだし、ミサキちゃんに1日でも早く風呂というものを知ってほしい。

 

「――すいませーん」

「はーい……あら、見たこと事ないわね?」

「近くのデパートで買い物していたんですが、その時に店員さんにこの銭湯の事を教えてもらって来ちゃいました」

「あら、そうだったのね〜。ゆっくりしていってね」

「はい!」

 

 デパートの店員さんに聞きまわると、近くに古い銭湯屋さんがあるのだと知った。

 番台のおばあちゃんに掛ける“高い声”は、俺のものだ。

 

 ――意識した年齢は18歳。身長は160cmぐらいか。肩に掛かるほどの長さの黒髪。どうしてか細いツリ目になっており、顔付きがキリッとしている。

 

 そんな新たな姿の胸にある、隠しきれない脂肪が、この姿の性別をハッキリと示している。

 

「2人は“姉妹”かしら?」

「え、ええ、そうです、“姉”です!」

「……ヤマトお姉ちゃん?」

「そう、姉なのです!」

「そ、そうなのね」

 

 ――銭湯に入る。ここまで来た時ある事に気づく、ミサキちゃん1人に出来ないよねと。

 

 はい、という事で俺は現在、ミサキちゃんと一緒にお風呂へと入るために、地下でギターとか弾いてそうクール系美少女になりました。

 ちなみに買った服は全部男ものだったので、黒ジャージ姿になっている。

 

 【悪魔】のヤマト、TSして女湯に入る。

 

 いや、【悪魔】に性別無いから、正確にはTSじゃないと思うけどね。

 でもほら……うん、本当に大丈夫か?

 もっとこう、絶対に入らなければならない事情とか無いのなら、やっぱり止めた方がいいんじゃないか?

 いやでも、ここまで来たなら風呂入りてぇよ。

 1千年以上振りのお風呂。こんな直前まで来て、またしばらくお預けは流石にしんどいよ。

 かといって16歳のミサキちゃんと、男湯に入るのは法律的にアウトだし、子供に見えたとしても流石に大きすぎる。

 だからといって、これは倫理ライン超えてない?

 肉体的な特徴で入ってもいいんだよね? ちゃんと合法になってるよね?

 くっそ、こういう時に人外マインドが足りなさすぎる。いや、開き直っちゃだめだとも思うけど!

 

「それじゃ2人とも、赤い暖簾(のれん)が女湯だから、そっちに行ってね」

「いやーそのーですねー、ちょっとやっぱりー」

「……? ヤマトお姉ちゃん、行こ?」

「……そうだね、行こうかミサキちゃん!」

 

 契約【悪魔】として、主の願いは絶対だとして、腹をくくる。

 

「……ちなみにいま中って誰かいますか?」

「まだ時間が早いから誰もいないよ、2人の貸し切りだね」

「おっしゃーやったー!!」

「そんなに貸し切りが良かったの?」

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