陰陽師が居る日本に召喚されたのは元日本人【悪魔】   作:庫磨鳥

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悪魔、お風呂で出会うってよ。

 

 ――俺は覚悟を決めて18歳女性の姿となり、お姉ちゃんとして一緒に女湯へと入る事となった。

 

「……よし、本当に誰もいない」

「……?」

「なんでもないよ、そんじゃあ先ずは脱衣所で服を脱ごうか」

「はい」

 

 脱番頭さんの言っていた通り、中には誰もおらず、ほっとする。

 まあ、本当にいつ誰が来てもおかしくないんだが……おばあちゃんとかは許容範囲としよう。

 でもこの脱衣所、思ったより綺麗というか古びた感じがしないな。年季が入っているところもあるが新しいところも多く、特にロッカーはちゃんと鍵を締められるやつになっている。

 そんな古き良き伝統を残しつつ、アップデートされた脱衣所を興味深く見回していると、壁に張ってあったネットニュースの印刷記事が目に入った。

 

「へー、クラファンで最近改装したんだ」

「クラファン?」

「クラウドファンディングって言って、お願い事にネットの皆がお金を出し合うって奴だな」

「……ネット?」

「あー、ネットワークと言って沢山の人が連絡しあったりしているもので……ごめん。あまりにも巨大な存在すぎて説明するの難しいや」

 

 前世では当たり前に使っているものだったけど、相手に理解してもらうように話そうとすると、かなり難しい。

 鈴明(スズメ)ちゃんがスマホを用意してくれると言ってくれるし、その時に説明してもらおうかな。

 

 そんな事を重いながらロッカーへと向うとき、化粧台に映る人間の女性の姿をした俺と目が合う。

 

「どうしたの?」

「今の俺って美少女だなって」

「……? お姉ちゃんってこと?」

「そうだね、今の俺はミサキちゃんのお姉ちゃんだ」

 

 こうして〈影変身〉によって人間の姿に変わるのは3パータン目。どれもミサキちゃんにそっくりであり、彼女がベースになっているのは間違いないようで、この姿になった時、どうしてか目元が鋭くなっているものの、ミサキちゃんの姉を名乗っても信じてくれるだろう。

 

 しかしまあ、美少女だな。

 ……自分の姿なためか(さか)る事はないものの、俺の記憶()が反応するというか、姿を見るたびにどうしても思ってしまう事がある。

 

 割と、おっぱいがでかい。

 

 よし、これ以上は何も思うまい。

 

「どうしたの?」

「いや、思ったけど女湯にいるの今更ながら本当に良かっただろうかって」

「? 今のヤマトはお姉ちゃんだよ?」

「まあうんそうだね……よし! 今はミサキちゃんのお姉ちゃん!」

「はい、お姉ちゃん」

 

 記憶()との折り合いは、今後ともやっていくとして、今は何も考えずに楽しもうと風呂場へと入る。

 

「いやぁ、銭湯だなぁ」

 

 タイルの床に、壁の端っこにある洗い場。そして奥にある大きな風呂場。クラファンの影響か壁や床が新しいものの、俺がイメージする銭湯そのものだった。

 

「でも流石に富士の絵はないか」

「……?」

「なんでもないよ。よし、先ずは体の汚れを落とそうか」

「はい」

 

 お風呂のマナーを忘れてはいない。まず洗い場で体の汚れを落とす。

 俺に至っては、この姿になったばかりだから汚れ1つなければ、ヒートショックの心配も多分無い。

 でも、これは世間一般的なマナーの話。ミサキちゃんに教えるためにも実践していく。

 

「銭湯のシャワーってすぐに熱い湯が出るわけじゃないから、こんな感じでお湯になるのを確認して〜あ〜~~()ったかーい〜〜」

 

 一千年ぶりの温かいお湯が手に掛かる。それだけで心が天に昇る気持ちになる、【悪魔】だけど。

 でもなんか直接肌に触れていない感じがするな。もしかしてと思い手の部分だけ『布影』を解いて、お湯を当ててみる。

 

「あ~~~お湯~~~~」

 

 語彙力って水溶性だったんだな。今日始めて知った。

 どうやら〈影変身〉中は着ぐるみを被っているようなものらしい。

 ……流石に元の姿には戻れないしな。仕方ない【悪魔】のままで楽しむのは、家のお風呂が使えるようになってからにしよう。

 

「ということで、ミサキちゃんも俺を真似してやってみよう」

「はい……あったかーい、おゆぅー」

「真似するのは動きだけでいいよ~」

 

 ――やっぱりミサキちゃん、シャワーを使った事もないか。

 それにしても最悪暴行の痣とか、覚悟を決めていたんだけど体には傷1つ無かった。

 というかむしろ綺麗すぎるというか、なんだろうこの違和感。

 そうだ、骨格から本当に子供のままなんだ。まるで体が子供のままを維持するように育てられたみたいに。

 それはミサキちゃんが生贄のための子供だからか?

 ……止めた。()える。

 こういうのはミサキちゃんが寝てから考えよう。今はお風呂を心から楽しもう。

 

「ミサキちゃん、お風呂上がったらコーヒー牛乳飲もうか」

「“こーひーぎゅうにゅう”?」

「めっちゃ甘くて美味い飲み物」

「……のむ!」

 

 ミサキちゃんには、日本の色んなものを楽しんでもらいたいね。

 

 「――浴槽にはこんな風にゆっくりと入って……ああ、お湯……」

 

 体を洗った俺たちは大浴槽に浸かる。

 温かいお湯が全身に触れる心地よさは、風呂がどれだけ素晴らしいのかを全身で教えてくれる。

 まあ、やっぱり湯が直接当たっていない感じがするが、今は充分すぎる。

 

「おゆぅ……」

 

 ミサキちゃんもお風呂に入って、気持ちよさそうだ。

 

「ミサキちゃん、これがお風呂だよ……いいでしょ」

「はい」

 

 それならやっぱり連れてきて良かったな。

 それにしても、こう暖まるって、ちゃんと癒しなんだな。

 

 【地獄】で露天風呂を作った事はあった。【悪魔】の中で水っぽいやつと炎みたいなやつを吐き出すのをとっ捕まえて、これでお風呂に入れるぞと思っていたが……失敗に終わった。

 どれだけ水に炎を当てても、温度が上がる事なく、お湯にならなかったんだよな。

 だから水っぽいやつと炎っぽいやつ。

 それっぽく見えても、全くの違うもの。それに気付かずに、どうして熱くならないんだって叫んでのたうち回っていた俺は、客観的にめちゃくちゃバカだったんだろうな。

 

 ――やはり、君は虚構という言葉が最も似合うな。

 

 ああもう、せっかく風呂に浸ってるのに、嫌な奴思い出した。

 本当に死んでいてほしいな。絶対に死んでないんだろうけど。

 ……もし、これから他の【悪魔】が日本に来るとして、アイツだけは来ないでほしい。

 他の【悪魔】が、こっちにきた時どうなるのか正直言ってわからない。

 でもアイツは、分かっていて被害を出す。

 それも盛大に、無差別に自分からやる。

 

 だから、来たら絶対に殺す。

 そうしなきゃならないやつだ。

 

「ん? ……あー」

「どうしたの?」

「いや、誰か来ちゃったなってさ」

 

 当然であるが、俺たちしかいなかっただけで貸し切りじゃない。

 他の客も当然に来るわけで、それがついに来てしまった。現在、脱衣所にいる。

 俺達はいま入ったばかりで、出るには少し早いか。

 

 ……なにを慌てる必要がある、今の俺は完全にお姉さんだ。堂々としていればいい。

 それに偏見だけど、この時間帯に来る人はおばあちゃんとかだと思うしね。

 気楽にしていればいいさ。

 そんであと3分ぐらいしたら出よう。いや別に気まずいわけじゃないけど、うん。

 

「ミサキちゃん、100まで数えたら出ようか」

「はい……」

「それじゃいーち、にー」

「いち……に……」

 

 ちょっと遅れたけど、問題なく数字は数えれるみたい。

 新しく来た人が風呂場へと入ってくる。

 うるさかったら申し訳ないね。体洗っているうちに数えきると思うから我慢し――。

 

 ――――デッッ!!!!!?

 

 記憶()が叫んだ。口から出そうになったのを寸前で飲み込めたのは奇跡。

 

 なんか前世でやった事があるソシャゲのキャラみたいな女性がいる!!

 茶色の編んだ長髪。閉じた目の下にはほくろが1つ。

 三十は超えている顔付きであるが、美魔女と呼ぶべきかシワが無く、若々しく色気というものが感じられる。

 そして上も下も、でっ……ソシャゲ級だ!

 

「……ヤマトお姉ちゃん?」

「はっ、わ、悪いミサキちゃん。いまどれくらい数えたっけ?」

 

 ミサキちゃんのおかげで冷静になれた。

 とにかく、こうなったら数えるのを早めて、すぐにお風呂に出よう、さすがに記憶()が揺さぶられすぎて、【悪魔】としては反応してないのにパニックを起こしているみたいな、奇妙な感じになってる。

 

「四十七」

「じゃあ、そこから数えようか、よんじゅ〜」

「もし」

「はいち〜?」

 

 声を掛けられた事に驚き、“八”と“はい”が混ざってしまう。

 どうしてか美魔女さんは、俺達の方へと来て話しかけてきた。

 

「お隣よろしいでしょうか?」

「あ、はい。別に良いんですけど」

「ありがとうございます。それでは」

 

 美魔女さんは、しゃがみ込み桶にお湯を入れて体を洗った後、俺たちの隣へと入ってきた。

 あ、左手薬指に婚約指輪……だからなんだ!

 

「……あの、何か俺たちに用事ですか?」

 

 どうして、5人は余裕ではいれる大浴槽で隣にきたのか。そして何故、瞑った目で俺をじっと見ているのか、流石に気になって尋ねる。

 

「ああ、申し訳ありません。私、幽星(ゆうぼし)カタンと申します」

「あ、ご丁寧にどうも。俺はヤマト、そしてミサキちゃん……妹です」

「よろしく……です」

「はい、よろしくお願いします」

「……それで、話を戻すけど、なにか用事ですか?」

 

 マイペースというか、独特な雰囲気の人だ。

 もしかしたら不思議ちゃんという可能性も捨てきれないな。

 まあ、なんにしても、めちゃくちゃ気まずいので、テキトーに話を切り上げてお風呂を出よう。

 

「いえ、なにやら“人とも人外ともつかぬ存在”が居ると思いやってきたのですが――思ったよりも、人間らしいお方だなと思いまして」

 

 前言撤回だ。

 ちょっとこのお姉さんとは、長めの裸の付き合いと行こう。

 

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