陰陽師が居る日本に召喚されたのは元日本人【悪魔】   作:庫磨鳥

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悪魔、謎のお姉さんと話し合うってよ。

「へい、お姉さん。ちょっとお話しいいですか?」

「はい、私も貴方の事を知りたくて湯に浸かりにきたので、お話したくあります」

 

 俺たちの側までやってきた幽星(ゆうぼし)カタンと名乗った女性は、俺を人間でも『人外存在』でもない、第三の存在と認識している。

 目は確かに(つぶ)っている。つまり俺の姿を見て気付いたわけじゃなさそうだ。

 というか目が見えないのか? 風呂場の動きは完全に見えている人のそれだった。

 

「カタンさんって呼んでいい?」

「はい、構いませんよ」

「それじゃあカタンさんって、普通では見えないものを見る事ができる能力者?」

「そうですね。私は目が見えない代わりに、普通ではないものを見ることができます」

 

 当たっていたようだ。というか、こんなあっさり正直に答えてくれるとは思わなかった。

 

「普通は見えないものね……霊視とか、第六感(シックス・センス)とか?」

「おや、知っていたのですね」

「マジ? 当たったの?」

「はい。〈一捨六感(シックス・センス)〉。五感のいずれかを代償にする事で、常人とは異なる感覚を得られる、一族の秘術です」

「代償有りきかー……」

 

 なんか俺の知っている奴と、ちょっと違ったな。

 でも、外から俺の事を感知していたようだし、ほぼ目が見えるような動きをしているのを見るに、代償を払うだけあって強力な術みたいだ。

 

 ……なんで、秘術なのに教えてくれたんだろう。

 さっきから何を考えているのか分からなさ過ぎて、なんか違う意味で怖くなってきた……。

 

「それで、俺が人間でも『人外存在』でもないなら、カタンさんはどうするつもり?」

「いいえ、どうするつもりもありません。こうして平和的に会話も出来ていますし、問題なさそうなので、一緒に温まった後は帰ります」

「平和的解決できるなら、俺もハッピーだけどさ。カタンさん絶対、陰陽師関係者じゃん。俺みたいな奴をどうにかしなくていいの?」

「今はプライベートですから――ですので、そう警戒しないでください、なにもしませんよ」

 

 ――なんとなく分かっていたけど、気づかれているっぽいな。

 

 カタンさんが俺の正体を言い当てた時から、相手に見えないように大浴槽の底に『布影』を伝わせていた。

 もしもカタンさんが怪しい動きをした時、いつでも『布影』の中に飲み込んだり、先端を細い(やじり)にして無数に飛ばすと同時に、ミサキちゃんを壁で覆ったりするつもりだった。

 

 ……なんで、この人それが分かっていて堂々としてたの?

 

 多分、慢心するようなタイプじゃないし、それぐらい対応できたって事か?

 全盲(ぜんもう)猛者(もさ)って奴か。

 戦いたくないなぁ。勝てるかどうかも分からないし、なによりも強いほど加減が難しくなる。

 言葉を信じれば、平和的に解決できそうだけど、ミサキちゃんが居る手前、警戒を解くわけにも行かないし、困ったなぁ。

 

「……妹を、よほど大切にしているのですね?」

「警戒度を上げるようなこと言うの止めてくれる?」

「ああ、申し訳ありません。思った事をそのまま口に出してしまいました……それで、貴方はいったい何者なのでしょうか?」

「初対面の人に銀行口座を教える趣味はしてないよ」

「ふむ、それでは私が当てて見せましょう。貴方の正体は……宇宙からやってきた宇宙人でしょうか?」

「……ソウダ、ワレワレハウチュウジンダ」

「そうなの?」

「チガウヨ、ウソダヨ」

 

 あぶねぇ、ミサキちゃんが信じかけた。

 誤魔化すにしても、あんまりテキトーな事を言うのは辞めたほうがいいな。

 カタンさんはクスクスと笑う。当然ながら一ミリも騙せていなかったようだ。

 

 ……ミサキちゃんを守る用以外の『布影』を引っ込める。

 

「おや、よろしいのでしょうか?」

「なんにしても暗殺系じゃなさそうかなって……それで、お姉さんの方は何者なの?」

「ただの陰陽師ですよ」

「絶対嘘じゃん」

 

 といっても俺も宇宙人って答えちゃったし、お互い様か。

 うーむ、奇妙な事になってしまったな。

 まあ、流石にここから急に戦闘みたいな事はならないだろ……。

 

 ――銭湯(せんとう)戦闘(せんとう)はせんといて~。

 

 俺が思った事を何でも口に出すような【悪魔】じゃなくて良かった。

 あやうく、ここが“極寒地獄”になるところだった。

 

「……そうだカタンさん。ただの陰陽師に会ったら聞きたい事があったんだけど」

 

 正体がなんにせよ、どうせなら鈴明(スズメ)ちゃんに聞き辛い事を尋ねてみよう。もしかしたら探りを入れるかもだし。

 

「はい、なんでしょうか?」

鬼灯(ほおずき)家って知ってる?」

 

 一瞬、ほんのちょっとだけ目蓋(まぶた)が開いた。

 これは当たりか?

 

「……ええ、よく知っています。なにせ日本最大の分家と派閥を持つ、四大名家ですので」

 

 巨大な組織とかなんだろうなって思っていたけど四大名家かよ!

 そりゅあ鈴明(スズメ)ちゃんも、迂闊(うかつ)に言えないわ。

 

「鬼灯家は『人外存在』を討伐する事を生業としてきた破邪(はじゃ)の家系でしたが、近代化が進むにつれて増える『人外存在』の被害に需要が伸び続け、今では四大名家として数えられるほどに大きくなりました。そうして今では戦闘が必要とされる『人外存在』の業務七割を鬼灯家関係者が担っています」

「……人命に関わる仕事を、民間の大企業が、ほぼ独占している状態ってこと?」

「そう言っても過言ではないでしょう」

 

 そんなの国とか、絶対気を使うじゃん。

 

「日本政府も他の陰陽師家も決して頼り切りというわけではありませんが、陰陽師は血筋や才能を、どうしても重要視しなければならない危険な生業(なりわい)。人を集めるのは難しい。ですが鬼灯家は争いを糧にしてきたからこそ、次世代へと繋げる知識と経験を充分に持っていました」

「元から数も多いし、安定して若手育成も出来てるってわけね」

「おかげで陰陽師法を盾に六法(ろっぽう)(ないがし)ろ気味な困った人たちでもありますが」

「陰陽師法?」

「簡単に言えばですが、宮内庁(くないちょう)管轄の法令でして、陰陽師はその活動によって日本では法令違反となる物の所持や行いなどが、合法且つ許可なしに扱えると言ったものです。銃刀の持ち込みが申請無しに許されると言えば分かりやすいでしょうか」

 

 ――偏見も入ってると思うけど、絶対ろくでもない事になってるよね?

 完全に国から独立した武力組織になっちゃってるよね?

 なんか見て明らかに犯罪の準備とかしてたとしても、陰陽師に関係する仕事だからって言われて、お終いになっちゃうよね?

 

「後はそうですね……最近は実入りが少なくなってきた事に危機感を抱いており、“こうなったら自分たちで治安を悪くするか”などという冗談を口にする者が多いとか」

「……笑えないな」

「日々の不満の愚痴のようなものでしょう……でなければええ、本当に笑えませんね」

 

 仮に、本当に仮にだけど悪魔の子、悪魔召喚の儀式、それに体育館での出来事。

 それら全てが日本の平和を破壊して、自分たちが活躍できる乱世を作るのだとしたら、今まで分からなかった、納得できる動機がピタリと当てはまるような気がした。

 

「……ありがとう勉強になったよ」

「それなら良かったです」

「もう一回聞くけど、カタンさんって、ほんとうにただの陰陽師?」

 

 まったりと優しい口調であったが、カタンさんが教えてくれた情報は確実に鬼灯家の闇と言える部分だ。人の評価をする時、そういった部分を口にしてしまうタイプにも見えないなら、明らかになにか狙いが有ってと考えたほうがいい。

 

「そうですね……妹、ミサキちゃんといいましたか」

「…………」

 

 ――まさか、ミサキちゃんを狙って?

 

「そろそろ湯当たりしそうなので、上がったほうが良いですよ」

「え? あ!? ミサキちゃん大丈夫!?」

 

 首までしっかりと浸かって、ぼや~っとしていたので慌てて脱衣所へと移動する。

 クスクスと笑い声が聞こえる。

 気づいているなら、もうちょっと早く言ってくれませんかね!?

 見ていなかった俺が悪いんだけど!

 

 +++

 

「気づかなくってごめんね。だいじょうぶ?」

「……コーヒー牛乳、美味しい」

「良かった~」

 

 のぼせたと言っても軽いものだったようで、、椅子に座らせてうちわで(あお)いでいたら、五分ほどで調子を取り戻した。

 今は自販機で買ったコーヒー牛乳を美味しそうに、ちびちび飲んでいる。

 

 ――ゴクリ。

 俺も飲むか。実はコーヒー牛乳がビンのやつだと知って、ずっと飲みたかった。

 ビンのコーヒー牛乳ってなんでこんなに美味そうに見えるのだろうか。なにか事情があるんだろうけど、前世だと段々と紙パックに変わって見かけなくなったから、余計にそう思うのかもしれない。

 

 ビンのキャップを外す。

 昔は紙の蓋だったようで、それを専用の道具で開けるのがあるらしい。ちょっと憧れる。

 腰に手を当てて一気に飲む。

 

「ゴクゴクゴクゴク――!」

 

 ――コーヒーと牛乳、さらに砂糖かなにかで追加された甘さが、一気に喉の奥へと通り過ぎる。

 これが本当に最高なんだ。

 

「ぷはぁ! ……美味いっ!」

 

 あっという間に飲みきっちゃった。

 物足りないなって思うけど、二本目に行くと甘さに負けて、とたんに飲めなくなる。

 なんだかんだで丁度いい量をしてるんだよな。

 

「ミサキちゃん、パジャマに着替えたら髪を乾かそうか」

「はい」

「ドライヤーは使ったことある?」

「いいえ」

「じゃあ今日は俺が乾かすよ。次は自分でもやってみようか」

「はい」

「……ふふ、仲がよろしいですね」

「ん? もう上がったのか?」

 

 いつの間にか脱衣所に来ていたカタンさん。肩にバスタオルを掛けて椅子に座っている。

 

「ええ、まだ仕事が残っているので、体を洗うのは終わってからにしようかと」

「そうですかい、俺たちは髪を乾かしたら帰るよ」

 

 本当に俺を確認するためだけに風呂に入ってきたらしい……逆になんで、普通に裸になって風呂場に入ってきたんだろう、この人。

 これで敵意を持った『人外存在』が風呂場に居るとかだったら、どうするつもりだったのか。

 ……まさか、それで勝てる手段が有ったとか? こわぁ。

 

 まあ、結局正体は分からないままになりそうだが、ミサキちゃんが居るし、戦わず平和的に終わるなら深入りはしないでおこう。

 

「――それでは、また何処かで縁があったら会いましょう」

「おー、また何処かー」

 

 ミサキちゃんの髪を乾かしていると、カタンさんは着替えが済んだらしく、話しかけて来たので、いったんドライヤーを切って返事をする。

 

 「って、すごい格好してるね」

 

 白いシルク生地みたいな質感の陰陽師服。そして何かしらの力が籠もってそうな頭飾りや首飾りなどを装着した姿になってた。

 陰陽師的に言えば重武装の戦闘服と表現しても間違ってなさそうな格好。それもカタンさんの体形にフィットしているという事は、オーダーメイド品っぽそうだ。

 

「仕事までの通り道で立ち寄ったものですから。番台さんを驚かせてしまって、申し訳ないことをしました」

「……その仕事って、もしかしてかなり危険なやつ?」

「そこまで大層なものではありませんよ」

 

 絶対嘘だ。俺の中でのカタンさんはもう、上から数えたほうが早い陰陽師である。

 まあ、ほんとに勝手なイメージだけどね。直接戦わないタイプかもしれないし。

 

「それでは、また何処かで」

「おう、また」

「……ばいばい」

 

 暖簾(のれん)を潜ろうとした時、ミサキちゃんの言葉に反応したのか、足が止まる。

 

「――組織が大きいという事は、搦手(からめて)()()も豊富に持ち得ているという事です。ですので、何事も慎重に動くことを、おすすめ致します」

「……分かったよ、ありがとう」

「……? ありがとうございます」

 

 ミサキちゃんがよく分かっていないなりに感謝を述べると、カタンさんはこちらを振り向いて頭を下げたあと、こんどこそ外へと出ていった。

 子供、好きなのかね。

 

「結局、正体は知れなかったが、悪い人じゃ無さそうだ」

「……?」

「なんでもないよ。ドライヤー再開するね」

「はい」

 

 ――搦手(からめて)()()も沢山あるか……。

 もし俺が、この世界の陰陽師相手に無双できるほど強くても。

 ミサキちゃんに何かがあれば終わりだ。

 俺は【地獄】に帰される。

 

 大切なものを守れなかったという結果と共に。

 

「……ヤマト?」

「んー、ミサキちゃんの髪、黒くて綺麗だなぁって」

「……お母さんと同じ色」

「そっか、それなら大切にしないとね、今度美容院に行こうか、髪をめちゃくちゃ綺麗にしてくれる店なんだ」

「……はい」

 

 カタンさんの助言通り、なるべく派手な事は避けて、慎重に動かないとな。 

 とはいえ、満梨花(マリカ)ちゃんたちの事もあるし、あの逃げた貪波(たんば)の事も気になる。

 それに、もしも平和な日本をぶち壊す計画がガチなら、どうにかしないと行けない。

 なにせ、俺の目標はミサキちゃんと平和な日本を満喫(まんきつ)する事だからね。

 

 ――それをぶち壊すやつは、もう完璧な敵だと考えても良いだろう。

 

 鬼灯家、なるはやで調べよう。

 

 +++

 

「……お疲れ様です。いかがでしたか?」

 

 広々とした車の後部座席に座ると、10年以上の付き合いとなる従者が声を掛けてくる。

 

「久しぶりに銭湯に来ましたが、中々良かったです」

「そうですか……ではなく、なにか有りましたか?」

「まだまだ世の中には、不思議な事があるものですね」

「……本当に人間でも無い、『人外存在』でもない存在が居たと?」

「ええ」

「……まさか報告しないつもりですか?」

 

 長い付き合いだけあって、彼女は私のことをよく理解している。

 

「そうですね。ですが理知的でお優しい方でした。人間と扱っても差し支えはないでしょう。それなら報告する必要もないかと」

「……気の所為でなければ、私には、その存在が非常に恐ろしいものに思えますが?」

「ふふっ。さあ、どうでしょうか」

 

 警戒を解いたようにしていましたが、アレは不意打ちするのを止めただけで、もしも戦いとなれば、真っ向から相手にするつもりだったように思える。

 勝敗は分からないが、決して弱い者ではないだろう。

 

「しかし、随分と不可思議な形をしていましたね。まるでそう、大きなものが小さなものに綺麗に仕舞われていたかのような……」

「ちゃんと人間の形してたんですか、それ」

「ええはい。形は人だったと思います」

 

 人外ではある、しかし、人の心を持つ何か、いったいどのような姿をしているのか。

 〈一捨六感(シックス・センス)〉は、そこまで見せてはくれない。

 少しばかり術の代償に、目を選んでしまった事を後悔する。

 

「分かっているとは思いますが、この事が知られたら、“鬼灯家”からお(とが)めを受ける事になるかもしれませんよ?」

「今は“堕ちた星”に構うほど、暇ではないでしょう」

 

 最近鬼灯家と、その分家たちは、どこでも忙しくしている。

 ついに長年の計画を実行したからだ。

 おかげで関係者ではあるが関与していない私たちは、なにも知らされずに本家直々の命令によって、彼らの仕事を肩代わりさせられている。

 

「まあ、どうでもいい事です――本当に、どうでも……」

「……カタン様」

 

 私が毎日のように肩代わりしている仕事は、本来は『七星』が請け負うような危険なもの。

 もっとも、今の『七星』の面々は技術屋の側面が強く、彼らでは達成できないものもあっただろう。

 それらをしているのは、別に本家の命令だからじゃない。

 単なる暇潰し。

 生きると、そう約束したから。

 だけど生きる理由がないから、あわよくばと死地へと向う。

 そんな中途半端さが、今でも呼吸を止めない理由となっている。

 

「……仕事の手は抜かないでくださいよ」 

「分かっていますので安心して下さい……ああ、それと」

「どうしましたか?」

「……いえ、やはりなんでもありません」

 

 妹と紹介された、奇妙な少女の事を思い出したが、話す気にはなれなかった。

 感じとった繋がりからして、おそらく第三の存在の契約者。あるいは召喚主だろう。

 そんな彼らは主従というよりも、仲の良い家族のような気配がした。

 

 ――羨ましいと思った。

 嫉妬すら覚えた。

 だからこそ、自分があの幸せを壊す切っ掛けになる事を怖れた。

 

 先程の気持ちは撤回しなければならない。

 目を潰して良かった。

 子供もできず。愛する夫も失ってしまった。

 人間なのに、化け物であると言われ続ける私が、彼らを直視してしまっては。

 

 きっと耐えられなかっただろう。

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