陰陽師が居る日本に召喚されたのは元日本人【悪魔】 作:庫磨鳥
銭湯から出る時、カレンダーを確認できた事で初めて日付が分かった。
今年は西暦2025年3月21日。
程よい暖かさに包まれた午後17時の夕暮れ時。優しいオレンジ色の光に照らされながら、ミサキちゃんと手を繋いで家に帰った。
今日1日。外の日本を楽しんだ。
ミサキちゃんとの買い物は、今までの【地獄】での生活が嘘だと思えるほどの1日だった。
こんな平和な日々が続けばいいなと思う。
でも、そうなるためにも、ただ平和を謳歌しているだけじゃ駄目そうだ。
「──たくさん有る」
「沢山買ったねー」
家に帰った俺はまず、『布影』の中から買ってきたものを取り出して客間に置いた。
服、食器、ガスコンロ、調味料、布団、ペットボトル飲料、簡易トイレ、布団、その他細々としたもの。
買うたびに『布影』に入れていたので、そこまで実感は無かったけど、客間が埋まるぐらいには買っていたみたい。
今回は家電や調理器具は買ってないから、もっと増える予定だけど現代で生活をするっていうのは、多くの物が必要なんだなと、なんだか感慨深くなる。
それと同時に、日本らしい生活ができるようになるんだと嬉しさが込み上げてくる。
「整理は明日にして、布団だけ和室に移そうか」
「はい」
「それじゃ、ご飯にしようか」
「はい──!」
返事はいつも通りのトーンだけど、目が輝いており、ミサキちゃんも
「――うん、冷めても
「美味しい……お昼と違う?」
「味が変わってるやつがあるね。
腐らないように保冷パックの中で冷やされていたが、それを計算していたのか、冷たくても美味しいように作られていた。
冷たいナポリタンやハンバーグがやけに美味い。前世でお弁当温めずに食べていた事があったのを思い出す。
ミサキちゃんは卵焼きが気に入ったようだ。昼間も美味しそうに食べていたが冷たくなって甘さが
「ありがとう
「……ありがとうございます。スズメ……ちゃん」
1人と1悪魔で
もちろん、明日来る時に直接感謝を言うつもりである。
「……ヤマトは寝ないの?」
食事が終わり、歯を磨いたミサキちゃんは和室に敷いた布団で横になる。俺はその隣で
「ちょっとやりたい事があってね。ミサキちゃんが眠ったら、またちょっとだけ出かけてくるよ」
【悪魔】は眠ることはできるけど、眠る必要はない。だから鬼灯家の情報を集めるための“下地”を今日の夜の内にやろうという事になった。
「もちろん、ミサキちゃんが側に居て欲しいってならいるよ?」
「ううん、ヤマトのしたい事をやって」
「……分かった、ありがとう」
俺の自由にさせてくれるミサキちゃん。でも本当は寂しいから居て欲しいと分かりやすく顔に出ている。
ミサキちゃん自身には切り離した『布影』を貼り付けており、なにか有った時に身を守ってくれるように設定してある。
それに、この家にも対侵入者用対策の“既に潜ませている”。
できれば1人にさせたくはないけど、今のうちに動けるだけ動いたほうがいい。
「でも呼んでくれたら一瞬で駆けつけるから、すぐに呼んでね」
「……はい」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
ミサキちゃんは今日1日中歩き続けた事による疲れか、目を
「……よし、それじゃあ行くか」
カタンさんから聞いた鬼灯家の話。
どうにも奴らは自分たちの権力と食い扶持を守るために、乱世を引き起こしたいらしい。
あくまで単なる噂みたいな話し方だったけど、あのタイミングで口にしたのは何か意味があっての物だろう。
全ての元凶かは、これから調べるけど、少なくとも東京に一軒家を建てられるぐらいのお金が必要らしい、人間を生贄に
できれば調べたいが、今の俺には鬼灯家に関する情報源が無い。
マジで、あの
なので他の手を考えないと行けなくなった。
とりあえず〈
俺が召喚された儀式を行ったのを考えるに、日本乱世化という馬鹿みたいな計画が始まっていると考えてもいいだろう。
ならできる限り早めに情報が欲しい。でないと
最近日本にやってきた悪魔が、鬼灯家は平和を乱す悪なので滅ぼすべきだ!
などと言っても、悪魔の
そんわけで何か出来ることはないか考えた結果、ある事を思いつく。
「そうだ、
俺は〈影の門〉を通して、
+++
他に人が居ないかを確認するために、『布影』の中から外の様子を見る。
どうやら車の中。というか廃校に有ったやつか。どこかで乗り捨てるって話じゃなかったっけ?
助手席に
というか喧嘩していた。
「――も~、貯金全部使っちゃって、明日からどうするの〜!」
「うるせぇ! それに関してはお前のほうがめっちゃ食っていただろうが!」
「だって今日は好きなだけ食べようって話だったじゃん!」
「にしたって喰いすぎなんだよ! 今日1日中なんか食ってただろ!?」
「えっと……カルボナーラと唐揚げ弁当とチキンサラダとハムサンドBLTサンドタマゴパンあんぱんメロンパンロールケーキカスタードシュー生クリームシューエクレールフミチキアメリカンドックモンブランプリンポテチカップラーメン――」
「多いわ!」
んー、どうやらナコちゃんはかなりの
「まあ、私も結局、めっちゃ買ったからなにも言えないけどさ……でも2人して電車賃も使い切るのは馬鹿すぎる……」
「久しぶりに使ったけど、電子マネーって怖いね……」
「それなー……この車、このまま乗っていていいと思うか?」
「分かんないけど、この車無かったらテント無し野宿だよ……そういえばさ」
「なんだ?」
「……思い出したんだけど、ここらへん出るんだって」
「な、なんだよ急に……たぬきの話か?」
流れが変わったな。若い子の会話ってこういうものなのかな?
ちなみに車が停まっている場所は、外灯が1つだけある山の
「違うよ出るんだよ――幽霊が」
――よし。
「そ、そんな偶然停まった場所に出るなんて都合の良い話あるかよ、それにほら! 人外存在の警報でてねぇぞ!」
「ネットの動画で聞いたんだけど、幽霊系の『人外存在』ってプロの陰陽師でも探知しづらいらしいの、だから周知するまでに結構時間が掛かるんだって~」
へぇそうなのか……いやこれ嘘情報かもしれないな。
ネットは便利だけど、嘘が沢山あるから
「それでね、ここからが問題なんだけど……」
「おい止めろって、こういうの話したら寄ってくるって、陰陽師が言ってたんだろ!?」
「話し声で寄ってくるタイプは、基本的に弱い霊で普通の人には見えないし、実害はないんだって」
「そうなのか?」
「うん、本当にやばいのは“話す”ほう……」
「は、話す?」
「そう例えば――いま私たちがしている会話に入ってくる奴とかが、本当に危険なんだって~!!」
「キャーコワーイ」
「お前さぁ! こんな暗い所でそんな話を……おい、今なんか声聞こえなかったか?」
「え……もしかしていまのコワーイって声……マリカじゃ……ない?」
「いや……違う、今のキモい裏声みたいなの私じゃない……」
「――悪かったなキモい声で」
後部座席からこんばんわ。体が大きいから狭いね。
――――きゃあああああああああああああああああああ!!!?
ドタバッタンドッタンバッタンッ――!!
おー、車がめっちゃ揺れた。
「な、なな、なんだおま――ぎゃあ化け物!?」
「死神!?」
「そ、それともえっとその……なんだ!?」
「オレオレ、俺だよ。【悪魔】だよ」
「「詐欺
「【悪魔】だって」
振り向いた
多分、中途半端に闇に溶け込んだ見た目だったんだろうなあ。
「な、なんだよ、お前かよ……! この悪魔! 馬鹿! 驚かせるんじゃねぇよ!」
「なにも〜びっくりした〜も〜!!」
「悪い悪い、二度も驚かすつもりはなかったんだ」
「いや、最初に驚かせたのも謝れよ、心臓止まるかと思った!」
ごめんね。シチュエーションが、あまりにも理想的だったから。
自分の見た目が恐ろしいものって自覚があるからこそ、1度でいいから、こんな風に驚かせたかったんだよね。
しかし、これは癖になるね。ドッキリ企画が安定して人気が出るのも分かる。
今度絶対またやろう。
「というわけで朝ぶり。なんだかお金が無くなってしまったみたいで」
「う、うるさい! くそっ、【悪魔】の言葉に乗るんじゃなかった……」
「えー、コンビニ飯、美味しく無かった?」
「めちゃくちゃ美味かったよ!」
「だよね〜。ちなみに何が1番美味しかった?」
「プレミアムスイーツロールケーキ1ホール!」
「
「980円税抜きする期間限定のやつです。めっちゃ美味しいんですよ!」
「いいね。俺も今度食べてみるよ」
いいなコンビニ、俺も行きたい。他にも行きたい店が沢山ある。
その時は、お礼代わりと言ったらなんだけど、
「それで? 何の用だ?」
「いや実はね――
空気が引き締まる。
「い、言っておくが金は無いぞ……」
「お金じゃないよ。ちょっとお願い事があってね」
「お願いごと?」
「実は今、鬼灯家の事を調べていて、それに協力して欲しいんだ、それが契約の対価だよ」
「……はぁ!?」
「え、ええ……」
マリカちゃんとナコちゃんは顔を真っ青にする。廃校の体育館での出来事を思い出しているのかもしれない。
「危険な事はしなくていいよ。調べると言っても、俺が情報収集できる下地作りの手伝いをしてほしいんだ」
「……下地って何をすればいいんだよ?」
「鬼灯家と直接関係がありそう、また繋がってそうだなって思った人や建物を見つけたら報告してほしい。それが本当だったら支払いは完了」
「……それだけか?」
「おう、それだけ」
俺が考えた調査の仕方というのは、
そんな何もわからない状態だから、どんなに些細なものでもいいので鬼灯家に繋がれるようなものを見つけて欲しい。
それで実際に、鬼灯家の情報を得ることができれば、そこでお終い。
これが
ネットもできない俺が、いま出来ることは殆どない。その中で唯一と言っていいほど、1度だけ自由にお願いできる
ひたすら陰陽師を監視したり、〈
「……やるしかないんだろ?」
「まあ対価だからね」
実はどうしても嫌だったら、無しにしても良かったんだけど、承諾してくれたので何も言わないでおく。
「ああもう、分かったよ! 私たちも自分から危険な事しないからな! それと一生とかは無理!」
「それでいいよ。俺だって
「……【悪魔】とは思えない発言だな」
「だって折角の契約者、なるべく長く大切にしたいじゃん」
「やっぱ【悪魔】だこいつ!」
マリカちゃん、からかい甲斐あるな〜。
まあ、冗談は別にしても、本当に2人を危険に晒すつもりはない。
早めに鬼灯家の事が知りたいとはいえ、萎える事はしない。
「マリカ、本当にやるの?」
「仕方ないだろ。助けてもらったのは事実なんだし、『人外存在』との契約を破ると、本当にヤバいらしいし……」
「まあ、契約した以上はね――よろしくね、
まあ、それに関しては口約束の建前みたいなものとはいえ、契約した以上はね。
もしも破ったらどうしようか、命を奪うみたいなのは普通にやりたくないし……何処かの橋でバンジージャンプしてもらうかな?
「何度も言うけど、危険な事はしなくていいし、なんなら危険な目にあったら遠慮なく俺の名前を呼んでくれ、そうしたら助けに行けるから」
「怖いこと言うなよ……」
貪波の大量虐殺を考えると、絶対に自分の秘密を探るやつを抹殺するタイプだと思うんだよね。
しかも、証拠隠滅の手段も持っていると考えても良いかも知れない。
そうなると多分、人を殺す事に躊躇がない奴に狙われる事だってあるだろう。
それに彼女たちが世間では行方不明か死んだ事になっているとか、どういった扱いを受けてるかとか、色々と問題はあるかもだが、それらは今考えてもしかたない。
とにかく、2人には動いてもらう、そうしなければ欲しい情報が何時まで経っても手に入らないと思うしね。
「……あの!」
「ん? どうしたのナコちゃん?」
「えっとですね。【悪魔】さんと契約したのは、マリカちゃんの方ですよね」
「ああ、そうなるね」
やっべ。そういえばそうじゃん。
なんか2人に対価を払ってもらうみたいな感じにしちゃってた。
「おいまさかナコ、対価を払うのは私だけとか言うつもりないよな?」
「そんな事言わないよ、私だって助けてもらったんだし! というか私が運転しないとマリカ何処も行けないじゃん」
「いやまあ、そうだけど……じゃあなんだよ」
「まだなら、私も【悪魔】さんと契約して、叶えて欲しいお願いごとがあるんです!」
マリカちゃんが、マジかこいつって顔でナコちゃんを見る。
急な話であるが、俺にとってはありがたい話だ。これなら合法的にナコちゃんにも手伝ってもらえる。
……この契約に法もなにも無いんだけどね。
「それじゃあゴホン――【ならば、
【悪魔】モードオン。こういうのは建前とか雰囲気がやっぱり大事だと思うので、威厳有るような口調で問いかける。
「【悪魔】さん、私――男が欲しいの」
「「………………は???」」
人間と【悪魔】の唖然とした声が重なる。
「今までも、そうだったけど女の二人旅って危険なんだよ! だから一緒に居てくれる強い男の人が欲しいんです!」
「あー、なるほどなぁ」
色々と苦労しているんだなあ……できれば叶えてあげたいけど。
紹介できる男が居ません。
「……護衛だけならカラスやイヌが居るけど、それじゃあ駄目?」
「うっ、ワンちゃんは魅力的だけど、男の人じゃないと、トラブルって回避できないと思う!」
言わんとしている事は分かる。
馬鹿ほど、パッと見た感じ勝てそうな相手ならちょっかい掛けてくるわな。
流石にダチョウとかワニとだと人前に出たとなったら目立つし、強くても女性だったらトラブル避けにはならないかもかだから、人間の男が1番良いか。
「ただでさえ警察が助けてくれるか分からないし……」
「……悪魔の子だから動いてくれないとか?」
「そういう理由じゃねぇけど……いや、関係はしているんだと思うけど、いま何処もかしこも治安悪くて、電話してもいつ助けに来てくれるか分からねぇんだ」
マジか、治安が悪くなりすぎて行政機関がパンクしてるって事か?
あのデパートは、そんな感じはしなかったが……もしかして、タクシーのおんちゃんが気を利かせてくれて、安全なところに案内してくれたのかな。
この世の中、恐ろしいのは『人外存在』だけじゃなく、人間の中にもいる。
今の日本で2人だけで鬼灯家を調べてもらうのは、思った以上に危険かもしれないな。
とはいえ、紹介できる男なんて居ないしななぁ。
俺もずっと一緒に居るわけには行かないし、どうしたもんか。
──ん? 待てよ……もしかしたら。
いやでも、それでいいのか?
……まあ、せっかく思いついたことだし、後は本人次第でいいか。
「話は分かった、ちょっと待ってくれ」
「あ、おい……行っちまった」
「もしかして、探しに行ってくれたのかな!?」
「おい、マジで男と一緒に行くつもりか?」
「うん、だってこれまでも危険な目にあったじゃん! 知らない男の人が後ろから着いてきたり、知らないおばあちゃんに金寄越せって包丁持って脅されたり……それが、男の人が居れば無くなるかもしれないんだよ!」
「まあ、そうだけどさあ……知らない男と一緒に車の中に移動するのは流石にじゃね?」
〈影の門〉に入った後少しだけ2人の話を聞く、
まあ、異性といっしょに同行するとなっても、中々に気になるよなあ。
そう言った意味でも、俺が思いついたのは案外いい手だったかもしれないとして家へと戻る。
+++
もはや、実験所みたいなノリで使っている洗面所。程よい広さで使いやすいんだよな。
部屋を照らすために買った、キャンプライトを中央に置いて灯す。
床から周囲に照らされる光はだいぶ明るいものの、床から照らしているからか上半分が妙に薄暗く、変な雰囲気が出ている。
まあ、今からやる事を考えたら、【悪魔】らしく割と適しているかもしれないが、なんか普通に怖い。
「影変身……いや、流石に違うか、うーむ」
ここまで来ると〈影変身〉とは違うものだろうと新しい名前を考える。
それに、どうせ自己満足の類だし、ちょっと凝ったやつが良いよな。
「――〈
新たなる技名を呼ぶと共に、自分のしたい事を意識する。
すると『布影』が縦長に伸びていき、まるで粘土を捏ねているように形が変わっていき──。
「――できちゃうもんだなぁ」
――眼の前にあるのは、今日ミサキちゃんと一緒に行った時の二十代男性人間の姿をした影の人形。
他者視点から見ても、やっぱりDV彼氏っぽそうなメロい顔をしている。
出来上がった物を見て、なんとも言えない声が出る。
あの場で思いついた新技〈
もしかしてと思いついてやってみたが、まさかこんなに上手く行くとは思わなかった。
「よしそれじゃあテスト開始。まずは右に手を動かして……お、できた」
俺が命令を出すと、反応が遅れたものの〈影法師〉は言われた通りに動いた。
「左手を動かして、その場で歩く、動きに問題なし、あとはこの服を着てくれ」
指示を出すにつれて最適化が進んでいるのか、どんどんと動きが
さらに服を渡すと人間と変わりない自然な動作で着てくれた。
よしよし、上手く行ったな。
〈影法師〉に渡したのは、俺が着ていたミサキちゃんとお揃いの黒と白の服ではなく、全体的に紺色を意識した予備の奴であり、また違った雰囲気が出ている気がする。
しかしまあ〈影変身〉で、人間の姿になれたから多分成功するとは思っていたけど、マジでしっかりとした人間の形を作れるとは……。
それにしても、ぱっと見た感じであるがマジで人間と変わらないよな。肌の質感とか人形じゃなくて、本当に生きているみたい。
「とにかく思いつき自体は成功でいいか。あとはナコちゃんたちの気持ち次第だなあ」
紹介できる男性がいないので、『布影』で紹介できる男性を作った。
この言葉だけで考えると倫理に真っ向から喧嘩を売っている悪魔的所業に思えると思うが、しょせんは『布影』。単に姿形を
中身は〈
――契約内容も男を紹介して欲しいだったから嘘は吐いていないんだけど、まあ流石に違うって言われたら大人しく引き下がろう。あまりにも裏技すぎる。
「そういえば、ナコちゃんたちの指示も聞くのかな?」
「――そこは大丈夫です」
「ほんと? なんか俺以外の指示を聞きたくないとかない?」
「今のところはないかと」
「それなら良かった~…………」
――――さて、いま俺は誰と話しているでしょうか。ヒントは今洗面所にいるのは俺と〈影法師〉だけです。
「……ちなみに聞きたいんだけど――自我ある系?」
「有りますね」
〈影法師〉でしかなかった筈の“彼”は生気が籠もった瞳で、そう答えた。
「そっかあ、有っちゃうか~――――スゥ」
「あ、ミサキちゃん寝てるので、叫ぶなら『布影』の中のほうが良いかと」
「お、そうだな、ありがとう――」
――――ぎゃあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!
行かないでくれ倫理。俺はここにいる。
なんて願うが現実は変わらない。
キャパを超えた俺は『布影』の中で悲鳴を上げた。
短編 陰陽師【悪魔】:ミサキの夢
――――――――――
──今日は本当に楽しかった。
ヤマトが家族になってくれた。
いろんな事を教えてくれる。
美味しいもの教えてくれる。
一緒に居ると安心する。
まるでお母さんと一緒に居た時のようだった。
お母さんと居ると幸せだった。
お母さんが居なくなって辛かった。
お母さん、もっと一緒に居たかった。
寂しくても、苦しくても、痛くてもいいから。
もっと居たかった。
家族だったから。
家族と一緒に居たかった。
スズメちゃん。
お姉ちゃんとお兄ちゃんの話をした時、幸せそうだった。
いいな。そう思っていたらヤマトがお兄ちゃんにも、お姉ちゃんにもなってくれた。
とても楽しかった。
家族が増えたみたいで嬉しかった。
家族ってたくさんいるほど幸せなのかな?
家族が居るほど、もっと幸せなのかな?
だったら、もっと家族が居てくれたらいいのに。
――真っ白の世界。遠くに黒い人影が見える。
ミサキは、あの人影が、こちらを見ているような気がした。
手を伸ばす。本来であれば届かない距離。
されど届くような気がした。
アレはだれ?
言葉が聞こえたわけじゃない。
そのように問われた気がしたミサキは呼びかけた。
「──お兄ちゃん」
バチバチ。
その人影を掴んだような感触と共に、電気がほとばしるような音が聞こえた。
その音は夢の中で聞こえたもの。外の誰にも聞こえない。
急激に握っている手に、熱が入っていく。
――その時、現実では寝息を立てているミサキから、洗面所にいるヤマトへと“繋がりの糸”を通して、“何”かが流れ込む。
実は、これが初めてではなかった。
今までは数が多くても小さくて、瞬きの合間に終わってしまったため、気づく事はできなかった。
この“繋がりの糸”を流れたものの正体を2人が知るのは、もっと先の未来であった。