陰陽師が居る日本に召喚されたのは元日本人【悪魔】   作:庫磨鳥

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悪魔、ここ知ってる日本じゃないってよ。

 

 俺は偉大なる召喚契約者様であるミサキちゃんを抱きかかえて、あの場から離れた。

 結局、あの白装束たちは起こさなかった。理由はミサキちゃんが寝ちゃったので、うるさくしたくなかったから。

 せめて、アイツらどういった組織で、どういった目的で、あんな生贄有りきの悪魔召喚の儀式をしていたかぐらいは聞いておいた方がよかったとは思うけど、まあ、そういうのは全部後回しでいいや。

 

 アイツらの何人かに『布影(ぬのかげ)』の欠片を貼り付けた。この欠片は小型端末みたいなもので、意識を集中すればどこに居るかすぐに分かるし、盗聴も盗撮もできる。

 なによりも、欠片がある場所に瞬間移動が可能。凄いよね、チートだと思うよね、だけど【悪魔】の中では控えめよりな【権能(けんのう)】なんだぜ。

 

 そんな訳で、あの白装束たちは俺からはもう逃げられないので、詳しいことを調べるのは、ミサキちゃんを休められる所を探してからで問題はないってわけ。

 

「……そういえば、ミサキちゃんの家どこか分からないな。ホテルに泊まろうにも金がない……あれ、どうしよう?」

 

 『布影』を壁にするといっても、暖房性があるか分からないんだよね。俺自身は寒くもなければ熱くもないので確かめようがない。

 なので、俺だけだったら野宿でも大丈夫なんだけど、ミサキちゃんに寒い思いはさせたくないので、ちゃんとした屋根のある所で寝てほしい。

 

「……よし、人が住んでいない家とか探せばあるだろ」

 

 不法侵入は犯罪だが緊急事態だ。これから勝手に寝泊まられるであろう家の持ち主さん。1日……なるべく早くに出ていくから、それまで勘弁してね。鍵が開かなかったら諦めるから。

 

 方針が決まったので、光が点々と輝く街に向かって歩く。

 

「あー、なんていうか……“世界”だなぁ」

 

 山がある、川がある。

 雲がある、月がある。

 夜があって、星の光と人工的な光がある。

 何もない赤い大地と空だけの【地獄】とは全く違う。

 多くのものがある“世界”の夜景。眺めているだけで心が満たされたような気持ちになる。

 

 

 +++

 

 ――ミサキ。

 

 優しく、名前を呼んでくれたお母さんはもう居ない。

 病気で死んじゃった。

 悪魔の子を産んだから、誰にも助けてもらえなかった。

 病院に連れて行ってもらえず、ずっと部屋に閉じ込められていた。

 

 私を産んだから。不幸のまま死んだんだ。

 

 私を悪魔の子と呼ぶ人たちが、私に言ってきた。

 

 私は、生まれてこなければ良かった。

 

 ――そんな事ないよ。生まれてきてくれて本当にありがとう。

 

 優しい声が聞こえた。

 

 ――ミサキちゃんが居てくれたおかげで、俺はここに居る。

 

 私を想ってくれる事が分かる、男の人の声。

 

 ――ゆっくりお休み。

 

 男の人の声なのに、まるでお母さんみたいだと、安心できた。

 

 

 +++

 

 

「――落ち着いたか、良い夢を見ているといいな」

 

 悪夢でも見ていたのか、うなされていたミサキちゃんに声を掛けると、静かな寝息を立てはじめた。

 生贄になるような子だ。俺と出会う前はろくな日々を送っておらず、その夢を見ていたのかも知れない。

 でもそれは過去のこと、俺と契約したからには、一緒に日本を堪能しつつ幸せにしてやるからな~。

 なんて考えて、クククっと悪魔らしく笑う。

 

「しかし、ちょうどいい家があって良かったぜ」

 

 街の手前まで来たら、人気のないボロい一軒家がポツンと立っていた。もしかして人が住んでいない家かと期待を寄せて調べたら、『売地』の文字を見つけてガッツポーズ。

 とりあえず、ミサキちゃんを寝かせるだけだからと、言い訳をしつつお邪魔した。

 

 家の中は大量の物が残されており、昨日まで生活してきたかのような生活感が取り残されていた。しかし、電気が通っていない事から、人は間違いなく住んでいないみたい。もしかしたら、唐突なトラブルかなにかで住む人間が居なくなったのかもしれない。

 俺の知っている日本では、そんな空き家が増加して、犯罪者の隠れ家になってしまう事が不安がられていた事を思い出す。

 

 その懸念(けねん)は事実だったと、【悪魔】が一体侵入した事で証明してしまう。ミサキちゃんは俺が連れてきたからノーカンです。

 

 そんな訳でミサキちゃんを畳が敷かれた和室に下ろした。長い間放置されていたからか、かなりホコリが溜まっていたようだが問題なし。『布陰(ぬのかげ)』を広げて、ホコリとゴミを綺麗さっぱり飲み込んだ。

 

 思いついてやってみたんだけど、本当に出来るとは思わなかった。さらにバスタオルを『布陰』の中に入れて取り出し、ホコリと汚れが綺麗に取れた時は、思わず便利~って声に出してしまった。

 

 そのバスタオルをミサキちゃんに掛けても、咳することはなく、心地よさそうに包まる。

 

 俺の【権能(けんのう)】。家庭に大助かりすぎる。こんなの一家に一悪魔じゃん。最初の頃は影を立体化するぐらいしかできなかったのに、こんなに立派に育っちゃって!

 

 ――お前にピッタリの【権能】じゃないか“虚構”よ。

 

 ……萎える奴を思い出しちゃった。アイツとは長いこと会っていないが、死んでいてほしいな。死んでいないんだろうなぁ。

 

「……さて、ミサキちゃんが寝ている間に情報収集をしますか」

 

 玄関へと移動。扉を開けて『布影』を外に向けて展開する。

 

「〈影鴉(かげからす)〉」

 

 広がった『布影』の中から、数え切れないほどのカラスたちが出てきて、外へと飛び立った。

 

 あのカラスたちは、『布影』をカラスっぽく切り離しただけのもの。生き物ではないので飲まず食わずで何処でも飛んでいき、俺の目と耳となる。

 

 見た目がカラスなのは、何百年かぐらい前に【地獄】で日本に行きたすぎて限界になった時、少しでも日本を感じられる物が欲しかったから。

 おかげで、日本どこに行っても目立たなさそうなので、結果オーライ!

 

 というわけで、〈影鴉(かげからす)〉たちを使って情報収集開始。とにかく日付が知りたい。

 令和だったらいいな。Swi◯ch2で遊びたい。

 

 少し時間を置いて、〈影鴉(かげからす)〉と視界を共有する。

 見えたのは上空からのビルが立ち並ぶ街の風景。外灯に照らされる道を、多くの人が歩いていた。周辺に見える文字の中にひらがな、カタカナ、漢字の三種類を確認。

 

 ――涙はでないが、泣きそうになる。本当に日本なんだな。

 

 人の多さからして、東京なのだろうか? ビルに大型ディスプレイがあって、深夜のニュースが映し出されていた。

 

≪――本日、山梨県富士山周辺の森林地帯にて“鬼”が現れました。登山者などに怪我はなく、現時刻、出動した陰陽師の手によって討伐されました≫

 

 ……鬼? 陰陽師?

 熊と猟師の隠語か?

 

 ニュースを見ていると、現場の映像が映し出される。

 そこには俺の知っている、まんま鬼のような奴が倒れ伏しており、その(かたわ)らには、まんま陰陽師みたいな人たちが刀や札を持って立っていた。

 

 一瞬、ドラマかと思ったが、そのまま次のニュースへと移った所をみるに。アレはマジの映像らしい。

 

 カラスを地上に近づけて、街の人たちの反応を見る。その中に二人組のサラリーマンが、あのニュースについて最近増えたよなーと話し合っていた。

 

 ――悪魔は架空の存在で……だが、お前は他の『人外存在』とはちが……。

 

 白装束の言葉を聞いた時に思った事は、どうやら俺の勘違いではなかったみたいだ。

 

 「……ここは、俺の知っている日本とは違うのか」

 

 持っている記憶の中にある日本では、鬼は架空の存在でしかなかったし、陰陽師はなんか……昔から続く伝統的なやつでしかなかった。

 それが実在していた、日常として当たり前に戦っている。

 

 うん、ここは俺の知らない日本だ。

 

「……まあええか! 日本である事には変わりないし!」

 

 たとえ俺の知る日本じゃなかったとしても、日本語だし、全然問題無し!

 まあ気になる所は、鬼みたいな『人外存在』っていうのか? ああいう化け物とか、あの白装束みたいな奴は沢山居るかどうかだな。

 

 「平和であってほしいな……お、画面が切り替わった。なにかあったのか?」

 

 〈影鴉(かげからす)〉たちは、攻撃的な動きを視界に収めた場合、あちら側から俺に情報を送るようになっている。

 飛んでいる〈影鴉(かげからす)〉って【悪魔】たちにとっての楽しい的になりやすくてね。お仕置きするために、この機能を取り付けた。

 

 切り替わった視界を確認する。

 人気が無い、病院とかああいう施設廃墟の中か?

 ここで妖怪か、幽霊かが、陰陽師と戦っているって事かな?

 

 ――いや、あれはどうみたって、女の子が化け物から逃げていますね。

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