陰陽師が居る日本に召喚されたのは元日本人【悪魔】 作:庫磨鳥
ナコちゃんと契約するために、『布影』で男性アンドロイドみたいなものを作ったら、生命を誕生させてしまったらしく
「えぇ……」
「ガチ引きは勘弁して欲しいですね」
「あ、ごめん。ちょっと心の整理がついていなくて……」
〈影法師〉は困った様子で頬を掻く、俺は命令を出してないし、そう動くように意識も向けていなかった。
つまり〈影法師〉こと彼のこの動作は、本当に思考と感情を持ち、それによる意思によって行っているものだ。
「ドン引きしたのは俺自身にというか、なんていうか……自分の理解できる段階を超えてきたというか、手をかざしたら地球に隕石を落下させて恐竜を滅ぼせる力を持っていた事実に
「まあ生命誕生という神レベルの力を、すぐに受け入れられた方がヤバいですよね」
「ホントだよ……本当だよ……」
〈
生きた人間を生み出してしまった。
俺は【悪魔】だから何かしらの法律に触れるものではないかもしれないが、巨大な倫理さんが背後から肩を叩いてきているような恐怖に襲われる。
生きている。
生きているのか……。
え? なんで?
いや本当になんで?
『布影』という【権能】に、そんな力は無かった筈だ。
あらゆるものを影の中に飲み込める。黒くて粘土のような性質をしており自在に変形する事ができる。
この2つをベースに色んな事ができるとはいえ、そこに命が吹き込まれる事は今まで無かった。
これも他と同じく、ミサキちゃんと契約した影響だろうか。
にしたって生命を生み出せるって、どういうだよ!
そんなの本当に神様の【権能】じゃねぇか!
ライン越えとか、もうそういうレベルじゃないだろ!
「…………とりあえず、情報のすり合わせをしようか」
「了解です」
「君は……『布影』から生まれたって事で間違いない?」
「みたいですね。ハッキリとは分かりませんが、状況証拠と得ている知識的に、それしかないかと」
「得ている知識?」
「そうですね……」
「言い辛いことか?」
「いえ、生みの親をどう呼ぼうかなと、お父さん? お母さん?」
「それは俺も分からない」
どっちでも間違ってなさそうというか。
人間的視点だとお母さんだけど、神様的視点だとお父さんになるのか?
なんだよ人間的視点とか、神様的視点とか、考えるところ本当に合ってるか?
駄目だ。まだ全然パニックから回復できていない、油断するとすぐにアホみたいなこと考え始める。
「どう呼んでほしいとかありますか?」
「いや……好きに呼んでくれ」
「了解です。では“オヤジ”と……なんか母と呼ぶには気持ち悪いので」
「おい息子。正直な気持ちを相手に伝える時は、ちゃんとオブラートに包めよ。そんなんじゃ人間社会で生きてけねぇぞ」
この子もしかして、何事にも正直に言っちゃうタイプか?
お陰で、一気に冷静になったというか、受け入れられた気がするが。
……いや、もしかしてワザとやってくれたのか?
そうだったら生まれたばかりなのにしっかりしてるな。
「それで記憶の事ですけど、どうやら、オヤジの前世からの今までの知識を持っているようですね」
「まあそうだよねぇ」
「あとは
「それは……大丈夫だった? トラウマになってない?」
あんまり良いとは言えない記憶も多いからな、特に【地獄】。
「本当に
「ああ、凄いだろ?」
何を思い出しているのか知らないが、顔を
ろくでもない記憶を、少しでも受け継がせてしまった事による罪悪感と共に、少しでも共有できる相手ができて嬉しいと感じてしまった。本当に申し訳ない。
――〈
あとは根本的な部分か……気が重いが、こうなってしまった以上、きちんと話を聞くのも責任の1つだろう。
「……もう1回だけ確認したいんだけど、本当に自我――“命”があるんだな?」
「はい。少なくとも俺はそうだと思ってます」
「そっか……ならもう、この話はお終いにしよう。君はちゃんと生きた人間として接するよ」
「了解です」
自我の有無、本人がそうだと言うなら俺に否定する権利はない。
彼が〈影法師〉という影の人形なのか、それとも完全に人間なのかは、病院で検査をしてみないと分からないだろう。
だけど自我があるというなら、こう思わなければならない。
――彼は俺が生み出した“
いや急すぎて本当にアレだし、心がアレで、まだまだアレだけど、そういうのも全部合わせて受け入れるという方向で話を進める。
でも、これだけは、勝手過ぎるのは分かっているけど言わせて欲しい。
「――ゴメンな、最初から大人で生んじゃって」
「別に良いですよ。子供の時が無いので気にする気持ちも湧きませんし……オヤジの知識を参考にこれから色々とやっていくのも楽しそうなので、こういうのも有りかなと」
「理知的な息子で嬉しいよ」
それに優しくて、気遣いもできる。なんて出来た息子なんだ。
「……こんな出来の良い息子が、なんで俺の『布影』から生まれたんだ?」
「出来が良いかは分かりませんが、そこは結構本気で調べた方がいいのでは?」
「いや本当にそう。でも調べられる手段が無いんだよな」
流石に生命を生み出せますは、そう簡単に相談できない。
それに今は鬼灯家の事とか優先するべき事があるし、後回しにするしかない。
第二、第三の子供が生まれる可能性があるのは怖いけど、そこは俺が気をつければいい話だろう。
「それで、事情はどこまで把握してるの?」
「自分が生まれた理由はハッキリと、このまま自分はナコちゃんたちに合流して、一緒に動けばですかね?」
「そうなんだけど……日本の知識もあるなら単身で動いてもらったほうが良い気がしてきてさ、どうよ?」
「……いえ、知識はあっても経験がないので1人で行動するよりも、ナコちゃんが一緒だとありがたいかもです」
「分かった、それなら、当初の予定通り一緒に行動してもらうようにするか」
「了解です」
既に
口約束でしかないとはいえ、自分で言ったのを簡単に変えたら信用とかにも関わるだろうしね。
「ああ、あと危険な事をしなくてもいいのはお前もだぞ、息子よ」
「了解です。でも2人にもしもの事があった時は、流石に頑張りますよ」
「イケメンか~?」
「生まれた理由が理由なので、むしろ2人と会える切っ掛けがなくなり、存在否定されるような事がなくて良かったです」
「急に刺してくるの止めて?」
「事実を言ったまでですよ、オヤジどの」
なんて言った口は小さく笑っていた。中々にお茶目な性格をしているようだ。
「それじゃあ
人間が〈影の門〉を問題なく通れるか分からない。いくら〈影法師〉とはいえ人間と大差がなさそうな息子を
「いっそ数日後、何処かで現地集合するか……」
「いえ、せっかくですし、人間が〈影の門〉を通れるか試してみましょう」
「は? いやいや、さすがにそれは……」
「でも、合流するまでの数日間で何かあってもアレですし、いつかは〈影の門〉に人が通っても大丈夫なのか確認しないとなんで、いい機会なんじゃないですか?」
「自分の命でファーストペンギンするんじゃねぇよ。さっき危険な事はしなくていいって俺の言葉理解できてた? なんでそんなに覚悟ガンギマリなの!?」
「生まれたばかりなので」
「生まれたばかりの奴が持っていい覚悟じゃねぇんだよ!」
確かに人間が〈影の門〉を通れるか、1秒でも早く調べたいけど、じゃあ息子にさせる生みの親が居てたまるか、【悪魔】だってドン引きだよ!
「あんまり騒がしくすると、ミサキちゃんが起きちゃいますよ」
「誰の所為だと――」
「――ヤマト?」
「ぎゃあああ!? ってミサキちゃん!?」
息子の言う通り、俺の声がデカかったためか、ミサキちゃんが起きて来てしまった。
といっても半分寝ているようで、トロンとした半目で俺たちを見ている。
「……ヤマトと……ヤマトお兄ちゃんが居る?」
「気づかれちゃいましたね、どうします?」
冷静な面持ちで聞いてくるが、実は一瞬だけ片足を上げて驚いていたの見ていたからな?
「説明って言われてもなあ……」
――彼は、いま俺がうっかり生み出しちゃった息子です、仲良くしてね。
あまりにも人外過ぎる、普通の人間なら正気度チェック確定だろ。
「……逆にどこまで話してもいいと思う?」
「自分がわかるわけないじゃないですか」
「……?」
息子にヘルプするが見限られる。それはそう、自分で説明するのが筋だよな。
ミサキちゃんは首を傾げて、目を瞑ったり開いたりしている。
さて、どうしたもんか。
難しい事は分からないだろうし、なんなら俺もよく分かってないまま話を進めているので上手く説明できる自信がない。
その事で、おかしな方向に勘違いさせちゃったら軌道修正できるかもあやしい。
だから、ここはシンプルに行こう。それしかないと覚悟を決めて口を開く。
「えっと、彼は――」
――“彼”や“息子”と呼ぶ中で、実はずっと名前を考えていた。
どんな名前がいいかな。
そうだな、やっぱり普通の人間らしい名前がいいと、いま正にしっくり来る名前が浮かんだ。
「――今日から俺たちの家族になった。長男の『リヒト』だ」
「リヒト……兄ちゃん?」
「いや、どちらかというと……まあ良いか――そう自分はミサキちゃんのお兄ちゃんだ。これからよろしくね」
きっと弟だよって言おうとしたんだろうが、客観的にどう見られるかを考えたのか彼――リヒトは兄である事を受け入れた。
……
……まあ、リヒトが生まれた時点でメーター三週ぐらいしてると思うけど。
リヒトはしゃがみ込み、視線をミサキちゃんと同じ高さにすると手を差し出した。
それにミサキちゃんは、若干ふらついた足取りでリヒトへと近づくと、その手を握った。
「……お兄ちゃん」
ミサキちゃんは嬉しそうに微笑んだ。
唐突に現れた兄と名乗る人間との出会いは、ミサキちゃんにとって兄ができた。それだけの出来事でしかないように思えた。
「おに……ちゃん……」
眠気が限界なのか、目を閉ざして体が左右に揺れ始めた。
「お兄ちゃんはこれから出かけないと行けないし、ずっと家に居るわけじゃないけど定期的に帰ってくるから、その時にまた話そう」
「……はい」
「それじゃあ、布団に戻ろうか」
ミサキちゃんを布団へと運んで、横にすると、すぐに寝息を立てた。
事故的な初対面であったが、問題なく終えてホッとしつつ、リヒトを見ると、ちょっと困った表情を浮かべていた。
「……兄……ですか」
「嫌だったか?」
「いえ、なんていうか……しっくり来ていて驚いている感じですね。きっと自分はミサキちゃんの兄としても生まれてきたんだなって」
「そうなのか? ……てことはやっぱり、ミサキちゃんとの繋がりも大きく影響してそうだな」
それなら陰陽師で召喚とか詳しい人に聞けば、なにか分かるかも知れないな。明日にでもリヒトの事は隠して
「ミサキちゃんには、明日改めてリヒトの事を伝えるから、約束どおり定期的に帰ってこいよ」
「……了解です。というわけで、もう待たせるのも悪いんで、さっさと〈影の門〉を開けて下さい」
「それとこれとは話が別で~」
それから5分後。根負けした俺はリヒトと共に〈影の門〉を潜って、
+++
――リヒトは〈影の門〉を問題なく、通れるようになった。これで少なくとも、リヒトはいつでも俺たちの家へと帰る事ができるみたいだ。
ただ、これはリヒトが〈影法師〉だからかもしれないので、人間が通っても問題ないのか、まだまだ慎重な検討が必要だろう。
というわけで、リヒトとナコちゃんとの会合。ここが上手く行かなければ、そもそも話は無かった事になるから、どうなるかと緊張していたのだが。
「え~!! 超メロい! イケメン! メロイケだ!!」
「ありがとうございます……ナコちゃんも綺麗ですよ」
「きゃ~! 【悪魔】さん、本当に良いんですか!?」
「契約だからね。でもあくまでも護衛みたいなものだから、そこら辺ちゃんとしておいてね?」
「本当に良いんですね!!?」
「聞いてる?」
このようにテンション爆上げで受け入れてくれた。リヒトの顔をキラキラとした目でずっと見ている。
まあ、悪い事にはならなくて良かったと思おう。なのでリヒトには悪いがその助けてっていうアイコンタクトは無視させてもらう。
ちなみに強さに関しては、俺の『布影』の一部をリヒトの身長分渡してある。
本人の使い方次第であるが剣にも盾にもなるし、多少不慣れでも戦う事はできるだろう、それにもしもの時は『布影』を通して、いつでも俺が駆けつけられる。
「それじゃあ契約だが……」
「はい! 私はナコ! 〈
「もうちょっと、しっかり考えて欲しいなって…………」
なんかとんでもない真銘が聞こえてきたが、俺の気の所為であってくれ。
「
「あー、ナコの両親、本当にヤバいぐらい頭おかしくて、1度家出するまでどんな生活を送っていたか聞いて……記憶から消した」
――うん、ここには触れないで置こう。話が脱線するとかの話じゃなくなりそうだし。
この呪い染みた真銘を口にしていいか悩むけど、捧げてもらった以上はちゃんと受け取らないとね。
むしろ、俺が受け取った事で
「ナコちゃん、真銘を捧げるのはリヒトじゃなくて俺の方だよ」
「あ、す、すいません!」
「まあいいや――【これにて、契約は結ばれた】……というわけでリヒト、
もうこの混沌とした場面で、格好つけても意味ないなと、サクッと終わらせる。
「了解です。よろしくね。ナコちゃん、マリカちゃん」
「はい! よろしくお願いします、リヒト君!」
「それで対価なんだけど……後で言うか」
今は何を言っても、頭に入れてくれるかわからないとして
俺の隣で事の成り行きを見守っていた
「
「まあ、実際女二人旅ってめっちゃ危険だから男が居てくれたら助かるのはガチだけどさ……でも、やっぱキツイかもしれねぇ」
リヒトに対して、ハートを飛ばしてそうなナコちゃんを見て、げっそりとした顔になる。
「まあうん。暇な時間あったら愚痴とか聞きに来るから、2人の事よろしくね」
「勘弁してくれ……」
「後これ、このままだとご飯もそうだし、ガソリンも買えないと思うから活動資金で3万円渡しておくね」
「え、いいのか!?」
予備で買っておいたポーチを渡すと、
「流石に無一文だと移動もままならないからね。でも、次いつ渡せるか分からないから、ちゃんと節約すること……あと、これは絶対なんだけど、レシートは必ず貰ってね」
でないと、
「悪魔も経費とか使うのか? でもおかげで助かったぜ、ありがとな!」
一気に元気になった
「それじゃあ、よろしくね」
「分かったよ。やるだけやってみるさ」
そういう
「……
「遠慮しなくていいよ」
「……ありがとな」
陰陽師【悪魔】:短編 リヒトSide①②③④⑤
――――①――――
「……え〜! リヒトさん、『竹屋』食べたこと無いの!?」
「食べたこと無いですね。どういった店なんですか?」
「うーん、牛丼屋かな? でも私、ハンバーグしか食べたことがないなあ」
「……もしかして松屋と同じ店かな?」
「ん? なにか言った?」
「いえ、でしたら今度行ってみたいなと」
「だったら今度一緒に行こうよ! 本当に美味しいから!」
「その時はぜひ」
「……ねぇ、リヒトさん」
「どうしました?」
「……ううん、なんでもない! あ、ねぇねぇ、せっかくだからリヒトさんなんて他人行儀じゃなくて、違う呼び方していい?」
「別になんでもいいですよ」
「やったっ! じゃあえっとね……リーくんってどう? や、やっぱダメかな!? ごめんね年上なのに!」
「いえ、いいですよ。リーくんって呼んでください」
「い、いいの? ……リーくん?」
「はい、ナコちゃん」
「……えへへ」
「ああ、それと、自分はナコちゃんよりも歳下ですよ」
「ええ!? そうなの……あれ? 私って自分がいくつかリーくんに言ったっけ?」
「いえ、聞いてませんよ。でも絶対自分の方が年下だと思います」
「え~、本当かな? ちなみに私、二十歳なんだけど……どう?」
「やっぱり自分の方が年下ですね」
「そうなんだ! ぜんぜん見えない~……あ、ごめん、別に悪い意味じゃないよ! すごくしっかりしていて格好いいなって意味!」
「ありがとうございます……それで思ったんですが、やっぱり年上をちゃん付けは不味いと思うので、これからはナコさんと呼びますね」
「えーやだー! 他人行儀すぎ〜! 遠慮せずにもっと寄って来てよ!」
「そうですか、では――ナーちゃん」
「きゃああああ!! それは寄りすぎだよ〜〜!!」
「ナコ〜、ちゃんと前見て運転しろ〜」
甘いものは甘いもので味直しするタイプのマリカは、助手席で、自販機で買った激甘コーヒーをちびちび飲んでいた。
――――②――――
「――というかさ、私たちって何をどう調べればいいんだ?」
「たしか、鬼灯家に関係がある所を調べればいいんだよね?」
「その認識でいいかと」
「でもそれって、どうやるんだろ?」
「いや、それこそアレじゃん。バイト」
「あ、そっかあ。鬼灯家に関係あるバイトをやればいいんだね! ……うう、でも危険じゃないかなぁ?」
「でもさ、私たちが出来る事ってそれぐらいじゃないか? それに、もしもの時はヤマトが助けてくれるって言うし」
「そうですね。自分も、なにかあった時はお二人を守りますよ」
「リーくん!」
「ナコ落ち着け……まあ、その時は頼むわ」
「ごめんごめん……あ、そうだ! 私が所属してるコミに話してみようか?」
「コミって……あのSNSの悪魔の子(私たち)のコミュニティグループか」
「そうそれって、いま私スマホ持ってなかったんだった!」
「忘れてたのかよ」
「ごめんマリカ。みんな心配しているかもだし、鬼灯家の仕事がヤバいって言わなきゃだし、ちょっと貸して」
「別にいいけど……いや、ちょっと待て」
「え? なんで?」
「……なんか今思えば、最初から怪しくなかったか? 皆が仕事なくてヤバいってなってる時に、鬼灯家の所なら仕事あるって話が出てくるの、タイミングが良すぎるっていうかさ……」
「それは……そうだけど、え、どうなんだろう?」
「その紹介してきた奴って、鬼灯家のサクラだったとか……有り得そうじゃね?」
「ええ!?」
「鬼灯家の話出てきたとき、なにか怪しい点とかなかったか?」
「うーん、よく分からなかったかも……」
「あとさ私たち多分、あっちだと死んだ事になってそうだから、生きてるって知られたらかなりやばい。だからネットで目立った事するのは止めた方が良いと思う」
「そうですね。相手からしたらお二人は、知られたくない秘密を知ってしまった人間。必ず狙ってくるでしょう」
「う、うん、そうだね、止めとくよ! 危なかったー!」
「ネットって怖いんですね。知識だけ持っていますが、思った以上みたいです」
「え? リーくん、ネットやった事ないの!?」
「はい」
「マジか、今までよく生きてこれたな……そういえば、スマホも持ってないんだっけ?」
「ですね」
「……お前、マジで何処から来たんだ?」
「マリカ……」
「あ、悪い」
「いえ、あまり気にしないでください……過去は触れ合わない感じですかね?」
「おう、まあ話しを聞いた所で仕方ないしな。だから私たちは、リヒトの過去は聞くつもりはないし、私たちの事も聞くな。それが1番平和だ」
「了解です」
「…………ほんとは聞きたいけど(ボソ)」
「ナコ?」
「ううん、なんでもない! あ、えっと、そ、そういえば【悪魔】さんからお金もらったけど、やっぱり私たちで稼いだ方がいいよね!?」
「まあ、そりゃ。追加でもらえるか分かんないし、もっと金は欲しいわな」
「そういう意味でも、まずは鬼灯家関係のバイトを受けるのは有りですね」
マリカとナコはげんなりとした顔をするも、情報集めもできてお金も稼げるとして反対する事はなかった。
――――③――――
「――えー、鬼灯家に関しては空振りだったけど、三人での初バイトは無事完了っていうことで お疲れー!」
「お疲れ様です」
「おーつかれぇ……なんつーか、男ってすげぇな」
「ほんとほんと、あんなにあった荷物を15時前に運び終えるなんて、私たち2人じゃ絶対無理だったよ!」
「そうですか?」
「そうだよ。いや、お前に関しては男だからって言うにしても、やっぱりおかしいような……」
「そういえばあの現場監督、ぜったい私たちのバイト代渋ろうとしてたよね!」
「それな! 文句ばっか言ってきてマジムカついた……でも、リヒトのおかげでスカッとしたぜ!」
「ちゃんとお金全部貰えたし、本当にありがとね!」
「……ああいう扱いされるの、いつもの事ですか?」
「まあそうだな。というかまだマシなほう。酷いやつはホンットにマジでキモいからな」
「苦労してきたんですね」
「うん! だからリーくんが来てくれて本当に嬉しい! 【悪魔】さんにお願いして良かった!」
「そう言ってくれると、自分も嬉しいです」
「そう? えへへ! こうなったらもう一杯飲む? 何でも言ってよ!」
「漫喫のドリンクバーだけどなー」
「というわけで、私が取ってくるね。次なにがいい?」
「ナコと一緒でいいですよ」
「マリカは? メロンソーダにソフトクリーム乗せ?」
「おー、たのむ~」
「はーい!」
「……あんなにご機嫌なナコ、マジで初めて見る。よっぽど、お前にメロったみたいだな」
「それは良いことですか?」
「分かんねぇけど、幸せならいいんじゃね? ……だからナコの事、泣かせるんじゃねぇぞ」
「……マリカちゃんにとって、ナコは大切な人なんですね」
「その言い方止めろよ……友達だし、命の恩人だよ。ナコが声を掛けてくれなかったら、どうなっていたか分からないからさ……ナコには普通に幸せになってもらいたい」
「……分かりました。たとえ命に変えてもナコ、それにマリカちゃんも自分が守ります」
「それは重すぎだって、もっと軽く程々に助けてくれ」
「そっちの方が難しいかと」
「ははっ、あと、私も呼び捨てでいいから、ちゃん付けは【悪魔】で充分」
「分かりました。マリカ。これでいい?」
「……あー、選択ミスったかなぁ」
「え、なんの話?」
「うおわ!? 戻ってくるの早ぇよ!」
「早い方が良くない!? それで、2人はなに話してたの?」
「ナコは良い子だって、マリカから聞いてたんだ」
「おいこら! そういうのは秘密にするもんだろ!?」
「えー嬉しい! マリカったら素直じゃないから、そういうこと面と向かって言ってくれないんだもん!」
「ああもう、なんか頼もうぜ!」
「じゃあデリバリーできるからそっちで頼もう! この漫喫って出来たでしょ?」
「できるし、逆にご飯なんも置いてないからな」
「節約しなくて良いんです?」
「ちょっとぐらい良いだろ。リヒト、なに頼む?」
「そうですね……たい焼きが食べたいです」
「え、なにその可愛いチョイス……!」
「――妹が食べていたんで、自分も食べたくなりました」
都会だからか、たい焼きのフードデリバリーを見つけて注文。リヒトは記憶の中にのみあった味を、実際に体験するのであった。
「……美味いですね」
――――④――――
「――ダーメだ。五日間バイトやってみたけど、全然コレって言うのが見つからねぇ」
「鬼灯家に関係ある会社といっても直接関わってはいない所ばかりでしたしね」
「ていうか普通のバイトなんだよな。あのだっさい白装束着る仕事も無いし……もしかして私たち、めちゃくちゃ運が悪かったのか?」
「ともかくです。やり方を変えた方がいいかと、期限は特に指定されていませんが……時間が有るという訳ではなさそうですので」
「どういうことだ?」
「すいません。今はまだ語れるものではないので……」
「めっちゃ含むなよ、怖くなるじゃんか……」
「すいません」
「ああもう、話変えるけどさ。リヒトってなんかヤマトの名前言う前になにか言い掛けてない? “オヤ”……みたいな」
「……言いかけてますね」
「言えないやつだったらいいけど、ヤマトの本名みたいなの?」
「いえ、そういうわけじゃ……すいません」
「本当に気になっただけだから気にすんな。むしろ聞いちゃいけないやつだったか? そうだったら悪い……」
「いえいえ」
「――ごめんお待たせ! 遅くなっちゃった!」
「本当に遅い!」
「だからごめんって! ……ううっ、せっかくの外食で楽しみすぎて寝坊しちゃた……」
「外食って言っても『竹屋』に行くだけだろ……しっかりとおめかしまでしちゃってまあ」
「分かってないな。今日は三人で始めてのお出かけなんだよ! いくら私たちが漫喫の民だと言っても、こういう時に気合入れないと!」
「それなら気合で、ちゃんと起きろ~?」
「そ、それでリーくん! どうかな? この服似合ってる?」
「……すいません、服の事はあまり良く分からなくて」
「そ、そうなんだ。ううん、気にしないで!」
「でも、紺色はナコにとっても似合ってると思うよ」
「ほんと!? えへへ……嬉しい!」
「良かったなナコ。バイト5日分のお小遣いをはたいて買っただけあったな」
「うん!」
「でも、今日は別に奢りじゃねぇからな、次のバイト代から返してもらうからな」
「はい……この度は本当にありがとうございます、マリカ様」
「良かったら、今日は自分が出しましょうか?」
「え!? いいの? ……ううん、いいの! ただでさえバイトの時は頑張ってもらってるから、ご飯ぐらい自分の分は自分で出さないと!」
「借金だけどな」
「そ、それは言わないで!」
「……ナコのそういう所、素敵だと思います」
「ええ!? 素敵だなんて、そ、そんなこと急に言われても……えへへへへ!」
「……今から行き先、『シテレア』に変える?」
「あ、それ良いかも……でも、入れるかな?」
「あそこは入れるってさ」
「『シテレア』?」
「もしかして『シテレア』も知らない? えっとね。安くて美味しいイタリアンが食べられる店だよ!」
「……サイゼリア?」
「シテレアだって、リヒトもそれでいいか?」
「良いですよ。行ってみたいです」
「よし、じゃあ今日はしシテレ――きゃっ!?」
「ナコ!」
「あ、り、リーくんありがとう……ち、近い……!」
「おい、あぶねぇだろうが! リヒトが受け止めてなかったら怪我してたぞ!?」
「……さい……るさい……」
「な、なんだよ……!」
「マリカこっちへ……とにかく離れよう二人とも」
「い……うるさい、うるさいうるさいうるさいうるさい!! お前ら全員うるさいんだよ!!」
「ひっ!」
「お、お前ら、全員――死ね!!」
「――〈混因封箱(コトリバコ)〉!」
ナコにぶつかってきた男は、懐から玉虫色の箱を取り出すと、地面に向かって投げつけた。
すると、中から人ならざるもの『人外存在』が現れる。
体はまるでエビ、その両手は巨大なハサミとなっている。妖怪カミキリ。
本来であれば髪を斬るだけの小さい手鋏は、人間の胴体を真っ二つにできるほどの大きさであった。
「きゃああああああああああ!?」
「な、なんだ!?」
「2人とも、自分の後ろに!」
「いや、それよりも逃げようぜ!」
「……いいえ、どうやらアレは自分たちを標的にしているようです、走って逃げられるか分かりません」
「り、リーくん……」
「安心してください。言った筈です……お二人は自分が守ると」
リヒトはずっと考えていた。もし本当に二人を守るとなったら、自分はどうやって戦うのだと。
ヤマトから受け継いだ記憶を参考に考えていた。
そうして辿り着いたのは、人々を守るために戦うヒーローたちの残影。
リヒトは構えて、そして宣言する。
「――〈影変身〉」
ヤマトからもらった『布影』の断片が彼を覆い、アーマースーツとなる。
そのデザインは日曜日の特撮番組に出てくる、ヒーローのようであった。
「な、なんだてめぇはぁ!?」
「ぶ、ブレイダー?」
ナコが呟いた、この世界のヒーローの名前。
リヒトは、こちらに合わせた方がいいだろうと正体を隠すためもあって、名乗りを上げる。
「自分は……『ブレイダー・シャドウ』。契約に従い、お前をこの世から取り除く」
――――⑤――――
戦いが終わり、イタリアチェーンシテレアへとやってきた三人。注文する事なく、先ほどの話をしていた。
「リーくん! めっちゃ格好よかった!!」
「ありがとう、ナコ」
「ほんとのほーんっとに格好よかった!」
「……本当にありがとうね」
「もう、最後のパンチも本当にすごくって。『人外存在』をどーんって! ほんとすごかった!」
「〈アビスティンガー〉です……名前、ダサくなかったですか?」
「ううん、凄い格好いいよ! 私は超好き!」
「ナコ、おちつけ〜」
「でもでも、なによりも私たちを守ってくれてありがとね!」
「それが契約ですから」
「それでもだよ、リーくん!」
「そうだぞ、感謝は素直に受け取ってけって……まあ、あ、ありがとな」
「マリカ、それで照れるのはちょっと違わない?」
「うっさいわ!」
「……それならはい、素直に受け取っておきます。ありがとうございます」
「えへへっ、なんでお互い感謝しあってるんだろうね」
「ああもう恥ずかし、いいから注文しようぜ!」
「はい私、ドリアとたらこパスタとハンバーグと骨付きチキンとエビサラダ!!」
「だから多いって! 言っておくけど貸した金はガチで回収するからな」
「わ、分かってるから任せて!」
「ったく、リヒトはどうする?」
「分からないので、お二人に任せます」
「おー、じゃあサラダとドリア頼んでおくな、ドリンクバーは? 漫喫でいつも飲んでるが要るか?」
「欲しい!」
「そんじゃあ、全員分頼んでっと……でだ、さっきのってなんなんだ?」
「ブレイダーって事でしょ?」
「ブレイダーってあれか? 日曜日の朝、トゥルラブの前にやっていたやつ」
「名前に関してはナコが自分を見てブレイダーって言っていたので、それにあやかりました」
「そうだったんだ!」
「あれ自体に関しては、オ……ヤマトから貰ったものですね。といっても戦うの初めてでしたが」
「そうだったの? こ、怖くなかった?」
「はい、2人を守るためだったので」
「リーくん……!」
「メロつくのは後にしろ~……まあ、守ってくれてありがとな」
「リヒトのは分かったけど、あの『人外存在』はなんだったんだ? アイツ、ナコにぶつかってきた奴が持っていた箱から出てきたよな?」
「そうですね。自分も見ました。おそらくですが、あの箱の中に『人外存在』が収納されていて、好きな時に出せる道具といったところですかね」
「怖かったよね。いまあんなのあるんだ……」
「……なーんか、気になるんだよな」
「気になるって?」
「いや、本当になんとなくなんだけどさ。あの貪波が操っていたでっかいやつ居たじゃん ……それとどこか一緒だったような気がして」
「貪波とは、確か鬼灯家の分家という?」
「そうそう、いやマジでそう感じたっていうか、本当に勘でしかないんだけどさ」
「……今のところバイトしていて進展はなさそうですし。この箱について調べるのはありかもしれませんね」
「でもあの犯人、もう警察に捕まってるよね?」
「はい。ですがもしも鬼灯家が関わっているのなら――きっと今日の出来事は始まりでしかないように思います」
「「ゴクリ……」」
≪――ご注文の品、持ってきただワン!≫
「「……ご、ごくり」」
「とりあえず食べましょうか」
ちょうどいいタイミングで、配膳ロボットが注文した料理たちを持ってきた。
初めてドリアを食べたリヒトは、いたく気に入り、おかわりをした。
その様子は子供のように夢中になって可愛かったと、後にナコは語る。