陰陽師が居る日本に召喚されたのは元日本人【悪魔】   作:庫磨鳥

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悪魔、かちこまれるってよ。

 

 ――どうして、俺はこの世界を【地獄】と呼んだんだっけか?

 

 なにも無い世界だったから?

 なにもできない世界だったから?

 違う、この世界には【悪魔】が居たからだ。

 

 ――【悪魔】には“触覚”があった。

 もしかしたら“嗅覚”や“味覚”も、元から有ったかも知れないが、それを調べられる手段は【地獄】に無かった。

 

 そう、【悪魔】は触れた感覚、体温、痛みを感じられるのに、【地獄】には何も無かった。

 だからきっと、【悪魔】は他の【悪魔】に“刺激”を求めた。

 暇だったから、【地獄】には何も無かったから。

 

 ――殺し合いを求めた。

 

 雷と同じ動きができる、両手ランスのチェスのポーンみたいな【悪魔】が、俺にめがけて腕を突き刺そうとしてくる。

 それを俺は『布影』で絡め取ると、そのまま()じり殺した。

 

 ショベルカーの形をした(ひる)のような【悪魔】が、俺を頭なのかアームなのか、そういった部位で襲いかかってきたので、『布影』をスキマから入れ込んで内部からズタズタにして殺した。

 

 全長50メートルは有ったか、宙に浮かんだ巨大な手の平と、月のような頭の【悪魔】。オーロラのような白い幕に触れると、消しゴムみたいに消えたが、俺の『布影』で飲み込むほうが早かった。頭だけになった奴を〈魔杭拳(まこうけん)〉で砕き殺した。

 

 よく分からないが襲ってきたゴリラみたいな体型のイタチの頭を握り潰して殺した。

 地面を這っていた足と目玉が無数にあるムカデを串刺しにした後、頭を踏み潰して殺した。

 他にもたくさんいたけど顔を見るまでもなく『布影』で飲み込み、切り、潰し、刺し、捻り……殺した。

 

 そうやって殺して、音につられて近くに居たり、通りかかった【悪魔】が、さらに集まって来て、そいつらも殺して、(むくろ)を増やして、死屍累々(ししるいるい)で築いた山の上に座る。

 

 まるで戦争の後だと、他人事のように思った。

 それぐらいには、もう見慣れてしまったし、やり慣れてしまった。

 

 ――今回は、どうしてこんな事になったんだっけ?

 

 そうだ、大切な友達を殺されたんだ。

 

 奇跡の造形といえるぐらい、正に犬みたいな【悪魔】だった。

 ガラクタの金属を繋げたような可愛らしい姿で、ワンワンと鳴いた。

 弱い【悪魔】だった。【権能】と呼べるものは体を分裂させて自由に動かせるものだけで、他になにも取り柄のない【悪魔】。

 流石に、放っておいたら殺されてしまう。そう思って側に居た。

 

 俺に懐いてくれた。

 久々に、楽しい日々を送れたんだ。

 

「――やはり君だったか虚構、随分と……なんて言うんだったか……そうだ、派手にやったんだな」

「……何のようだ?」

 

 嫌な奴が現れた。

 いつもは前に現れたら殺そうとしていたのに、やる気が湧かない。

 こういう時はこいつも俺を殺そうとしないので、会話の時間が生まれてしまう。

 

 ――時は醜悪(しゅうあく)だ。アレだけ絶対に殺したかったのに、今では気分次第で選んでいる。

 どうせ何時か、殺すんだ。それが今じゃない。

 そんな事を考えてしまっている。

 

「なに、ちょっと様子を見に来たんだ」

「だったらもうどっか行けよ」

「ふむ……おお、やはり居たか、消されずに残っていんだな、運の良い奴だ」

 

 こいつにしては珍しく、俺の言葉を無視して【悪魔】たちの残骸の1つを手に取った。

 覚えがないという事は、他の【悪魔】が殺したやつか、それとも俺が一掃した時に混ざっていた奴か。

 

「……そいつがなんだ?」

「最近、実は私も【悪魔】に日本語を教えていたんだ」

 

 ――どうしていま、その話をする?

 

「でも難しいな。何百か話して、最近1体だけ興味を持ってくれた」

 

 なんで、そんな楽しそうに話をする

 

「その【悪魔】と近くで、授業をしていたのだが……大きな音に反応して、こちらに向かってね」

 

 ――止めろ。

 

「こうなっていたという事さ」

 

 そういって手に持った【悪魔】だった残骸を、俺の前に出した。

 いや、どうやらまだ生きていたようだ。口が動き出す。

 

「……や……ま……と……やま……と……まと……や……」

「私が教えたんだ。君も言っていただろう? 何事も、まずは名前から覚えるものだと」

 

「――やまと……や……」

 

 その【悪魔】は動かなくなった。

 

「ああ、死んでしまったか。まあいい、また日本語を教えよう……なあ、虚構」

 

 いつもの調子で、俺を呼ぶ。

 

「――お前はもう、教えないのか?」

 

 

 +++

 

 

 ――ジリジリジリジリジリ!!

 

「……はあ、クソみたいな夢見たわ」

 

 リヒトと満梨花(マリカ)ちゃんたちと合流させたあと、俺は居間で横になって寝た。

 そのさい、【地獄】って1日という概念ないから、どれくらい寝て、起きたのか全然分からなかった。

 そのため、もしも寝たら1年ぐらい起きないんじゃないかと、怖くなって買った目覚まし時計のアラームで目が覚める。

 

 「……ナイス」

 

 俺を悪夢から起こしてくれた、目覚まし時計に感謝しつつ、アラームを止めた。

 時刻は朝の六時。特にこの時間に起きた理由は無く、強いて言うなら単に朝早く起きたかったから。

 家の外では小鳥たちが鳴いている。すごい聞き馴染みあるけど、あれが何の鳥であるかは、まったく分からない。

 

 「ったく、なんであの時の事を……楽しかった反動かなあ……」

 

 最低の悪夢。

 大切なものを殺されたからと、怒りに任せて無差別に【悪魔】を殺し回った結果。スッキリするわけでもなく、最悪の結末を迎えた。

 法律がないので罪に問えないから、失敗としか言えない絶望。

 

 せっかく、日本で楽しい時間を過ごしたんだ。少しぐらいは(ひた)ったっていいじゃないか。

 

「やっぱり、嫌なことはやりたくないな」

 

 でも夢を見たおかげで改めて、この日本で平和に暮らしたいなと強く思った。

 

「ミサキちゃん起きたら、なんか外に食べに行くか」

 

 鈴明(スズメ)ちゃんがいつ来るか分からないが、遅くても昼ぐらいだろう。

 流石に、これだけ早くは来ないだろう……来ないよね?

 いや、来そうだな。今のうちに〈影鴉(かげからす)〉を通した確認の連絡をしたほうがいいか。

 〈影鴉(かげからす)〉の様子も気になるしな、1回確認ついでに連絡するか。

 

 〈影鴉(かげからす)〉。もしかしたら、リヒトと同じ生命が宿っているかもしれない。

 そうなると、これからは生物系は〈影法師〉になると考えて、生み出さないとなぁ。

 

 日本初日、調査のために出した〈影鴉(かげからす)〉たちの事は、まあちょっと数が多すぎて、まあうん、後で視点を共有して、どう過ごしているのかは確認しないとだな。

 

「……朝マック、行くか?」

 

 朝ごはんどこで食べようかと考えていると、1番最初に浮かんだのは前世の日本において、もっとも有名なハンバーガーショップの朝限定メニューが思い浮かんだ。

 バーガーじゃなくてマフィンなんだけど、アレはアレでマジで美味いんだよなぁ。

 フライドポテトが無いから嫌ってやつ結構聞くけど、俺はハッシュドポテトも同じぐらい好き。

 それに何ていうか、朝にハッシュドポテトを食べているというシチュエーションが妙に特別というか、そういうのも好きなんだよな。

 

「駄目だ、考えたら超行きたくなってきた。なんだったなら鈴明(スズメ)ちゃんも誘ってみるか」

 

 そもそも、こちらの世界にもあるのだろうかマック。もしかしたらフミリカマートみたいに似たような店かもしれない。

 

「……まさか、アレがあるのか。伝説のワクドナルドが……」

 

 もしそうだったら、正直、マックよりもテンション上がっちまうかもしれねぇ。

 

 「……いやぁ、あんまり寝過ぎちゃうのも体に悪いし、ミサキちゃんをそろそろ起こそうかな~」

 

 待ちきれなくて、昨日は早く寝ちゃったし、そろそろミサキちゃんを起こそっかなぁなんて思いながら、和室へと向かおうとする。

 

 ≪たのもーーーーー~~!!!≫

 

 外からバカでかい声が聞こえてくる。

 

「な、なんだ!?」

 

 ≪たーの~~も~~~!!!!≫

「うるせぇ!? いま何時だと思ってるんだ!?」

 

 どうやら声質から、拡声器(メガホン)を使っているようで、めちゃくちゃ五月蝿(うるさ)い。

 

「ヤマト?」

「おはようミサキちゃん。寝起きで本当にごめんなんだけど、アレ聞こえる?」

 

 ≪た~~の~~~も~~~~!!!!!≫

 

「……はい」

「良かった~、もしかしたら俺しか聞こえてないかと怖かった~」

 

 いくら陰陽師が居る世界だったとしても、メガホンで“たのもー”を叫ぶのは流石に現実味が無さ過ぎたので、幻聴のたぐいかと。

 まあ、幻聴の方が良かったかもしれないが、それにしてもマジでなんだ?

 ここら辺りに人は住んでいない筈だから、間違いなく俺たちの家に向かって言ってるよな。

 

≪私は桜間ヒバリ! 桜間家長女! この家が我が愛しき妹、桜間スズメが管理する『特外地』だと知ってやってきた! 正直妹に管理されるとあって、ものすごく羨ましいが、今は置いておく!≫

 

 疑問に思っていたら、全部説明してくれた。余計な部分もあったけど。

 というか鈴明(スズメ)ちゃんのお姉ちゃんか、どうしてこの家に? 鈴明(スズメ)ちゃんが話したのか?

 まあアレだけきちんとしている子だから、本当に話してしまったとしてもワザとじゃないと思うけど……いや、なんにしても、なんていうか……鈴明(スズメ)ちゃんのお姉ちゃんにしてはその……常識を玄関に忘れてきちゃった?

 

≪いま私は陰陽師のルールとして人間であるか確認するために、こうして呼びかけている! 正直妹が朝食を作っているから完成までに帰りたいので、居ないほうがありがたい!≫

 

 ……呼びかけなら、たのもーっておかしいし、ぶっちゃけすぎだろ!

 

「どうツッコミ入れるのが正解なんだあれ……」

「ヤマト?」

「ミサキちゃんは、そのまま耳を塞いでいてね」

「はい」

 

  それにしても、俺を退治しにきたようだが事の経緯がちょっと分からない。陰陽師として仕事をするにしても、鈴明(スズメ)ちゃんが居ないのが気になるな。

 なんか妹が、ここを『特外地』として管理する事になったこと以外知らないように思えた。

 

 ≪妖力を感じないな……おかしい。本当に『特外地』はここだろうか?≫

 

 メガホンの電源いれたまま話している。反応からして妖力が存在しない人外の【悪魔】の俺が居るって事を分かっていないようだ。

 おかげで自体は把握しやすいけど本当に理由が分からない。

 ――1回、鈴明(スズメ)ちゃんの〈影鴉(かげからす)〉と感覚を共有する。場所は家の中か? うわでっけぇ台所!? もしかして個室か? ……良いな、秘密基地みたいで憧れる。

 

 鈴明(スズメ)ちゃんはすぐに目に入った。

 もう見てすぐ分かるぐらい。滅茶苦茶狼狽(うろた)えていた。

 

 ――≪お姉ちゃん!? ヒバリお姉ちゃーーん! ……こ、コレだけ呼んでも居ないって事は家の外に出ちゃった……やっぱり、ヤマト様の所に向かったんじゃ……≫

 

 鈴明(スズメ)ちゃん正解。顔を青褪めて震えている所を見るに、本当に予想外だったんだね。

 

 ≪〈影鴉(かげからす)〉さん! すぐにヤマト様にお繋ぎください! もしかしたらそちらにお姉ちゃんが行っちゃったかもです!≫

 

 パニクってるなあ、このままだと事態を把握するのに時間が掛かりそうだ。聞きたいことがあるし、1度合流した方がいいか。

 

 「……鈴明(スズメ)ちゃんに聞くしかないか、ごめんミサキちゃん、1回鈴明(スズメ)ちゃんの所に行ってくるわ」

「はい、分かった……行ってらっしゃい」

「行ってきます、すぐに戻って来るからね~」

 

 鈴明(スズメ)ちゃんに付いている〈影鴉(かげからす)〉を目標にした〈影の門〉を潜り、一瞬で鈴明(スズメ)ちゃんが居る台所へと移動する。

 

「――鈴明(スズメ)ちゃん」

「ヤマト様!?」

「突然やってきて悪い。その……恐らく君のお姉ちゃんが、いらっしゃいましてね。いま現在、家の前でメガホンを片手に道場破りみたいな事を言っているんだけど……」

 

 鈴明(スズメ)ちゃんは顔を真っ青にする。完全になにも知らなかったわけね。

 

「ご、ごめんなさいごめんなさい! 姉が大変無礼な事を……!」

「まあまあ、とにかく鈴明(スズメ)ちゃんの方からお姉ちゃんを止めてほしいんだけどできる?」

「分かりました、いますぐ連絡して……お姉ちゃん、携帯電話を山に落としてます……!」

「マジか、このタイミングで……」

「いえ、いつも落としていますので、タイミングはあまり関係ないかもです」

 

 携帯落としている状態が必然なんだ……。

 

「それでお姉ちゃんってなんで、俺を退治しようとしてるの?」

「そ、それなんですが、多分。私が危険な目に合わないようにするためだと思います。ごめんなさい! 止めたのですが、姉の行動力を甘く考えていました!」

「……愛されているねぇ」

 

 言葉に困って、そんな事を口にする。

 

「でも、流石に本人に黙って、物理で解決しようとするのはどうなんだ?」

「姉はその……難しい事が考えられないからと、物事の全てを物理で解決する傾向にありまして……今回もそういった事情かと」

「ちなみに、このまま放置したら帰ると思う?」

「最悪の場合、家を斬っちゃうかも……です」 

「……その、他所様の家族に、こんな事言いたくないんだけど……お姉さんって脳筋(のうきん)?」

「馬鹿ですっ!」

 

 あ、もうそこは共通なのね。苦労してるなあ。

 

「じゃあ、俺が説得して止まるような感じじゃないな……鈴明(スズメ)ちゃん、これからお姉ちゃんと戦う事になるけどいい?」

「……はい」

 

 こうなったら戦った方が早いと確認を取ると、鈴明(スズメ)ちゃんは、重々しく頷いた。

 

「お姉さんってどれくらい強い?」

「今世代の中で前衛最強と呼ばれていて、神と呼ばれた太古の『人外存在』を単身で討伐した事があります」

「めっちゃ強い」

 

 そうなると、手加減できるかが非常に不安だ。

 俺は【悪魔】の中で死にづらいとはいえ、戦いは何が起こるか分からない。

 殺す手段はいくらでも思いつくけど、生かしたまま戦いを終わらせるとなると、どうしていいのか途端にわからなくなる。

 

 【地獄】での戦いの日々は、最初こそ【悪魔】たちを殺さないようにしていたが何処かで慣れてしまって、殺す事が当たり前になってしまっていた。

 この日本に来た時、白装束を殺さずに鎮圧(ちんあつ)できたのは、圧倒的な実力差があったからだ。

 それからは青い鬼やダイダラボッチなど、周囲を気にしたものの殺すつもりの攻撃を行ったため、そこまで気になる事はなかった。

 

 ――人を殺さずに戦うこと。できるのか、俺に。

  

「本当にごめんなさい。今回の件、桜間家四女として心から――」

「いいよいいよ。鈴明(スズメ)ちゃんはなにも悪くないし……まあ、お姉ちゃんに関してはこれからだと思うけど、重くは考えていないよ」

 

 【悪魔】にとって、殺し合いなんて日常茶飯事だったためか、ヒバリちゃんが俺を殺しに来た事に、迷惑だなぁぐらいしか思っていなかった。

 それに暇潰しで他の【悪魔】を殺すみたいな理由と比べれば、妹を想っての行動だからか好感すら持ってしまっている部分もある。

 

 だから余計に戦いたくない。殺してしまうのが怖い。

 いかんな悩んだって仕方がないのに……。

 まあ戦うぐらいなら、いったんミサキちゃんとほとぼりが冷めるまで逃げてもいい。

 いやでも、あの家はもう帰る場所になっちまったんだよな。

 ミサキちゃんもきっと残念がる。リヒトにあの家に帰ってこいって言ってるし。

 ……困ったなぁ。

 

「……ヤマト様」

「ん? どうしたの?」

「勝手なお願いだって分かっています……でも、どんな対価だって払いますので、どうか姉の命を奪わないでください!」

 

 鈴明(スズメ)ちゃんは、その場で土下座した。

 人間じゃない俺に、このお願いをする事に、どれだけの覚悟を持った事か。

 

「……どうして、そこまで?」

 

 土下座を止めさせようとしたのに、俺の口から違う言葉が出た。

 

「姉は、痩せ我慢して周りに助けを求めない私を真っ先に助けてくれたんです。それだけじゃなくて、どんな時だって、いつだって来てくれて正面から助けに来てくれた、私にとってヒーローのような姉なんです。だから……!」

 

 ……しまったな。こんな重い感じにするつもりじゃなかったんだけどな。

 鈴明(スズメ)ちゃんには申し訳ない事をした。

 

 ……でもそうか。

 

 ――殺さなくていいんだな。

 

「……日本で、人殺しはだめでしょ?」

「ヤマト様!」

「まあまあ、俺に任せなさい。悪いようにはしないから……その代わり対価として」

 

 

「来る時、朝マック買ってきて、4人分な」

 

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