陰陽師が居る日本に召喚されたのは元日本人【悪魔】   作:庫磨鳥

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悪魔、みんなで朝ご飯を食べるってよ。

「この度は身内がとんだご無礼を。大変申し訳有りませんでした……」

 

 正面から見下ろした女子の後頭部を、見慣れるって良くないと思うんだ。

 

「いいよいいよ。いいかげん頭を上げて鈴明(スズメ)ちゃん」

「ですが……」

「本当に気にしてないから……それに鈴明(スズメ)ちゃんが頭を上げてくれないと……」

「スズメは悪くない。全て私が勝手にやったこと。だから許してもらえないのなら、この私が責任をとって腹を斬ります」

「お姉ちゃんの方も(しず)まらないよ」

「お姉ちゃん……」

「それにほら、買ってきてくれた朝マック……じゃなくて、朝マッス冷めちゃうから食べよう、ミサキちゃんもお腹空いたでしょ?」

「……良い匂い」

「わ、分かりました」

「はい、じゃあ話はこの辺で――いただきます!」 

「「「いただきます」」」

 

 朝のカチコミ騒動から30分ほど経って、ミサキちゃん、鈴明(スズメ)ちゃん、ヒバリさんの3人。そして1悪魔の俺は居間へと集まり、朝ごはんを食べる事となった。

 

 ――“昼を故郷(ふるさと)の味”なんだと聞いた時。じゃあ“朝は特別の味”だなんて思ったのはいつだったか。

 人間時代の、本当に小さな子供の頃だった気がする。もしくは誰かが言ったのを覚えていただけかもしれない。

 当時の俺にとって、朝ご飯と言えば家で食べるのが当たり前で、朝に買いに行くとなる時は、必ず特別な日の朝だったような気がする。

 それこそが日本で1番有名なハンバーガチェーン店。

 この世界での名は“マスドナルド”。略して朝マッス。

 朝マッスの商品はハンバーガーではなくマフィンになる。なのでこれが【悪魔】になってから初めてのハンバーガーと言われるとちょっと違うかもしれないが、そんなこまけぇことはいいんだ。

 なにせ俺が食べたかったのはハンバーガーというより、この特別な朝ごはんなのだから。

 

 【悪魔】の手で気をつけながら包み紙を開き、中身のマフィンを(あら)わにする。

 ふわっとパンとか肉とか、あとなんか記憶に有るあの香辛料的な匂いがした。

 これだけで、目があったら号泣レベル。

 なんかもう情緒がおかしい。ジャンクフードだぞ。もっと軽い気持ちで食べるべきだろ。

 

 白いパンに分厚い目玉焼き、チーズ、肉が挟まれたソーセージエッグマフィン。

 俺の口なら、一口で食べてしまえるほどのサイズ。でも出来るからってしたら、なんだかもったいない。

 でもアニメの影響だったか、子供の時はハンバーガーをひと口で食べる事に、妙に憧れを持っていた気がする。

まだベーコンとチキンがあるから、最初の1個だしそうしようかなんて悩んだが、それはそれで勿体(もったい)ない気がして、半分だけ食べる事にした。

 俺の(あご)はめちゃくちゃ強いし、ギザギザな歯はナイフ並に鋭い筈なのに、噛み締めたマフィンは、しっかりとした弾力が感じられた。

 

 ――知っている味がした。やっぱり名前が違っていても同じらしい。

 

 名前が違うのもおかしい話だ。もしかして並行世界の収斂進化(しゅうれんしんか)みたいなものでもあるのか?

 まあ難しい事は、部屋の隅にでも置きまして――。

 

 「美味い……」

 

 朝の特別な味を、しっかりと味わいたい。

 マフィンの甘さが、肉やチーズのしょっぱさといい感じに混ざって、これがまた最高なんだ。

 朝はお茶派の俺であるが、今回ばかりはと頼んだコーラを勢いよく飲む。

 

「……あ〜、これだぁ」

 

 喉の奥で弾ける炭酸。【悪魔】の体でもしっかり感じられて良かった。

 そして、人によっては朝の本体であるとまで言われる、ハッシュポテトをぱくり。

 サクッとした塩気がマジで最高すぎる。

 

「ミサキちゃん美味しい?」

「美味しいです」

 

 小さな口で、もぐもぐと食べているミサキちゃんの目は、とっても輝いていた。

 

「朝のマスドナルド、初めて食べるけどこんな味していたんだ。濃いけど美味しいね」

「1度食べたら、もっともっと食べたくなる味ですね」

「あれ? もしかして2人とも朝は初めて?」

「というか、マスドナルドを初めて食べた」

「私もです」

「マジで!?」

 

 日本人なら人生で1度は食べているであろうハンバーガーだって思っていたから、大袈裟(おおげさ)に驚いてしまう。

 

「家庭の事情とか?」

「ううん、単に今まで食べる機会が無かっただけ」

「はい、私は自分で料理をする事もあって、外食自体行く機会があまり無くて、実はコンビニも陰陽師学校に入学してから友達に誘われて初めて経験しました」

「そうだったんだ」

 

 陰陽師四大名家なんて呼ばれているから、厳しいルールでもあるのかと思ったら、本当に食べるチャンスが無かっただけらしい。

 

「だったら、今度4人でお昼食べに行こうか」

「はい是非!」

「スズメが行くなら私も行くよ」

「お昼?」

「そう、昼マッス。この店お昼になると食べられるものが変わるから、その時にまた皆で食べにいきたいねって話」

「……お昼、食べたい」

「ん? ……あ、もしかして今日のお昼に食べたいって事?」

「はい」

「あー、それもいい案だけど、カロリーや栄養バランス的にまた今度ね」

「……はい」

 

 残念そうにモグモグを再開するミサキちゃん。俺を真似てナゲットにバーベキューソースを付けて食べたら、小さな笑みが浮かんだ。

 契約主の意思は尊重したいけど、さすがに二食連続で食べるのは体に悪いと思うからね。これから背が伸びるかも知れないし、栄養はあまり(かたよ)らせたくない。

 

「……ふむ」

「お姉ちゃん、考え込んでどうしたの?」

 

 なにやら、マフィンを見ながらヒバリさんが真剣な様子で考え込んでおり、それが気になった鈴明(スズメ)ちゃんが声を掛けた。もしかして途中で口が合わなくなったのだろうか?

 

「……このマスドナルド。スズメが買って来てくれたから、これはスズメの料理としてカウントしていいか考えている。もし違っていたら、私は1食分スズメの料理を食べそこねてしまった事になってしまい、とても残念」

「真剣に何を考えているんだお前は」

 

 妹大好きヒバリさん。まだ今日あって三時間も経っていないけど、冗談ではなく本気でそう思っての発言だってのは分かる。

 分かるからこそ、マジで意味分からないんだけどね。

 

 ちなみに鈴明(スズメ)ちゃんが来る前に、ミサキちゃんとの自己紹介を済ませた。その時はこれから朝ごはんだしと簡単に、俺を召喚してくれた契約主とだけ伝えたのだが、その時の反応が……。

 

 ――ふむ、ビビッと来ました。ちょっとお姉ちゃんと呼んで下さい。

 

 なんか感じたらしく、初対面のミサキちゃんに姉呼びをしてくれとお願い。

 それで、ミサキちゃんが不思議に思いながらも言われた通りに、ヒバリお姉ちゃんと呼んだら、うんうんと言葉を噛み締めるように頷いて、ちょっと引いた。

 

 ――なるほど、スズメとはまた違った良さがありますね。妹の可愛さには色んなタイプがあると気づきを得られたような気がします。どうでしょう、桜間の次女(妹その1)三女(その2)と交換するというのは。

 

 などと(のたま)ったので、ざけんなと丁重(ていちょう)にお断りしました。

 桜間家長女のヒバリさん、明らかに鈴明(スズメ)ちゃん以外の妹に雑なんだよな。

 ただ態度や他の言葉から察するに仲は悪いわけじゃなさそうではある。むしろ現実の姉妹ってこれぐらい雑な関係だよなって印象。むしろ鈴明(スズメ)ちゃんの方が本当に特別という事なんだろう。

 

「スズメ。これをスズメの料理として食べてもいいかな?」

「私が作ったわけじゃないので止めてね?」

「そうか、残念だけど仕方ない。あ、そうだ。このナゲットをスズメが食べさせてくれるなら、実質スズメの料理に――」

「ならないよ」

 

 本当に自由な姉だ。鈴明(スズメ)ちゃん頑張れ、お姉ちゃんのブレーキを踏めるのはきっと君だけだ。

 エンジンを止められるとは言ってない。

 

 まあでも、こうして四人で食べられて良かった。

 そう思えるぐらい、この朝は俺にとって特別なものとなった。

 

 +++

 

「――それで、ヤマト殿はどうしてスズメと真銘(しんめい)契約を?」

 

 全員が食べ終えて、ごちそうさまを言い終わると、早々にヒバリさんが鈴明(スズメ)ちゃんとの真銘契約に関して尋ねてくる。

 

鈴明(スズメ)ちゃん、話していい?」

「……私から説明します」

 

 鈴明(スズメ)ちゃんは観念した様子で、なるべく言葉を選んであの夜の事をヒバリさんに話した。

 どうしてここまで鈴明(スズメ)ちゃんが言葉に気を遣うのか、それは自分が青色の鬼に襲われたって知ったら、この姉は間違いなく暴走するって分かりきっているからだろう。

 そのため鈴明(スズメ)ちゃんは話しても大丈夫なようになるまで黙っている事にした。結果的には、それが今回の襲撃(カチコミ)に繋がってしまったのだが、俺は全面的に鈴明(スズメ)ちゃんの判断が正しいと思う。

 

「そう、そんな事があったのね――今から陰陽師学校斬ってくる」

「お姉ちゃん落ち着いて!?」

 

 だって絶対こうなったもん。

 凄い、予想と寸分(たが)わない光景。未来は変えられなかったね……。

 立ち上がろうとしたヒバリさんを、鈴明(スズメ)ちゃんが腕を掴んで引き止める。

 

「あ、あれは事故だから! 学校の責任じゃないよ!」

「違う。完全に学校側の責任だよ。補習課題の指定地に『人外存在』が居たって言うのは本当に有ってはならないこと」

 

 ……なんか、すごくまともな事を言ってる……のか?

 俺の気のせいじゃないよね? 1個前の言葉が学校を斬ってくるだったから、素直に受け入れられない。

 

「だからって斬るのは駄目だよ! 普通に犯罪だよ!?」

「兄が言っていたよね。人は時に法律を守るだけではどうにもならない事があるって」

「それって“だから最後に助けてくれるのは人同士の繋がりだからマナーや教養が大事なんだよ”って後に続いたやつだよ!」

「……そうだったっけ?」

「大事なところ忘れないで!?」

「あー、それであの廃墟に鬼が居たのって、そんなにおかしい事なのか?」

 

 このままじゃ俺を殺しに来た時と同じ調子で、学校にカチコミに行きそうだと、気になった事を尋ねて話題を逸らす。

 

「かなりおかしい。東京都内には『人外存在』を感知するための最新設備が隙間無く設置されている。それなのに鬼クラスの強力な『人外存在』が感知できないなんて、ありえないよ」

「そこまでなのか?」

「『人外存在』が持つ『妖力』は、現世(うつしよ)では例外的なエネルギー。だからこそ、すごく分かりやすい。日本語を喋っていたのなら幽世(かくりよ)から現れて直ぐの個体じゃないだろうし、 鬼ともなれば数十センチ移動しただけで痕跡を感知できるものなのに、それが出来なかったら()(ぽど)の異常が起きているって事になる」

 

 ヤバい、いつ双子と入れ替わったのって思うほどヒバリさんが知的に見える。

 

鈴明(スズメ)ちゃん、なんかヒバリさん急に賢くなってない?」

「姉は陰陽師関係は、本当にしっかりしているんです……」

 

 そういえばヒバリさんは一般教養をかなぐり捨てたけど、代わりに陰陽師に特化した教育を受けて育ったんだっけ。

 きっと他にも沢山の才能があって、頭も良かった。

 でも家の事情で陰陽師馬鹿にさせられた。昔見た漫画を元とした、そんな言葉が思い浮かんだ。

 

「……スズメ。その廃墟、なにか気になる事が無かった?」

「違和感……ごめん、逃げるのに必死であんまり覚えていない」

「謝らなくていいよ。スズメのやった事は正しい。全力で生きるために諦めずに頑張ったね。お姉ちゃんとして誇り高いよ」

「お姉ちゃん……」

「廃墟に居た青鬼、スズメを暗殺するために人が仕掛けた可能性が高いと思ったから、何か不審なものがあったか気になっただけ」

「……え?」

「おい、言葉の寒暖差(かんだんさ)に気をつけろ、(からだ)悪くするわ」

 

 鈴明(スズメ)ちゃんの気持ちと、場の空気を温めて冷やしたヒバリさんは、そのまま気にせず話を続ける。

 

「というかなんで、鈴明(スズメ)ちゃんが狙われてるかもってなったの?」

「妖力を感知できず、まるで『人外存在』が急に現れたみたいな時は大体人の手が加わっている。青鬼がもしそうなら、スズメが狙われたって考えるべき」

「にしたって暗殺は話が飛び過ぎじゃない?」

「スズメも桜間家の子だから狙われる理由はいくらでもあるから、そう考える方が自然」

「……っ!」

 

 ハッキリと口に出すヒバリさん。命に関わる事はとことん正直な人だ。

 確かに自分が、どれだけ危険かを把握するのは大事なことだと思うけど、おかげで鈴明(スズメ)ちゃんは強く動揺して顔を青くしている。

 ……そうだな、誰かが自分の命を狙っていたなんて、怖いに決まっている。

 

「スズメちゃん、大丈夫?」

「ミサキちゃん……」

 

 心配になったミサキちゃんが側に寄って声を掛ける。しかし、鈴明(スズメ)の震えは止まらない。

 ミサキちゃんは少し悩んだ後、両手で鈴明(スズメ)の手を握りしめた。

 

「み、ミサキちゃん?」

「怖い時、お母さんがこうしてくれた」

「……ありがとう」

 

 鈴明(スズメ)ちゃんは少しずつ落ち着きを払っていく。ミサキちゃんナイスと親指を立てて称賛するが、意味が伝わらずに首をかしげる。

 

「……ごめんねスズメ。でもこういうのは知っておかないと事態の把握が遅れる。それはほんの一瞬かも知れないけど、その一瞬で生命が左右されるから、ショックを受けるなら安全な今の方が良い」

「お姉ちゃん……だったとしても、もう少し覚悟を決めさせて欲しかったよ……」

「……?」

「駄目だこのお姉ちゃん、まるで理解していない」

 

でも急に現れる『人外存在』か、なんだか覚えがあるなぁ……。

体育館のダイダラボッチ。あの時満梨花(マリカ)ちゃんの話に集中していたとはいえ、あれも急に現れたように思える。

 

「……もし、暗殺が事実だったら、犯人って誰か分かるのか?」

「まだ分からない。でも人を食った可能性のある青鬼は『人外存在』としても位が高い。それを完全に隠蔽できる術は並の陰陽師じゃ使えない。術自体が難しいのもそうだけど、封印するための道具を用意すると結構高い。陰陽師界隈は狭いから、すぐに絞れると思う」

「……その中に、“鬼灯家”って含まれたりする?」

「最有力候補。というか鬼灯家のこと知ってたんだね」

 

 まさかと思って探りを入れたら、まさかのビンゴ。しかも最有力候補と来たか。

 

「……ミサキちゃん、鈴明(スズメ)ちゃん。悪いけどヒバリさんと話したい事があるから、隣の部屋に行って貰っていい?」

「分かった」

「は、話なら私も……」

「ごめん。大人同士だからこその話がしたいんだ」

「……スズメ、あっちで待ってて――大丈夫だから」

「……分かりました」

 

 ミサキちゃんと鈴明(スズメ)ちゃんは手を繋ぎながら隣の部屋へと移動した。

 

 鈴明(スズメ)ちゃん、明らかに落ち込んでいたな。

 でも、これから話す事はもし年齢制限が付くなら18歳以上になるのは間違いないもので、まだ子供な2人に話すのは、どうしても気が引けていた。

 だから誰に聞くべきかと悩んでいたが、こうしてヒバリさんと出会えたし、是非とも話を聞きたかった。

 

 真面目な話だと感じ取ったのか、ヒバリさんは俺の正面へと移動すると、背筋を伸ばした。

 

「ヤマト様……最後の馳走(ちそう)、本当に美味しく頂きました」

「……ん?」

「それでは只今(ただいま)より、腹を斬りますので、介錯のほうどうぞよろしくおねがいします」

「まだその話終わってなかったんかい!」

 

 なんか鈴明(スズメ)ちゃんにちょっと冷たいなと思ったら、今生(こんじょう)の別れみたいなノリだったの!?

 

「怒りは御尤(ごもっと)も、本来であれば〈始まりの光(プリミティブ・ライト)〉を使って跡形もなく消え去り、遺体を残さずに消えさるのが道理ですが、スズメに弔って貰いたいという最後のわがままを、どうかお許し下さい」

「人の話聞けよ、この馬鹿っ!」

 

――馬鹿って中傷(ちゅうしょう)の類ではあると思うし、そもそもなにを持って、そう呼ぶのかも曖昧だから言わない方がいい言葉なんだけど。

 今後は自分の設置したゴール地点を頑固(がんこ)に変えないやつって意味で使っていこうかな……。

 

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