陰陽師が居る日本に召喚されたのは元日本人【悪魔】 作:庫磨鳥
「それで、話ってなに?」
2000年代に腹切りとかねぇんだよ馬鹿。
じゃあ他に罰とかもないし、
本当に無いからな馬鹿。フリとかじゃねぇぞ馬鹿と。
そう念入りに伝えて、ようやくゴールポストを片付けてくれたヒバリさんに、俺はひと仕事を終えたような達成感を抱く。
……ここからが本題なんだよなぁ。始まる前から凄い疲れたけど、気合を入れ直して話を進める。
「まずは見て欲しい物があるんだけど。そういえばヒバリさんってグロ系見られる?」
「平気、仕事で何度も見たことある」
「それは良かっ……ごめん、先になんの仕事やっているのか聞いてもいい?」
スルーしかけたが、仕事でグロを見慣れてるってなに?
「
「マジか」
ヒバリさん神殺しの部隊の隊長をしていた。
そういえば古き神を倒した事があるって
仕事で古き神を倒す……なんか格好いいな!
……というか宮内庁の部隊って事は、ヒバリさん公務員なんだ……なんか、じわじわと信じられない気持ちになってくるな。
まあ、業務内容的に実力だけで選ばれたって不思議じゃないか。
「神が関わってる現場は、人を超えた場になる事があるから、グロいって呼べる光景は良く見ているよ」
「……そっか」
どんなものか想像は付かないが、人の常識を超えた神が関わっているというだけで見たくないなって思う。
でもそれなら、あの“動画”を見せても問題はなさそうかな?
どうしても無理そうなら、大丈夫そうな人物に繋いでもらおうとも思ったけど……ヒバリさんの場合、要らぬ心配な気がする。
「話を戻して、ヒバリさんには見て欲しい動画があるんだ」
「動画?」
「そう、とある虐殺現場の一部始終」
「思ったよりも物騒だね」
『布影』から、見たことがないマスコットキャラクターと思われるシールが貼られたスマホを取り出す。
これは
正確に言えば、対価に要求したのは廃校の体育館での一部始終を撮っていた動画。
ただ、俺がスマホとか動画をコピーできる端末を持っていなかったので、とりあえずスマホごと借りてきた。
今日、スマホ用のUSBメモリーを買いに行って、コピーを済ませたら返す予定だったんだけど、
「とりあえず、動画を見てくれ」
ちょんっと慎重に尖った指先で画面を触り、動画が再生させるとヒバリさんに渡した。
――動画は、ダイダラボッチが人を飲み込んだところから始まる。
『……やばいよ。本当にやばいよ!?』
『――くそっ、逃げるぞナコって、スマホで撮ってる場合かよ!?』
それから
扉が開かず、外に逃げられない事を知った
あとは俺がダイダラボッチを割いたあと、
余談だけど、
「――これは?」
動画が終わって顔を上げたヒバリさんの表情は自分と対峙した時は違う真剣さをおびている。
「
「鬼灯家の貪波……『七星』の貪波?」
「『七星』?」
「鬼灯家には百以上の分家があって、その中でも鬼灯家にとって特別な分家は苗字を与えられるの、それが七つあるから、通称『七星』」
「その中の1つが貪波家ってわけか、本物なのか?」
白装束で顔が隠れており、素顔が見えていない。
どれだけ本人が主張しても、本物である証拠が無いんだよな。
「間違いないと思う」
そう思っていたが、どうやらヒバリさんから違うようで確信を持っているようだった。
「ダイダラボッチを自在に操れている所を見るに、この白いのが式神術に長けているのは間違いない。貪波家は式神術系統、従魔術系統の術を扱うという情報も一致する。それにダイダラボッチは体が
ダイダラボッチが映ったのはたった一瞬なのに、ヒバリさんは其処から多くの事を把握して、それと自分の持っている知識を照らし合わせて、この動画に映った白装束が貪波本人である事を証明していく。
俺が陰陽師に詳しくないのもあるかもしれないが、その様子は知的であり、さっきまで
「あと今の貪波家の現当主、『七星』入りした時に記録を見たことあるけど、現年齢が38歳だったはず」
「まさかの本人確認」
年を知るって大事なんだなぁ、挑発で怒らせておいて良かった。
まあ、ここまで合致しているなら、貪波家当主御本人様と扱って考えた方がいいだろう。
「それで、ヤマト様はどうして、この動画を私に見せたの?」
「
「別に良いけど、その
「俺を日本に召喚したのは鬼灯家でね。それでその理由が自分たちの価値を上げるために日本を
自分で言っておいてなんだけど、現代日本で乱世って言葉、あまりにも非現実的すぎてアニメや漫画の話にしか思えないな。
でも、ヒバリさんは否定する事もなく、黙って俺の話に耳を傾けてくれる。
「俺はミサキちゃんと日本で平和な暮らしがしたいのに。鬼灯家と、その関係者は平和を壊そうとしているという。これがもし本当の話なら、どうにかしたいってわけ。あ、ちなみに人を殺すつもりはないから安心してくれ。なんだったなら、この動画を証拠に鬼灯家の計画をおじゃんにしてくれるなら、それでいいよ」
ヒバリさんは
スラッとした顔立ちをした美人という事もあって、非常に様になっている。
さっきまで腹を切ろうと……いや、いい加減認識を改めないとだな。
「……うん、考えた振りをしてみたけど、まったくどうしていいか分からない。無駄な時間だったね」
「本当にそのとおりだわ」
そうだこの人、こうだったわ。
「とにかく話はわかった。この動画貰える?」
「いいけど、どうするんだ?」
「兄に見せておきたい」
「噂の凄いお兄ちゃんか」
「うん、私たち三姉妹と違ってかなり賢い、だから私が分からない事も教えてくれるし、ちゃんと対応もしてくれる」
「それは心強い」
陰陽師法みたいなので警察に送っても、ちゃんと捜査されるのか分からなかったし、じゃあ陰陽師関係で何処に送ればいいかも分からなかったから、どうしようも無かったけど、とても優秀らしいお兄さんなら、なんとかしてくれそうだな。
「私たちの中で1番、人の心が薄いけどね」
「言う必要あったか? 一気に会うの不安になったんだけど?」
調停役をしているぐらい頭の良い人に、足しちゃ行けないものが足されちゃったよね?
まあ調停役という仕事柄、人の気持ちに
「兄に関しては話し合いだけで解決しようとすると不利になるから、最初の時点で分かりやすく不都合があったら殴るって感じの態度で接すると、いい感じに合わせてくれると思う」
「日本で1番やっちゃいけない態度だろ」
「やっちゃっていいよ。私たち三姉妹が、そんな感じだし」
「……苦労してるんだな」
得体の知れない人間から、一気に親近感が湧いてきちゃった。仲良くなれたらいいな。
「じゃあ、この動画を私の携帯に……あ、落としていたの忘れてた」
「あー、そういえばそうだったっけ」
「それに私の携帯ガラケーだから、スマホの動画は入るから怪しい」
「ガラケー!? スマホじゃないの!?」
「……? 陰陽師だからスマホを
どんだけ古いの使っているんだと驚いたが、ヒバリさんの口ぶりからしてガラケーは現代でも普通に使われているらしい。
ガラケー。スマホが普及する前の携帯。折りたたみ式のやつが好きで、よくパカパカ開けたり締めたりしてたなぁ。
……というかスマホを介した干渉ってなに、持ってると見たら死ぬ呪いの映像とかがガチで送られて来るってこと?
陰陽師が居て、『人外存在』も居るんだもんな。そういうのもあるか……こわぁ。
「まあ話は分かった。それならこの映像を保存したUSBメモリー。また後日渡すわ」
それこそ〈
「“ゆーえすびー”が何か分からないけど、任せるよ」
「……おう」
家電関係は俺も上手く説明できる自信が無いので、スルーする。
USBメモリー、これ予備も含めて幾つか買っておいたほうが良さそうだな。ヒバリさんに届けるのは〈
もしも、本人が良いようであれば、そのまま側に置いてもらうのもありかもしれない。
「ヤマト様」
「ん? どうした、というか呼び捨てでいいよ?」
話がひと区切り付いたのを見計らって、ヒバリさんは改まった様子で話しかけてきた。
「――スズメは“私たち”にとって特別な妹。だから安全に幸せな日々を過ごして欲しいと思っている」
どういう話なのかを察した俺は、背筋を伸ばす。
「そのためなら、ずっと側に居て守りたい。でもスズメのジレンマによって私たちはいつの間にか離れすぎてしまい。その結果、もう二度と会えなくなる所だった」
「……うん、スズメのジレンマってなに?」
一瞬、ガチであるのか造語なのか分からない言葉がでてきて、話に集中できなくなる。
「ヤマト様。貴方がスズメを助けてくれたから、こうして一緒に朝ごはんを食べる事ができた――スズメを助けてくれて、本当にありがとう」
「だからスズメのジレンマって……まあいいや」
気になるも、深々と頭を下げられた状態で聞ける筈もなく、喉に引っ掛かりを覚えながら話を進める。
「
「それでもありがとう。この御恩は一生忘れない」
「……そうですかい」
俺からすれば変な空気のままであるが、それでも心からのお礼だからか、ちょっと照れくさくなって頬を尖った指先でカリカリと掻いてしまう。
「今回は本当に反省した。このままだと、スズメにまた何かあった時に守れないから、今から仕事辞めてくる」
「だからぁ! 話の高低差とか寒暖差をちゃんと考えろって!」
俺、ものすごく嬉しい気持ちに浸っていたんですけど!?
「やっぱり仕事は悪。仕事をしていると大事なスズメを守れない」
「待って、ヒバリさん落ち着いて、そう……まずは
「スズメは絶対、私に仕事を続けてほしいっていうよ。でもそれだとスズメを守れないから、何を言われても辞めるって決めた」
ちゃんと
悪い人じゃないけど、性質悪い。
「えっと……そう!
このままだと
ヒバリさんが仕事を辞めるのは、
「それにもしも何かあったさいには、俺が一瞬で
「ヤマト様は、スズメの側に一瞬で行けるの?」
「スゥ~」
なんか盛大にミスった気がする。
「……その力、
「さーて、難しい話も済んだし、そろそろ
この話を広げるのは不味いと、無理やり話を終わらせる。
時間稼ぎにしかならなさそうだけど、その時間が今は欲しかった。
「――私、ちゃんとヤマト様の役に立っているのでしょうか」
隣の部屋に向かって呼びかけようとした時、
どういった経緯かは分からないが、どうやら、ミサキちゃんに悩みを打ち明けていると言った様子だ。
まだ子供な彼女に、例の動画を見せるのは酷だろうと思って外してもらったが、それが彼女の不安を抱かせる理由になってしまったようで申し訳ない。
むしろ、
「……? ヤマト、ありがとうってスズメちゃんに感謝してるよ」
その事を伝えようと、隣の部屋に移動しようとしたが……その必要は無さそうだ。
「そ、そうなんですか?」
「はい、本当にありがとうございます……スズメちゃんのお弁当、すごく美味しいよ」
「……今日は用意できなかったけど、また作ってきてもいいですか?」
「いいの? 嬉しい……」
「もちろんです! その時は一緒に食べましょうね!」
「はい……楽しみ」
……やっぱり、こういうのが1番ってわけよ。このまましばらく様子を見守るか。
なおヒバリさんを見たら、尊いとか呟いて
「……スズメちゃん」
「はい、どうしましたか?」
「お弁当。リヒトお兄ちゃんにも食べさせていい?」
「……リヒトお兄ちゃん?」
俺は慌てて隣の部屋へと向かい、リヒトについて誤魔化しに行くのであった。
こればっかりは、いま本当の事を教えるわけには行かないからね!