陰陽師が居る日本に召喚されたのは元日本人【悪魔】 作:庫磨鳥
ヒバリさんと出会った後の数日間。俺たちは平穏な日々を送っていた。
平穏といっても何もしなかったわけではなく、家の大掃除をしていた。
放置されていたか家具や装飾品の掃除、もしくは廃棄。
勝手に捨てたりしても良いのかと
そのさい、ミサキちゃんには雑巾がけや、動物の
慣れない作業で大変そうだったけど、真剣で楽しそうにしていた。
次に家全体の大掃除。古く懐かしさすら覚える昭和風の平屋建築。
点検と同じ日に電気、ガス、水道の生活ライフラインを通してくれるとの事なので、本当に楽しみだ。
そうして、物が殆どなくなってさっぱりとした部屋に、俺たちは買ってきた私物を置いていった。
もしも改装するとなっても、『布影』の中に収納できるし、移動する事だって簡単という事もあって、はやくこの家を自分たちの場所にしたいっていう気持ちが抑えきれなかった。
黒系を中心した俺と、なんとなく対で買った白系のミサキちゃんの生活用品たち。前世の年号でいうなら昭和の建築空間に、令和の家具や日用品が思ったよりも自然に馴染んでおり、だからこそか、生活感がハッキリと現れた気がする。
「……まだまだ、やる事はあるけど、
「“わがや”?」
「うん、自分たちの家になったねって」
「我が家……我が家……」
ミサキちゃんは何度も我が家と呼んだ。
まるで、ここが自分の居ていい場所であると認識するようだった。
それを聞きながら俺も、自分の帰る場所ができたという事を噛み締めていた。
+++
「――付き合わせちゃって悪いね。
「いえ、誘ってもらえて嬉しいです!」
俺が日本に来てから七日目。
俺はミサキちゃんと
ミサキちゃんは以前と同じ白シャツと黒スカートの西洋服。他にも何着かあるのだが、生地が薄かったり、逆に暑かったりするので、気温的に今はこれが1番快適そうだ。
そして
「
「ありがとうございます! 桜間家の人間として身だしなみは常に気をつけようと、なので最近のトレンドとかは常にチェックはしています……ただ、ファッション雑誌に載っていたものを、そのまま着ているので似合っているかどうかは……」
「可愛いくて似合ってるよ」
「そ、そうですか、……ありがとうございます」
「
「おう、それにミサキちゃんも可愛いよ」
「……ヤマトも?」
「……“
そんで最後に俺こと【悪魔】のヤマトは、〈影変身〉によって黒ジャージお姉ちゃんの姿になっている。
そもそも今回の買い物は、この姿の服を買うためのものだ。
どうしてそうなったのか、
「――そういえば、もうすぐ桜が咲くそうです」
「そっか、いま春なんだもんね」
「はい。今年の東京では4月始めには満開になると」
「いいね。春と言えば桜。桜といえば花見。その時はお酒でも飲みたいね」
「え?」
「ん?」
「……お花見、したいんですか?」
「まあ、したいよね。東京の大きな公園とかに行ってさ……ん?」
「――分かりました。頑張ります」
「えっと……よろしく?」
その時の
現在からして昨日の朝で、
「ほんとごめん! 実はこんな感じに人間の姿になれるんだ!」
「ワッ……わぁ~、便利ですね~」
【悪魔】の姿で、どうすれば大きな公園で花見ができるのかと丸一日悩んでくれた事を知り、申し訳なさから〈影変身〉の事を速攻で打ち明けた。
人間に完璧に擬態できる。その事を知った
そんな感じで、来たるべき花見のために、お姉ちゃんの姿用。つまりは十代女性用の服を買うため、前に行ったデパートへと三人でお出かけしようとなった。
別に落ち込んでいるとかは無いけど、ここ最近忙しかったし、衝撃の事実も有ったから、少しでも息抜きになればいいな。
……どうしてお兄ちゃんの姿じゃないのか、それはリヒトの事を
なんか俺の【
ちょっとした契約の事故で俺の眼の前に現れちゃって、そのあと色々とあって俺たちの家族入りをした男の人と話した。
うん、嘘は言わなかった。ちゃんとした事実も言わなかったけど。
おかげで、自分でもよく分からない説明になってしまったが、
ちなみに何かあったら報告するってお願いされたのに、言うの遅れてごめんねと謝ったら。
そもそも朝からヒバリさんがカチコミに来たから、報告どころでは無くなっちゃって本当にすいませんと逆に謝られた。
まあ、うん。そうだったねとしか言えなかった。
そんなわけで、今後はリヒトに迷惑が掛かってしまうかもなので、お兄ちゃんの姿は控える予定。
いずれは本当の事を話した方が良いと思うんだけど、一歩間違えれば暴力よりも平和を粉々にできそうな力すぎて、打ち明けても良さそうなタイミングが分からない。
物を壊すよりも、命を生み出せるほうが、こんなにも扱いに困るもんなんだなぁ……。
せめて、どういった原理で命を生み出せる事ができりようになったかを把握するまでは、〈
なので、ミサキちゃんにもリヒトに関して詳しい事は話しておらず、彼女からすれば唐突にお兄ちゃんが出来たぐらいしか知らない……はずだよね?
「どうかしましたか?」
「ん? ああいや、服を買ったらどうしようかなって、どっかで遊ぶ?」
「え、いいんですか?」
「もちろんよ。ミサキちゃんも
「はい、
「うっ、ミサキちゃん、それはずるいですよ!」
いや本当に上目遣いで言ってくるのはずるいですよね。
ミサキちゃんこういうところある。しかも、俺なにも教えてない天然なんですよ。
「ちなみに、マジで用事とかあったら遠慮なく言ってね?」
「あ、いえ、本日はおふたりとお出かけという事で一切予定を入れていませんので、今日はずっと一緒にいます!」
「それなら良かった」
……最近、
まあ、恐らく俺が原因の大半なんだろうけど、だからこそ今日は楽しく過ごしてほしいよね。
そう思いつつ、空を見上げると
俺と出会った廃墟での出来事は、誰かが悪意を持って
気が休まらないかと心配になって尋ねてみれば、逆にああやって周りを見てくれているので安心していられるとの事なので、そのまま任せている。
なんでも、〈
人間の食べ物を与えていいのかと思ったが問題は起こっておらず、むしろ、人に等しい味覚を持っているかもしれないとの事。
普通のカラスと比べて深い黒色ぐらいしか違いは無いが、ちゃんと普通ではないらしい。
自我を持っていると知った時は、どうしたもんかと悩んだが、上手く行っているなら様子を見守ることにした。
……問題なのは召喚された日に大量に生み出した〈
もう数が多くて把握できなくてぇ……もしなにかあれば感覚共有してくれると信じて、放任する事しかできなかった。
元気にやってるかなと何気なしに空を見上げたら、〈
+++
「いらっしゃいませ~……あれ、もしかして……」
「どうもひさ、じゃなくてはじめまして。先日は兄と妹がお世話になったそうで、今日は友達も連れてきました」
「ど、どうもこんにちは」
「……どうも」
「あ、やっぱり! いえいえ、こちらこそお兄さんと妹さんにはお世話になりまして~」
以前、お世話になったデパートの服屋――『KOROMO』へとやってきた。
すると店長さんこと『
ちなみに、事前に
嘘に加担させてしまうようで、ごめんねと謝ったら、トラブルを発生させないためには時に“方便”は必要ですと柔軟に受け入れてくれた。本当に有り難い限りだ。
「まあ兄と妹と同じく、私の服も見繕ってくれませんか?」
「分かりました、任せて下さい!」
すごい元気な返事~。
店長が目を輝かせており、静かに距離を詰めてきているスタッフたちの手には、すでに服があった。
どうやら、ファッション劇場第二幕が開かれるのは、ほぼ確定みたい。
そんなノリが良すぎる人たち『KOROMO』の皆さんは、自分たちを悪魔の子だと思っても何も聞くこと無く、話に聞くような差別的な反応は一切せず。それでいて何か事情があると、悟らせない形で服を値引きしてくれた良い人たちだ。
実際に異なる箇所はあって、それを正せない罪悪感はあるものの助かったのは事実であり、そのご好意を訂正するなどは
言えないのなら、せめて受けた恩を少しでも返そうと、再びやってきたってわけ。
「ところで、お兄さんはお元気ですか~?」
「あー、そうですね。今は点々とバイトしてますよ。時給は安いんらしいんですけど、けっこう楽しそうにしてます」
自分のことを話すわけにもいかず、ここはリヒトの現状をぼかして伝える。
1度、リヒトの様子を見に行ったら
今のところ普通のバイトばっかりで、俺が求めるような情報も無いとのこと。
時に悪魔の子だからと見下して、バイト代をケチろうとする業者などが居るが、そういう時はリヒトが前に出て強気で接すれば解決できているとのこと。
――ナコやマリカが面白い漫画とか食べ物とか教えてくれて……楽しいですね。
漫画喫茶生活を送っているものの、けっこう充実してそうだった。
鬼灯家が後どれぐらいで本格的に動き出すかは分からないが、焦っていても仕方がない。なので今は息子の社会経験も兼ねて、成り行きを見守る事とした。
……むしろ焦るべきは俺。
いや、
俺はまだ生活基盤を
「えー、そうなんですか? でしたら、この店で働いてみませんかって、お兄さんに言っておいてくださいよ~。バイト代もいい感じですよ?」
「マジですか? じゃあ今度会ったら言っておきますね」
「ぜひぜひ~。お兄さんがきてくれたら皆も喜びます!」
本気か冗談かは分からないが、リヒトに伝えておこうかな。
そして、もしもの時は俺がお世話になろうかな。
「それでは、まずはこちらから試着してみては如何ですか?」
「じゃあ早速」
とまあ、この店の制服を着た
さて、前世では女性の服を着る機会なんてあるわけなく、これから、この手に持っているものを着るんだと思うと
なんだか妙な
でも不思議と抵抗感は無かった。鏡の前に映る自分は今や、ロックバンドのベースが似合いそうなツリ目の美少女。
お洒落することに、なんの
なんならもう、この姿でほぼ毎日のように銭湯に言っているから、もう慣れたもんよ。
……いや、これは慣れていいものか? 仲良くなったお婆ちゃんに可愛くて綺麗だねって言われるのをいつの間にか普通に受け入れちゃっていたけど、それでいいのか?
ま、まあ慣れてしまうものは仕方がない。
前世では機会こそ恵まれなかったものの、VRワールドで美少女アバターになってみたいとか思っていたしね。
「こちら追加のお洋服です。もし良かったら~」
「早い早い早い」
ジャージを脱ぐよりも早く、数十着の服が追加される。
まだ幕が開いてもいないんですが……。
着るのは楽しくて良いけど、着たら欲しくなっちゃうんだよな。
別に今買わなくても、自分が稼いだお金でまた買いに来れば良いわけだし、今回はいって花見を見に行く時の服がほしいだけ。なんとか我慢したいが……流石はお洒落の国の衣服たち、正直言って我慢できる自信がない。
……そう俺だけなら。
今回は、しっかりものの
会計の時は任せたぜ、
「あの、先程選んだズボンなんですが、こちらの上着はどうでしょうか?」
「あら、これを選ぶとは……中々やりますね!」
「きょ、
「いいですね! ……あ、でしたら、ズボンはこちらの方が良いかと思います、ブランドロゴも丁度良い所があって、ワンポイントになるかと」
「な、なるほど~……い、いちどお渡ししても、よろしいでしょうか?」
「勿論ですよ!」
カーテン越しに聞こえる、楽しそうに店長やスタッフたちと話す
……駄目かもしれねぇ。
このあと、俺の財布の中身がどうなるのかを悟りながらも、この楽しい雰囲気を壊したくないと、1着目の服の袖に、腕を通すのであった。