陰陽師が居る日本に召喚されたのは元日本人【悪魔】   作:庫磨鳥

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悪魔、出勤するってよ。

 ――デパートから家に帰れば、先程までの出来事は、まるで夢だったかのように日常に戻った。

 しかし、デパートは数多くの『人外存在』が暴れた事で、営業できる状態じゃなくなってしまい、再開するのが何時になるか分からない状態だという。

 

 鈴明(スズメ)ちゃんは、我が家に到着してすぐに解散した。デパートでの事件の報告書を作成したいという事なのだが、本人の無意識なボヤキから徹夜するらしい。

 できれば無理をしてほしくないが、そうとも言ってられないほど今回の事件は大きなものだし、なによりも俺達の事をぼかさないとだから、迅速に動かないといけないらしい。

 できれば俺も手伝いたかったが、大学のレポートですら書いたことのない俺に手伝えるものはないだろうとして、労うことしかできなかった。

 ……今度、パソコン勉強しよう。

 

 また、犯人については現状、まったく不明。すぐに警察が身柄を拘束したらしく声明待ちだという。

 犯人の素性とかはニュースをみれば自ずと知ることはできるだろうが、問題は犯人がデパート内にばら撒いていたものだ。『人外存在』を閉じ込めて、使用者の任意で外に出せる〈混因封箱(コトリバコ)〉に関して、鈴明(スズメ)ちゃんに聞いたところ、だいぶキッツい手段で作る相手を呪うための“コトリバコ”という箱は実在するらしいが、それと一緒のものかは全くわからないらしい。

 ちなみにこの話を聞いた時の俺は、前世では都市伝説だったものが実在するのは結構なホラーだなと、内心でちょっとビビった。

 

 ともあれ、デパートの事件の詳細は日が経たない事には、これ以上分かる事は無いと、この件に関する話は、いったん締める事とした。

 今回の主犯は捕まえたが、〈混因封箱(コトリバコ)〉という無差別爆弾と大差のない凶悪なものを売ったクズは、いまだ何処かにいる。これが商売でやっている事なら、これから日が経つにつれて金儲けの商品である〈混因封箱(コトリバコ)〉を売っていき、全国各地で被害が発生するかもしれない。

 もしくは、同じ日に何処かで同じ事が起きているかもしれない。

 

 その日の深夜。平和が静かに崩れてしまったような。そんな気分になった。

 

「――たのも~~!!!」

「早いんだよ! いま何時だと思ってるんだよ! ミサキちゃんまだ寝てるの!」

 

 なんてセンチな気持ちになって迎えた、朝の5時。

 玄関をバンバン叩く音と共に、すんごい聞き覚えがある大声が聞こえてきたので、〈影の門〉で玄関の外へと移動。騒音の元凶であるヒバリさんにキレる。

 

「……そっかごめん。この時間私たち陰陽師にとっては夕方ぐらいなものだから、起きていると思っていた」

「あー、やっぱり陰陽師って夜間職なんだな……いやそれでも、最初は普通にノックしてくんない?」

 

 一瞬納得しかけたが、やっぱおかしいよね?

 それに今から仕事って事は、なに、残業?

 

「それで? こんな朝早くどうしたの?」

 

 ヒバリさんとこうして会うのは、襲撃してきた朝ぶりである。

 鈴明(スズメ)ちゃんにどうしているのか聞いたら、ここ最近毎日のように忙しくて仕事が絶えずに、殆ど家にも帰れていないらしい。

 そんなヒバリさんが、俺を尋ねてきた。いったい何の話だか。

 

「ヤマト様、仕事です。時間がないからすぐに車に乗ってほしい」

「……せめてどういう仕事かだけ聞いていい?」

 

 【悪魔】って面倒くさいね。こんなに望んでいた話なのに、いざ仕事に行くってなったらすんごい嫌になる。

 ひとえに、なんの仕事をするのか全く知らないからだけど。人間だって嫌だと思う。

 

「今から厄介な『人外存在』を討伐しにいくから、一緒に来てほしい」

「『人外存在』……もしかして神か?」

「違う」

 

 違った、めちゃくちゃシリアスに質問しただけに、ちょっと恥ずかしい。

 ヒバリさんたちは神罰隊(しんばつたい)という、神を殺す事を専門とした部隊だから、てっきり神を殺しに行くのかと思ったんだけどな……。

 

「昨日、東京都内の至るところで『人外存在』が突然現れる事件が多発して、その調査に人が取られて、私たちにこの仕事が振られたんだけど……この『人外存在』、私たちの部隊では専門外だから、とっても大変」

「それで、俺の力を借りたいと?」

「うん、そういうこと」

 

 ヒバリさんが、俺を仕事に誘ってきた理由をようやく知ることが出来た。

 というか、都内に『人外存在』が現れる事件って、間違いなくデパートのやつと同じだよな。

 やっぱり、他のところでも起きていたのか、そしてそれに間接的にヒバリさんも巻き込まれてしまって、本来では部署が違う仕事を処理するはめになったと。

 

「大変だな」

「まあ、去年からすごい人手不足だから、今更ではあるよ」

「忙しいって、それが理由か」

「おかげで、スズメと本当に会えていない。スズメニウムが枯渇する。やっぱり何時でも何処でもスズメの側に行きたいので、ヤマト様、今すぐにでも真銘契約をして」

「その件に関しては、もう少し慎重な議論を重ねて、進展があったらお知らせします」

 

 そういえばヒバリさん、昨日のデパートの件知っているのだろうかという疑問が頭によぎる。

 まあ、なんにしても言わないほうがいいか。言ったら絶対に面倒な展開になる。

 

「まあ、話は分かったよ。そういった事情なら手伝って上げたいが、いまミサキちゃんを1人にするのは気が引けてな」

 

 なにか有ればすぐに帰ってくるとはいえ、昨日の事があったからなぁ。

 〈混因封箱(コトリバコ)〉の『人外存在』があれぐらいの強さなら、家の中に居れば安全だとは思うが心情的に1人にさせたくない。

 

「……ミサキちゃんも一緒に連れて行っていい?」

「私もそうしようと思ったけど、宮内庁の仕事は公的記録として誰でも閲覧可能だから、それからミサキの居場所がバレかねないから連れて行かないほうがいいって」

「マジか、そういうのって誤魔化せないの?」

「生物も『人外存在』も、必ず“其処(そこ)”に居たという痕跡(こんせき)が残る。その痕跡を見る事に特化した陰陽師に調べられれば、すぐにでも素性を看破(かんぱ)される」

 

 つまり陰陽師の誰かが、この記録気になるぞと本気になって調べれば、ミサキちゃんがここに住んでいるとかも分かっちゃうわけね。

 もしそれが鬼灯家の関係者だったら、絶対ろくな事にならない。だからミサキちゃんを仕事には同行させられないか。陰陽師界隈、透明性高すぎる。プライバシーもへったくれもない。

 

「でもそれって、俺も関わったらヤバいんじゃないのか?」

「ヤマト様は、呪力も妖力もないから痕跡は一切残らないから大丈夫」

「【悪魔】ってステルス機か何かか?」

「今の陰陽師の術では発見するのは、ほぼ不可能だと思う」

 

 もしかしたら今後変わってくるかもしれないが、それってかなり恐ろしいだろ。

 まあ、おかげでヒバリさんは俺に力を貸して欲しいとお願いできるし、俺も望んでいた仕事が出来るって事なんだろうけど。

 

「私的にはバレたらバレたで、斬れば良いと思うんだけどね」

「すぐ暴力で解決するのは止めようね……あとこれって誰からの助言なの? 鈴明(スズメ)ちゃん?」

「あの兄……あ、自分の事はまだ秘密にしてくれって言われていたの忘れてた……まあいいか」

「お兄ちゃん泣くぞ?」

 

 きっと暗躍したかったであろう桜間長男が関わっている事が、長女によって即バレする。

 桜間家のお兄ちゃんとは、まだ出会っていないものの、体育館での動画が入ったUSBメモリーを渡したさい。俺達の事を話していいと言ってあったので、知られている事は不思議じゃない。

 ただ、鈴明(スズメ)ちゃんからも兄に関して話題にすら上がった事が無かったので、もしかしてヒバリさん動画渡し忘れていないかと、少し心配になっていたのだが、どうやら杞憂だったらしい。

 

 表立って俺たちに会わないのは、どういった理由からかは分からないけども、前評価からしてなにか事情があるのだろう。

 それを考えても俺には分からないので、あちら待ちである。

 まあ、その前評価の所為で、なにしてくるか分からなさすぎて怖い所はあるが、鈴明(スズメ)ちゃんのお兄ちゃんだから、みんなで幸せにしてくれるタイプである事を信じよう。

 

「じゃあ、〈影鴉(かげからす)〉1羽預けるから、必要になったら呼ぶってのはあり?」

「それでもいいけど、どうやって呼べばいい?」

「あ、そっか。そっち側からの連絡手段がないのか、んー、どうっすっかなぁ」

「アー」

 

 なにか、いい手は無いかと悩んでいると、1羽の〈影鴉(かげからす)〉が俺の肩に止まった。

 

「お前は……」

弐羽(ふたば)!」

鈴明(スズメ)ちゃんの〈影鴉(かげからす)〉か」

「ソー! スズメより伝令!」

「伝令?」

「受け取れー!」

 

 この個体がか、それとも日が経つにつれてか、随分と流暢に日本語を話すようになって……あと数日もすれば人間と同じように話し始めるかもしれないな。

 などと考えていると、〈影鴉(かげからす)〉は自分の体に(くちばし)を埋めたと思えば、中から四つ折りにされたメモ用紙を(くわ)えて取り出した。

 どうやらこれが、鈴明(スズメ)ちゃんの伝令らしい、用事が済んだ弐羽(ふたば)は飛んで帰っていった。

 いったい紙には何が書かれてあるのか、ヒバリさんに関係する事なんだろうなと察しつつ、ひらいて中身を読む。

 

 ――ヤマト様。本当に申し訳ありませんが、ヒバリお姉ちゃんが、ヤマト様の力を借りたいとしてそちらに向かうと思いますので、本当に唐突でもうしわけありませんが、どうかお力添えの方をよろしくお願いします。本当に申し訳ありません。私も今すぐそちらに向かいます。ミサキちゃんの事は任せてください。本当にごめんなさい。

 

 ……字の崩れ具合からして、かなり慌てて書いたみたい。

 手間を掛けてごめんね、スマホもガラケーも持っていない、一千年以上年食っただけの【悪魔】で。

 

「……鈴明(スズメ)ちゃんには、ちゃんと話通したんだね」

 

 話を通したというか、本当に言っただけっぽいけど。

 ヤマト様に仕事を手伝ってもらうね、愛してるよスズメって言って電話をぶつ切りにしたのが想像できちゃう。

 

「ヤマト様の担当巫女はスズメだから、話を通すのは当然だよ」

「担当巫女?」

「『人外存在』の管理を担う女人(にょにん)のこと、俗世の方では男女平等とかで(かんなぎ)ってよく言われるようになったかな?」

「『人外存在』の管理……それなら間違ってないかな」

 

 俺の知っている巫女さんは神に仕える女性の事だったが、この世界では神も『人外存在』のひとつと数えられているからか、ニュアンスが少し違うようだ。

 それなら鈴明(スズメ)ちゃんが【悪魔】である俺の担当巫女と言ってもおかしくはないだろう。現に生活費から我が家まで、全部鈴明(スズメ)ちゃんが用意してくれているからね。毎日のように感謝しています。

 

「まあ、こうして鈴明(スズメ)ちゃんからもお願いされたし、分かったよ。ミサキちゃんに話すから、ちょっと待ってて」

「――ヤマト?」

「おっと、起きちゃったか」

 

 玄関で騒がしくしすぎたからか、ヒヨコ柄のパジャマを着たミサキちゃんが眠そうな顔をして玄関にやってきた。

 ベストタイミングであるが、意図せず起こしてしまったのは反省だな。

 

「どっか行くの?」

「うん、実を言うとヒバリさんが今から一緒に仕事をしないかって誘ってくれたんだよ」

「……仕事、ヤマトがやりたいって言っていたの?」

「そう、それ」

 

 別に仕事にやりがいを感じるタイプではなかったが、自分で稼いだお金が欲しいからね。

 

「今から鈴明(スズメ)ちゃんが来るし、呼んでくれたから直ぐに帰って来るよ……でも、もしミサキちゃんが嫌なら嫌って言ってくれてもいいよ?」

 

 もしかしたら我慢して本音を言えないかもと、念の為にハッキリと言っておく。

 

「だいじょうぶ」

「本当か?」

「はい、ヤマトの好きなようにして」

 

 我慢している様子はない、ミサキちゃんは俺が想像しているよりも強い子だ。

 それとも必ず帰って来るって信じてくれているのかな。だとしたら裏切らないようにしないと。

 

「分かった、行ってくるよ。もし帰りが遅くなるようだったら1度帰って来るから、鈴明(スズメ)ちゃんと留守番しててね」

「はい――行ってらっしゃい」

「行ってきます。お姉ちゃん頑張ってくるからね」

「お前が答えるんかい」

 

 もうヒバリさんの中では、ミサキちゃんは妹のひとりらしい。

 可愛がってくれるのは嬉しいけど、なにか問題起こさないかの心配が常に付きまとうのは、ちょっとあれ。

 

「それで、どこに行くんだ? 移動はどうするの?」

「車を持ってきているから、それに乗って」

「ああ、やっぱりあれヒバリさんのか」

 

 ずっと視界に入っていたワゴンっぽい車は、案の定ヒバリさんが乗って来たものらしい。

 

「この後ろに乗ればいいんだな」

「うん、けっこう長話しちゃったから、本当に時間がない。早く移動しよう」

「そんなに火急の案件なのか?」

「違う。ヤマト様が居るなら別に昼過ぎでも良いと思うんだけど、時間通りに現地入りしていないと怒られて面倒」

「そこはなんていうか……普通なんだな」

 

 なんか前世で出会った現場系の親方が、社用車にGPS取り付けられて、現場入りする前の朝のパチンコ行けなくなったってぼやいていたの思い出した。

 

「よし、それじゃあさっきはヒバリさんに取られたから改めてミサキちゃん、行ってくるね」

「はい、行ってらっしゃいヤマト」

 

 ミサキちゃんに見送られながら、後部座席のドアをひらいて中へと入る。

 ワゴンっぽい車だけあって、後ろは広くて全長2メートル超えの俺でも快適に過ごせるなぁ…………………………。

 

「「………………」」

 

 二列目の席と運転席に知らない女性がおりますね。

 驚きのあまりか、それとも臨戦態勢なのか、固まっている二人を刺激しないように、後ろへとゆっくり下がり、扉を閉めた。

 後ろに居るヒバリさんを見ると、何かを忘れていたらしく、あっと声を出した。

 

「私の部下が乗っているから仲良くしてね」

「早く言えよ!?」

 

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